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「特上天丼」と、お産と猿族の篤森



「桃花 大丈夫かぁ?もうすぐの辛抱だからな。もうすぐしたらギルドで教えてもらった産婦人科に着くからな、頑張れ!

桃花もお腹の赤ちゃんも頑張ってくれ!」


振動をださないように慎重に、しかし早い速度で荷馬車を走らせている。猿族の篤森(あつもり)は、荷馬車の後ろで大きなお腹を抱え。大粒の汗を流しながら苦しんでいる妊婦で、妹の桃花を心配し。

町に居る医者や幾人かの産婆達から匙を投げられ。すがるような気持ちでギルドで教えてもらった。朝倉村に在るらしい。兎族のアコラなる人物が開いて(開業)いるらしい。産婦人科なるお産に特化した病院を目指していた。


「先生!すいません、先生はいませんか!

助けて下さい!妹が一昨日からお腹が痛いと苦しんでいて、原因も解らないんです!

それに町の医者や産婆さん達に診てもらったんですけど、皆解らないと言うばかりで、一向に良くならないんです!

産み月にも、まだ1ヶ月もありますし。妹もお腹の子供も大丈夫なんでしょうか?

お願いします!お金ならいくらでも働いて払いますから、妹とお腹の赤ちゃんを助けて下さい!

たった一人の妹なんです、お願いします、先生!お願いします、助けて下さい!!」


通りを歩いていた人達に聞き。何とか産婦人科なる立派な造りの建物に着いた篤森は、苦しむ妹を抱き抱え。無我夢中な様子で産婦人科に飛び込び。

何事かと診察室から出てきたアコラへと、悲痛な声で助けを求める。


「落ち着きなさい。私が持てる力を全てを使って妹さんもお腹の赤ちゃんも助けてあげるから大丈夫よ。

安心しなさい、大丈夫だから!

それに貴方が落ち着かないでどうするの!妹さんもお腹の赤ちゃんも必死に頑張っているのよ!」


軽い錯乱(さくらん)状態の篤森を落ち着かせる為。少々きつめではあるが、篤森を落ち着かせるように声をかけ。

篤森が抱えた妊婦の桃花を車椅子に座らせたアコラは、次々と篤森に、ここ何日かの桃花の様子や症状等を質問する。


そしてアコラの娘で、長女の娘や息子達のアコラの孫にあたる看護師達へと、今から使用する分娩室の準備を始め。念の為に万次郎茶屋から愛満を呼んでるようにテキパキと指示をだし。

少し落ち着いた篤森を分娩室横の待合室に残して、今だ苦しむ桃花を分娩室に運びこんで行くのであった。



◇◇◇◇◇



そうして待合室や分娩室前を何度も行ったり来たりしながら、篤森が落ち着き無く。

桃花やお腹の中の赤ん坊の事を心配し。祈りの言葉を呟きながらウロウロ、ウロウロと、長い長い。いや、篤森だけが感じる。

まるで終わりのないのかとも思える長い時間を待ち、過ごしていた所。


時折、分娩室内から桃花の苦しそうな声と共に雄叫び…………叫び声のような声が漏れ聞こえてくるなか。

篤森にとっては何十時間にも感じられた。実に待ち長く。落ち着きが無い時間を経て、分娩室の中から元気な赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。


そんな元気な赤ん坊の泣き声に篤森はホッとした半面。あんなに苦しんでいた妹・桃花の顔が脳裏に浮かび。

お腹にいた赤ん坊もなのだが、大切な妹・桃花の事が心配になり。

2人の容体が大丈夫なのかと気が気でない篤森は、病院関係者以外入れないらしい。分娩室の扉が開くのを一心不乱にジッーと見つめていた所。

何やら分娩室内から小さな少年が出て来て


「あっ、こんにちわ。桃花さんのお兄さんの篤森さんですか?

はじめまして、僕は朝倉村の村長で領主でもある、万次郎茶屋を営んでいる愛満と言う者です。」


少々場違いにも感じてしまう。丁寧な自己紹介をしてくれ。

いきなりの領主の登場に篤森があたふたしてしまう中。篤森が一番知りたかった妹 桃花と産まれたばかりの赤ん坊の事を教えてくれる。


「お兄さんの篤森さんもとても心配されていたと思いますが、妹さんの桃花さん含め。産まれてきた赤ちゃん達も、どちらも無事ですから安心して下さいね。

それから桃花さんがあんなに苦しんでいた訳なんですが、どうやらお腹が大きすぎて足下が良く見えなかったらしく。

小さな段差に(つまず)いた拍子に、桃花さんもお腹の赤ちゃん達も驚いちゃったみたいで、お腹がはり痛みが出たみたいなんです。

だから篤森さんのせいでも、誰のせいでも無いんですから、今回の事を気にやむ事はないですよ。」


密かに篤森が自分のせいかもと気にやんでいた不安を払拭してくれ。

そしてまた何やら分娩室内に確認をとると


「もうすぐしたら無事に産まれた5ツ子の赤ちゃんも桃花さんも病室に移動するみたいなんで、もうちょっとだけお待ち下さいね。」


と教えてくれ。


篤森が丁重にお礼の言葉を返すなか。愛満は照れ臭そうに照れ笑いを浮かべ。『いえいえ、当たり前の事をしているだけですから、気にしないで下さい。』と話して、村を納める領主のはずなのに何の偉ぶった様子もなく。ちょこちょこと足早にその場を後にする。



◇◇◇◇◇



その後、産婦人科内の病室へと移動した篤森達は、見た事もない清潔でいて綺麗な病室に驚きながらも、病室内の頑丈でいて、高価そうな造りのベットに腰かけ。

お産を終えた直後とは思えないほどの元気そうな様子の桃花を一目見て、篤森は涙を流し喜び。桃花に労いの言葉をかけていた所。


看護師さん達がベビーベッドなる。移動可能な赤ん坊用の小さなベッドに乗った。スヤスヤと気持ち良さそうに眠っている赤ん坊達を部屋へと連れて来てくれ。


篤森が今まで見てきた普通の赤ん坊よりも一回りも二回りも小さいのだが、時折元気な声を上げる甥っ子や姪っ子達の姿を見ていて、篤森は改めて5人とも誰1人欠ける事も無く。

無事全員が産まれてきてくれた事に知らず知らずのうちに涙を流して、桃花のお産中に祈りを捧げた神やご先祖様達へと感謝の言葉が口からこぼれ落ちる。


そんな篤森の様子を見ていた妹の桃花も


「お兄ちゃん、ここまで連れて来てくれて本当にありがとうね。

私も赤ちゃん達も助かったのは、お兄ちゃんのおかげだわ。本当に、本当にありがとう。

…………しかし、お腹の赤ちゃんが5ツ子なんて本当に驚いたわ!

通りで菜緒弥を妊娠した時と違って、お腹があんなに大きかったはずよ。

私てっきり食べ過ぎてて、太りすぎたのかと思っていたわよ!アハハハハ~~♪」


実はお産の後に愛満からコッソリと治療魔法をかけてもらった桃花は、本人も知らずのうちに体力も気力もフルーパワーに回復していて。

ここ何日も苦しみ。少し前にお産という大仕事を終えた同じ女性とは思えないほどの元気と言うか、体力が有り余ってるぐらいで………。

ここ何日間の話せなかった分を取り戻すかのように、いつもよりもパワーアップした様子で、物静かな兄の篤森にマシンガントークで話始める。


「けど本当にスゴいわよねぇ~!この産婦人科という病院、お産や女性特有の病気に特化した病院なんだって!お兄ちゃん知ってた?

それに病院の先生のアコラ先生や、アコラ先生の娘のカミン先生もベテランの貫禄があってね。

うちの町医者より何倍も何倍も!スゴく安心できるのよ!

後、まるでお母さんみたいに親身になってお産中に世話をやいてくれてね。スゴく励ましてくれたの!

魔法を施してくれた愛満先生も小さいのにテキパキと動いてくれてね。愛満先生が魔法を施してくると何だかお産の痛みもスッー和らいだし。気持ちが落ち着けたのよねぇ~。

それにお産中も『頑張って下さい、あと少しですよ』て優しく声をかけてくれてね、って!聞いてるの、お兄ちゃん?」


産まれたばかりの可愛い甥っ子や姪っ子達の寝顔に夢中で、普段は忘れない桃花の話の相槌を忘れていた篤森は、内心慌てながら桃花の話に相槌をうち。


「き、聞いてるよ。それで?愛満先生がどうしたの?」


との、篤森のきちんと話を聞いてますアピールに気を良くした桃花は満足そうに頷き。話を続け。


「そうそう、それでね!途中からちょこまか動いてる愛満先生の姿が、何でか息子の菜緒弥(なおや)に見えてきて

お産の間、ずっーと菜緒弥が応援してくれているよう気がしてきてね。これは菜緒弥のためにも頑張らなきゃと痛みに堪えられた訳なのよ。

………あっ、そうだ!菜緒弥と言えば、お兄ちゃんがギルドから手紙鳩を飛ばしてくれたんでしょう?

なら、菜緒弥と旦那君は今日中に病院に来れるのよね?」


「うん。ここの病院を聞く時にギルドの窓口の人にちゃんと頼んできたから大丈夫だと思うよ。」


「本当に!良かった~~~!お兄ちゃん、何から何までありがとね。本当に助かったわ!

それじゃあ、その時に旦那君に病院代払ってもらわなきゃね。

あっ、そうそう!病院代と言えば お兄ちゃん、この病院の金額いくらだと思う!?

私、お産の後に気が付いて気が気じゃなくてね。思わず第一声でアコラ先生に質問したのよ!

そしたら!お産代や病院代込みで金貨3枚で良いのよ♪

金貨3枚よ!金貨3枚!普通のお産でも病院で産むなら金貨7枚は払うとこなのに!

それに親族や知り合いの人達に手伝ってもらうにしても、いろいろな人にお礼の品を配ったり。ご飯を用意しなくちゃいけないから、なんだかんだ言って金貨5枚はかかるのよ!

それにこんな貴族様が通うような高価な病院なら普通安くても金貨30枚から100枚は請求される所を金貨3枚よ!!

私、あまりの安さに分娩室内で驚いちゃって大きな声をあげちゃったわよ。アハハハハ~♪

あっ~~!それにしても赤ちゃん産んだらお腹が空いちゃったわ!

そうだ!久しぶりにお兄ちゃんが、お(かあ)ちゃんから習って作ってくれる。山菜の『カラてん』が食べたいなぁ~♪

あの『カラてん』本当に美味しいもんねぇ~♪」


1週間前に王都に引っ越した。お得意様の無理難題な要望に答える為。商品を卸しに仕事で出かけた旦那について行った長男の菜緒弥の事を気にしたり。病院代の話や、お腹が空いたと言い出したりとコロコロと話題が変わり。

途切れないお喋り好きな桃花の話に篤森は無心で相槌をうっていると、遠慮がちに部屋の扉がノックされ。

先ほど別れたはずの愛満が、何かを持って申し訳なさそう病室に入ってくる。


「あの、おくつろぎの所すいません。

実は、桃花さんが食べたいとお産の間叫んでいた『カラてん』に似ている食べ物を作って持って来たんですが……………。

あの、その、……駄目だとは思ったんですが、お産の時に桃花さんとお産を無事に終えれたらご褒美で、桃花さんが食べたいと言っている『カラてん』を食べさせて上げると約束したもので…………。

いや、しかしお産を終えたばかりのご婦人が揚げ物を食べて良いものか?けど、お産中に作って来てあげると約束した訳だし………。

…………う~~~ん、けど確か油物は母乳がつまるとか姉ちゃんが言ってなかったけ………………けど本人が食べたいって言ってるし訳だし……。」


後半何やら愛満がブツブツと悩み出すなか。


実は桃花が終わらない5っ子の出産の苦しさに気を紛らわせる為

なのか、突然分娩室内で歌を歌い出だしたり。

お産中に肥り過ぎてお産が辛くなるのを防ぐ為に食べられなかった好物の食べたい物を叫んだりしていて。


4人目までは比較的サクサクと順調に産み落とせたのだが、最後の1人がなかなか産まれてくれず。

すっかり疲れはててきた桃花を励ます為。思わず愛満がお産終わりに桃花が一番食べたい食べ物を作って来てあげると約束してしまい。

まさかそれが揚げ物だとは思ってもいなくて………………。

(ちなみに桃花はお産が無事済んだ事に満足して、愛満との約束を覚えていなかった…………。)


「…………しょうがない!グズグズしてたら、せっかくの『天丼』が冷めて美味しくなくなるもんね!」


何やら覚悟を決めた様子の愛満は、猿族の名物料理『カラてん』なる食べ物と良く似た。日本料理の『天婦羅(てんぷら)』を使った。

お産終わりにも食べやすいようにと『天丼』にした丼を取り出し。桃花や篤森の前にと置いて上げる。


「どうぞ、こちら『天婦羅』を使った『天丼』と言う丼料理になります。

それから桃花さんから『カラてん』は、水で溶いた小麦の粉に山で採ってきた山菜をつけ。赤い花の種から絞り出した油で、揚げた食べ物だと聞いたので、僕の故郷の食べ物『天婦羅』に似てると思い。

食べやすいように『天丼』なる丼料理にして持ってきました。

それと今朝収穫したばかりのうちの村の付近に自生している『ふきのとう』も使って、『ふきのとうの天婦羅』にして一緒に持って来ましたので、2人のお口にあえば良いのですが、良かったら食べて下さい。」


美味しそうな匂いを放つ『天丼』なる丼料理と、『ふきのとうの天婦羅』、『ワカメと巻き麩の味噌汁』に目が釘付けな篤森と桃花の2人は、愛満に進められるがままに始め食べる事になる『天丼』を食べ始める。


「う~~~ん♪良い匂いだわ!

それに愛満先生の所には色んな種類の『カラてん』、……じゃなくて天婦羅があるのね。どれも美味しそう!

う~~~ん、どれから食べようかしら!?………………よし、コレに決めたわ!………モグモグ…………何これ!美味しい!

お兄ちゃんが作ってくれる『カラてん』も美味しいんだけど、この天丼と言う食べ物。衣はふんわりサックリしていて、甘辛いタレが天婦羅や、ご飯って言うの?それと良く合っているわねぇ~♪

う~~~~~ん♪食べても食べても後引く美味しさで、どんどん箸が進んじゃうわ!」


との、口の横にご飯粒を付けた桃花がべた褒めしてくれながら天丼を食べ進めていると、持参した水筒から2人の為にお茶を煎れてあげていた愛満が


「本当ですか!それは良かった。喜んでもらえて嬉しいです。

あっ、これお茶です。どうそ、まだ熱いので気をつけて下さいね。」


と話して!白い湯気上げる温かい緑茶を桃花と篤森の2人の前に置いてくれる。


「あっ、愛満先生ありがとう。

ねぇねぇ、愛満先生。この天丼、見た事もない具材がたくさんのっていて美味しかったんだけど、何が入ってるの?

それにこのお味噌汁というのも美味しいわね。」


「ありがとうございます。

今日の『天丼』はですね。桃花さんが赤ちゃんを産んで頑張ったお祝いにと思って、海老天やホタテ天、イカ天の海鮮天に始まり。

新玉ねぎの天婦羅や、筍天、茄子天、いんげん天、椎茸天、大葉天等の野菜の天婦羅と共に、変わり種で餅天や半熟卵天の豪華な『特上天丼』にしてみたんですよ。

あっ、ちなみにお味噌汁の具材は春キャベツと油揚げになります。」


「へぇー!これは天丼は天丼でも『特上天丼』になるのね。

なんか名前だけでも高価な食べ物と感じるわ。ねっ、お兄ちゃん 美味しいわよね。」


愛満の説明に感心していた桃花は、同じ病室内のテーブル席で黙々と『特上天丼』や『ふきのとうの天婦羅』、『春キャベツのお味噌汁』を食べている兄の篤森に声をかける。


「うん、そうだね。とても美味しいねぇ。

それに『天丼』の天婦羅は桃花の言う通り。ふんわりサックリした食感でいて、俺が気に入った筍の天婦羅なんかはサクサクとほど良い食感で柔らかく。

ホタテ天はほっこり甘くて美味しくて、それに何より油のキレが良くて、いくらでも食べれそうな美味しさで素晴らしいよ!

後、この『ふきのとうの天婦羅』も独特の香りとほろ苦さが癖になって、酒のつまみにも良いと思うんだ。

愛満先生。改まってはなんですが、こんな美味しい食べ物を僕達に食べさせてくれて、本当にありがとうございます。」


自身が食べている『天丼』や『ふきのとうの天婦羅』の美味しさや、そんな天婦羅に感動受けた様子で熱く感謝の気持ちを愛満に伝え。

残り少なくなった丼の中身の天丼を名残惜しそうにまた食べ始め。米粒1つ残さず綺麗に丼の中身の天丼を食べ終えると、何やら考え始め。

天丼やふきのとうの天婦羅を食べ終えた桃花の話し相手になって……………いや、正確に言うと捕まってしまっていた愛満へと話し掛け。


「すいません、愛満先生。この天婦羅の作り方って、もしよろしかったら俺に教えてもらう事は出来ますか?

実は、母から習った『カラてん』も美味しいんですが、それとは食感や油の切れが全く違うこの天婦羅が気に入りまして

それに出来る事ならば、妹もこんなに気に入った天婦羅を育児や家事等を日々頑張る妹の為、たまに作って食べさせてあげたくなりまして」


顔を少し赤くして、ハニカミながら愛満へと天婦羅の作り方を教えてほしいと頼む。


「天婦羅の作り方ですか?

ええ、大丈夫ですよ。あっ、そうだ!ならついでに天丼も食べられるように天丼のタレの作り方もお教えしますね。

それなら天婦羅もだけど、天婦羅に飽きた時に天丼にチェンジして楽しめますもんね!」


そんな妹思いの篤森の様子をどことなく弟の愛之助に弱い自身と重ねながら微笑ましそうに見る愛満は、次いでだからと天丼のタレの作り方も教えますねと篤森に提案し。


お産で疲れたお母さんを休ませる為。赤ん坊をベビー室に移動するために看護師さん達が赤ん坊達を引き取りに来たり。

話したい事も、まぁ一応の所は話した事だし。

お腹も一杯になって満足した様子の桃花は、うとうとと眠りに落ち。

桃花が眠ってしまった事なので、愛満と篤森の2人は病室を後にして、篤森に『天婦羅』や『天丼のタレ』の作り方を教えるため万次郎茶屋へと移動する。



◇◇◇◇◇



そうしてその後、日頃から趣味で料理作りを得意としていた調理経験のある篤森へと、サクッと軽い天婦羅衣の作り方や揚げ方、天丼の甘辛タレの作り方、白米の炊き方等を順調に教え終え。


せっかくだからと茶屋で愛満お手製のお茶菓子やお茶でおもてなしされた篤森は、和やかな雰囲気のなかお喋りを楽しんでいた所。いつしか話は篤森の身の上話になっていき。


篤森が先の戦争で住まいを追われ。今は妹夫婦の家に居候している事等を愛満は知る。

そこでそれならば、先ほど教えた『天婦羅』や『天丼』等の揚げ物料理を提供する店を朝倉村で開かないかと持ちかけ。


始めは考え込んでいた篤森であったが、愛満が店舗兼自宅と共に営業する為の道具等。全て村で用意する等の聞いた事も、見た事もない破格の説明を聞き。

しばらくの間、悩みに悩んだ末、決心した様子で承諾する。


そして、フッと病室に1人残してきた桃花の事を心配し出した様子の篤森に愛満が気付き。

愛満達は場所を万次郎茶屋から病室へと移動し。

病室内の応接テーブルでと愛満と篤森の2人が、これからの篤森が営むお店や自宅の事等。詳しい話を桃花の邪魔にならないように小声でしていた所。


すっかり眠りから覚め。暇をもてあましていた桃花もいつのまにやら愛満達の話し合いに参加してきて、何やら篤森達2人の話しに興味を持ち始め。

グイグイ話に加わると、最後には自分達家族も朝倉村に移り住みたいと言い出し。兄の篤森も巻き込んで愛満へとお願いしてくる。


そんな桃花の話に愛満と篤森の2人は大変驚き。

家族がいる桃花1人の意見では決められないだろうと説得するのだが、桃花の勢いは止まらず。

更なる勢いがついた桃花のマシンガントークに圧され。知らず知らずのうちに愛満は根負けしてしまい。

そのうち桃花の兄の篤森も日頃の無口な様子が嘘のように頑張ったのだが、お喋り好きのマシンガントークの桃花には勝てず。

言い負かされると言うか、すっかり精も根も尽き果て根負けしてしまい。

結果、愛満が無意識のうちに頷き。桃花が跳び跳ねるほどに大喜びして、興奮した様子で更に暴走し始め。

兄の篤森と共に村へ移住の為の様々な話を決め始め。桃花の家族の承諾の無いまま、朝倉村への移住が決めてしまった。



◇◇◇



そうして、どれだけの時間が過ぎたのかも解らぬまま。

愛満と篤森の2人が桃花の話題がつきないマシンガントークに圧倒され。逃げられないマシンガントークの地獄に捕らわれていた所。


何やら5才くらいの少年を抱き。大泣きする男性が桃花の名前を叫びながら病室に飛び込んで来て。

愛満達はやっと思いで、桃花のマシンガントークと言う名の話し合い(お喋り)から解放されたのであった。



◇◇◇◇◇



そうして後日、いつものように愛満の(チート)を使い建ててあげた。料亭風の造りの店舗兼自宅を譲り受けた猿族の篤森は無事、『天婦羅』や『天丼』を販売する料理店を開店させ。


篤森の店舗兼自宅前の空き地にと、病室内での宣言通り。

愛満から建ててもらった。日本で言う所の埼玉に在る商家(しょうか)大沢宅住宅(おおさわけじゅうたく)のような立派な造りの店舗兼自宅を譲り受けた桃花家族は、元から販売していた『椿油』を始め。

愛満から教わり。新たに販売する事になった。村に自生してるオリーブの実を使った『オリーブ油』等を販売する『油屋』を華々しく開店させた。


こうして、愛満も考えても見なかった思わぬかたちになったのだが、朝倉村に新たな2軒の店と、猿族の篤森や桃花家族が村の一員として仲間入りする事になった。




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