和菓子『ういろう饅頭』と、タリサとマヤラ
その日、いつものように朝早くから万次郎茶屋に遊びに来ていたタリサとマヤラの2人は終始笑顔があふれ。普段の2~3倍、よりご機嫌であった。
何故ならば、念願であった大好きな愛満と愛之助のお家へのお泊まりの許可が父アルフから、やっと貰えたからなのである。
と言うのも、母親アコラからは大分前から愛満宅へのお泊まりの許可を貰っていたのだが、父アルフが何故かなかなか『うん』と言ってくれず。
タリサとマヤラの2人は、いつアルフがオーケーサインを出してくれるのかと日々ヤキモキしていたのであった。
◇◇◇
そもそもタリサとマヤラの2人は、兎族特有の多産でいて、一度の出産で3つ子や5つ子、7つ子の子供達が生まれる傾向が多いなか、珍しく1人づつで産まれ子供になり。
6度の多産のお産で産まれた19人の兄や姉達が大勢居る子沢山なアルフ家の下2人の末っ子組になる。
そんなまだ幼いタリサとマヤラの2人になるのだが、まだまだ両親に甘えたい盛りながらも、先の戦争の影響や大家族な事もあり。
毎日忙しそうに家族や一族の者達を食べさせる為。何かしら忙しそうに働いてる大黒柱の父親アルフと共に
家の中の事を含め。姉や兄のお嫁さん達の出産の手伝い。初産の者達へのケアー。
多産で産まれた孫やひ孫の赤ん坊達の世話等で、毎日忙しそうに動き回っている母親アコラ達の姿を見ていて、父親アルフや母親アコラの事が大好きでも、子供心にどこか無意識に遠慮してしまい。
また迷惑をかけてはいけないとも考え。大好きな両親に甘える事がなかなかできずにいた。
それに沢山居る19人の兄弟にしても、タリサの直ぐ上の3つ子の兄達の年が18才と、タリサやマヤラとは10才以上も年が離れていて、話や遊ぶ内容もまったく違い。
兄達も幼く可愛いタリサやマヤラ達と遊んでやりたくても、日々家の仕事の手伝いや自身の将来の為の勉強等で忙しく。
なかなかタリサ達にかまってやる時間が持てないのが現状であった。
更にはタリサ達の他に居る兄や姉達にしても、そもそも年が離れ過ぎている事もあり。
また結婚している者、実家を出ている者が多く。
家庭持ちの者達は子供が居たりと自身の家庭を守る為。日々仕事や家事・育児に毎日忙しく働いており。
家を出ている者にしても自身の生活でいっぱいいっぱいで、タリサやマヤラ達を気にかけてやれる者は少なく。
兄や姉達の子供にしてもタリサやマヤラとは同い年の者や年が近い者が居るのだが、ほとんどの者達が多産で生まれた子供達になり。
そうすると自然に気心知れた兄妹同士で遊ぶ者達が多くなってしまい。
いつもそんな楽しそうな光景を物陰から見ながら、どこか寂しげにしていたタリサとマヤラの2人なのであった。
そうして、そんな時に出会ったのが愛満と愛之助の2人になり。
愛満は優しく。いつもタリサやマヤラの事を気にかけてくれては、良い事をした時やお手伝いを頑張ったら必ず誉めてくれ。
逆に駄目な事をした時は、きちんとその場で何がダメだったのかと訳を話ながら、子供だからと頭ごなしに叱らず諭してくれ。
怒られた後や喧嘩した後泣いていると、こっそり抱き締めてくれたり。
タリサとマヤラにとっては、思い切り甘えられる第二の母親のような、また父親のような無償の愛をくれる存在になり。
愛之助は年が離れてるにも関わらず。いつもタリサとマヤラ達とクタクタになるまで面白おかしく遊んでくれ。
たまに悪い事をしそうになると自然と諭し。解らない事があると何でも教えてくれ。
それが自身も解らない事ならば、恥ずかしがる事もなく正直に言い。3人で解るまで一緒に調べ悩んでくれて。
おやつが出れば、必ず大きい方をタリサやマヤラ達2人にくれる。
厳しくもあり、優しくタリサとマヤラを守ってくれるお兄ちゃんのような存在なのだ。
そんな2人が大好きなタリサとマヤラの2人は、両親が風呂屋に出勤する際、一緒に家を出ては、毎日愛満と愛之助に会うために万次郎茶屋に通い。
日々勉強したり、遊んだり、お手伝いしたりしては、4人で美味しい昼ご飯やおやつをお腹いっぱい食べ。
物陰から楽しそうに遊んでいる他の子達を羨ましそうに見ていた寂しかった昔とは違い。
今は毎日充実した楽しい笑顔溢れる日々を過ごしていた。
◇◇◇◇◇
空が綺麗な茜色に染まる夕暮れの時間帯。
普段ならば、仕事終わりの父親のアルフか母親のアコラかのどちらかが万次郎茶屋へと2人を迎えに来てくれ。タリサ達と仲良く家路へと帰る頃。
「良いでござるか?タリサもマヤラもしっかり肩までつかって、1から10まで数えてから上がるでござるよ。」
「うん、任せてよ愛之助!僕、1から100まで言えるんだよ!
いち~、に~、さん~、し~、ご~♪」
「あい!い~、に~、さ~、ちぃ~、ご~♪」
愛満宅自慢の桧風呂内に愛之助とタリサ、マヤラ達3人の楽しそうな話し声が響き。
湯船に肩までつかった3人は、最後の仕上げとばかりに1から10までの数字を数え。楽しそうにお風呂の時間を満喫していた。
そうして風呂から上がったタリサ達3人はポカポカと湯気を上げつつ。
この日のために愛満と愛之助の2人が準備してくれた。愛之助とお揃いのマイ○ロちゃん使用のパジャマとベストに身を包み。
何やら愛満が作っている美味しそう匂いに導かれ。知らず知らずのうちに愛満宅の台所へと足を向けていて
「あれ?3人ともお風呂から上がってたんだね。気付かなかったよ。ゴメンゴメン。
もう少しだけ待ってて、すぐご飯仕上げちゃうから」
いつの間にやら台所入口に立ち尽くす3人に気づいた愛満は、後少し調理に時間がかかる事を伝えながら、お腹を透かせたタリサ達へと声をかける。
するとそんな愛満の言葉に、出来上がった料理を運ぶ等のお手伝いをすると申し出た愛之助達は、晩ご飯が出来上がるのを待つ為。
台所の一角にある休憩コーナーで、愛之助秘蔵の『金平糖』を一粒づつ口に含むと、ちょこんと3人並んで座り。美味しそうな香りを放つ晩ご飯が出来上がるのを待ち遠しそうにして待っていた。
◇◇◇◇◇
「ごちそうさまでした!」
「ごちちょうしゃまでちた!」
「ごちそうさまでござるよ!」
タリサ達の元気の良い食後の挨拶が愛満宅の居間に響く中。
満足気な様子で、愛満お手製の煮込みハンバーグが主菜の美味しい晩ご飯を食べ終えタリサ達3人は、各々が出来る後片付けをして手伝ってくれ。
愛之助が煎れてくれた煎茶を飲みながら、温かな炬燵でぬくぬくとまったりしていた所。
何やら皿洗いを終えた愛満が、白い粉がかかっていて、淡い黄色の真ん丸した饅頭が乗った皿を持って台所から戻って来る。
すると愛満が持つお饅頭に目敏く気付いた3人は、さっきまでのまったりした空気を一変させて、瞳をキラキラして
「よ、愛満、それ何!?和菓子!?」
「よしみちゅ、マヤラもたべりゅよ!」
「愛満、その和菓子には煎茶で良いでござるか?」
三人三様の反応で愛満に話し掛け。そんな3人の姿を微笑ましそうに笑みを浮かべた愛満が
「タリサ、正解。
この饅頭は、上新粉やもち粉を使って作った『ういろう生地』になってね。
そんなういろう生地の中にカスタード餡を包んで丸め。粉糖を振るった『ういろう饅頭』と言う和菓子になるんだよ。
あっ!勿論マヤラも食べれるし。お茶は煎茶で大丈夫だよ。愛之助、ありがとね。」
何やら上新粉やもち粉を使用した『ういろう饅頭』なる和菓子の事を手短であるが教えてくれ。
自分も食べれるのかと心配している様子のマヤラを安心させる為
、マヤラも食べれる事を話し。
愛満の分の煎茶を煎れてくれている愛之助にお礼の言葉を伝えつつ。3人前に持って来た『ういろう饅頭』を置いてあげると
耳では愛満の話を聞きながらも、瞳はすっかり目の前に置かれた『ういろう饅頭』に釘付けな様子でいて
愛満からの『食べて良いよ』の声がかかるのを涎を足らさんばかりに、今か今かと待ち望んでいる様子がありありと分かり。
まるで待てをさせられている子犬のようにも見えてきて……………。
そんなタリサ達の様子に気付いた愛満は、一生懸命隠そうと漏れ出てしまう笑みを咳で誤魔化しながら
「ごめん、ごめん。説明が長かったね。どうぞどうぞ、『ういろう饅頭』お召し上がり下さい。」
と声を掛け。フライング気味に『ういろう饅頭』にかじりついたタリサが
「うわ~何これ!スゴく美味しい~!
あのね、この皮の部分がモッチリしていてね。中のカスタード餡もしっとりホロホロしていて、スゴく美味しいの♪
……モグモグ………モグモグ…………うんうん、僕、この食感大好き!!」
「マヤラもちゅき!モチモチちてておいちいの♪」
「本当に美味しいでござるね♪このういろう生地のモッチリ感が堪らないでござるよ!
………うーーん、…………しかし何でござるか、この食感?
愛満が『ういろう饅頭』と言っていたでござるから、拙者てっきり、いつも食べているお饅頭と同じだと思ってたでござる。
それにしても………モグモグ…………モグモグモグ……………一度食べたら止まらなくなる美味しさでござるね~♪」
3人が嬉しそうに口々に教えてくれ。『ういろう饅頭』への絶賛の声を聞きながら、何やら不適な笑みを浮かべた愛満が
「ふっふふふ、………それそれは有り難いのう~。
しかし者共よ。お主達、今食べておる『ういろう饅頭』よりもっと旨い『ういろう饅頭』を食べたくないかのう~?」
何やら愛満が大好きな時代劇には付き物の悪代官の真似をするよう話。意味深な言葉を愛之助達に投げ掛けてくる。
すると、もちろん食いしん坊の3人は美味しい物が食べたいと直ぐさま首を縦に振り。
悪代官の真似をしている愛満に釣られるよう。自身達も良く見ている時代劇の悪代官の小判鮫の真似をして
「それはそれは、お代官様も人が悪い。イヒヒヒヒ~♪」
「ウヒヒヒ~~~♪」
「本当でございまするね。さすがお代官様、目の付け所が違うでございまするよ!エヘヘヘ~~♪」
何やら良く解らない言葉を返しながら笑い声を上げる中。
不敵な笑みを浮かべた愛満が台所に何か取りに行き。
戻って来たその手には、少し深目の皿に『ういろう饅頭』とバニラアイスクリームが盛り付けられ。
更にはタリサ達3人が大好きな苺も添えられていて、お皿の中を見た3人が跳び跳ねるほど喜び。早く食べたいとも囃し立てられ。
少々、奪い取るようにと言うか、愛満からお皿を受け取った3人は、愛満に教えてもらった通りにバニラアイスクリームと一緒にういろう饅頭をスプーンですくい。そのまま一口頬張ると
「うわ! こっちも美味しいでござるねぇ!
先程食べた、そのままの『ういろう饅頭』も美味しかったでござるが、このモッチリしたういろう生地と、しっとりホロホロのカスタード餡が滑らかなバニラアイスクリームと口の中で合わさりでござるね。
こぉ~~~、何とも言えないハーモニーを醸し出しているでござるよ!!
そしてそして!忘れてはならない!
お皿の中で光輝いている苺と一緒に食べると、また違った甘酸っぱいフルーティーな味わいが口の中に加わり。実に美味な味わいでござるよ!
……パクパク………パクパク………う~~~ん♪美味しいでござる~♪」
愛之助が饒舌に味の感想を言い。
「本当だ!こっちはモチ冷として美味しくって好き!……ハァ~~~~、僕幸せ~♪
だってねぇ!こんな寒い時期に温かい炬燵に入ってモッチリ和菓子や、モチ冷の冷たい和菓子を食べながら、体が冷えたら温かいお茶を飲んで、またモチ冷の美味しい和菓子を食べられるんだもん!
……モグモグ………パクパク………ハァ~~~、本当幸せ♪僕、無限に食べれそう♪」
「マヤラもむげんにたべれりゅ!おいちいね、おいちいね。」
あちらコチラから幸せそうなため息が聞こえてくる中。
タリサとマヤラの初めての愛満宅へのお泊まりは4人の満面の笑みのなか、和やかに過ぎていった。
◇◇◇◇◇
ちなみにその後、寝る時に4人で並んで寝たいとマヤラからのおねだりがあり。
マヤラの希望を叶える為、客室に敷き布団を3枚並べて敷き。
タリサとマヤラの2人を真ん中にして、マヤラ希望の絵本を読んであげながら4人仲良く朝までぐっすりと寝るりに落ちるのであった。