フィフスグラウンド・オンライン11
少し手を伸ばせば手が届くのではないかと思えるほどに、急接近した両機。
寸前の所で、スロットルを捻り込み、ハンドルを左に倒し、フットバーを2度蹴る。
影狼の真横を機首に捉えながら機体が、一気に左旋回する。
影狼の機体に描かれたノーズアート。
漆黒で描かれた狼が見えた。
そして、加速。
影狼の背後を取る。
僕と同様に【RINA】と【KOM】は機体を右旋回させて、急加速すると、その時。
影狼もまた、同じ様に機体を一気に翻し、真正面に機体を躍らせた。
「畜生!
加速して距離を取れ!」
【KOM】が言うが早いか、再び、ハンドルを左に、そして右に倒し込みつつ、こちらに向かう影狼を避けるように曲線を描き急加速する。
尋常ではない、高い飛翔技術。
影狼もまた、僕らを避けるように加速し、お互いの距離を取る。
おおよそ50メートル程の距離を置いて、再び機体を翻す。
対峙するように、お互いを見やる。
遊んでいるのだろうか、もしも、影狼が本気を出せば、恐らく先ほどの2機のように瞬時に撃墜されていた事は容易に想像がついた。
「駄目だな、どうやら小細工が出来るような相手じゃないらしい」
ふてる様に【KOM】が言う。
「だとすれば、やる事は一つですね」
【RINA】が付け加える様に口を開く。
「正面から正々堂々とだな」
そう言うと、【KOM】が影狼に向かって急加速する。
少し遅れて【RINA】と僕が続く。
影狼はと言うと、正面に捉えたまま、じっと静止したままだった。
だが、次の瞬間。
影狼は機体を翻し、真逆に針路をとるとそのまま加速し始めた。
「逃がすかよ。
【RINA】、【MUTO】、このまま追跡するぞ!」
加速を最大にまで引き上げて、一気に距離を縮めようと【KOM】は飛翔する。
そしてレーザーを放った。
青白い閃光は、だが、しかし影狼の機体を貫く事も、操縦者に命中する事は無く、シールドの膜に阻まれて、淡く輝きを放った。
更に追い撃ちを掛けようと、僕と【RINA】もレーザー掃射ボタンに指を掛け、押し込んだ。
鋭い閃光が掃射口から迸り、影狼の機体目掛けて突き進む。
やはりこれもシールドによって弾かれて、命中する事はないが、若干ながら影狼の動きが鈍ったようにも思えた。
これを好機と見て、更に距離を縮める。
先行する【KOM】と影狼との距離は20メートルと行ったところであろうか、レーザーから完璧な必中の距離であるが、影狼のシールドを撃ち破るまでには至らず、影狼の背後を追う形となった。
と、影狼の操縦者が一瞬、背後を見やった。
刹那、一気に減速し、僕と【RINA】の間に割り込むように機体を滑らせて、【KOM】を前へと押しやった。
そして、鋭い閃光を放つ。
間一髪【KOM】はそれを急旋回で避けると、機体を急上昇させた。
俊敏さと兼ね備えた鋭角な急上昇、急加速であった筈であるのに、影狼はぴったりと【KOM】の機動と同じ曲線を描き、レーザーを放ってくる。
その度に【KOM】は急旋回して、レーザーの回避に努めた。