和菓子『チーズ饅頭』と亀族の山背
その日 愛満は、ササ達小鼠族と取引する事にした。何種類かのチーズのうち1つを使い。
皆からの評価をもらうために少し多目に、万次郎茶屋の新商品になる『饅頭』を作っていた。
◇◇◇◇◇
「愛満、なに作ってるの?すごく美味しそうな匂いするね♪」
「にゃにちゅくってるの?マヤラおにゃかしゅいたよ。」
「愛満、なに作ってるでござるか?」
その日の分の勉強を終え、饅頭が焼ける美味しそうな匂い釣られてやって来た。食いしん坊3人組は、匂いの元をキョロキョロと探しつつ、愛之に質問する。
そんな3人の可愛らしい姿に、愛満は思わず笑みがこぼれる。
「コレ?コレはね、ササ達の所と取引するチーズの1つを使って、茶屋の新商品になる予定の『チーズ饅頭』を焼いてるんだよ。
ササ達の牧場におじゃまさせてもらった時に、少し味見させてもらったんだけど。
僕の故郷にあるチーズの1つ『クリームチーズ』に味も食感も似ていたから、故郷で何度か食べた事のある。
クリームチーズをクッキー生地みたいな、しっとり系生地で包んで焼いた。少しハイカラなお饅頭になるんだ。
もう少しで焼けるから、焼き上がったら皆で食べようね。」
愛満が愛之助達に話すと気の早い愛之助達は、お茶やお皿の準備をいそいそと始め。
3人が最近ハマっている小袋の『梅昆布茶』を取り出し。
新商品の試食会だからとここは縁起を担ぎ、豪華に金粉入りの梅昆布茶にするか、金粉無しにするかと真剣に相談し始める3人なのであった。
そうして『チーズ饅頭』が焼き上がり。愛満達は早速、茶屋内のテーブル席へと移動して、試食会を始め出した。
◇◇◇◇◇
「う~~~ん♪このお饅頭美味しい!
サクサクしたクッキー風なお饅頭の皮に、中の少ししょっぱいチーズが良く合っていて、初めて食べるお饅頭だね。」
「おいちい!」
「本当に美味しいでござるね!
細かく砕いたアーモンドが入ったクッキー風な皮の部分が、しっとりホロホロしていて、中のクリームチーズとも良く合っているでござるよ。
それにこのチーズならば、そこまでくどくないでこざるし。チーズが苦手な人やお年寄りの方にも美味しく食べてもらえると思うでござるよ。」
愛之助達が初めて食べる『甘しょっぱい系』の饅頭の感想を愛満に伝えているなか。
愛満もチーズや饅頭の皮などの配合や出来映えを見て、愛之助達の感想などと合わせて、レシピノートに書き移していた。
すると突然、聞いた事も無い声が聞こえてきて『チーズ饅頭』の感想を話し出す。
「本当に旨いのう~!サクサクしっとりした茶色い皮の部分と口の中でとろっととろける濃厚なチーズと言う白いモノが合わさり、実に旨いのじゃ!
この焼き菓子なら、年寄りのワシでも美味しく食べれるのじゃ♪」
突然の事に愛満は驚き、思わずノートに書き込んでいた姿勢のまま固まってしまう。
するとペンがコロコロと誰も座ってないはずの隣の席のテーブルの方に転がっていき。
「あっ!ちょっと、もし。ペンが転がってきたぞ。ここに置いて置くからのう~。」
声の主がコロコロと転がっていったペンを愛満のノートの上へと置いてくれる。
そんな自然な流れに愛満もつい
「あっ、すいません。ありがとうございます。」
お礼の言葉を言いながら、隣の席を向くとそこには、いつの間にやって来たのか、器用にクッションを重ね、高さを調節して座る。
1才児ぐらい体格に黒目がクリクリして、両手にチーズ饅頭饅頭を持つ、可愛らしい陸亀が座っていた。
愛満は驚きながらも、そこは冷静な大人の対応で、『チーズ饅頭』を美味しそうに何個も食べている陸亀に話しかけ。
「はじめまして、僕は万次郎茶屋の主人 愛満になります。
前の席に座っているのが弟の愛之助、その両隣が親しくしている兎族の兄弟タリサとマヤラになります。あなたは?」
「おう!はじめましてじゃ。ワシは亀族の山背と言う者じゃ。
昨日からワシにピッタリで、良さそうな池と四季彩豊かで、自然溢れる素晴らしい場所を見つけのう~。
これは天からの巡り合わせじゃと住んでおったら、何処からともなく旨そうな匂いがしてきてのう~。
いてもたってもおられず、こうしてご相伴にお呼ばれしにやって来たのじゃよ!ご近所さんになるのじゃから、今後ともよろしく頼むのじゃ。」
「うん、よろしくね、山背!」
「よろちくね、やまちろ!」
「こちらこそ、よろしくでござるよ、山背!」
「…………………うん?」
チビッ子組が何故か山背と直ぐに打ち解けてる横で、愛満は山背の話を聞きながら、茶屋に入店するさい必ず鳴るベルの音が鳴らなかった事や、山背の話の中にチョイチョイおかしな箇所が多々あり。
不思議と言うか、第六感が働いた愛満が、改めて山背から詳しい話を聞く。
すると!なんと山背は愛満達が生活している住居部分の1階にある。
美しい坪庭を半分閉めている透明度の高い、湧き水が涌き出ている大きな池や、四季折々が楽しめる草花が植えてある坪庭を気に入り。
家主の愛満に断りもなく、勝手に山背サイズの家を建て、昨日から住んでいるとの事だった。
そんな山背の話を聞き驚いた愛満達は、慌てて坪庭を見に行くと山背の言うとおり。愛満が気に入っていた記憶する坪庭とは確か違う。
某県にある有名な真っ白な白壁が美しい、山背サイズのお城が池の真ん中に堂々とそびえ建っており。それがまた坪庭の景色とも良く馴染んでいて美しく。
ここは山背に不法侵入や勝手に家?城?を立てた事などに対して、様々な事を話し合わなければ行けないのだが
「うわ~~~~♪スゴい見た事も無い綺麗なお城だね!」
「ちゅご~~~~い!あのおちろかっこいいにぇ!」
「本当にスゴいでござるね!やはり愛満の故郷の城はこちらの世界の城と造りが違い。佇まいに貫禄があり、カッコいいでござるね!
それにあれが俗に言う、白壁が美しい○○城でござるか?」
愛満に着いて来た愛之助達が山背の城の事を誉めちぎため、山背に文句も言えず。
そして同時に山背のお城が建つ坪庭の風景が美しい事もあり、歯がゆい気持ちに陥る愛満なのであった。
◇◇◇◇◇
そうしてその後、山背が待つテーブル席へと戻り。
チーズ饅頭を食べ終えた山背が、何処から取り出したのか山背サイズの道具等を使い。抹茶を点ててくれ、愛満達に振る舞ってくれる。
そんなほろ苦くも美味しい抹茶を楽しみながらも、山背のあまりの自由さに驚く愛満であったが、愛之助やタリサ、マヤラ達3人が山背と楽しそうにお喋りしながら喜んでいる姿を見て。
坪庭に住む事を承諾せざる終えないと理解した愛満は、何かを越えた人のように静かに微笑み、グッと耐えるのであった。
こうして、いつの間にか愛満宅の坪庭に住み着いていた亀族の山背が朝倉村に仲間入りした。




