和菓子『かりんとう饅頭』と竹細工職人の丈山
「ほぉ~。この村の竹林は立派な竹が育ってますね。
けれど少し竹同士が密集し過ぎていて、これは良くありませんね。
……………うんうん、しかし土の状態は良いのでこれからしっかりと手入れさえしていけば、ますます立派な竹が育つことでしょう。楽しみです。」
亀族の山背の友人で同じ亀族の丈山は、朝倉村にある竹林の中を歩き回りながら、竹一本一本の成長具合などを確かめていく。
◇◇◇◇◇
一方、その頃愛満や山背達がいる万次郎茶屋では、山背の友人の丈山が万次郎茶屋に来るのを、今か今かと楽しみに待ちわびていた。
「丈山さん、まだ来ないね。」
「来ないでござるね。道に迷ってるのではござらぬか?
丈山殿にとって土地勘が無い村でござるから、心配でござるよ。」
「にゃかにゃかこにゃいね。マヤラ、ちんぱい。」
「本当じゃのう~、何をしているのじゃ。このままでは約束の時間を過ぎてしまうぞ。…………もしや!丈山の奴、先に竹林に行ったのではなかろうか!?」
茶屋前の道が見渡せる窓に張り付き、愛之助達は約束の時間5分前になっても訪れない丈山をしだいに心配しだした。
◇◇◇◇◇
愛之助達が心配する丈山が、そもそも朝倉村に移住する事になった訳は、朝倉村にある竹林を手入れする者がいなかった事が原因になる。
実は少し前に愛満達が竹林で竹の子掘りをした後、竹の子の美味しさや楽しさに来年も竹の子掘りをしたいとタリサ達と話していた所。
ふいに愛満の記憶の中で、竹林は人の手で管理しなくては竹が生え放題になってしまい、竹の成長にも悪いと誰かから聞いた記憶を思い出し。
美味しい竹の子のために、誰か竹林の手入れをしてくれる人はいないかと探していたのだ。
すると話を聞いた山背が、自分の故郷にも竹のような植物が生えており。
その竹を手入れしながら、竹を使って生活雑貨等を作る一族の友人がいて、その友人に朝倉村で竹林の世話をしてくれないかと聞いてみようかと言ってくれる。
そしてその後、トントン拍子で山背がその友人に手紙を送ってくれて、その友人こと丈山からも良い返事を貰え。
朝倉村に移住してくれる事になり、今日の日を迎えたのだ。
◇◇◇◇
そうして愛之助達が首を長くして丈山の訪れを待っていた所、約束の時間1分前に念願の丈山がやっと万次郎茶屋にやって来る。
「山背、久しぶりですね。」
「丈山、久しぶりじゃのう!しかしお主、茶屋に来る前に竹林に行ってきたじゃろう。」
二足歩行の小柄な陸亀が久しぶりの再開に喜びながら、山背が約束の時間ないではあるが、来るのが遅かった丈山にチクリと小言を言う。
「丈山さん、はじめまして!僕、朝倉村に住む兎族のタリサだよ。隣にいるのが弟のマヤラ。仲良くしてね♪」
「ぼくマヤラ!にゃかよくちてくだしゃい。」
「丈山さん、はじめましてでござるよ。拙者、名を愛之助ともうすでござる。
奥にいるのが拙者の兄で、ここ朝倉村の村長兼万次郎茶屋の主人 愛満でござるよ。よろしくでござる!」
琥珀色の山背と違い、若草色した丈山に興味津々のタリサやマヤラ、愛之助達は、我先に丈山へと挨拶する。
そんなタリサ達3人に山背の小言を華麗にスルーした丈山が
「タリサ君にマヤラ君、愛之助君 はじめまして。
私は亀族の丈山と言います、よろしくお願いしますね。
それから私の事も山背を呼ぶように丈山と呼んでもらってかまいませんよ。」
「良いの!?なら僕もタリサて呼んでね!」
「マヤラもマヤラも!」
「拙者も愛之助と呼んでくだされ!」
丈山の話に愛之助達も自分の事を呼び捨てに読んでほしいと話していた所、山背が丈山に話しかけ。
「それより丈山、この村の竹林の状態はどうであったかのじゃ?良かったか?悪かったのか?」
「あっ、山背!それよりなんてヒドイ!!」
「ひじゅい!」
「そうでござるよ!拙者達が丈山殿と話していたでござろう!」
丈山との話を邪魔されたタリサ達がブーブー山背に文句を言っていたら、台所で作業していた愛満が、お盆いっぱいに何かを乗せて。丈山達が座るテーブル席へと戻って来る。
「はぁ~い!お喋りもそこまでて、みんなお待たせ!
丈山さんが来ると聞いたから、山背が教えてくれた。丈山さんが好きそうな甘いお饅頭と緑茶を持ってきたよ。」
「えっーなになに?なんのお菓子?」
「にゃんのおかち?」
愛満が持ってきた和菓子が何か気になる愛之助やタリサ、マヤラは、あっさり山背から興味を失い。テーブルから身を乗り出しそうになりながら質問する。
「それはね『かりんとう饅頭』だよ!」
「かりんとう饅頭?」
「愛満、かりんとう饅頭とはどんなお饅頭でござるか?」
初めて聞く『かりんとう饅頭』とのお饅頭の名前に愛之助達が不思議そうな顔をする。
そんな愛之助達の質問に、それぞれの前にかりんとう饅頭が乗ったお皿や緑茶を置いてあげながら
「『かりんとう饅頭』はね、そのまま食べても十分美味しい蒸した黒糖饅頭を油でカラッと揚げ。
更に揚げたお饅頭に黒砂糖と水をとろみがつくまで煮詰めた黒糖液にサッと絡めて作るお饅頭なんだよ。
山背から聞いたら丈山さんは、歯ごたえのある食べ物や甘い物が好きだと聞いてね。
前に僕が食べた事のある『かりんとう饅頭』が外はカリカリしていて、中はしっとりとした食感のこし餡のお饅頭だったから、丈山さんが気に入ってくれるんじゃないかと思って作ってみたんだ。」
『かりんとう饅頭』を作った訳や、どんなお饅頭なのかを説明すると、話を聞いていた丈山達が
「ほぉー話を聞いてるだけで美味しそうですね♪では1つ頂きますね。」
「僕も僕も!かりんとう饅頭食べる。愛満お手製の餡子は、こし餡も粒あんもぜ~~~んぶ美味しいもんね♪」
「マヤラもたべりゅ!いたらきま~す♪」
「黒糖液が染みたカリカリのお饅頭でござるか♪
う~~~~ん♪話を聞いてるだけで我慢できないでござるよ!ではでは、『かりんとう饅頭』いただきますでござる♪」
「しかしこのかりんとう饅頭とは不思議な饅頭じゃのう~!
なんの飾り気ないただの茶色い饅頭なのじゃが、黒糖液が染み込んだ饅頭の皮がツヤツヤと光沢を放っておって、実に美味しそうに見えるのじゃ!どれどれ、ワシも1つ頂こうかのう。」
話し『美味しい、美味しい』と、かりんとう饅頭を食べていく。
◇◇◇◇◇
そしてその後の話し合いで、丈山の希望から竹林の入り口に竹製品を販売するお店と作業場、自宅が合わさった、竹林の雰囲気に良く合い。
某時代劇の剣客のご老人が住んでいるような昔ながらの囲炉裏が有り。茅葺き屋根の一軒家を愛満の力を使い建ててあげる。
ちなみにこの家は、愛之助達が自宅(愛満宅)を丈山に案内したさい、愛之助の部屋に無造作に置いてあった。
今一番お気に入りの某剣客老人のDVDパッケージ裏に載ってある茅葺き屋根の家を一目見て、丈山が一目惚れし。
愛満にお願いして、山背達とも話し合い、もう少し現代風に暮らしやすくして再現してもらったのだ。
こうして朝倉村に竹林の手入れと、手入れの関係上切らなければいけない竹を使い。
様々な竹製品を作り販売する、竹細工職人でもある亀族の丈山が村の一員へと仲間入りするのであった。




