和菓子『カステラ』と父への感謝のプレゼント
その日もアルフは、朝早くから風呂屋・松乃で働いていた。
「ふぅ~。お客さんも増えて忙しくなりましたが、村全体に活気があって良いですね。
我が兎族の一族の家族みんなが安心して、寝起きできる住居があり。ひもじい思いをさせずに毎日美味しいご飯を朝昼晩の3食食べさせてあげられる幸せ。
それに考えもしなかった子供達や孫達を学校で、学ばせてあげられる王都にも負けない素晴らしい環境に、妻アコラには長年の夢だった仕事につかせてもらえ。
これもタリサとマヤラがあの日、愛満と愛之助に出会えたからこそおきた奇跡が生み出した毎日に、感謝してもしきれません。」
貸し切り出来る個室風呂の掃除を終えたアルフは、しみじみと独り言を呟き。次の仕事へと取りかかるのであった。
◇◇◇◇◇
「そうそう、タリサもマヤラも上手だよ。
メレンゲの角がピンと立ったから、ハンドミキサーは終わりね。
次は泡立て器に持ち替えて、マヤラが溶いてくれた卵黄をこのメレンゲに3回に分けて、ぐるぐるとまんべんなく混ぜるんだよ。
そしたら続けてタリサが熱湯で溶いてくれた蜂蜜を、今度は2回に分けて加えてさっと混ぜてね。」
「あい!マヤラ とうたんのためにがんばりゅ!」
「うん。タリサもお父さんの為に頑張る!」
「タリサもマヤラも頑張るでござるよ!」
その日万次郎茶屋では、愛満と愛之助の力を借り。タリサとマヤラの2人は、父親のアコラの為に新聞紙とアルミホイルで作った『でっかいカステラ』を作っていた。
「次はゴムべらに持ち替えて、万能こし器でふるった強力粉を3回に分けて加え。
そのつど底から生地を持ち上げるようにしながら、さっくりと切るように粉っぽさがなくなるように混ぜ合わせるんだよ。」
愛満が説明しながら、タリサ達はカステラを作り上げていき。
粉やカステラ生地で少し汚れたりしたものの新聞紙とアルミホイルで出来た大きな焼き型で、オーブンで焼いていく。
「愛満、愛之助、カステラ焼き上がるの楽しみだね。お父さん、喜んでくれるかな?」
「カチュテラ、たのちみね!とうたん、よろこんでくれるかにゃ?」
オーブンの扉から中のカステラの様子を除きこみ。タリサとマヤラの2人は、ワクワクと心配がいりまざったような顔で、愛満に問いかける。
「タリサとマヤラがこんなに頑張ったんだから、アルフさんもきっと喜ぶはずだよ。
けど急にアルフさんの為にカステラ焼きたいなんてどうしたの?」
2人を安心させるように優しく頭を撫でながら愛満は話しかけ。急に父親のアルフのために大きなカステラを作りたいと言い出した訳を2人に聞いてみる。
「あのね。昨日愛之助と絵本を読んでたら、その絵本の中で主人公の男の子が、毎日家族の為にお仕事を頑張ってくれているお父さんのために、お母さんと一緒に大きなホットケーキを焼いていたんだ。
そしたら男の子が焼いた大きなホットケーキをお父さんがすごく喜んで、嬉しそうに頬張ってたんだ。
それを見てたら、僕もマヤラもホットケーキじゃないけど、毎日に朝早くから遅くまで松乃で働いてくれているお父さんために、お父さんの好きなカステラを焼いてあげようって、マヤラと話して考えたんだ!」
「ちょうにゃの!とうたんだいしゅきだから、おおきいカチュテラやくにょ!」
焼けていくオーブン内のカステラを見つめながら、タリサとマヤラの2人は嬉しそうに教えてくれる。
「そうなんでござるよ。だからアルフ殿が好きなカステラとタリサとマヤラが手作りしたミサンガをプレゼントするのでござるよねぇ~~!」
「うん!昨日、愛之助が手伝ってくれてラッピングしたもんね。」
「あい!かあいいふくりょにいれちぇ、リボンむちゅんだの♪」
「へぇ~~!昨日コソコソ3人で何かやってるなと思ったら、そんな素敵な事してたんだ。解らなかったよ。」
4人は和やかに話ながら、夕方にタリサとマヤラを迎えに来るアルフを楽しみに待つのであった。
◇◇◇◇◇
チリーン、チリーン♪
「こんにちは。タリサ、マヤラ 迎えに来たよ。」
「あっ、お父さんだ!お帰りなさ~い。」
「とうたんだ!おかえりなしゃ~い。」
迎えに来た父親のアルフにじゃれつきながら、茶屋のテーブルに座ってもらい。
ニコニコと嬉しそうにタリサとマヤラの2人は、自分達の手でラッピングしたお手製のミサンガと手作りしたカステラを手渡す。
「お父さん、いつも僕達のためにお仕事頑張ってくれてありがとう!コレ、僕とマヤラが作ったんだよ。」
「とうたん いちゅもあいがとにぇ!だいちゅきよ~!」
タリサとマヤラからのプレゼントを受け取り。アルフは始め訳が解らず驚いていたのだが2人にお礼の言葉を伝え。愛満達から詳しい話も聞き。
改めてタリサとマヤラの心のこもったプレゼントを見つめ。
じわじわ熱い感情が沸き上がってきた様子で、嬉しそうに泣き笑いしながら、プレゼントとは別に切り分けていたカステラをタリサとマヤラに進められるままに一口食べ。
「タリサ、マヤラ ありがとう。カステラ美味しいねぇ。
上品な甘さのカステラにタリサとマヤラの思いが詰まっていて、とっても美味しいよ。2人とも本当にありがとう。」
残りのカステラを嬉しそうに食べ進める。
そして、自分達の分のカステラを愛満に切り分けてもらっていたタリサとマヤラ、愛之助の3人もカステラを食べ。
「美味しい!そこまで甘くなくて、シャリッとしたザラメの食感が面白くて、やっぱりカステラは美味しいね♪
僕、カステラ好き。お父さん、カステラ美味しいねぇ!」
「おいちい♪カチュテラちっとりちてる。とうたんカチュテラおいちいね。」
「本当でござるね。底の部分のザラメ糖の食感も美味しいでござるし。しっとりした上品な甘さの味わいで、何個でも食べれるでござるよ!」
普段は夕ご飯前の間食は怒られるのだが、今日だけはタリサとマヤラの頑張りに免除され。
愛之助やタリサ、マヤラの甘い物大好きな3人組は、お腹いっぱいにカステラを満喫する。
そしてアルフは、まだまだ小さな手のかかる子供だと思っていたタリサとマヤラの2人が、自分達で考え、行動し。
一生懸命手作りしてくれた『カステラ』や『ミサンガ』にタリサやマヤラの産まれた時からの光景が走馬灯のように甦ってきて、また心や目頭が熱くなってくるアルフなのであった。




