お寿司と戦争と義足
酷い戦争だった。自分は争い事が嫌いで、戦争なんか参加したくなかった。
けれど村々に割り触れられた兵士を送り出さねば、非道な領主や王族が、村の皆や家族にどんな酷いおこないをするか目に見えて解っていたから、兵士として参加せざる得なかった。
だから必死に戦った。誰がみても負け戦と解っていても。
毎日、心が少しづつ歪な音をたてて壊れていくのに気付いても、故郷に残した両親や幼い妹達、村の皆の為に必死で戦った。
その為に体の右側半分の右手や右足が使い物にならなくなったとしても、必死で歯を食いしばり戦った。
そして、使い物にならなくなった男は、戦地からお荷物になると捨てられた。
これでもう、無駄に他人を傷つけて戦わなくても良いのかと安堵しながら、戦争中毎日帰りたかった両親や妹達が待つ大好きな故郷に帰ったのに、帰ったのに……………………………そこには何も無くなっていた。
見慣れた故郷の風景も、住み慣れた我が家も
『何をしても、こんな馬鹿げた戦争の為に死ぬんじゃないぞ。生きてさえいれば、きっと幸せが訪れるはずだから』と自分を送り出してくれ。最後の最後まで、この無駄な戦争に疑問を持っていた厳しくも優しかった父親も、いつも笑っていた母親も
まだまだ甘ったれで、舌ったらずに自分の名前を呼んでは、後をついて回った可愛い妹達も、優しく見守ってくれていた村の皆も何もかも無くなっていた。
そこにあるのは、ただの焼け野原が広がっているだけだった。
はじめ男は、過酷な戦争で、自身の記憶があやふやになり。村の場所を間違えたのかと必死で考え歩きまわった。
だが、どんなに記憶をよみがえらしても間違えではなかった。
けれど男は、その真実が信じられず。どんな情報でもいいからと、義足になった片足で必死に探し歩き。
ある日出会った1人の旅の商人が教えてくれた。
あの村は、異世界から勇者を喚ぶために村人全てを生け贄として跡形もなく燃やされたらしい。
しかも、男の故郷を焼き払いおこなわれた勇者を喚ぶ1度目の召喚は失敗してしまい。
今は無き王都の城でおこなわれた二度目の召喚で、やっと異世界から勇者を喚びよせられたらしいのだが、今度は何者かからの妨害を受け。
国のどこかに呼び寄せられたのは確実らしいのだが、騎士団を使った大規模な捜索でも見付けられず。結局、その勇者にも逃げられたらしい。
そして噂通りに戦争にも負けた王族は、各地に逃げ延びた王族の者達や、戦争に積極的だった貴族の者達一人残らず探し出され。
今回の戦争の責任をとり。一族皆、極刑の後に処刑されたらしい。
◇◇◇◇◇
その日から男は、生きる意味も希望も無くした。
ただただただ、父親の最後の言葉の『何をしても死ぬんじゃないぞ。』を守り。死なない為に同じ毎日を過ごすだけであった。
そんな毎日をおくる男が、ある日1人の人物と出会った。
その人物とは、仕事がらみで仕方なくパーティーを組まなくては行けなくなり。
初めは久しぶりの他人との生活に嫌悪感がいっぱいの男であったが、共に命を懸けた危険な長期の依頼をこなすうちに、徐々に友情が芽生え。
確かな信頼が芽生えたある日の野宿の晩に、何かの拍子にポツリポツリと互いの身の上話をする。
そしてその人物は、失敗したと思われていた自分の家族や故郷が犠牲になりおこなわれた召喚で、この世界に無理矢理連れてこられた人であった。
ある日突然、人影もなく、誰もいない。見た事もない山に気付けば1人たたずんでいて、はじめは訳が解らずパニックになりかけ。驚愕しながらも何とか落ち着き。
趣味でサバイバル知識というものを少々持っていた事や、何故だが近くに様々な食料も含めたサバイバルグッズ一式の入ったリュックサックとやらが落ちてあった事で、何度も身の危険を感じ、怪我をおいながらも、日々何とか生き延び。
人がいる街を目指して、やっとの思いで山を降り。
訳も解らぬまま、ギルドマスターの進められるままに冒険者を生業にして今日まで生きてきたらしい。
話を聞いていて男は、何とも表現しがたい感情が身体中を駆け巡った。
目の前にいるその人物1人を召喚する為だけに、自分の家族や村の皆は無惨にも殺され。自分の生まれ育った大切な故郷は焼き払われたのか…………この、たった1人の為だけに……………………。
そう思い始めると、あの日からなんにも感じなくなっていた空っぽになったはずの心が、やり場のない怒りでグツグツと煮えたぎってくる。
そう、今にも爆発しそうなマグマのように、まるで体が燃え尽きるかのうに熱く、熱く、熱く燃えたぎる。
…………しかし、男はその人物の傷だらけの手を見て、その人物こと亮平の話を聞き終え。
目の前の亮平もまた、理由も解らず家族や生まれ育った世界から無理矢理引き離され。ひとりぼっちになってしまった。この国の被害者なのだと気付く。
その後、男達はたくさんの事を話し合い。様々な依頼をこなしながら絆を深め。沢山の場所を旅しては、自分達のついの住みかを探していく。
そんなある日、旅の途中に戦争に巻き込まれ自分と同じように片足や片手が無かったり。心に大きな傷をおっていたり。
様々な障害のある傷ついた戦争孤児の子供達や、そんな子供達を一人で養う青年と出会い。交流を深めていく。
そうしていつしか男達は、決して治安が良いとは言えず。ボロボロのアバラ小屋に住みながら身を寄せ合い。
幼いながらに自分が出来る事は、自分達で必死に頑張り。
皆で力を合わせながら、細々とであるが暮らしている子供達や青年の力になりたいと考え始める。
そして、旅の途中で見つけた。戦争で無人になり、誰も住んでいなかった小さな村の一角をギルドに相談のうえ借り受け。
子供達と青年を連れて移り住み。貧しくもあるが、皆で力を合わせ。放棄され荒れ果てた畑を耕し、作物を育てたり。近くの森に狩りに出たりと自給自足の幸せな毎日を送り始める。
しかし、そんなささやかな幸せは長くは続かず。
ある日その周辺を新しく統治することになった領主の使いの者とやらが、突然やって来て。
この辺りを整地し直し、新しい街を造るからと、高圧的で、傲慢な態度で立ち退きを迫られる。
しかし男達は、ちゃんとしたギルドとの契約のもと、この土地を借り受けている事や証明書を見せたりして話したのだが、まったく聞き耳を持ってくれず。
新しい領主の理不尽な要求に腹が立った男達や青年であったが、貴族と争ってもコチラがバカをみる事は解りきっていて。
幼い子供もいるためヘタに逆らい子供達に何かあってはと考え直し。無駄な争いはせずに、また男達と青年、子供達は安全な土地を求めて旅に出ることにするのであった。
◇◇◇◇◇
と、男こと、半神族で人族のキハルが、荷馬車での長旅で体調を崩した子供達、青年のマヒヨ、相棒の亮平の手当てをしてくれた愛満に招かれた茶屋内で自分の話をしている。
「そして、私の故郷が召喚の生け贄に選ばれた本当の理由は、私達の村は半神族の者達を祖先に持つ者達が集められた村だったのです。
先祖に半神族をもつと言っても、何代も前の為にほとんど普通の人達と変わらない者達がほとんどだったのですが
昔から領土を広げたかった傲慢な王族は、半神族の力に目をつけて、半神族には敵わないと半神族を先祖に持つ者達を集めた村を作り。
集めた村の者達を結婚させては、半神族の血が流れる者同士の結婚で産まれた子供が何かのひょうしに半神族の力が強くでないかや先祖帰りが産まれないかと企んでいたのです。
その事を解った大人達が、力がある子供達を監視の役名も兼ねた領主にバレないように必死に守っていたのですが…………それが裏目にでてしまい。
何のやくにもたたないならば召喚の生け贄にちょうどいいと、あのような非道なおこないをしたのです。
…………………………そして私は、家族や村の人達に守ってもらっていた。先祖帰りの1人なのです。」
と苦しそうに話終えたキハルの話を聞き。
悲しみや怒りで涙が止まらない愛満や愛之助、お昼を食べに帰って来ていた美樹。
キハル達を見つけて愛満のもとに案内して来てくれた半神族のタイタンやリーフ達は、キハルになんと声をかけてあげたらいいか解らず。
かけてあげる言葉が見付からないまま、止まらない涙を流していた。
そうしていると、治療やクリーン魔法をかけてもらい座敷で眠っていた亮平が目を覚ます。
初め亮平は、自分達がおかれた状況が解らず。
久しぶりに見る畳等に驚き、軽いパニック状態になりそうになっていたのだが、隣でぐっすり眠る子供達やマヒヨを見て安心して落ち着きを取り戻し。
テーブル席に座り話し合いをしていたキハルに気がつくと、少しふらつく足取りながらも、愛満達のいるテーブル席にやって来る。
そして、キハルから愛満達に助けられた事などを聞き。
愛満達が同じ日本人と言う事等に驚きながらも、涙を流して喜び。自分達を助けてくれた事への感謝の言葉とお礼を言う。
その後、亮平も交えて新たに話し合いをするなか、愛満や同じ被害者の美樹の強いススメもあり。朝倉村に住む事を進められ。
住まい等は、愛満チートで建てるバリアフリーの一軒家や自宅横の畑等を無料で貰える事。
子供達が無料で学校に通え。子供達やキハル用の成長にあわせた義足や義手を無料でプレゼントする事。この先何かあっても治療等も受けられる事等の話を聞き。
手厚い保護の数々に喜びのあまり涙を流し、改めて愛満達に感謝の言葉をのべるのであった。
◇◇◇◇◇
「じゃあ、話もまとまった事ですし。
キハルさん達の朝倉村への移住をお祝いして、亮平さんお手製のお寿司を握って貰って お昼ご飯にしましょうか。
久しぶりのお寿司に僕も楽しみです!」
話し合いの途中に同じ召喚された美樹の話などを聞き。
異世界に連れてこられる前は、寿司職人の板前をしていた亮平が久しぶりに寿司を握りたいと呟いたのを聞いた愛満が、亮平の願いを叶えるため。
大急ぎで愛満チートで仕入れて来た寿司道具一式や新鮮な海鮮等を仕入れて来ると、亮平に見せ。
久しぶりに寿司が握れることに緊張しながらも、喜びヤル気がみなぎっている亮平が、さっそく久しぶりに寿司が握れる喜びに包まれながら、嬉しそうにお寿司を握り始める。
ちなみに愛満と愛之助は、愛満チートで寿司の道具や食材を仕入れて来てる間に起きてきた子供達やキハル達を美樹や黛藍達の手を借りて、愛満宅の自慢の風呂にいれてやり。
途中、愛満が仕入れて来た真新しく肌触り良い服一式に着替えさせてあげ。気持ち新たにサッパリした様子で、今は楽しそうにタリサ達と遊んでいる。
そうして、亮平の握った寿司桶いっぱいのお寿司も完成し。
テーブルいっぱいに亮平が握ったお寿司や愛満がお昼ご飯用にと作っていた料理がところせましと並ぶなか。
初めて見る美味しそうな料理を前に子供達やタリサ達は、瞳をキラキラさせ。自分達が食べて良いのかと何度も確認しながら、亮平から習った食事の挨拶をすると、初めて目にした生魚や料理などなんのその、抵抗もなく夢中で食べ始める。
「美味しい!亮平が話してくれてたお寿司 はじめて食べたけど、こんなに美味しいんだね。」
「おいしい!おいしいね!」
「このホタテて言うお寿司ほっこりむちむち甘くて、僕好き♪」
「僕は、こっちの甘エビて言うお寿司が好き♪」
「タリサも甘エビ好き♪舌の上でとろけるような食感と濃厚なコクのある甘みが酢飯と口の中で合わさって、美味しい!」
「おいちいね♪おいちいね♪」
「本当に美味しいでござるね。拙者は、歯応えがコリコリしていて、噛むと上品な甘みが口の中に広がるイカのお寿司が好きでござる!キハル殿は、どのお寿司が好きでござるか?」
「そうですね。亮平が握ってくれるお寿司なら全部美味しいですが。しいてあげるなら、サーモンと言うお寿司が色鮮やかで、味も美味しく 目でも舌でも味わえて気に入りました。」
◇◇◇◇◇
こうして、異世界初のお寿司を食べて満喫した愛満達は、亮平の願いで義足のキハルも一緒に働け。気軽に食べに来れる異世界初の『お寿司屋』さんが朝倉村に仲間入りするのであった。