和菓子『どら焼き』とつまみ細工と虎族
「あっ、ココだ!父ちゃん、母ちゃん、早く早く!ココが万次郎茶屋みたいだぎゃ!」
「一虎兄ちゃん、虎々夏姉ちゃん、虎美兄ちゃんも早く早く!」
タリサより少し年上の男の子と女の子の可愛らしい虎耳と尻尾の生えた虎族の2人が、元気良く両親や兄や姉達を呼ぶ。
「わがった、わがった。そんなに急がねくても大丈夫だぎゃ。」
「そうだぎゃ!虎太朗も虎愛もちゃんと前を見て歩かねば、転んで痛て思いすっぞ。」
「危ないだぎゃよ。」
「虎太朗と虎愛、そこでまちょれ。他の人の迷惑にもなるし、危ねだぎゃ。」
「虎太郎も虎愛も言う事聞かねば駄目だぎゃよ。」
「「は~い!」」
両親や兄妹に注意された2人は、その場で待ちながら家族みんなで万次郎茶屋へと入店するのであった。
◇◇◇◇◇
チリーン、チリーン♪
「「「いらっしゃいせ。」」」
「あの~、私虎族の虎士と言いますだぎゃ。
こちらに愛満さんと言う方がおらしゃると聞いたんだぎゃが、おらしゃるでしょうか?」
「はい、僕がこの万次郎茶屋の主人愛満と言いますが、何か御用でしょうか?」
愛満は、自分を訪ねて来た虎耳に尻尾の生えた中年の男性に返事をしながら、立ち話では悪いからと家族を店内に招き。
店内に招いた虎士を店内の一角にあるテーブル席に座ってもらい。
虎士以外の家族には、長旅の疲れが表情やしぐさから色濃く見えた事も有り。愛之助達に頼み、愛満宅自慢の檜風呂へと入浴してもらう事にする。
そして1人その場に残った虎士には申し訳ないが、おもてなしのお茶やお茶菓子を振る舞いながら、改めて自分を訪ねて来た訳を聞く。
◇◇◇◇◇
すると虎士達家族は、とある町で、先祖直伝の『つまみ細工』と言う。様々な色合いの布を組み合わせ作った、草花をモチーフにした髪飾りやブローチ等を販売するお店を営んでいたらしい。
しかし先の戦争で、ある日突然クコン王国の魔術師達が街へとやって来て、チャソ王国への見せしめのよう。虎士家が住んでいた町ごと家も店も、魔法で生み出した大量の水に流され破壊されてしまったらしい。
虎士家の家族は、町に鳴り響く警報の鐘の音や突然の事で驚き恐怖しながらも、とっさに命と同じくらい大切な商売道具の入った木箱や家族の手をがっしりと握りしめ。
虎族の強力な力で命からがら近くの高台の山へと逃げ延びたらしいのだが、水が引いた後、街へと戻ってみると住む家も店も商品も全て水に流されてしまっていたらしく。
たった数日の間に一瞬で生活する術を全て無くしてしまい。
初めは呆然と途方にくれていたのだが、次第に虎士家持ち前の負けん気の強さと『いつの日にか店を再開するぞ!』との家族みんなの希望のなか、手始めに安全な隣町に避難し。
薬草などの簡単な採取依頼等を受けながら日々の生活費を稼ぎ。
暇をみつけては、コツコツと『つまみ細工』作品を作り貯めながら、ほそぼそとではあるが家族みんなで、仲良く暮らしていたらしい。
するとそんな虎士家族の話を聞いた知り合いの冒険者から、朝倉村の話を教えてもらい。
何か変わるのでないかと考えた虎士は家族みんなを連れ。長旅ではあったのだが、朝倉村へとやって来たとの事。
そして虎士家族が生業にしている『つまみ細工』とは、虎士の何代か前にあたる先祖の虎族の女性と結婚した。黒髪黒目の人族の男性が故郷で生業にしていた仕事になるらしく。
虎士が知る限りでは、父親に弟子入りして『つまみ細工職人』になった5人いる兄妹の中で、虎士の兄と弟など『つまみ細工職人』は虎士達一族しか居らず。大変珍しい職業になり。
何て事の無い様々な色合いの布を切り、つまんで貼るだけのシンプルな技法ではあるが、色の組み合わせや形を変える事で無限の種類が作れ。
完成品も華やかな草花の形になり。当時の女性の間で人気をはくしたらしい。
◇◇◇◇◇
そんな虎士の話を聞き終えた愛満は、改めて青みのおびた髪色ながらも、この世界では珍しい黒目の虎族の虎士を見つめ。
見せてもらった『つまみ細工』作品等と考えあわせた結果。
虎耳や尻尾が生えてはいるが、虎士の祖先には、何かしらの力が加わりこちらの異世界にやって来た日本人の血が入っていると確信し。
先ほど見せてもらった美しく、丁寧に作られた『つまみ細工』の商品の数々に、虎士達の中に日本人特有の職人魂を熱く感じ。
まだまだ幼い子供達を抱え、虎士の妻が妊娠中な事を一目見て気付いた愛満は、話を聞く前から決めていた。
虎士家族を朝倉村へと迎え入れる事を歓迎の言葉を交えて、虎士へと伝える。
◇◇◇◇◇
そうして虎士との話を終えた愛満が、お茶やお茶菓子の『どら焼き』を持って席へと戻ってくる。
すると愛満と話終え、檜風呂へと入りに行った虎士と入れ換えに、愛之助からプレゼントされた。
ワンポイントでマイ○ロちゃんの刺繍入りの新品のセットアップの服を着た虎太朗や虎愛などの虎士家族がテーブル席へと座っており。
愛満は人数分のお茶やお茶菓子の『どら焼き』を虎耳や尻尾を忙しそうにピコピコ動かし、興味津々な様子で『どら焼き』を気にしている。
まだまだ幼い虎太郎や虎愛達を微笑ましそうに見つめながら、虎士家族へと振る舞い、おもてなしをする。
甘く美味しそうな匂いがする『どら焼き』を前に食べて良いのかと緊張した様子の虎太郎や虎愛達であったが、仲良くなったタリサ達が進めると恐る恐る食べ始め。
「……う、旨~いだぎゃ!何これ!?
俺、こんなに旨いお菓子食べたことねいだぎゃ!虎愛も食ってみろだぎゃ。本当に旨いだぎゃよ!」
「うわー本当に美味しいだぎゃ!この茶色のふわふわの部分がほんのり甘味があって美味しいだぎゃよ。
それに間に挟まれた黒い粒々したのが、とっても甘くて美味しいだぎゃ♪」
幼い虎太朗と虎愛が自分の持てる言葉で必死に『どら焼き』の美味しさを身ぶり手振りで表現する。
するとタリサが、何やら誇らしそうに話始め。
「虎太朗、虎愛。茶色の部分はね、どら焼きの皮なんだよ。
うちのサナ兄ちゃん達が育てた新鮮卵を使って作ってるから、コクがあって、しっとりとしたカステラみたいな皮に焼き上げられてて絶品なんだ!
それから間に挟まれてるのは、僕も大好きな愛満お手製の粒あんになってね。ほっこりしっとりとした口当たりと豆の風味を生かした優しい甘さで、いくらでも食べれちゃうんだよ♪
虎太郎や虎愛のお母さんも兄ちゃん、姉ちゃんも美味しいから食べてみてよ♪」
どら焼きの事を教えてあげ、虎太郎や虎愛の母親や兄妹達に進め。そんなタリサの話を聞いた虎太郎や虎愛達が、何やら興味深げに頷き。
「へぇ~!茶色の部分がどら焼きの皮で、中の黒い粒々した甘いのが粒あんなんだぎゃね。勉強になっただぎゃ!虎愛、覚えただぎゃか?」
「うん!茶色部分が皮で、中の黒いツヤツヤして粒々したのが粒あんの『どら焼き』だぎゃね。
どら焼き、どら焼き、バッチリ覚えただぎゃ!名前さえ覚えていれば、これでいつでもどら焼きが食べられるだぎゃよ!」
どら焼きと言う甘く美味しい和菓子の名前を覚えた2人は、嬉しそうにどら焼きの名前を繰り返す。
するとそんな2人をニコニコと嬉しそうに見ていた愛之助や光貴の2人も、虎太郎や虎愛に新しいどら焼きを手渡しながら
「そうでござるよ!このどら焼きの皮は愛満が1枚1枚丁寧にふっくらと焼き上げてるでござるよ。
中の粒あんも丹精込めて炊き上げてるでござるから、2人の言うように美味しいでござるよ!」
「そうへけっ、そうへけっ!それにこっちの『生どら焼き』も美味しいへけっ!」
「生どら焼き?それはなんだぎゃ?」
「どら焼きと違うのだぎゃか?」
「『生どら焼き』食べてないへけっ?
生どら焼きは、どら焼きの横のお皿に置いてある菓子へけっよ。
粒あんが挟まれたどら焼きと違って、中の粒あんが生クリームと混ぜ合わさっているへけっ!
それに食べる直前まで魔法庫に入っていたからほんのり冷たく。
フアフアしっとりの皮と中のミルク風味の粒あんクリームが、口の中で直ぐに無くなってしまう、溶けるほどの美味しいどら焼きへけっよ!」
ここ何日か万次郎茶屋で生活するうちに愛之助や山背の影響で、食通になってきた光貴が『生どら焼き』の美味しさを虎太朗達に力説するのであった。
◇◇◇◇◇
そんなタリサや愛之助、光貴達の説明をビックリしながら聞いていた虎士家族もタリサ達に進められるままに『どら焼き』や『生どら焼き』を食べ。
「どら焼きとは皮も中の餡も手間隙かけて作った和菓子なんだぎゃね。だからこんなに優しい味で美味しいだぎゃ!」
「……モグモグ………モグモグ…………はぁ~~~!!どら焼きも生どら焼きも、どっちらも美味しいだぎゃ!」
「母ちゃん、本当に美味しいだぎゃねぇ♪
どら焼きの皮も美味しいけど、この粒あんと言う餡の甘さがくどくなくてお菓子が苦手な私でも食べれちゃうだぎゃよ!」
「本当に旨めだぎゃ!俺は甘いものが大好きだから、このアッサリしていながらフアフアな軽い食感の生どら焼きなら、何個でも食べれるだぎゃ!」
『美味しい、美味しい』と話し、2種類のどら焼きを食べてくれ。その後、お風呂から上がった虎士も加わり。皆で美味しそうにどら焼きを食べるのであった。
◇◇◇◇◇
こうして、愛満の力を使い建ててあげた。
純和風の店舗兼自宅に住む事になる虎族の虎士家族と様々な種類が有る『つまみ細工』商品を販売する店が朝倉村へと仲間入りした。