フィフスグラウンド・オンライン16
「いや、分かりますよ。
結局、【MUTO】氏の同僚が犯人だったと言う事で、運営のプログラムミス、いや、これは運営によるセキュリティーの脆弱性の問題か」
【KIRIE】は探偵染みた素振りを見せつつ、指を鳴らす。
まさに、今回の問題の核心を突いた、と言わんばかりの様子だ。
「それも今回の問題に大きく関係して来るだろうね。
きっと今後、運営に対しての批判や、セキュリティー上の問題は決して小さな事じゃ無くなると思う。
僕ら運営も、真摯に受け止めて、対応していかないといけないだろうね」
「どうよ、俺の推理!
【RINA】、少しは俺の事を見直せよな。
少なくとも、今後はおじさんって呼ぶこと禁止だかんな」
【KIRIE】は言うも【RINA】はふてる様に言い返す。
「あなたの推理と言うよりかは、そういう事は皆、分っている事だと思うけれど。
それに、【KIRIE】。
私はあなたのそういう茶化す所が、子供っぽいと思うのよね。
今度からはあなたは『小僧』、若しくは『ガキんちょ』と呼ばせて貰いますから」
「なっ!
いやいや、子供なのは、お前の体型じゃ」
「そこの二人、静かにしろよ」
【KOM】が呆れながら言う。
そして二人が静かになったのを見やって、口を開く。
「複雑と言う事は、お嬢ちゃんと何か関わりがあると言う事だな」
「はい、【NAMI】と言うのは、わたしのお姉ちゃ…姉の事です。
このフィフスグラウンド・オンラインのゲームの運営の仕事をしていました」
決して視線を合わせない様にして何か申し訳無いような、怯えた様子を見せながら【SAE】が答える。
「【SAE】ちゃんはお姉さんが何処にいるのか分からないのかな。
もしも、分れば今回の問題も素早く解決出来ると思うんだけど」
【RINA】が優しく諭すように【SAE】に声を掛ける。
「その、それは……。」
と、そう言って【SAE】は黙り込んでしまった。
その表情には儚くも切なく、深い哀しみが込められている様な、そして僅かながら触れてほしくないと言う拒絶も合わさっていていた。
ボブカットの前髪を伏せた瞳を徐々に隠すように垂らし、僅かな隙間から見える黒目は潤みを増していき、つぅーと一筋の滴が彼女の頬を伝って腿に落ちた。
「いや、何処にもいないんだ」
どう言うべきなのだろう、と僕は【SAE】の代わりに答える。
「ええと、何処にもいないと言うと」
【RINA】が困ったように首を傾げる。
「何処かに隠れていると言う事か?」
【KOM】顎を掻きながら言う。
「違うんだ。
つまりは……その」
この場で言っても良いものか、僕は悩んだ。
これから口のするであろう言葉が、【SAE】を更に追いつめてしまうのでは無いだろうか、と思う。
「海外からの操作とか」
【SATO】が口を開く。
僕は、【SAE】を見やる。
潤んだ瞳をこちらに向けて、微かに唇が動いた。
そして小さく頷く。
「亡くなっているんだ。一か月前に」