野沢菜お握りとドワーフの鍛治屋さん
その日3台の荷馬車がたくさんの荷物と人を乗せ、朝倉村を目指していた。
「父ちゃん 凱希丸おじちゃんの住む朝倉村まで、あとどれくらいでつくだっぺ?」
「ちゅくだっぺ?」
凱希丸の兄で、喜多丸の末の息子の乱丸と寿丸が父親に聞く。
「そうだっぺなぁ~、昼前にはつくと思うっぺよ。」
「解ったぺ、母ちゃんに言ってくるっぺ。
後ろの霧丸兄ちゃんと仁丸兄ちゃん達が乗る荷馬車には、母ちゃんに教えてもらうっぺ。」
「もらうっぺ♪もらうっぺ♪」
「おう!2人とも頼んだっぺ。」
話ながら、そう時間はかからずに荷馬車は朝倉村にたどり着く。
◇◇◇◇◇
一方その頃 愛満達は、ドワーフの凱希丸の兄で、鍛治屋を営む兄家族が朝倉村に移住してくるとあって、軽く摘まめる物などを作り。
愛満の力を使い建てた鍛治場付きの店舗兼自宅の横の空き地に、同じく力を使い建てた。大きめのかまくら風の作りの建物室内で、炬燵で温まりながら兄家族が到着するのを待っていた。
「後どれぐらいで来るかなぁ~。楽しみだなぁ~♪」
「たのちみ!たのちみ!」
タリサとマヤラが、マリアの米菓子店で愛満が買ってきた麹のノンアルコールの甘酒を飲み、凱希丸の兄家族がいつ到着するかを嬉しそうに話す。
「楽しみでござるなぁ。凱希丸殿の話では、タリサやマヤラと年が近い子供達も居ると言っていたでござる。」
「うん!僕もマヤラも、その子に朝倉村の事いろいろ教えてあげるんだ!ねぇ~マヤラ♪」
「あい!マヤラもおちえてあげりゅの!」
「それなら拙者も教えてあげるでござるよ!」
タリサ達の話しに、何やら感動した様子の凱希丸が嬉しそうに笑い。
「タリサもマヤラも愛之助もありがとうだっぺ。
前の兄ちゃん達が住んでいた町には、乱丸と寿丸達の年が近い子供がいなかったらしく、この話を聞いたら喜ぶだっぺ。
それから愛満、今回は無理を聞いてもらって本当に助かったっぺよ。ありがとうだっぺ。」
「ううん、そんな事気にしなくて大丈夫だよ。それに僕と凱希丸さんとの仲じゃないですか、頭を上げてよ、凱希丸さん。
お礼を言うのは僕の方だよ。前から村の皆や村を訪れる冒険者の人達からの強い要望で、鍛治屋を村に招けないかと考えていたんだ。
だから凱希丸さんの話は、まさに朝倉村にしてみれば大助かりの話だったから、こちらの方が助かったよ。ありがとうございます。」
「いやいや、おらの方が助かったっぺ。ありがとうだっぺ。」
「いやいや、僕の方こそ」
愛満とドワーフの凱希丸の2人が、お礼の言い合いになっている訳は、凱希丸の兄の喜多丸が、遠く離れた町で家族と鍛治屋を営んでいたところ。
ある日 突然、町の人達に慕われた領主が急に亡くなり。
まだ若く、独身だった跡取りの居なかった領主に変わり、いつの間にか遠縁の男が新しい領主になっており。
町に住む町民達の事を考えない数々の行いに、たまりにたまった怒りが爆発した、まがった事が大嫌いな喜多丸は
『自分がこの町に招かれ鍛治屋をしているのは、亡くなった先先代領主や先代領主との約束があってからの事であり。
今の領主とは、何の約束などしていない。
よって、自分達家族は店をたたみ、この地より出ていく!』
と言い放ったそうで、他の鍛治屋を営むドワーフ族がいない新しい新手地を探してり、凱希丸の元へ相談の手紙が届き。
愛満に相談して、鍛治屋のいなかった朝倉村で、鍛治屋を営む事になったのである。
そうして、今だ終わらぬお礼合戦をしていると、山ひとつ挟んだ方向より荷馬車が見えて来る。
「凱希丸殿、あの荷馬車ではござらぬか?」
「荷馬車来た!」
「にばちゃきちゃ!にばちゃきちゃ!」
「あっ!そうだっぺ。あれは兄ちゃん家族の荷馬車だっぺ。」
荷馬車を見つけた4人が大はしゃぎで大声で叫び、手を振り騒いでいると、到着した荷馬車が4人の前で止まり。
凱希丸と似た体格の小さく丸々した筋肉質の男性や、小さくコロコロした女性、太い眉毛が可愛い幼いコロコロした子供達が荷馬車から降りてきて、嬉しそうに凱希丸に抱き付く。
「凱希丸、久しぶりだっぺ!今回は世話をかけたっぺな。
しかしこの村はすごいだっぺ!!本当に最近出来たばかりの村なのかだっぺ?」
「凱希丸、本当に久しぶりだっぺね。今回は父ちゃんのせいで世話をかけたっぺ。
それで愛満さんは、どこにいるだっぺ?私達家族を村に招いてくれたお礼を言わなければいけないっぺ。」
「叔父ちゃん、久しぶりだっぺ!」
「おいたん、ひちゃぶりだっぺ。」
凱希丸達が久しぶりの再会を喜び、お互いの近況を話をしたりして、愛満に是非ともお礼を言いたいと言う喜多丸夫婦の強い頼みから、まだまだ寒い寒空の下
その場で兄夫妻に愛満や愛之助達を紹介し、喜多丸夫婦はお礼の言葉をのべてる。
残りの荷馬車に乗っていた喜多丸の息子の霧丸夫婦や仁丸が父親の喜多丸に声をかけ。
「父ちゃん、荷馬車やウロバ達を休ませたいんだっぺが、何処に行けばいいんだっぺ。道に置きぱなしじゃ、他の人の迷惑になるっぺ。」
「それに荷物も早く下ろしてやって、コイツらの世話をしてやりたいっぺ。」
長旅で疲れたウロバ達を休ませたいと厩舎の場所を質問する。
すると話を聞いていたタリサが、トントンと仁丸の腕を軽く叩き。仁丸達の目の前にある厩舎を指差して教えてくれる。
「お兄ちゃん達の荷馬車やウロバは、目の前に建ってるお兄ちゃん達の新しい家になる、横に建ってる厩舎に休ませると良いよ。」
「………えっ!…………!!!!」
「…だ、だっぺ!?………!!!!!」
「……うぇ!!………………………!!!!!!」
自分達の目の前にある、見た事もない立派な造りの大きな一軒家を見つめ。
自分達の家とは、これポっちも考えても見なかった喜多丸達は、しばらくの間その場に呆然と立ち尽くし、言葉も出せないほど驚く。
そして、しばらくすると恐る恐る自分の頬をつねったり、頭を叩き、夢じゃない事を確認すると
「…ここ、こ、こんな立派な一軒家が俺達の家になるだっぺか!?」
「……ほ、ほ、本当に!?本当に?こんな立派な一軒家を私達が貰えるだっぺ!?」
「…ま、前の家と全然違うだっぺ。店構えも立派で格好いいだっぺ!」
「……そ、そうだっぺ、そうだっぺ!スゴ過ぎるだっぺ!!」
喜多丸達が、今まで住んでいた少し手狭に感じていた家とは全く違い。正面に見える広々した店舗部分や奥にチラッと見える加治の作業場など、奥行きのある一軒家に興奮した様子で騒ぐ。
そんな兄達家族の様子に凱希丸は嬉しそうに何度も頷き。
「本当にスゴいだっぺよな!
なんたってこの朝倉村の村長でもあり、領主でもある愛満が高度な魔法を兄ちゃん達のために使ってくれ、建ててくれたスゴい建物になるだっぺよ!そんじゃそこらの王都の魔法使いにも負けない素晴らしい造りだっぺ!
それに家の中も何度もおらにいろいろ相談したうえで、ドワーフの兄ちゃん達が使いやすいようにと考えてくれてるだっぺ!」
「そ、そんなに気を使ってくれたっぺか!」
「なんて優しい人なんだっぺ、愛満さんとは……」
愛満からの見知らぬ自分達への気遣いに喜多丸達は、感動のあまり目頭を熱くする。
「それだけじゃないっぺ!!
他にもまだまだ新婚夫婦の霧丸達のため、2人でゆっくり過ごせるようにと考えてくれ、この家とは別に敷地の一角に、5人ぐらいならのびのびと暮らせる離れの家を建ててくれたっぺ!
それにお義姉さんが欲しがって沢山の洗濯物が1度に干せ、急な雨にも対応できる屋根付きの洗濯物干場に願望していた草花を育てられる、花壇付きの庭も作ってくれたっぺ。
あっ、庭の一角には乱丸と寿丸のための最近ハマってるらしい、泥遊び変わりの砂場なる遊び場を作ってくれたっぺ!
兄ちゃん達の加治場にしても使いやすく、収納が沢山有り、片付けが苦手な兄ちゃん達でも簡単に片付けられる立派な造りの鍛冶場を造ってくれたっぺ。」
凱希丸は自分の事のように嬉しそうに兄達へと話し。
「あっ!長々とおら1人で話してすまねぇっぺ!
兄ちゃん達、長旅で腹減ってると思うだっぺが、先に新しい家の中見に行くだっぺか?それとも飯にするだっぺ?」
凱希丸がみんな疲れてるなか、長々1人で話した事を恥ずかしそうに苦笑いしながら、兄家族や甥っ子夫婦に聞く。
すると喜多丸達は先程の凱希丸の話を聞き。みんな新しい家や鍛冶場が気になり、見てみたいと話し。
凱希丸や愛之助達の案内の元、新しい家の中を見学しに行く事にする。
その間に愛満は、子供達が走り回ってもいいようにとかまくらをもう一回り大きくし。
愛満の力を使い、炬燵や座布団等を準備して、戻って来た喜多丸家族の歓迎会が直ぐにでも始められるようにと準備する。
そうして準備を終えた愛満が、しばらくその場で1人、皆が戻って来るのを待っていたところ。
興奮で顔を真っ赤にして、新しい家の事を話している喜多丸家族が戻って来て、内輪ないではあるが、喜多丸家族の歓迎会が始まるのであった。
◇◇◇◇◇
「うめっぺ~!母ちゃん、この野沢菜漬けと言う漬物で包まれたお握り旨いっぺよ!ほどよい塩味で何個でも食べれるっぺ。」
「やはりお握りは美味しいでござるね。この野沢菜漬けに包まれているのも、また特上に!豪華に見え、気分が良いでござるね♪
それにお握りには、やっぱり日本のお米が一番合うでござるよ!はぁ~~~美味しいでござる♪……日本のお米は熱々でも冷めても美味しいでござる♪お米農家さん、こんな美味しいお米ありがとうでござるよ。」
「……モグモグ………喋る暇も惜しいぐらいの止まらない旨さだっぺ!………モグモグ」
「本当に旨いっぺ!
回りに巻いてある野沢菜漬けや、中に入っている鮭や昆布の佃煮などの具材も旨いだっぺが、このツヤツヤした小さい粒の白いだけの何の変哲もない米という食べ物が、噛んでいくうちに甘味や旨味を感じれて、ついついクセになる旨さだっぺ!」
仁丸や乱丸、愛之助達が口々に野沢菜お握りを頬張り、美味しい、美味しいと野沢菜お握りの感想をのべていた。
「じゅまる、おいぎりおいちいね♪」
「うん!マヤラおいちいだっぺね♪」
すっかり仲良くなった様子のマヤラと寿丸の2人も、チビッ子サイズに小さく作ってくれた野沢菜お握りを頬張り。
微笑み合いながら美味しそうに野沢菜お握りを食べ進める。
そして喜多丸達夫妻や霧丸夫婦は、野沢菜お握りの美味しいに驚くと共に、その食べやすさに感動し。
「母ちゃん、驚きだっぺな!この野沢菜お握りという食べ物は、食べごたえがあり腹にたまっるし、片手で食べられるだっぺよ!……モグモグ……うん、うん、これは作業中の飯にピッタリな食べ物だっぺ!」
「本当だっぺね。私なら2~3個でお腹一杯になるだっぺよ。」
「父ちゃん、本当だっぺなぁ!これなら作業中でも片手にとって頬張れるっぺ。
それに回りには塩気のある葉っぱや、中に鮭や昆布などのおかずがわりになる食べ物が入っているだっぺから、あれもこれもと食べずにすみ、大助かりの食べ物だっぺ!」
「お義母さん、本当に美味しいですっぺね。この白米という穀物がふっくらとした甘味があって、美味しいですっぺ♪」
「そうだっぺね♪
あっ、そうだっぺ!せっかくだから、愛満さんにこの『野沢菜お握り』の作り方を聞いてみょうだっぺ!」
喜多丸の妻や霧丸の妻達が話し。
愛満の元へやって来て、鮭や昆布の佃煮など様々な具材を白飯で握り、野沢菜漬けで包ん込んだ『野沢菜お握り』の作り方などを質問する。
◇◇◇◇◇
「…………で、この握ったお握りを広げた野沢菜漬けで包み込んだら『野沢菜お握り』の完成になります。
それに今日は野沢菜漬けで作っていますが、野沢菜漬けの変わりに海苔や何も付けなくて塩だけやふりかけだけでも美味しいですよ。」
愛満は、残っていた白米や昆布の佃煮、野沢菜漬けを使って、喜多丸や霧丸の妻達に『野沢菜お握り』の作り方や、お握りに合う具材などを教えてあげていた。
そうしていると何処からともなくお祭り好きの朝倉村の村人達が噂を聞き付け、集まって来て。
各自が持参した沢山のごちそうや、お酒等を喜多丸家族や参加者達に振る舞いながら、自然に歓迎会に参加しており。
愛満が気がついた時には、あちらこちらで楽しそうに喜多丸家族達と食べたり飲んだり歌ったりしていたのであった。
こうして、また新たに朝倉村におにぎり好きのドワーフ家族と鍛冶屋が仲間入りする。




