『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』とドワーフ族のちっこいおじさん
兎族のアルフさん一族の引っ越しも無事終え。
風呂屋の仕事にもアルフさん達が慣れた今日この頃。
風呂屋にも万次郎茶屋にも、お客さんは今だ『0』になり。
一応万次郎茶屋には、毎日タリサとマヤラの2人が元気に遊びに来てくれていて
甘い物好きのアルフさんも大好物のカステラや和菓子等を食べに来てくれているんだけれども、やはり今一つ活気が無く。
愛満は有り余るヤル気と共に、毎日売れ残る和菓子の数々をアイテムボックスと言う名の魔法袋に直しながら、明日こそはと心に誓っていた。
◇◇◇◇◇
「ハァーーー、今日もお客さん来そうにないねぇ…………。
開店初日の日に運良くタリサとマヤラの2人に出会えて、その縁でアルフさん達大家族の沢山の皆さん達とも知り合いになれたりして、幸先良く来てると思ったんだけどなぁー。
………う~~~~ん。本当に家の前の山道はタリサやマヤラ、アルフさん一家の人達を除いたら、ひとっこひとり通らないよなぁ。……ハァ~~~~~」
なかなか増えないお客さんの数に愛満が頭を悩ませ。長いため息をついて落ち込んでいると
「愛満、そう気を落とされるな。大丈夫でござるよ!
日本のことわざに『果報は寝て待て』というのが有るでござろう。
だから普段通りに過ごしながら日々の準備を怠らなければ、きっと向こうからお客さんが来てくれるでござるよ。」
合ってるのか合ってないのか良く解らないながらも精一杯励ましてくれる愛之助の優しい気持ちが嬉しく。
瞳をウルウルさせながら、お礼の言葉をのべる愛満なのであった。
◇◇◇◇◇
その日ドワーフ族の凱希丸は、いつものように全財産を乗せた荷馬車と共に
凱希丸の相棒で、力持ちのヴロバ(ヴロバとは=ロバの見た目ながら馬位のガシッリした体格になり。頑丈な荷馬車を引く動物の事)の『バタイ』と一緒に山道を歩いていた。
実はこのドワーフ族の凱希丸。
背丈は低いが横幅が広く。どっしりとした体型や屈強でドワーフ族特有の力強い力。優れた細工の腕を生かした鍛冶屋や石工屋等を営むドワーフ族が多い中。
木材や金・銀製品等を使った珍しい彫刻師の職人になり。
顔に似合わず高い美的センスを持ち。美しい彫刻技術を使った置物や木材素材の簪、櫛等を作り。
バタイが引く荷馬車で生活しながら、各地の町や村へ自身が作り上げた商品を売り歩く生活をしていて
他にも大酒飲みが多いと言われるドワーフには珍しく。お酒が苦手で、甘い物が大好きな甘党になり。
長い髭をたくわえた小柄な種族で、仕事がら薄汚れたイメージがもたれるドワーフ族には、またまた珍しく。
髭を短く整え。お風呂が大好きで綺麗好き、身だしなみにもこだわる。
ドワーフ族ながら綺麗な身だしなみとお洒落な服装のソフトマッチョのちっこいおじさんになる。
「バタイ、なんだっべありゃ!ワシ頭がおかしくなっちまだっぺか?」
万次郎茶屋と神社に続く並木道や風呂屋・松乃を見た凱希丸は、見た事もない見事な建物と細やかな細工の数々に目を奪われ。その場から動けなくなってしまう。
「………ふむふむ。あの彫刻はアノように彫り込んでおるだっぺな。
それにアッチの彫刻は初めて見る彫り型だっぺ。
……………うんうん。そうだっぺか、そうだっぺか!あそこはああして彫れば、良いんだっぺね!
うんうん、うんうん!とても勉強になるだっぺ。
……………ハァ~~~、しかし本当にスゴいだっぺ。
自然の草花から、何やら見た事もない生き物らしき物まで様々なものが彫刻されとって、あんな美しい飾り板が出来るだっぺなぁ~!」
かなり長い時間、荷馬車の上から夢中で、まさに食い入るように初めて目にした未知の建物や数々の細工に見いていた凱希丸は、ふと木目調美しい建物にまさに今、入ろうとする兎族の幼い子供達に気付き。
少年達が入った建物からお腹を刺激するような。何とも言えない甘く、美味しそうな匂いがふんわりと凱希丸の所まで届き。
興味をそそられた凱希丸は、まるで誘われるように子供達が入っていった建物へと足を運ぶのであった。
◇◇◇◇◇
そうして甘い香りの基に誘われた凱希丸は、その建物横に在った。設備の整った広々した厩舎に荷馬車と荷馬車から外した相棒のバタイを休ませ。
入り口近くの貼り紙に達筆な文字で
『ココに置いてある物は無料でござるよ。ご自由にお使い下さいませでござる。』
何やら無駄にキラキラ光輝く、頭巾を被った生き物のカラフルな絵と共に書かれた張り紙の下に置いてある。
藁やソフトボール大の大きく巨大な林檎、飲み水等をバタイにたっぷり与え。
【ちなみに凱希丸が見た頭巾を被った生き物のカラフルな絵とは、愛之助が愛満の仕入れについて行ったさい。仕入れてきたマイメロちゃんのキラキラ光輝くラメ入りシールになる。】
恐る恐ると子供達が入っていった建物の扉を開け。
チリーン♪チリーン♪
扉についたベルが鳴り。凱希丸が恐る恐ると建物の中に入る。
すると室内には、先程見た兎族の8才位と3才位の幼い子供達の他に。
凱希丸が目にした事がない高価そうな質感で、優しい色合いの服を着た人族の長髪の少年。
凱希丸達ドワーフ族と変わらない小さな身長で、細身のちまっとした黒髪の少年の4人の人物が居り。
凱希丸に気付いた長髪とちまっとした黒髪の2人が
「あっ!い、いらしゃいませ!!」
「いらしゃいませでごさるよ!」
何やらひどく驚いた様子で声をかけてくれ。
「お、おはようございますだっぺ。
あの、………申し訳ないっぺが、ココは何かお店になるんだっべか?」
「は、はい!ココは和菓子という甘いお菓子やお茶を楽しみ。ちょっとした食事の軽食を食べられる甘味処の万次郎茶屋になります。」
鼻息荒く、ヒドく興奮した様子のちまっとした黒髪の少年の方が教えてくれ。
何やらヤル気満々の様子のなか、初めて来店した凱希丸にも解りやすいようにと
「ま、まずですね。当店で手作りしている甘い甘味物になる『和菓子』は、1つ銅貨一枚から銀貨一枚までの常時15種類になりまして
他にも温かい物や冷たい物のどちらでもお好きな方を選べる。
『緑茶』に始まり『ほうじ茶』等のお好きな茶葉からお選び出来る。
急須で提供している『急須茶』が銅貨三枚。
お茶以外の『アレンジしてある飲み物』が、一杯銅貨二枚から銀貨一枚になり。
基本お店で提供している『お水』は、何杯でもお代わり自由の無料になります。」
『緑茶』や『ほうじ茶』なる何種類か有るお茶葉から選べ。
凱希丸が見た事も飲んだ事もない飲み物のイラストが描かれたメニュー表なる物を見せてくれながら説明してくれ。
「それから和菓子とお茶を楽しみたいお客様には、お好きな和菓子を3つ選んで頂き。
お好きな茶葉の急須がセットのお得な『和茶セット』が銅貨五枚から提供してます。
他にも『軽食』で、日替わりの3種類から選べる銀貨二枚の
『米セット』=米・汁物・小鉢二品・漬物・お茶・果実
(※ご飯と汁物はおかわり三回まで出来る。)
『麺セット』=麺一品・小鉢二品・漬物・お茶・果実
『まぐれセット』=(主人のその日の気分で)基本 主菜(丼等)・汁物・小鉢一品・漬物・お茶・果実
等が有り。
ほとんどの商品がお持ち帰りも出来ます。
……………あっ!それから遅くなりましたが、私はこの『万次郎茶屋』の店主の愛満と言う者です。
何かお困りの際は、お気軽に声をかけて下さいね。」
【※銅貨一枚=10円・銀貨一枚=100円】
ちまっとした人物こと、この茶屋の店主になる愛満がお店の事親切丁寧に教えてくれた。
「わざわざありがとうだっぺ。この店の店主の愛満さんだっぺね。
じゃあ、お言葉に甘えて、何か困った事があったら気軽に相談しに来るだっぺ。
……あっ!そうだっぺそうだっぺ。自分はドワーフ族の凱希丸と言う者だっぺ。よろしくだっぺ。
…………しかしだっぺ、ココだけの話。このお店の和菓子と言う菓子は、こんなに安くて大丈夫だっぺか!?
今はどこでも砂糖や蜂蜜が手に入らずに高くなってると聞くだっぺよ?」
愛満の自己紹介に凱希丸も簡単な自己紹介を返しながらも、店の品物の金額が余りに安く。
こう言っては悪いのだが、こんな辺鄙な田舎で手に入りにくい甘味物やお茶が種類豊富に食べられ、飲める事に驚きつつ。
見た目美しく、見た事も聞いた事もない、珍しい和菓子の数々。人の良さそうな愛満の姿等も相まって、お店の経営等が大丈夫なのかと、ついつい要らないお節介でもあるのだが、初対面になる愛満の事を心配して質問してしまう。
「えっ!そうなんですか!?
…………えっと、………何と言うか、家の店は独自の仕入れ先があるので、お客様に格安で提供できますし。この価格でも全然大丈夫なんですよ。
心配して下さり、ありがとうございます。」
「いやいや、こちらこそお節介にも申し訳なかったっぺ。
……………それにしても本当に良かったっぺ。ここ何年かお気に入りの店が次来た時に潰れて無くなってる事が多々あっただっぺよ。
それでその時のやるせなさや悲しみは、もう本当に懲り凝りだったっぺから。
アァ~~~、これで心置きなく安心して、この店の和菓子をお腹いっぱい食べれるだっぺよ!」
凱希丸は照れくさそうに笑いながら頭をかく。
◇◇◇◇◇
凱希丸が愛満の店の内情を心配してた訳は、実は戦争前には砂糖や蜂蜜等の甘い調味料を町や村などに運ぶ旅商人が沢山居り。
活気ある町や村には焼き菓子等を提供する。ちょっとした菓子店が必ず一軒は在るぼどで
甘い物が気軽に食べられていたのだが、今は戦争のため店を持たない旅商人達が相次いで他国に避難してしまい。
戦争が終わった今でも少々流通が滞ってしまっており。
安く砂糖や蜂蜜などのお菓子の材料が手に入りにくくなってしまい。
お菓子を提供していた店が相次いで閉店やお菓子等の甘い物を置かなくなり。
各地の町や村などを巡る甘党の凱希丸には辛い話になるのだが、遠く離れた王都でしか甘い菓子が食べられなくなってしまっているのだ。
◇◇◇◇◇
そうして甘い物大好きな甘党の凱希丸は、格安で珍しい菓子が沢山食べれるとあって
早速、茶屋の主人の愛満に和菓子がディスプレイされている。透明な板と木枠で作られた美しい棚に案内してもらい。
満面の笑みで棚の中を覗き込みながら、どれを食べようかと真剣に悩み出す。
ちなみに凱希丸が覗き混んでいる商品棚の中には、真っ白でまん丸した『大福』がシンプルな粒餡から『塩豆』、果物とこし餡を包み込んだ『フルーツ大福』等の5種類が綺麗に鎮座しており。
『大福』の他にも、つやつや光沢を放つ茶色いタレや焼き色がついた。美味しそうな一口サイズの団子が串に5個刺った『みたらし団子』
波打つ『こし餡』や『つぶ餡』が串に刺さった団子の上に飾り付けられた『餡団子』2種類
黒すり胡麻が贅沢にもたっぷりかかった『黒胡麻団子』
綺麗な焼き色がついた皮に朝早くから愛満が炊き上げて作った小豆の甘いつぶ餡がたっぷり挟まれ。
表面の皮の真ん中に兎の焼印が押され。こん盛り山型に膨れ上がった『どら焼き』
白餡等の色とりどりの練り切りを形作った。季節折々の草花や動物をモチーフした兎や花等の5種類の『練りきり菓子』
キラキラ光輝く、魅惑の黒い塊『羊羮』
パリッとした最中の皮の中につぶ餡、球肥が隠された『最中』
ふっくら蒸し上げられ。こし餡を包み込んだ小さな一口サイズの激安一個銅貨一枚の『黒糖饅頭』
等々の見た事もない沢山の美味しそうな和菓子達が並んでいた。
どれもコレも始めて見る和菓子ばかりで、凱希丸はアチラコチラに目移りしながら悩みに悩み。
懐事情も配慮して、なんとか7種類の和菓子を選び抜いた凱希丸は、愛之助に案内してもらったテーブル席へと戻り。
愛之助が持ってきてくれたおしぼりという。心地好く温かい上質な布で、愛之助から教わった。おしぼりの使用方法なる手順で手や顔、首筋等を拭い。
同じく愛之助が持ってきてくれた冷たく、ほんのり柑橘系の風味がする水を一口口に含むと、またまた目を見開きながら驚く。
「な!なんだっぺこの水は!
冷たくてほんのり柑橘系の香りがして、ただの水とは思えないほどに旨いっぺ!」
飛び上がらんばかりの驚きと感動で震える。
これまた何故なら!!
先の戦争の後、何故か今まで無味無臭だった飲み水としても使用していた生活用水が、各地の町や村等の多くの人々が生活する地域の水源等で相継ぎ。
そこそこで僅かに違いがあるものの。嫌なエグミや変わった味、臭み等を感じるようになってきていて
砂糖や蜂蜜等の甘味料を含め。戦争の影響で食料・物質不足のなか食品、物質等に続き。
そんな不味いコップ一杯の水でさえ、町や村のお店では貴重だからとお金を払わねばいけないのだ。
【ちなみに王都の貴族やお金を持った商人等は、水魔法が使えるお抱えの魔法使いを幾人か雇用しており。
毎日家で使用する生活水を賄っていた。】
しかしこの店の水は、爽やかな柑橘系の風味がほのかにするだけで何の臭みやエグミ等もなく。冷たく上質な美味しい水で。
改めて茶屋から提供された美味しすぎる無料の水を飲みながら凱希丸は、そんな上質な水を無料でいて、またお代わり自由で提供する愛満達の懐事情を心配しつつ。
店の経営は大丈夫なのか?
人が良すぎて悪い人物に騙されたりしないかと心の底から不安を覚えつつ。
見知らぬ自分があまり要らないお節介をやくのは悪いと考え。
気分を変えるように来店した時からずっと気になっていた。茶屋内の様子をじっくり見渡し始める。
すると茶屋内をじっくり見ながら驚く事は、茶屋内が驚くほどに明るく。
何やら見た事もない光魔法を様々な種類使い。茶屋内を明るくしている事で、今まで凱希丸が利用していた食堂等の悪い店ではアチラコチラから隙間風が入り込み。
マントを着たままでなければ、寒さで満足に食事ができない事も多々あったりするもので…………。
しかしこの茶屋の室内は、暖炉等の暖房器具が置いて無いにもかかわらず。店全体が心地よい温かさに包まれており。
他にも装飾品や茶屋内のテーブル、椅子にしても派手さはないのだが一つ一つの家具達に暖かみが感じられ。
細かな細部まで細工が施されていて、改めてこの建物を建てた者の技術に圧倒される凱希丸なのであった。
◇◇◇◇◇
そうして、凱希丸がキョロキョロと気になる茶屋内を新たな技術の発見と共に興味津々な様子で観察しいると
茶屋の店主、愛満が凱希丸が注文した品を持ち。凱希丸が座るテーブル席へとやって来て
「お待たせ致しました。お選び頂いた和菓子7種と煎茶の茶葉を使用した急須茶になります。
それとコチラ。万次郎茶屋のバレンタインという期間限定のイベントで無料でプレゼントしている『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』になります。
お店で食べて頂いても、お持ち帰りして頂いても大丈夫ですので、ごゆっくりどうぞ。」
テーブルの上に7種類の和菓子が乗った和皿と、煎茶が入った急須、湯のみと共にバレンタインなるイベントの無料プレゼントとして貰った。
何やらツルツルした手触りの透明の袋に可愛らしくラッピングされた。
葉っぱの形をした。ホワイトチョコと松の実を抹茶生地に加え焼かれた『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』がテーブルの上に置かれ。
愛満は凱希丸へと一度お辞儀をしてから『ごゆっくりどうぞ』との言葉と優しい笑みと共にテーブルから立ち去って行った。
◇◇◇◇◇
「ハァ~~極楽、極楽だっぺ。やっぱり広い風呂は良いっべなぁ~♪」
軽い貸切状態の風呂屋・松乃の大浴場で足をのびのびと伸ばし。幸せそうにゆったりと温泉に浸かる凱希丸は、あの後起きた万次郎茶屋での出来事を思い出すのであった。
【ちなみに軽い貸切状態な訳は、只今『風呂屋・松乃』へのお客さんが凱希丸以外居らず。
愛満も驚いた広々した風呂施設を現状、凱希丸が独り占めしている状態な訳で……………。
その為、凱希丸の相棒バタイも風呂屋・松乃に設置された放牧地付きの厩舎を悠々自適に独り占めしながら旅の疲れを癒し、満喫していた。】
あの後、凱希丸が注文した和菓子を愛満が持って来てくれ。微笑みと共に立ち去った後。
どれもコレも美味しく、初めて食べる和菓子を夢中で凱希丸が食べていた所。何やらフッと人の気配を感じ。
愛満が何か言い忘れ、戻って来たのかと考え。和菓子から意識を離し顔を上げた。
するとソコには、自分が座っているテーブルの前の席に長髪で店の主人、愛満の弟になる愛之助と言う少年と
タリサ、マヤラと言う兎族の子供達がニコニコ微笑みながら座って居り。
凱希丸は驚きながらも『どうしただっぺか?』と3人に聞くと、愛之助達は嬉しそうにニコニコ微笑み。
凱希丸があまりにも美味しそうに(自分の兄者)愛満が手作りした和菓子を食べてくれているのを目にして、心の底から嬉しくなり。
更には、あんなに美味しそうに愛満が手作りした和菓子を食べる凱希丸と一緒に和菓子が食べたくなり。
自分達も一緒に、自分達がオヤツとして今食べている和菓子を食べようと考え。同じテーブルに来たのだと教えてくれ。
愛之助達が持って来た山盛りの『カステラ』なる和菓子と共にお茶を飲み。
甘い物好き繋がりで、かなり打ち解けた様子の4人は、仲良く食べり飲んだりしてお喋りを楽しんでいた所。
いつしか凱希丸の仕事や生活の話になり。凱希丸が作った商品を見てみたいと愛之助達にお願いされ。
自身が手作りした簪や櫛を自身が所有する魔法袋から取り出し、披露する。
すると途中からお喋りに参加して居た愛満が、何やら考え込んだ様子で黙りこんで考え始め。
何やら決意した様子で顔を上げると、凱希丸さえ良かったら無料で家とお店を用意し。
生活が安定するくらいのお客が、この場所に訪れるようになるまで万次郎茶屋の食事や和菓子を無料で提供するので、この場所に移住して来ないかと突然話を持ちかけられた。
急な話に驚いた凱希丸は、思わず口に含んだお茶を吹き出しそうになりながらも何とか我慢して、大きく咳き込みつつ。
困惑しながら、今日初めて会った自分に何故そこまで好条件で良くしてくれるのかと僅かに疑心暗鬼の気持ちも含みつつ。
不思議に思い愛満に質問すると、愛満は凱希丸の困惑したような顔を苦笑いしつつ見つめ。
自分の遠く離れた故郷に住む両親や1番上の兄も芸術の仕事をしており。
母親と2人居る兄のうち1人が、凱希丸と同じ彫刻師の仕事を生業にしていて
母や兄の作品を作り上げる苦労と共に、兄の弟子時代や一人前になった後の苦労等を見ていて少しは知っているのだと話。
凱希丸の作品を見ていて、そんな母や兄、職は違うは父の事を思い出して、2人と同じ職業の凱希丸の事を他人のように思えず。
1年に2度の短い間だけしか会えず。なかなか恩返しができない故郷の父や母、兄の変わりに
こちらに来て初めて会った母や兄と同じ彫刻師を生業にしている凱希丸の力になれないかと思い付いたのだと、最後は少し照れくさそうにハニカミながら話し教えてくれた。
そんな愛満の提案に、凱希丸の前の席に座り話を聞いていた愛之助やタリサ、マヤラ達からも
「ナイスアイデアでござるよ、愛満!
凱希丸殿、ココはとても良い場所でござるよ!拙者イチオシのオススメで、住みたい場所1位でござるよ!」
「イイね、イイね!凱希丸さんも家のお父さん達が決めたみたいにココに住めば良いよ!
ココはスゴく良い場所だし!怖い兵隊や戦争も近づいて来ないしね!
愛満のご飯も和菓子もすんご~~~く!美味しいからココに住むのは僕もオススメだよ!」
「ちょうちょう!ココよいばちょじゃよ。マヤラもだいちゅきにゃの♪」
口々にココに住むのはオススメだよと力強く薦められ。
暫くの間、無言で考え込んだ凱希丸であったが、僅かな時間でも愛満や愛之助達の人柄の良さに接し。茶屋の雰囲気等の様々な事を気に入り。
自分の直感を信じて、この場所に住む事を決断した。
するとそれから慌ただしく。少々簡単にではあるのだが、家とお店の希望や安定するまでの生活の保証の事等を話し合い。
凱希丸の顔に疲れが見えてきた事もあり。今日は旅の疲れをとる為にと、タリサとマヤラの父親が番頭を勤める『風呂屋・松乃』に愛満の奢りで泊まる事を薦められ。
改めて明日の朝、詳しい話と共に凱希丸の家や店を建てる事を決め。
ちなみにその時、『風呂屋・松乃』に勤めるタリサの両親や一族の人達と軽い顔合わせをして挨拶済ませた。
◇◇◇◇◇
「フフフフフ~~~~ン♪フフン~~~♪」
知らず知らずのうちに鼻唄を奏でる凱希丸は、久しぶりの風呂をゆっくり楽しんだ様子で、体からポカポカと湯気を上げ。
風呂屋備え付けの浴衣という初めて見た和の服を着衣場壁に描かれたイラストを参考に着用し。首には手拭いを下げ。
何やら日本の温泉施設で良く見るおじさん達の姿を連想させるなか、満面の笑みで今日泊まる部屋へと戻って来る。
「ハァ~~、どっこしょ!…………いゃ~~~、それにしても本当にいい湯だったぺ!
それに見た事もないような、いろんな種類の風呂やサウナなる物が親切にもイラストが描かれ説明文付きで各所に有り。
ついついアレもコレも長湯して楽しんでしまたっぺよ!」
着衣場に設置されたペットボトルの水をゴクゴクと飲み干しながら、凱希丸は満足そうに大きな独り言を呟き。
何やら思い出した様子で、いそいそ立ち上がると部屋に設置された金庫を開け。自身の魔法袋をゴソゴソあさぐり。
万次郎茶屋でプレゼントされた『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』を取り出し。
更には部屋に備え付けられたティーバッグでお茶を煎れ。実に幸せそうな様子で、『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』を食べ始める。
「……モグモグ……モグモグ…………モグモグ……ハァ~~~、本当に旨いっペ!
このしっとりとした舌触りに、ただ甘いだけじゃないコクのある甘さ。
その甘さの中にもほのかなほろ苦さと、この松の実という木の実の食感がマッチして、この『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』とやらは本当に旨いだっペよ!
それに葉っぱの形に焼かれている所もオシャレだッペなぁ~♪
この見た目にも気を使うちょっとした気心がお客さんの心を掴むのだっぺ!
うんうん!愛満は若いのに良く解てるだっぺなぁー。」
『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』をしげしげ眺めたり、食べ進めたりしながら、感心しきりの様子で凱希丸が大きな独り言を呟いていたかと思うと。突然、何やら思い出した様子で
「それにしても他の村のお菓子も少ない食材ながら、村々の特産をいかし工夫されていて素朴で旨かったっぺ。
アレがもう食べられないと思うと、実に残念だっぺ……………。またいつの日か、あのお菓子達が復活する日が来る事をシズかに祈るだけだっぺよ。
………けれどだっぺ、今日愛満が作る和菓子に出会い。良く良く思い返せば、いかんせん見た目がイマイチな物が多かったような気がするだっぺなぁ~。
………やっはり、そこまで手がまわせないだっぺか…………………いや!あと持つ少しだけでもお菓子の見た目に気を使えれば!
更には欲を言えば、もう少しだけでも気にして作ってさえいれば、人気が出、新たな村の特産になるだったかも知れないだっぺよ……………もったいないっぺ。」
本日愛満が一つ一つ端正込め手作りし、生み出した繊細な菓子『和菓子』を見て、食べて。
お菓子欲が刺激されたのか、今までの人生で出会い食した村々や町々のお菓子を思い出した様子で話し始め。
「けど!!見た目だけの王都や大きな町のお菓子よりは全然ましだッペよ!
あいつらの作るお菓子は、お菓子を冒涜してるだっぺ!!
ただただ、ただただ砂糖を馬鹿のように使い。どこを食べてもジャリジャリした食感と砂糖の味しかしない、ただの砂糖の塊だっぺ。
それに一番酷い奴が作ったお菓子を食べた日には、口に入れた瞬間にあまりの甘さに奥歯や歯に激痛が走り。大変な思いをする代物だっぺ!
ハァ~~~、思い出しただけで最悪な気持ちになるだっぺ…………………あんなの食べるぐらいなら、いっそうの事、砂糖水を飲んだ方がまだましだっぺ。」
何やら1人熱いお菓子理論を展開するなか。
「いかん、いかん!あんなお菓子と言う名のお菓子を侮辱する砂糖の塊の事を思い出す事に時間を使うぐらいなら、愛満がプレゼントしてくれた。この『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』に集中して味わって食べるだっぺよ!」
ハッとした様子で反省しつつ。残りの『抹茶とホワイトチョコのブラウニー』を食べ。
新たにお茶のお代わりを飲もうとテーブルの上を見ると、何やら丸い蓋の付いた入れ物が置いてあり。
興味を引かれた凱希丸が蓋を開けると、万次郎茶屋で見た2種類の焼き菓子が入っていて
「あっ!何やらこの丸い入れ物の中に万次郎茶屋で見た『饅頭』や『煎餅』が入ってるだっぺよ!
食べて良いんだっぺか??
えっと、こう言う場合はアルフさんが言ってた部屋のしおり、しおりっと…………何々?このお菓子は無料の歓迎の意味を兼ねた菓子になり。ご自由にお食べ下さい、だっぺか!!
ヤッタぺ!万次郎茶屋で気になってたけど、懐事情で食べられなかった饅頭と煎餅だっぺ!
うん?けど、この饅頭、万次郎茶屋で見た饅頭と少し見た目が違うだっぺね?
まぁ、そんな事は良いだっぺ。今は新たなお菓子との出会いだっぺよ!」
部屋を使う際や、解らない時に見て下さいと番頭のアルフから渡された簡単な説明書(解りやすいようにイラスト付き)を読み。
凱希丸は、このお菓子達が無料で食べられるお菓子だと分かり。
嬉しそうにニンマリと微笑みと、早速新たなお菓子との出会いとばかりに饅頭や煎餅を食べ進めるのであった。
◇◇◇◇◇
こうして兎族のアルフ一族、タリサ、マヤラ達に続き。ドワーフ族の凱希丸、バタイと愛満、愛之助達の出会いと共に。
凱希丸の驚き連発の一日が過ぎていく。
登場人物
・愛満
茶屋を開店させたが良いが、お客さんが増えない事を気にしている。
・愛之助
タリサやマヤラ達3人で、毎日仲良く遊びや勉強、お手伝いなど充実した日々をおくっている。
・タリサ
マヤラの兄で、兎族の少年。弟のマヤラや友達の愛之助達と毎日充実した日々をおくっている。
・マヤラ
タリサの弟で、兎族の幼児。滑舌があと一歩。
・凱希丸
ドーワフ族には珍しく。髭を短く整え、お風呂好きで綺麗好きのオシャレさんなソフトマッチョなおじさん。
お酒が苦手で、大の甘党。
他にも彫刻師を生業にしていて、木材や金、銀製品などを使った置物、簪、櫛等を手作りして、相棒のバタイが引く荷馬車で移動販売しながら旅していた。
・バタイ
ウロバ=ロバのような見た目ながら、馬のようにがっしりとした体格で、頑丈な荷馬車でもスイスイ引くほどの力持ち。
凱希丸の相棒で、とても頭が良い。