豆腐ティラミスとケンタウルス族の民族衣装
その日 万次郎茶屋には、愛満の友人でケンタウルス族のアヴリルとアプリーレの男女の双子の兄弟が遊びに来ていた。
◇◇◇◇◇
「へぇー!ケンタウルス族の皆が普段来ている服がケンタウルス族の伝統的な民族衣装だったんだ、知らなかった!
けど、そう言われたら機能的なデザインで動きやすそうだし、生地の所々にしてある刺繍がおしゃれで綺麗だよね。
それでその服や刺繍はアヴリルとアプリーレが作ったの?」
愛満は2人が着ているケンタウルス族の普段着にもなる、細やかな草花の刺繍が施された民族衣装を見ながら質問する。
「ええ、そうよ。私が昔からあるケンタウルス族独自の服の型を決め、服を作り。アプリーレが服のイメージにあった刺繍をしてくれるの。
本当は私も刺繍出来たらいいんだけど、昔から縫い物の腕前だけは誉められても、なぜか刺繍の腕だけは全然上達しないで下手なままなのよ!
だけど母や祖母からは、これも花嫁修業の一環だからと毎日のようにケンタウルス族伝統の刺繍の課題が出されるし。
あまりの自分の出来なさ具合に不甲斐なくて、毎日悔しくて悔しくて隠れて泣いてたの。
そしたら心配したアプリーレが家族に内緒で手伝ってくれて、そのうちアプリーレの方が刺繍の腕前が上がったと言う訳よ。アハハハハハ~~♪ねぇ、アプリーレ。」
「……アヴリルちゃん、笑い事ではない気がするんだけど……まぁ、うん。毎日毎日、アヴリルちゃんが泣きながら刺繍してるのを見てたら可哀想になってきてね。
元から僕は生まれつき病弱だったから、家の手伝いも満足に出来ないし、いつも家の中に居るだけだったから、何かアヴリルちゃんの力になれないかと手伝てあげてたんだ。
そしたらいつの間にか僕の方が村一番の刺繍の腕前になってたと言う訳なんだよ。
けど、アヴリルちゃんも必死に練習したから、比較的小さくて簡単な刺繍なら上手く刺繍出来るんだよ。」
双子の姉、アヴリルの頑張りを称えるようにアプリーレが愛満へと話すのだが、何やらアヴリルは落ち込んだ様子で
「……そう、あんなに頑張ったのに比較的小さくて、簡単な刺繍ならね。」
遠くを見つめ話す。そんなアヴリルを心配したアプリーレが
「どうしたのアヴリルちゃん?大丈夫?……あっ、僕また変な事言っちゃった?ごめんね、アヴリルちゃんを馬鹿にしたつもりはないんだよ。」
「……う、うん。そうだね。」
力無く相づちを打つアヴリルに、更に続けて励ますように話しかけ。
「それに比較的小さくて簡単な刺繍て言ったけど、アヴリルちゃんが毎回刺繍の時間にお婆ちゃんやお母さんの目を掻い潜り。
近くの山に逃げ出して、そのまま遭難しちゃって、お父さん達村の男衆が山探しをしたり。
刺繍の時間に勝手に男衆の狩りに着いていって怒こられたり。
狩りの練習だと剣に見立てた木の棒を振り回して、せっかくお母さんが干した洗濯物をダメにしちゃたりした中での頑張りの結果なんだから、アヴリルちゃんは胸を張って自慢して良いんだよ!あんなに刺繍出来なかったのに、今では簡単な刺繍だけど縫えるだよ!凄く立派な事なんだよ!」
かなりの天然であるアプリーレが知らず知らずのうちに姉、アヴリルへと第2第3の援護射撃と言う名のダメージを与え。
アヴリルの黒歴史をサラリと暴露し、アヴリルはしばし灰になるのであった。
そしてこちらに座る愛満もまた天然ボーイのため、アプリーレの話を『そんな事があったんだね、アヴリル昔から元気が良かったんだ!』とサラリと流し。
「へぇーそうだったんだ。けどアヴリルもアプリーレも2人ともスゴいね!こんなにおしゃれで綺麗な服が作れるんだもん。
きっと村で販売したらケンタウルス族以外の人達も欲しがるはずだよ。いっそうの事村でお店でも開いてみる?」
2人の腕前に愛満が提案すると復活したアヴリルが笑い飛ばし。
「えぇー!私達が作る服を村で販売する?………アハハハ~無い無い!私達より服作りも刺繍も上手いケンタウルス族の人達がいるのよ。わざわざ買いに来る人なんか居ないわよ。」
「えぇー!そんなことないよ、きっと売れると思うよ。
それにアヴリルの伝統を守りながらも新しいデザインを取り入れた作りの服や、アヴリルが普段使ってるアプリーレの刺繍入りの小物入れ、バックなんかも販売したら人気が出ると思うよ。
だってオシャレな愛之助が欲しがるぐらいだもん!
絶対女性に人気が出はずだよ。ねぇアプリーレ、どう思う?人気が出ると思わない?」
「う~ん、どうだろうね。けど僕達が作った服や小物で持つ人が少しでも喜んでくれるなら、それはそれで嬉しいかなぁ!」
愛満達はお喋りをしながら、愛満が2人の為に作った色鮮やかな抹茶入りの冷たい緑茶やお茶菓子を振る舞う。
すると甘い物が大好きなアヴリルとアプリーレは、初めて見るお菓子に興味津々で観察しだす。
「うわ~♪このお菓子なんて言うの?初めて見たわ!
茶色と白のコントラストが層になっててオシャレね。アプリーレもそう思わない?」
「本当だね、アヴリルちゃん。茶色と白のシンプルな見た目だけど、なんだかオシャレで美味しそう。それにこの丸いカップも可愛いね。」
コロンとした丸みのある透明なカップから見える『豆腐ティラミス』を見ながらアヴリルとアプリーレが愛満に話しかける。
「ありがとう。このお菓子はね『豆腐ティラミス』て言うんだ。
アヴリルとアプリーレが遊びに来てくれるから、何か斬新でオシャレなお菓子が作れないかと考えたんだよ。
それにこの前、アヴリルがカロリー控え目なお菓子は無いかと話してたから、それもふまえて考えてたら、昔姉さんからカロリー控えめな『ティラミス』が食べたいとリクエストされた事があってね。
その時、絹ごし豆腐を使った『豆腐ティラミス』を作ってあげたのを思い出して作ってみたんだ。」
女性ながらの長年の悩みの1つになる。大好きな甘い物は食べたい、けど太りたくないとのアヴリルの話を聞き。
昔ダイエット中の姉からも同じような悩みを聞いて、姉の好きな『ティラミス』をカロリーを抑えて作れないかと考えた事を話す。
「それに本来のティラミスクリームのマスカルポーネやクリームチーズを使う所をレンジで加熱した水切りした絹ごし豆腐を裏ごしして、生クリーム、砂糖を八分立てに泡立て、豆腐のティラミスクリームを作ってるから
アヴリルが気にしてたカロリーも控え目で、ヘルシーで美味しいと思うんだけど………どう?食べられる?
一応 僕も味見して、豆腐独特の味もなくて美味しかったんだけど………美味しくない?大丈夫?」
久しぶりに作った『豆腐ティラミス』の味や出来映えを心配した愛満が不安そうに2人に聞く。
すると愛満の話を聞いていたアヴリルとアプリーレは、愛満が自分達の事を考えてお菓子を作ってくれていた事を知り。驚き感動しながら豆腐ティラミスを食べ始める。
「へぇースゴい!見た目もオシャレで美味しそうなのに、そのうえヘルシーだなんて、なんてお得なお菓子なのかしら!愛満、ありがとう。
………うん♪絹ごし豆腐が裏ごししてあるから、しっとりとしたクリームの口当たりで、スゴく美味しいわ!
それに愛満が気にしてた豆腐独特の味もしなくて、私この豆腐ティラミス好きよ。」
「アヴリルちゃんが言うように豆腐のティラミスクリームが口当たり良く美味しいよ♪
ティラミスクリームの間にある茶色の部分もサクサクした食感で、クリームと良く合ってる。
それにしてもこのカップ1つのお菓子の中に食べる人の事をいろいろ考えられ、真心がギュッと詰まっているんだね!…………うんうん、美味しい♪」
嬉しそうに微笑み『豆腐ティラミス』を食べていると何やら大きく頷き。
「……そっか!だから毎回愛満の茶菓子を食べると心もお腹もウキウキと幸せな気持ちになってたんだ。
お菓子ってスゴいね、愛満!いつもこんなに美味しい和菓子やお菓子を食べさせてくれて、ありがとう。」
「うんうん、僕こそ2人ともありがとう、嬉しい!
それにね、このティラミスの茶色の部分は、細かく砕いたクラッカーを溶かしたチョコとパラパラになるまで混ぜて作ったから、クリームと交互に重ねてもサクサクした食感が楽しめると思うんだ。」
アヴリルとアプリーレのティラミスの感想やお礼の言葉を聞き。愛満が照れ笑いして、慌てて話題を変えて話をしていると夜花の所に勉強を兼ねて遊びに行っていた愛之助達が帰って来る。
「愛満、ただいま~~~!」
「よしみちゅ、たらいま~~♪」
「愛満、今帰ったでござるよ~~♪あっ!アヴリルとアプリーレでござるよ!」
アヴリルとアプリーレに挨拶をしながらもアヴリルとアプリーレが食べている『豆腐ティラミス』に目ざとく気付き。
さっそく愛満におねだりして、愛満お手製の豆腐ティラミスを『美味しい、美味しい』と食べ進めた。
◇◇◇◇◇
そしてその後、愛之助達も加わりアヴリルやアプリーレ達とお喋りしていた所、話の中でアヴリルとアプリーレのお店の話しになり。
愛之助達3人からも強く進められ、アヴリルとアプリーレの2人はお店屋さんを開く事に少しずつ心を動かされ。最後はノリノリで認証する。
ちなみにそのさい、愛之助達はマイ○ロちゃんと苺の刺繍が入った苺忍者隊で使える隊員全員分のバックの制作をちゃっかり依頼するのであった。
こうして、ケンタウルス族の双子の姉アヴリルと弟アプリーレの2人が営む事になる。
デザインや刺繍が美しいケンタウルス族の民族衣装や小物を販売する『衣服店』が朝倉村に仲間入りする事が決定するのであった。




