「天とじ丼」と、白猿族の伯楽
新たに朝倉村の村人に加わった亮平達や子供達が新しい生活や学園にも慣れた様子に愛満達がひと安心していた、とある日の事。
万次郎茶屋では、最近村に移住してきた猿族の篤森が、どこか思いつめた顔をして愛満を訪ねて来ていた。
◇◇◇◇◇
「…………はぁ~~~~~~~~~~~~。」
何時にない長い溜め息を吐く。仲の良い友達でもある篤森の思いつめた様子に、愛満は心配して声をかける。
(※ちなみに気をきかせてくれた愛之助は、タリサとマヤラ達を連れ。小上がりの座敷にて3人で勉強を始めています。)
「篤森、大丈夫?どうかしたの、そんな長い溜め息吐いちゃって、何か心配事?
あっ、それとも桃花さんの事?それか五つ子ちゃん達の事とか?う~~~ん、後はお店の事とか?」
いつにない篤森の様子を心配した愛満は、矢継ぎ早に質問するのだが、何やら渋い顔をした篤森は、なかなか口を開いてくれず。
やっとの事、その重い口を開いたかと思うと
「…………いやー、あの、…………その、……………えっとさぁ~……………」
何度も言葉を濁らせながら
「…………こ、この村にさぁ、白猿族のお方が住んでいるよね?」
「白猿族?……………あぁ!朝倉学園に勤めてくださってる。コックの半神族の伯楽さんね。
その伯楽さんがどうかしたの?」
白猿族など言われたので一瞬意味が解らなかった愛満であったが、朝倉学園の食堂に勤める。朝倉村ただ1人の白猿族の伯楽の事を思い出し。何かあったのかと篤森に問いかける。
「は、半神族!!あの方、白猿族だけじゃなくて半神族でもあるの?」
「うん、そうだよ。それがどうかしたの?」
「えっ!愛満、半神族や白猿族のこと知らないの?」
「白猿族?半神族の事なら知ってるけど、白猿族の事は知らないなぁ。」
愛満がリーフやタイタン達から聞いた半神族の事を知っていても、こちらの世界にはまだまだ疎い愛満は、伯楽の種族になる白猿族の事は知らないと答えた所。
篤森は大変驚いた様子であったが、少し落ち着きを取り戻し。白猿族の事を教えてくれる。
「白猿族の方々は、俺達猿族とは体格からしてまったく違っていてね。
俺達猿族が高い者でも、せいぜい170cmいくかいかないかの所。
白猿族の方々は2メートルは軽く越えた高い身長と共に男女とも大柄でいて、筋肉質な立派な体格を持つ方々ばかりなんだ。
更には知能も高くて、力も強く。見た目も容姿端麗な方々ばかりで、俺達ただの猿族にしてみたら、全てを兼ね備えた遥か雲の上の方々なんだよ。
それに一番の違いは魔法に秀でている方がほとんどで、一方俺達猿族は手先は器用なんだけど、体格も力も白猿族の方々と比べたらかなり劣っててさぁ。
普通の人族とも変わらないくらいの細身の平凡な体格と共に、何処にでも居るような顔立ちも相まって、魔法も生活魔法が使えるだけの戦闘にむかない。まさにザ・平凡な種族になるんだよ。」
「えっ、見た目からしてそこまで違う!?」
「そう、見た目からして全然違うの!
だから俺達猿族にとって白猿族の方々は崇拝するような。
う~~~んと、……確か愛之助が教えてくれた。愛満達の所で言う所の追っかけやファンクラブのある人気のアイドルグループって言うの?そんな感じのスゴい方々にあたるんだよ。
本当、一緒の空間にいるだけで無意識に緊張してしまうような、本当にスゴい方々になるんだよ。
けど、…………………………………そんな白猿族のお方が、何故かある日うちのお店にふらっと来店して来て以来。
本当に何故か解んないんだけど毎日のように店にやって来ては、カウンター内の厨房で天婦羅を揚げている俺の手元をずっと見てくるんだよ!
本当、訳解んないし!毎日気が気じゃないよ!」
ここ最近のプレッシャーや緊張感からなのか、いつもの穏やかな性格の篤森と違う様子で涙をポロポロ流し。
「俺……そんな毎日で胃が痛くて痛くて、ご飯も満足に食えなくなってきてさぁ。
…………産まれて間もない赤ん坊や菜緒弥の子育てを始め。油屋の仕事に忙しい妹夫婦に相談するのも可哀想と言うか、酷だし。
心配もかけたくないから、ずっと我慢してきたんだけど……………1人で考えても考えても原因や、どうすれば良いか解んないし、解決の糸口も掴めなくて………………。
恥を忍んで愛満に相談しに来たんだ。なぁ愛満、俺なにか白猿族のお方の気にさわるような事しちゃったのかなぁ?」
止まらぬ涙の中。顔色の悪い篤森が愛満へと相談する。
そんな篤森のあまりの顔色の悪さに、愛満は倒れてしまうんじゃないかと心配になり。
自分に任せるよう安心させ、お店も篤森の具合が良くなるまでお休みするようにも進め。
また篤森を1人にするのが心配な為。しばらくの間、愛満宅で療養するようにも提案して、迷惑をかけるからと渋る篤森を何とか説得し。愛満宅の客間でと休ませるのであった。
◇◇◇◇◇
それからその足で朝倉学園に向かい。リーフへとアポイントをとりつけ。
篤森の話を内密で相談すると、リーフはすぐさま朝倉学園内の食堂で働くコックの伯楽を部屋へと呼び寄せ。一連の行動の訳を聞いてみた所。
リーフの説明を聞いてひどく驚いた様子の伯楽は、ポツリポツリと篤森の店へ通い始めた訳を話し始めてくれ。
伯楽の話では、ある日フラりと立ち寄った店で初めて食べた『天丼』なる丼料理の旨さにいたく感動し。
そんな『天丼』の調理法が知りたくなった伯楽は、店に足しげく通う事になり。
店へと通う内に篤森が作る見た事もない揚げ物料理なる『天婦羅』や、楽しそうに働く姿に料理人魂が刺激され。
気が付けば、ついつい連日のようにお店へと足を運んでいたらしいとの事。
なのでそこに篤森に対しての悪意はまったく無く。逆に好意すら持っているそうで。
リーフの隣で伯楽の話や表情をつぶさに観察していた愛満は、伯楽の話に嘘偽りはなく。
篤森に対する嫌がらせでも無い事にひと安心していると、篤森に悪い事をしてしまったと反省しきりの伯楽が、篤森に一言謝りたいと頭を下げ。篤森に会わせてくれと何度も願いされる。
結果、そんな伯楽の態度に断るにも断れず押しきられてしまう事になった愛満は、篤森が休む万次郎茶屋へと伯楽を連れて戻る事になり。
するとたまたま帰って来た時間がお昼と言う事もあり。
本日のお昼ご飯にと愛満が作り。出来立てのまま時が止まる魔法のかかった箱と言うか、何やら美樹がイタズラ心の見え隠れする笑みを浮かべ。プレゼントしてくれた出前箱に入れておいた。
昨日の篤森の店の天婦羅の余りを使い。甘めの汁で軽く煮て、溶き卵でとじた『天とじ丼』を自宅茶の間で食べていた愛之助達や、眠る前に愛満から治療の魔法を受け。少し顔色が良くなり。お粥を食べていた篤森が出迎えてくれたのだが、愛満の後から自宅へと入ってきた伯楽に気づいた篤森が驚き、緊張してあたふたとしだしてしまい。
そんな慌てふためく篤森を何とか落ち着かせつつ。
愛満は伯楽を万次郎茶屋へと連れて来た訳や、伯楽が連日篤森のお店に訪れていた訳、篤森に対して悪意等が無い事等を必死に説明し。
まだまだ少し緊張して挙動不審ではあったものの。篤森が普段の落ち着きを少しずつ取り戻し始め。
その後、何とか伯楽からの篤森への謝罪したいとの願いが叶い。
また、これ以上愛満に迷惑はかけられないからとの篤森の提案で、愛満家客室でと、篤森と伯楽の2人が話していたのだが。
途中、伯楽の話を聞いているのかいないのか、緊張がピークに達してしまった篤森が顔を真っ赤にさせ意識を無くしてしまったり。
それに気付いた愛満達が慌てて篤森を介抱したりと、ちょっとしたハプニングがあったものの。
何とか伯楽と篤森の2人は和解し。タメ口が話せる友達になり。
篤森との話し合いの間、ずっと愛之助達が食べていた『天とじ丼』を食べてみたいと伯楽からの願いを受け。
新たに作った『天とじ丼』を皆で食べながら、篤森の悩みは幕を閉じたのであった。
◇◇◇◇◇
ちなみにその後、愛満の作った『天とじ丼』も篤森の店へと新メニューに仲間入りする事になり。
少々お騒がせした伯楽と篤森の2人も、料理好きと言う共通点も有り。良く2人で話していたり、出かける姿を村のあちらこちらで見かけるようになり。
仲良くなった様子の2人は、伯楽が学園の食堂を辞め。
お客さんが増え、繁盛して忙しくなった篤森のお店を伯楽が手伝い出したりと、いつのまにやら店の一員に加わり。
働き手が増えた事でお店に新しい風が入り。新メニューも増え行き。
更にお客さんも増えたりと、大人気の『天婦羅』や『天丼』が食べられる篤森のお店は今日もまた繁盛しており。
伯楽と篤森の2人が仲良くお店を切り盛りするのであった。




