フィフスグラウンド・オンライン4
「あ、ちなみにこの店を提供したのは【MUTO】だからな。
今のうちに仲良くしておくんだぞ」
とか、【KOM】は良からぬ印象を与えられそうな事を言ってくる。
確かに、以前プログラム修正の時に手伝って貰った報酬としてこの店を格安で渡した事は事実だ。
但しこれは試験的に営業する事、と言う条件付きで、である。
「あ、そうなんですか。
私、ベータテストの時に追加予定の『詩暮』とか良いなぁなんて思っているんですけど」
「俺は『無螺公』だな」
「君らはボランティアと言う事を知らないんだね」
「なんて冗談は兎も角として」
と、【RINA】は続けて言う。
「その噂とは別にもう一つの噂があるのはご存知ですか?」
「いや、聞いた事が無いな。
そのもう一つの噂と言うのは?」
「はい。
私も直接見たり、聞いたりした訳では無いのですが…。」
そこで教えて貰った噂によれば、3週間ほど前、ある人物が今回の問題が起こっている空域
に着いてアイテムを使った途端に、『影狼』が現れ始めたと言う事。
また、その人物は運営の関係者であるかも知れないと憶測まであった。
これはあくまで噂であるので、本当か嘘かは定かでは無い。
だが、この全貌の解明に近づいている様な気がして、僕は【RINA】に噂の収集を依頼しておくことにした。
「それにしても、【RINA】、お前よくこんな情報持っていたよな。
どうやって知ったんだ?」
【KOM】は不思議そうに問いかける。
「そうですね。
それは勿論、普段から情報を集めていますから。
と、言うと格好良く聞こえますけれど、オンラインゲームの攻略法が載ってあるwikiや掲示板には無い情報って思っている以上に多いですからね。
知り合いだったり、ここに来るお客さんだったり雑談していると自然と集まってくるものなんですよ」
と、【RINA】は若干得意げに答えた。
「なるほどな。
でもまぁ、雑談は程ほどにしておけよ」
「勿論、分かっています」
「で、要するにだ」
【KOM】がこちらに向き直る。
「【MUTO】はその調査の為にその場所に向かって正体を突き止めようってことだよな。
場合によっては『影狼』と空中戦になるかも知れないって訳か」
「まぁ、そう言う事になる」
「確か『影狼』は第7世代ヴューレ。
俺の機体は『閃華』、なるほどこれは面白そうだ」
「機体の性能が不安なら、同じ第7世代のヴューレを用意する事も出来る。
但し他のプレイヤーには見られない様にしなくてはならないけれど」
「いいや、相手は一人なんだろ?
だったら、こっちはチームプレイと言うものを見せてやるよ。
【RINA】、早速だが仲間に連絡をして貰えるか」
「規模はどうしますか?」
「そうだな。
6,7人で余裕だろう」
【KOM】は不敵な笑みを浮かべながら答えた。