桜焼きと鶯族の春比古と桜彦
その日 愛満や愛之助の2人が、ここ何日も心をドキドキワクワクさせ待ちに待った。
ドワーフの喜多丸家族が営む鍛治屋に愛満達が頼んでいたアルモノが、愛満の力を使い建てた。
ザ・日本建築の造りの自宅兼店舗一軒家の店舗部分に運び込まれていた。
◇◇◇◇◇
「うわーー出来たんですね!
喜多丸さん、無理な注文なのに本当頑張って下さって、聞いて下さりありがとうございます。」
新築の独特の匂いが今だ残る店舗部分に整備された桜の花の形に型作られた焼き型を一目見て、興奮した様子で、無理な注文を聞いてくれ。製作してくれたドワーフ族の喜多丸達親孝行へと感謝の言葉を伝える。
「いやいや、俺達こそ逆に勉強になったぺよ!」
「そうだっぺ!新たな鍛冶職人の道が開けた気分だっぺ!」
「そうだっぺ、そうだっぺ!おら久し振りに心が踊る仕事だったぺよ!」
喜多丸達が口々に話す。すると愛満達の後ろや間から焼き型を覗き込んだ愛之助達が、
「桜の花の形でござるね。可愛いでござるよ。」
「本当に桜の形だ!愛満 コレは何を作るものなの?」
「しゃくらじゃ!しゃくらじゃ!」
桜の花型の焼き型を見て『可愛い、可愛い』と騒ぎだし、何を作る物なのかと質問する。
そんなタリサ達に愛満や喜多丸達は顔を見合わせ苦笑いすると話を切り止め。愛満達の目の前に有る焼き型の事を説明する。
「この桜の花型の焼き型はね、香夢楼達と初めて会った時に食べた『鯛焼き』の事を覚えている?
あの『鯛焼き』を朝倉村の名物の一つでも有る、桜の花の形で作れないかと考えて、喜多丸さんに無理言って作ってもらった焼き型になるんだよ。」
「鯛焼き!!あのパリッとした皮に、甘いつぶ餡の入った美味しい焼き菓子だよね?
僕、覚えてる!鯛焼き大好き!だって愛満お手製の餡子大好きだもん♪…えっ!と言う事は、また鯛焼き食べれるの?」
「マヤラもちゃいやき ちゅき!ちゃいやき ちゅくるの?マヤラちゃべれるよ、ちゃべてあげるよ♪」
「あの鯛焼きでござるか、拙者も大好きでござるよ。
しかし鯛焼きの形でも可愛いかったでござるが、この焼き型は桜の花の形になるでござるね。可愛いさがレベルアップしたでござるよ♪」
3時のおやつ等で何度か食べ、美味しさを知る鯛焼きの話に、タリサやマヤラ、愛之助達は、鯛焼きを食べれるのかと興奮した様子で愛満へと質問する。
そんな騒がしいタリサ達の近くでは、店舗兼自宅になる一軒家を愛満から譲り受けた。
この『桜焼き屋』の主人になる鶯族の春比古と桜彦の2人が真剣な表情で、製作者の喜多丸達から焼き型の手入れの仕方や使い方の注意点などを聞き、ノートに書き写していた。
◇◇◇◇◇
この鶯族の春比古と桜彦の2人、双子の兄弟になり。
先の戦争で、一度に職と家を失い、家族で困っていた所。
その噂を聞き付けた朝倉村唯一の病院に勤務する。古くからの友人でもある雀族の陽翠達の紹介で愛満と出会い。
家族皆で朝倉村へと移住する事が決まり、新たに村人として加わったのだ。
そして他の家族が鶯族自慢の美声の歌声で、風呂屋・松乃の半地下にある劇場ホールでケットシー達と仲良く働くなか。
歌が苦手な春比古と桜彦の2人は、愛満の薦めで食べ歩きや持ち帰りが出来る『桜焼き屋』をやる事になったのだ。
◇◇◇◇◇
「………と使い方の説明はこんな所だっぺ。どうだっぺ?解んねぇ所はあったぺか?」
春比古と桜彦の2人に焼き型の説明をしていた喜多丸が問いかける。
「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます。
それに喜多丸さんお手製の説明書も有りますので、何とかなりそうです。ね、桜彦。」
「うん。喜多丸さんの説明もバッチリ書き写したし、説明書も有るから大丈夫だと思うよ。」
「そうだっぺか!それは良かったっぺ。
ならワシは店に帰るだっへが、何か解んねぇ事があっだら、いつでも店に来てくれだっぺ。そんじゃぁな、お前達帰るだっぺよ。」
タリサやマヤラ、愛之助達3人と楽しそうに話している息子達2人に声をかける。
「おっ!帰るだっぺか。そんじゃ、またな!」
「タリサもマヤラ、愛之助も、また家に遊びに来るだっぺな!母ちゃんや弟達が待ってるだっぺよ!」
「うん!また遊びに行くからね!バイバイ~~♪」
「まちゃね、バイバイ~~♪」
「またでござるよ!」
春比古や桜彦、愛満達にも見送られながら、喜多丸親子は鍛治屋へと帰って行く。
そうして喜多丸を見送った愛満達は、店内に戻ると新品の桜の焼き型を使って、試作を始めるのであった。
◇◇◇◇◇
そうして初めて焼く『桜焼き』に春比古と桜彦が悪戦苦闘しながら、何度か失敗をしながらも、なんとか綺麗に焼けるようになり。愛之助達が待ちに待った試食会が始まる。
「うわ~~~~!皮が桜の花と同じ桜色だ、可愛いねぇ!
それに前食べた鯛焼きと違って、皮がモチモチして美味しい♪」
「本当に美味しいでござるね。
モチモチの皮に、中の白餡に刻んだ塩漬けされた桜の葉が練り込まれていて、程よい塩っけと甘味が合わさり美味しいでござるよ♪」
「マヤラのは、にゃかにイチゴチャムとクリームチュウズがはいちゅてて、おいちかったよ♪」
「僕のは中身がカスタードクリームで美味しい事もあるんだけど、桜色の皮のピンク色と中のカスタードクリームの色合いが可愛いくて、女性に人気が出ると思うよ!」
「ワシは白い皮の桜焼きを食べたのじゃが、中にハムや玉子が入っておって旨かったのじゃ。」
愛満が見本で作ったり、春比古や桜彦達が作った沢山の何種類も有る。甘味系や惣菜系の桜焼きを食べては、皆で味や見た目などの感想を言い合い。
それを春比古や桜彦がノートに書き写しながら、お店に出す商品を決めるなど話し合いながら試食会は順調に進んでいく。
そして、試食会で残ってしまった沢山の桜焼きを前に愛満が
「そうだ!こんなにいっぱい桜焼きあるんだから、後で喜多丸さん家族に持っていってあげようよ。」
提案すると春比古や桜彦の2人も何処か誇らしさや嬉しさが入り交じった表情で
「なら陽翠と翼沙、結翔にも持って行ってあげても良い?」
「それにお母さんや家族の皆、一緒に働いているケットシーの皆にも、持って行ってあげようよ!」
「あっ、それナイスアイデアだね!喜多丸おじちゃん達も喜ぶし、春比古兄ちゃんや桜彦兄ちゃんの家族の皆やケットシーの皆も喜ぶだろうね♪」
「みんにゃよろこぶにぇ♪」
「本当じゃのう!3人とも良い考えなのじゃ!」
「本当にナイスアイデアでござるよ。
それから、それなら緑香達や白梅園の子供達へも持って行ってあげても良いでござるか?」
可愛らしい桜の絵や鶯の絵が描かれた『桜焼き屋』用に作られた持ち帰り用の箱へと『桜焼き』を詰めていく。
(ちなみに作りたてのまま状態を保てるようにと、愛満作の魔法のケースに入れていたため、『桜焼き』は今だに熱々である。)
◇◇◇◇◇
こうして朝倉村に鶯族の家族や鶯族の春比古と桜彦が営む事になる桜の花の形をした『桜焼き屋』が、朝倉村の一員へと仲間入りするのであった。




