フィフスグラウンド・オンライン18
「俺は、この世界をえらく気に入っているんだ。
この世界の消去か、【NAMI】を撃墜するか。
選ぶ事もないな」
【KOM】の視線が一層鋭さを増したような気がした。
「俺も、隊長と同意見だな。
ここまで自由なゲームは見た事が無いし、類似したものも知らない。
だったら、俺達で出来る事は一つ。
当然、次こそ、勝ってやる」
「そうよね!
私も次は勝ちたいと思うわ」
【KIRIE】と【RINA】の言葉を皮切りに、次々と同じ意見が重なっていく。
「決まりだな」
【KOM】が言うと一同は頷く。
「あの……。」
そこに、おずおずと手を挙げて、か細く空気に消え入りそうな声を出すのは【SAE】だった。
「あぁ、お嬢ちゃんは、ここで待ってな。
別に好きな飲み物を飲んでくれていても構わない」
「いえ、その……。」
「遠慮はいらん。
もしも腹が減っているんなら、キッチンを使っても良いぞ」
「わたしも、一緒に行っても良いですか?」
思わぬ【SAE】の言葉に【KOM】は珍しく言葉を詰まらせた。
「分かっていると思うが相手にするのは――。」
「だからこそ、行きたいんです。
お願いします」
【KOM】が言うのを遮る様に【SAE】が席を立つ。
これまで一切見せた事のなかった表情。
落ち込んで、弱弱しい印象しか見せなかった【SAE】がこの時、恐らくは初めて真剣な眼差しを【KOM】に向けて言った。
「ヴューレの腕前は?」
「はい。
おねえ…いえ、姉に色々と教えて貰いました。
自信はありませんけれど、飛べます」
ふーむ、と【KOM】は腕を組む。
実の所、連れて行きたくないのだろう。
僕も【KOM】と同意見だった。
無理に連れて行っても撃墜されるだけでは無いのか。
或は、他の仲間との連携が上手くいかず、そこを【NAMI】に付け入られ、激しい攻撃に晒されるのではないだろうか。
今回、相手にするのは、そんな相手だ。
遠慮も、一切の躊躇も無い。
機械の様な人物。
寧ろ、人物と呼んでいいものなのか、或は機械そのままでは無いかと言えるほどの技量を持つ者。
「良いんじゃないですか。
数は多い方が良いと言います。
それに、【SAE】ちゃんしか知らない情報もあるかも知れませんし」
【RINA】が助け舟を出すように口を開く。
「分かった。
だったら【RINA】、お前さんがお嬢ちゃんの面倒を見るんだぞ。
万が一、撃墜されるようなら、時給を半額にするからな」
【KOM】は鼻を鳴らして言った。
「いえ、あの半額は厳しいので、7割にして頂けれればと」
「お、【RINA】。
もしかして自信が無いのかよ」
【KIRIE】がからかう様に、笑みを浮かべる。
「黙れ、小僧。
自信はちゃんとあります。
十分にね!」
「こ、小僧!?
いやだから、前から言っている様に、お前だってその胸のサイズは……。」
また、始まったとでも言いたげに【KOM】が割って入る。
「お前ら二人とも静かに出来ないのか!
とにかく、分った。
宜しくな【SAE】」
「はい!
ありがとうございます」
【KOM】がこの時、初めて【SAE】と呼ぶのを聞きつつ、僕らは再び【NAMI】に戦いを挑むこととなったのだ。