フィフスグラウンド・オンライン23
ハンドルを傾け、スロットルを捻りつつ、フットバーを蹴り込む。
それによって、回避出来る筈であった。
そして、一旦距離を置き、再び後背を包囲し、レーザーを掃射する。
まさに空戦の正攻法であり、これまで数多の空中戦を戦ってきた者としての経験がそう告げていた。
だと言うのに、この瞬間、僅かな差異が、身体の奥底から沸き立ち、それは漆黒の染みとなって全身へと広がっていく。
【NAMI】はこちらを見やり、機体に取り付けられていた、ケースに腕を伸ばす。
相変わらず、ヘルメットの遮光によって、顔の表情までは見えないが、不思議と彼女が心の底から楽しんでいる様にも思えた。
そして、その腕を、まるで猛禽が羽をしならせる様に広げる。
まさか、と思った時には既に遅かった。
これが通常の空戦であれば、正攻法となるであろう事も、このゲーム『フィフスグラウンド・オンライン』においては、それが仇となると、理解する。
【NAMI】の広げた左右の腕の延長線には長剣が握られている。
相対的な速度。
長剣の角度。
つまりは――。
「うごぉ!!」「がぁああ!」
【NAMI】の両側を飛翔していた【SATO】と【MAGI】の二人の短い悲鳴が聞こえると同時に彼らの上半身のみが宙を舞い、海上へと墜ちていくのが見えた。
「何が起こった!?」
【KIRIE】が半狂乱になりかけながら声を荒げる。
その視線の先に上半身を無くした操縦者と狩征召の機体2機が、無くしたであろう操縦者の上半身を追いかける様に墜落していくのを見やる。
「あぁ、くそ!」
【REN】の悪態をつく声が通信機を通じて聞こえて来た。
寒いのだろうか、【REN】の声が震えている様にも思えた。
と、その時。
とつ、と小石か何かが背中に当たったかの様な衝撃が【KIRIE】を襲った。
「あ?なんだ?」
周囲を見やる。
そう言えば、【NAMI】は何処に行ったのだろう?
と、右側の空、視線の先には【REN】が飛翔していた。
そんな彼が異常である事は一目瞭然だった。
「おい、【REN】お前…。」
彼の身体に背中から長剣が突き刺さり、腹部から鋭い剣先が伸びていたのだ。
【REN】はと言うと、機体を上昇させる事も、こちらに寄せる事もせずに、同情するような表情でこちらを見やっている。
彼の視線の先。
自ら操る白銀の機体、そこにある自らの身体。
フットバーに置いた右脚。
白を基調としたパイロットスーツ。
ふと、腹部を見れば鋭利な金属の板のような物が伸びていた。
それが長剣であると言う事に気が付くまで、どれ程の時間を有しただろう。
【KIRIE】もまた、【REN】と同じように本人の意思とは関係なく腹部から剣先を伸ばしていた。
「嘘だろ」
そう言うと同時に視界が白く濁っていく。
何か悪い夢でも見ているのでは無いだろうか。
だとしても、何が起こったと言うのだろうか。
追っていたと言うのに【NAMI】は何処に行ったのだろうか。
今、自らに起こっている出来事を理解する範疇を超えて、疑問だけが浮かんでいく。
やがて【KIRIE】の意識は真っ白に塗り替えられていくように消えて行った。




