野菜天と大吉村の三兄弟
「真磯兄ちゃん、出帆兄ちゃん。ここが克海兄ちゃんが言ってた朝倉村なの?」
「そうだよ、珠海。ここが朝倉村だよ。」
「そうそう、ここが俺達が新しく生活する朝倉村だぞ、珠海。」
パンパンに荷物の詰まったリュックや手荷物を持った男性2人とタリサぐらいの男の子の3人が話し。
克海が朝倉村に移住するにあたり、話をつけてくれた愛満に会いに万次郎茶屋を目指して歩いていた。
◇◇◇◇◇
一方、その頃万次郎茶屋では愛之助達が、新しく村にやって来る真磯達の訪れを今か今かと待っていた。
「愛満、4月は出会いの季節と言うでござるが、3日前の丈山の移住からそれほど日をおかずに新しい村人がやって来るとは、めでたい事が続くでござるね!」
「本当だね。村人が増える事は本当に良いことだよね。
しかもそのうちの1人がタリサと同い年と言うから、タリサもマヤラも楽しみだね。」
「うん、楽しみ!僕その子と友達になるんだ。それで村の事いっぱい教えてあげるの!」
「マヤラも!マヤラもおしゅえてあげりゅの。」
同い年の子供が移住して来ると言う事で、タリサは新しい友達が増えると朝から大喜びである。
そんなタリサやマヤラの言葉に、愛満は優しく微笑みながら
「本当に!タリサもマヤラもありがとう。
きっとその子も住み慣れた場所から離れて、不安や心細いと思うから、みんなで仲良くしてあげてね。」
「うん♪」
「あい♪」
「拙者も知っている事いろいろ教えたあげるでござるし!宝物の苺畑にも案内してあげるでござるよ!」
愛満達が仲良く話していると、茶屋の扉の来店を知らせるベルが鳴り。
チリーン♪チリーン♪
「あのーこんにちわ。克海さんの紹介で大吉村からやって来た真磯と言うものですが、愛満さんはいらしゃいますか?」
緊張と不安がまじった表情の真磯達が万次郎茶屋へとやった来る。
そんな真磯達を愛満や愛之助達は暖かく出迎え、茶屋内へと招き入れる。
「はじめまして、僕が愛満になります。
話は克海からちゃーんと聞いてるから、安心して大丈夫だよ。
真磯さんと出帆さん、珠海君の3兄弟だよね。」
「はい、自分が長男の真磯になります。隣にいるのが弟の出帆と珠海です。
それからコレが、克海兄ちゃんに話してた魚やイカのすり身になるんですが………本当にコレで店なんか開けるんでしょうか?」
愛満と話している真磯が、克海から譲り受けた魔法袋に入れて村から持って来た『魚やイカのすり身』を袋から取り出す。
すると真磯の隣の席に座っている出帆も
「本当に『すり身』なんか買いに来るお客さんいるんすか?
村じゃ焼くか汁物に入れて食うだけで、たいした人気はないんすけど…………。」
ますます不安や緊張で表情を強ばらせる2人に、少しでも緊張や不安が解れるようにと愛満は優しく微笑みかけ。
「そっか、大吉村では毎日新鮮な魚介類が食べ放題だから、すり身はそんなに人気がでないのかなぁ。
けど安心して!今から作るすり身を使った料理は、食べごたえあって、兎族のシャルさん達が作るお酒のおつまみにもおかずにも合うから、きっと朝倉村の皆にも冒険者の人達にも人気が出るはずだよ。
それに3人の住む家とすり身を使った『練り物屋』さんも、すでに建築して完成してるから、安心して大丈夫だよ。」
真磯と出帆に力説する愛満は、さっそく2人がこれから売り出す予定の練り物を使った天ぷらなどを作る為、茶屋の台所へと移動するのであった。
◇◇◇◇◇
「そうそう、野菜天に入れるゴボウは、タワシで泥を落とし『ささがき』にしてから、しばらく酢水につけ、アクをぬいておくんだよ。
さすが真磯、バッチリじゃん!
じゃ次は、同じ野菜天に入れる新玉ねぎと人参、絹さやを切ろうか?」
お互いの名前を呼び捨てに呼べるほど愛満や真磯達は打ち解け。和気あいあいと天ぷらを作っていく。
「愛満、イカ天用と玉葱天用の新玉ねぎのみじん切り終わったぜ。次は何をしたらいいんだ?」
「えっ!もう新玉ねぎのみじん切り終わったの?出帆早いね!
そうだね~、なら次は椎茸天用の椎茸の軸を切ってもらおうかな。」
「おう!任せろよ!椎茸は水洗いじゃなく、布巾で汚れを取るんだったな!」
出帆が椎茸の下拵えに取り掛かるなか、愛満も
「じゃあ、その間に僕はヒジキとキクラゲを戻して、長芋の皮を剥いておくかなぁ!」
愛満指導もと真磯と出帆の3人は、様々な種類の天ぷらを作っていく。
◇◇◇◇◇
この大吉村からやって来た真磯と出帆、珠海の3兄弟、兄弟と言っても血は繋がっておらず。
愛満の力で全滅した山賊達の被害者で、親兄妹を山賊達に殺され。
命からがら盗賊から逃げたり、家族から荷馬車や森に隠され、運良く助かった者達になり。
たまたま愛満達の村が出来る前、山を越えて商売に行ったさい、大吉村の者に発見され。村へ連れて帰り、村に一軒だけある孤児院で育った者達になる。
孤児院が出来た理由は、愛満がこちらの世界に来る前までは、幾人かの真磯達のように家族や兄妹が山賊の被害にあい。
運良く助かる子供がいたので、大吉村の村人達は使ってない一軒家を孤児院に作り替え。
村の子供好きで育児経験が有り、子供が成人し、手を離れた者達が世話していた。
(心優しい大吉村の村人達は、本当は山賊の被害にあい、傷ついた子供達を引き取り、一緒に暮らし。
育ててあげたいのだが大吉村の村人を見て、驚き泣き出す子供も時にはいて、そのため空き家を作り替え孤児院にした。)
そうして真磯達3人は、その孤児院の最後の子供達になり。
真磯が今年成人し、出帆も来年成人するため、この先の事や珠海の事を悩んでいたら、心配した克海が声をかけてくれ。
更には真磯達の悩みを聞いた克海が愛満へと相談してくれ。克海と愛満がいろいろ話し合った結果。
大吉村で見向きもされず、人気の無いすり身を使って、海が遠く魚介類を気軽に食べる事が出来ない朝倉村で、魚やイカを使った『すり身』を加工したお店をやる事を思い付いたのだ。
◇◇◇◇◇
そしてその後、調理を終えた愛満達はお皿いっぱいに乗った揚げたて熱々の天ぷらを持ち。腹ペコ達が待つ茶屋店内で『天ぷら』の試食会を始める。
「美味し~い!兄ちゃん、本当にコレあのすり身?美味しいすぎるよ!」
真磯と出帆の弟の珠海が、兄達が作ったすり身の天ぷらを一口食べ。あまりの美味しさに、本当にすり身を使った料理なのかと驚き、疑いながら『ジャコ天』を食べ進めていく。
すると様々な種類の天ぷらを試食していたタリサ達も、お気に入りの天ぷらを見つけたようで、口々に気に入った天ぷらの感想を話していく。
「本当に美味しいね。僕は『コーン天』と『コーンチーズ天』が好き♪
コーンの粒々感と甘味があって美味しかった。それにチーズ入りの方もコーンだけのコーン天と違って、チーズのコクがプラスされて美味しかったよ。」
「マヤラもコーンてん、ちゅき♪」
「拙者は『蓮根天』と『椎茸天』が美味しかったでござるよ!
薄く切った蓮根ですり身をくるんであって、中のすり身にも歯ごたえ感じる蓮根が混ぜこまれていたでござる。
椎茸天の方は、青海苔が練り込んであるすり身が、椎茸に詰め込まれていて、食べごたえがあり美味しかったでござる。」
「ワシは『イカ天』が旨かったのじゃ!
イカのすり身のほのかな甘さの中に、プリプリした歯ごたえとブラックペッパーのピリリとした香りと風味がして、酒と一緒に食べたい1品なのじゃ。」
「俺は『野菜天』が旨かったぜ。
ゴボウや人参、玉葱、絹さやが具だくさんに入っていて、食べごたえ十分の旨さだと思うぜ。」
「本当に野菜天美味しいですね。そのままでも美味しいですが、生姜醤油やカラシ醤油をつけて食べるとまた違った美味しさを味わえますね。」
各自がお気に入りの天ぷらを見つけながら試食会は、楽しげに進んでいく。
◇◇◇◇◇
こうして大吉村から移住して来た真磯と出帆、珠海の3兄弟は、朝倉村の一員へと仲間入りして、魚やイカのすり身をつかった様々な種類の天ぷらを販売する『練り物屋』が開店するのであった。




