「厚焼き玉子海苔サンド」と、京都のお婆ちゃんの味
『歓迎会』翌日、調子にのった愛満がフルーツ風味の甘めのお酒を大量に振る舞った結果。
兎族の多くの大人達に二日酔い患者をだしてしまった事を一人、神妙に大反省している中。
その横では、いつものように万次郎茶屋へと遊びに来ていたタリサ、マヤラ、愛之助達3人が、何やらコソコソと話し込んでおり。
チラチラ愛満の様子を気にしていた愛之助やタリサにお願いされる形で、まだ幼い3才のマヤラが1人、トコトコと愛満の元にやって来て
「ねぇ、よしみちゅ。このむらのにゃまえはあちゃくらむらていうんじゃよね?」
少々解りづらくはあるのだが、愛満達が住んでる(タリサ達兎族やドワーフ族の凱希丸達が住む事になった)場所と言うか、村と言うか、そんなこの場所の名前を聞いてくる。
「………………えっ!?朝倉村?」
「あい!マヤラちゃちのちゅんでるばちょにょにゃまえ!
あちゃくらむらでちょ?」
「…………?????」
との、突然の話に愛満の頭の中が?マークで占拠されるなか。
可愛らしいマヤラの話を満面の笑みで聞いていた愛満は、そこではフッと自分達が住んでいる場所の名前と言うか、村?の名前の事など考えた事もなかったと思い。
そもそも異世界移住の際、始めて降り立った場所が自分が好きな時代劇に出てくる山道に似ていた事から、山道に付き物の茶屋が無いのは寂しいと思い。
ならいっそうの事、自分自身で茶屋をやろうではないかと軽く考え。
不純な動機から神様一族からの力の一つ。お手柄移住カード(言い方は、ドラ○もん風に)から家を出したのが始まりであった訳だし。
茶屋兼自宅にしても、自分がイメージしたこじんまりとした建物では無く。
良く良く考えれば自宅部分等、父親の実家で京都に在る京町屋建物の豪華版になっており。
店舗部分にしても父親の帰省等で家族みんなで京都を訪れた際、京町屋をリノベーションしたカフェや、爺ちゃん、婆ちゃんと3人で旅行した際に訪れた老舗和菓子屋さん等の造りが上手くコラボレーションされた構造になっており。
自宅横の並木道から続く『朝倉神社』にしても、移住前に住んでいた。愛満が生まれ育った故郷の村に在る『神社』の豪華版で…………。
ちなみに何故移住前に住んでいた村の神社だと愛満が解ったかと言うと
異世界の此方へとやって来る前、日頃大好きな祖父母の健康の為。
早寝早起きの朝4時には目が覚める愛満は、同じ早起きの祖父母達と共に、家の付近をお喋りを楽しみながらのんびりと散歩するの事を日課にしており。
その途中、必ず散歩の時に通る。村に1ヵ所だけになる朝倉神社へと、毎日の散歩の途中に必ず立ち寄る事を祖父母共々決めていて
愛満が異世界のこの場所で『朝倉神社』と言っている神社が、そんな祖父母と一緒にお参りしていた神社と規模や豪華絢爛差と言うか、………ハデ差はかなり違うものの。
何処となく村に在った神社の雰囲気や造りが似ていて、そんな事から愛満はアレは村に在った朝倉神社だと答えを導き出したのであった。
他にもタリサやマヤラ達の親兄妹がこの度目出度く勤める事になった。
豪華絢爛でいて、朱色美しい『風呂屋・松乃』にしても、その繊細なタッチや絵と共に数々の大作を生み出す監督さんの事が愛満が好きな事もあり。
昔、良く観ていた『某神隠し少女』が働いていた風呂屋の外見にそっくりで…………。
尚且つ、風呂屋内部の風呂やサウナ、施設、部屋等は、今まで愛満が幼少の頃から祖父母と一緒に旅した温泉や健康ランド、旅館、ホテル等々の足を踏み入れ、体験したり。体験しなくても目にした事がある物ばかりで………………。
更に詳しく話をさせてもらえるならば、『風呂屋・松乃』の部屋や施設等は、『いつか泊まりたいね』や『入ってみたいね』と愛満が祖父母達と話をしていた高級旅館、高級スパ、高級施設が何故かモチーフになっており。
他にも姉がいつか泊まってみたいと常々話していた。とある高級ホテルのパンフレット等で愛満がチラッりと目にした事のある。
大変高級そうな造りや家具がアチラこちらに設備された部屋や、高級マダムが利用してそうな施設等々が『風呂屋・松乃』のアチラとかあそこ辺りに取り入れられた……………………大変謎が残るチートカードであった。
と、そんな事を愛満がツラヅラと思い出しつつ。
改めて村と言うか、自分達が住む場所の名前など考えた事がなかったと思い出し。
後でコチラの世界の情報に詳しい様子のアルフさんや、様々な場所を行商していたドワーフ族の凱希丸さん達に聞いてみようと考える愛満なのであった。
◇◇◇◇◇
その後、悲しいかな。いつものように新規のお客さんの来店は今日も無く。
暇な時間をのほほ~~んと過ごしていたのだが、凱希丸さんから今日は家や作業場を1日でも早く使えるようにする為。
1日かけて家の中を整理する予定なので、昼や夜ご飯を食べに来ず。手持ちの物で簡単に済ませる予定だからと、今朝の朝ご飯の折に教えてもらい。
その場では時間が無く、お弁当等を渡せなかったのだが、やはり自分が、こんな不便な場所へと移住を進めた手前。
また3食おやつ付きの食事を提供するなど約束事を決めた事もあり。
いくら本人からご飯は自分の手持ちの物で簡単に済ませると聞いたとしても、それは心配と共に心苦しく。
何気に真面目で、少々融通の効かないな愛満は、朝ご飯後に準備した。ご飯や汁物のお味噌汁、おかず等をアレもこれもと詰め込んだ。保温が出来る筒状の弁当箱を昼用、夜用にと作り。
更に甘党の凱希丸さんの為にと手作りした和菓子セットをバッチリ準備し。
そんな愛満に感化された愛之助も凱希丸の相棒バタイ用にと、オヤツ用の大きい林檎や人参等を用意して、万次郎茶屋の壁に設置された時計の針を確認しつつ。
良い頃合いの時間になった為。愛満や愛之助、タリサ、マヤラ達4人は、万次郎茶屋の出入口近くにかけられた看板を準備中へとひっくり返し。仲良く凱希丸の自宅兼店舗へと、お弁当を配達するため出発する。
◇◇
「うんうん!タリサもマヤラもその服可愛く良く似合ってるでござるよ。4人共お揃いだから嬉しいでござるよ!」
凱希丸宅へと向かう道中。自身を含めたお揃いの4人の姿に愛之助が嬉しそうにタリサ達へと話し掛ける。
するとそんな愛之助の話にタリサ達も嬉しそうに笑みを浮かべ。何やら即興で作った歌を歌い始め。
「お揃い、お揃い♪嬉しいなぁ~♪嬉しいなぁ~ったら嬉しいなぁ~♪」
「おしょろい!おしょろい!うれちいなぁ~♪うれちいなぁ~ちゃらうれちいなぁ~♪」
「あっ、お揃いの歌でござるか?
良いでござるね。拙者も一緒に歌うでござるよ♪」
愛之助も一緒になり。タリサ作の『お揃い歌』を歌い始めるのであった。
ちなみに愛之助達が喜んでいるお揃いの服はと言うと、凱希丸さん宅へと万次郎茶屋を出発する少し前。
愛満と愛之助からタリサとマヤラ達2人へのプレゼントとして、4人お揃いの色違いでいて、暖かなセーターやスタジャンがプレゼントされ。
嬉しさのあまり愛満や愛之助の周りをピョンピョン跳び跳ね。体全部を使って嬉しさを表すタリサやマヤラの可愛らしいお願いから愛満を含め。皆で服を着替えて、4人お揃い格好になっており。
そして勿論の事。セーターとスタジャンは愛之助が選んだ為。フロント部分には今回小さめなのだが、しっかりと愛之助が大好きなマイ○ロちゃんが刺繍されております。
◇◇◇◇◇
「凱希丸さん~こんにちわ~!愛満で~す!」
「こんちゅわ~!マヤラでしゅよ~!」
凱希丸の家に着いた愛満達は、お店の裏に回り。凱希丸を呼ぶ為に声をかける。
すると少々驚いた様子の凱希丸が家の奥から顔を出し。
「あっ!忙しい所すいません。お昼と夜ご飯要らないって聞いたんですけど、一応お昼用と夜ご飯用のお弁当持って来ました。
後、お疲れのなか甘い物でもと、和菓子セットと黒糖まんじゅうと煎餅も持って来たんで、良かったら食べて下さい。」
愛満が申し訳なさそうに声をかけると
「ありゃ!それは気を使ってもらったみたいで、すまんかったっぺ。愛満も皆もありがとうだっぺよ!
あっ、そうだっぺ!片付けも粗方終わった事だっぺし、良かったらお礼にお茶でも飲んで行ってくれだっぺ。」
気を使ったはずが、逆に何やら気を使わせたみたいで、凱希丸が愛満達にお礼の言葉を言う中。
本当はまだ片付けも終わってないだろうに上がってお茶を飲んでいってくれと家の中に招かれ。
初めは忙しいなか申し訳ないと断った愛満達だったが、凱希丸からの再三の誘いに、あまり断るのも悪いかなと思い。
お茶の誘いを受けつつも、愛満は忙しいなか手を煩らわせてしまう形になり。申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら凱希丸家に足を踏み入れた。
そして凱希丸案内の元。凱希丸宅の台所兼食堂に招かれた愛満達4人は、荷馬車からの生活用品の荷物が下ろされ。
だいぶ生活感が出た。暖かみのある部屋を興味深げに少々キョロキョロと見渡しつつ。
部屋の一角に在る。火魔法がかかった堀り炬燵に足を入れ。4人が温かな掘り炬燵に一息付きながら暖をとっていた所。
程なくして、白い湯気上がるほうじ茶等を持った凱希丸が堀り炬燵に戻って来て
5人は暖かいほうじ茶を飲みながら凱希丸がお茶請けにと持って来てくれた。朝倉村に自生しているデコポンを食べ。何気ない世間話を話し出した。
するとまた何かの拍子に、住んでいる村の名前の話題が出てきた事から愛満が
「そう言えば凱希丸さん。この村の名前知ってますか?」
愛満達が住む場所の名前を知っているのかと質問すると
「知ってるだっぺよ!昨日アルフさんから教えてもらったっぺ。
確か『朝倉村』って言うんだっぺな。
それに領主になる愛満の名前からつけたってアルフさんが言ってたっぺよ。
しかしだっぺよ。今まで王都や町や村なんかを色んな所を売り歩いて来ただっぺけど、ココの村の『朝倉村』と言う程オシャレで美しい村の名前は聞いた事も見た事も無いだっぺよ!
何より1番は、この愛満と愛之助の故郷の漢字という文字は本当に綺麗でカッコ良く、美しさを兼ね備えた素晴らしい字だっぺなぁ!
本当、他じゃあ見た事美しい字だっぺ!」
凱希丸大納得の返事が帰ってくるなか。
気づかぬうちにどうやらタリサとマヤラの父親であるアルフから村の名前の噂が広がり。
知らず知らずのうちに決まっていた村の名前朝倉村が、『朝倉村』から覆る事はないと確信した愛満は力無く笑うしかなったのであった。
そうしてその後もついつい長居をしつつ。凱希丸達と尽きぬ甘味話で熱く語り合っていると
「凱希丸殿、バタイにオヤツの林檎と人参を持って来たでござるが、拙者達があげても良いでござるか?」
「僕も!僕もバタイに林檎あげたい!凱希丸さん、良い?」
「マヤラも!マヤラもバチャイににんにんあげりゅの!おいたん、あげちぇもいい?」
との、愛之助やタリサ、マヤラ達の言葉から帰るタイミングを見出だした愛満は、凱希丸宅をおいとまする事を決め。
4人は忙しい中、わざわざ自分達の相手してくれた凱希丸にお礼の言葉と共に帰りの挨拶をし。
凱希丸の相棒バタイに持って来た。蜜がタップリ詰り、大きく食べごたえある林檎や人参のオヤツをバタイへとプレゼントしてから、バタイが満足するまでブラッシングやマッサージ等をしてあげ。仲良く万次郎茶屋へと帰った。
◇◇
そうして万次郎茶屋への帰り道。突然降り始めた小雪に驚きながらも無邪気に雪を喜ぶ愛之助やタリサ、マヤラ達に癒されつつ。
のんびりと茶屋へ帰り着いた4人は、冷えた体を暖めるため愛之助が淹れてくれた蜂蜜柚子茶に舌鼓うち。
また、まったりとした時間を過ごしていると昼の時間が近付いてきた事もあり。
この後『お腹空いた、お腹空いた』と、きっと騒ぎ始めるであろう。腹ペコ怪人へと変貌する3人組を含め。
自分達のお昼ご飯を作る為。台所へと移動した愛満は、朝のマヤラとの話でフッと思い出した。
愛満が大好きなアル人物が愛満達の為にと、毎回帰省するたびに作ってくれていた。とある好物の料理を久しぶりに作る事を決め。テキパキと準備し始める。
◇◇◇
と、愛満が大好きなアル人物とは誰かと言うと、1年に1回は必ず家族で遊びに帰っている。父親の実家が在る京都に住む。父方のお婆ちゃんになり。
京都の実家には父親の両親を含め。父親の兄弟になる息子夫婦、その子供達。お婆ちゃん達にとっては孫になる。
今で言う3世代大家族で仲良く元気に暮らしている。父親の母親になる。
また愛満の母方の婆ちゃんもさることながら、父方の京都のお婆ちゃんもとにかく元気で、またパワフルでいて良く働く働き者で、お爺ちゃんが営んでいる小料理屋の女将として毎日着物をシャンと着こなし。
従業員にテキパキ指示を出しながらも四季折々にあわせてお店や個室の花を生け。掛け軸を変えたりと細かな所に目を配り。従業員達に指示を出しつつも、自身はその倍働き。
働き者で厳しくもありながらもサッパリした性格の優しい女性になり。
1年に1回のほんの短かな間しか会えない愛満や2人の兄や姉、愛満達の母には何故かことのほか優しく。
母方の祖母事、婆ちゃんに続き。愛満が大好きな京都のお婆ちゃんになるのだ。
そしてそんなお婆ちゃんが愛満達がお腹空いたと言うといつも作ってくれていたのが、その日の朝に近所のパン屋でわざわざ買って来てくれた。ふあふあで、柔らかい食パン二枚の片方にマーガリンを塗り。
もう片方にはマヨネーズを気持ち厚めに塗って、マーガリンを塗った食パンの上に『味付き刻み海苔』を均一にコン盛りと乗せ。
その上に砂糖味の甘い『厚焼き玉子』を乗せてから、もう一枚のマヨネーズを塗った食パンで挟んだ『厚焼き玉子海苔サンドイッチ』になるのだ。
この『厚焼き玉子海苔サンドイッチ』。ふあふあの食パンの柔らかさと共に、味付き刻み海苔が熱々の厚焼き玉子を乗せられ。少ししんなりした箇所の海苔の食感や、程好いパリパリ感を残した味付き刻み海苔の2種類の食感が楽しめ。
また甘い砂糖味の厚焼き玉子と食パンに塗ったマーガリンが口の中で合わさった時の甘じょっぱさ、海苔の風味、マヨネーズがもたらす、まろやかさが一体感になり。
その全てが口の中で合わさる時の美味しさに愛満は、幼いながらにいつも2~3人前はペロリと食べ終え。
大食らいな母や姉達等は、愛満を越える5~6人前を平気でペロリと食べていて
そんな気持ちいいくらいの食欲に『厚焼き玉子海苔サンドイッチ』を作ってくれていた祖母は嬉しそうに笑みを浮かべ。
まだまだお代わりはあるから、遠慮せずにもっと食べなさいと喜んでいて………………。
そんな懐かしい祖母の笑みや喋り方、…記憶等を思い出した愛満は、どこか胸が一杯になる中。
お婆ちゃん直伝の『厚焼き玉子海苔サンドイッチ』をお皿いっぱいに作り終え。
「お~~い!お昼ご飯出来たよ~!誰か運ぶの手伝って~!」
客が無人の茶屋内で、簡単に編み物が出来る玩具を愛之助からプレゼントされて以来。
毎日楽しそうに玩具のハンドルをクルクル回し。戦争で沢山の物を失い。それでもたくましく生きる家族や凱希丸の為。
これからどんどん寒くなる中、皆が体調を崩さないようにプレゼントするんだとヤル気満々の様子で意気込み。
家族みんなそれぞれへのマフラーの色合いやサイズ等を相談しつつ。日々せっせとマフラーを編んでいる愛之助達3人に声を掛けた所。
編み物で腕や頭を使い。お腹がペコペコのタリサやマヤラが素早く走り寄って来て
「うわー。美味しそう!今日のお昼は何に?」
「いいにおいがちゅるにぇ!」
「今日のお昼ご飯はね。『厚焼き玉子海苔サンド』と『野菜碗』と『ベーコンと温野菜のサラダ』になるよ。
それに今日はタリサやマヤラ、愛之助達がお手伝い頑張ってくれたからね。3人が大好きな苺を使った『苺ムース』がデザートに付きます!」
「えっ、苺!本当に!?ヤッター!」
「いちごむーちゅ たのちみ!」
「苺ムースがデザートに付くでござるか!?楽しみでござるよ!」
嬉しそうにその場で小さくジャンプするタリサやマヤラ達と共に1人編み物の片付けをしていて遅れてやって来た。苺好きの愛之助が喜ぶ中。
外は小雪降る寒空の下。懐かしい思い出と共に心も体もポカポカになった愛満の一日は、こうして過ぎていくのであった。