フィフスグラウンド・オンライン3
連邦国首都オーリエット。
作中同様にフィフスグラウンド・オンラインの中でもトップクラスの科学技術力を持つ国家だけあって、その首都の一角にある円錐状の地形を上手く利用し巨大な軍事施設が鎮座しており、最新鋭の長さ450~500メートル級の飛空戦艦や飛空艇が停泊しているのが見える。
これから出航なのだろうか。真上を一隻の飛空戦艦が飛翔していく。
見上げる戦艦は巨大な城のようにも感じ、見る者を圧倒する景色が広がっている。
眺めながら、商業地区の一角にあるバーへと向かっていく。
この都市には珍しく木造の建物こそ目的のバー、「ヘッジホッグ」なのだ。
近代的な建造物の中にこうした木造の建物があると言うのは、景観を損ねて不釣合いに見えるようにも感じるが、実際は都会にあるオシャレなカフェのような印象に近い。
木造の壁やドア、窓際に取り付けられたランタンが洒落の効いた雰囲気をより一層引き立てて、温かみのある佇まいを感じさせてくれるバーだ。
「いらっしゃいませ」
中に入ると、黒と白とを基調とした服装を着込んだウェイトレスらしき少女が声を掛けてくる。
「席はご自由にどうぞ」
「どうも」
短くそう言ってカウンター席にいた男に向かって歩き始めた途端、男は僕を見るなり不敵に笑みを浮かべる。
「これは珍しい。【MUTO】が昼間っからここに来るとは。
何だ?サボりか」
「いや、【KOM】がちゃんと店を営業出来ているかと思って」
と、店内を改めて見回す。
僕以外には二人だけ、先ほどのウェイトレスとカウンター席の【KOM】だけであった。
「営業は、まぁ、こんなもんだ。
昼間っから客は来ないな。
まぁ、こう言うのは現実と同じようなもんだ」
「夜には結構流行っているって聞いたけれど」
「おかげ様で。
現実じゃ、こんな良い店を持つ事は出来ないが、ここなら自分の理想の店を持つ事が出来るからな」
フィフスグラウンド・オンラインの醍醐味には様々なものがあり、その一つとして都市や島に自分の土地が持てると言うものがある。
勿論、土地の確保や、建築費には、ゲーム内で獲得した金銭を使う事になるが、高額な為に自分の店を持つ事は難しい。
出される料理や飲み物に関しては現実のように味覚などはリアルに感じる事が出来る為に、これに満足するプレイヤーは多い。
更に、この世界でいくら暴飲暴食しようとも現実は食べた事にはならない為に、中にはグルメを堪能する為にこのゲームに参加するプレイヤーもいる程なのだ。
「無駄話は無しにして、何か困りごとでも?」
「では早速。
『影狼』を見たって噂を聞いた事は?」
ふむ、と【KOM】は鼻を鳴らし、腕を組む。
「あぁ、確か前に聞いた事があるな。
思うにただの眉唾じゃね?
まだ、使えない筈の機体が飛んでいる訳無いし、ましてや撃墜されるなんて」
「でも、実際に撃墜されたプレイヤーが32人いるのは?」
「別の国家に撃墜されたのを勘違いとか」
【KOM】は自身で言った言葉を誤魔化すように腕を組みなおす。
と、不意にウェイトレスの少女が口を開いた。
「その話なら、続きがあります」
僕と【KOM】は呆気にとられつつ、少女を見やる。
「あ、紹介を忘れていたな。
【RINA】って言うんだ。
一応、俺に次ぐ飛空技術で、この場所まで引っ張ってきた訳さ」
と、【RINA】は闊達そうに笑みを浮かべ、左サイドに蒼い紐で結わえた黒髪を揺らしながらぺこりとお辞儀をする。
「初めまして、【RINA】と言います。
以前は『スカイコンバット・オンライン』で遊んでいたんですが、今回【KOM】さんに連れられて来ちゃいました。
どうぞ、宜しくお願いします」
【KOM】が長身で筋肉質な青年に見えるのに対して、【RINA】は小柄で明朗な雰囲気を感じられる。対比が微笑ましい。
これはゲームの仕様で、基本的に現実の自分の体型の測定値のままでゲームをプレイする事となっている。
これには様々な議論が交わされて来たのが、今日、ゲーム内においての行動は自由度が加速度的に増しており、それによってマナー違反や、ルールを無視して、他のプレイヤーに迷惑を掛けるプレイヤーが後を絶たず、多くの運営は頭を抱えていた。
そこで、迷惑行為や違反した者には、ゲームアカウントの削除、若しくは凍結などペナルティーを科すとともに心理学的にも、自分の行動や言動には責任を持って貰うようにと、現実と同じ容姿でプレイする仕様のゲームが増え始めている。
これによって、現実世界と変わらない秩序ある世界を保てているようにも感じられるのだ。
但し、例えば体の一部、目の色や髪、肌の色、体型などは変更できる仕様のゲームもあり、『フィフスグラウンド・オンライン』においても変更が可能ではある。
「僕は【MUTO】または【YUMEWATARI】。
好きな方で呼んで貰って構わないよ。
一応、このゲームの運営をしていて、時々こうして様子を見に来ているんだ。
宜しく」