和菓子『牡丹餅』と春分の日のお祭り
その日 愛満達は、村にある巨大な朝倉神社の敷地で、今日の夕方から開催される『春分の日』のお祭りの準備を竜人族で、神社関係者でもある香夢楼達8人兄弟と一緒にしていた。
◇◇◇◇◇
「愛満 お疲れ様。1人で見物席作り任せてしまって、本当にすいません。
私達の方は、子供達や村人が歌や躍りを披露する神楽殿の準備終わりました。何かお手伝い出来る事は、ありませんか?」
当日、村の人達や朝倉学園に通う子供達が思い思いの歌や踊り、合唱を発表する舞台にもなる朝倉神社内に有る建物の1つ。
神楽殿の準備を終えた香夢楼達が愛満へと声をかける。
「あっ、お疲れ様!早かったね。香夢楼達も大変だったでしょう、ありがとうね。
それに僕の方の準備も、今さっき終わったところだから大丈夫だよ!」
愛満が話し、自身の力を使い準備した。
神社の一角にある神楽や舞を奉納する神楽殿の周りをコの字に3重に囲み。地面の上にビニールシートを敷き、更にその上に厚手のふかふかした敷物が敷かれ。
温かな炬燵のテーブルや座布団、クッションなどが置かれた、寒さ対策バッチリの見物席が完成していた。
そんな愛満が1人で作り上げた見学席を見渡し。
香夢楼の弟で、兄弟達と力を合わせ『朝倉神社』や竜人族で香夢楼達と同じ色落ちでもある子供達を保護し、育てている孤児院の『白梅園』
匂い袋やお香、石鹸などの『香屋』を運営している朱志香が、愛満へと話しかけ。
「それにしてもスゴく立派な見学席だね。
こんなに寒さ対策バッチリで準備してあるなら『春分の日』の参加者達も安心して楽しめるだろうね。」
「ありがとう、朱志香。3月だけどね、まだ野外は冷えるから、せっかくの春分の日の祭りに来て、風邪なんか引いたら可哀想だと思って見物席作ってたら、この見学席が出来上がってたんだ。」
愛満が苦笑いしながら話す。すると今度は香夢楼の別の弟で、真面目な性格で数字に強く、兄弟で運営する施設やお店の金銭関係を一手に受け持っている真香が
「しかし3日前に突然、愛満が神社へと訪ねて来られ。
朝倉神社で『春分の日』のお祭りを開催したいと持ちかけられた時には、始めて神社でおこなうお祭りになりますし。
準備面や金銭面など、どうなるか事と心配しましたが、何とかかたちになって良かったです。」
「本当にそうだよね。イヒヒヒ~♪その節はお世話かけました。」
真香の話しに愛満が少しおどけて話しかけていると、香夢楼8人兄弟の中で一番明るく陽気な性格の璃知香が質問する。
「けどさぁ、愛満。そもそも『春分の日』て何だったけ?」
「あれ?お祭りの事を相談しに行った時、香夢楼達に説明しなかったけ?」
「いつの事だ?」
「3日前の夜だよ。………あっ、そっか!あの日 璃知香、白梅園の方にいたから話聞けてなかったんだ!ごめんごめん。」
3日前の夜に愛満が香夢楼達を訪ねたさい、璃知香が白梅園で子供達の世話をしていて、あの場に居なかった事を思い出し愛満が璃知香に謝る。
「『春分の日』とはね。僕の故郷では、この日を境に日の出から日の入りまでの時間(日照時間)が長くなり、日の時間が長くなるんだ。
だから昔の人達は、この日を春の訪れを祝う日として大切にしてきてね。『自然をたたえ、生物をいつくしむ日』として大切にしてきたんだよ。」
愛満が話すと今まで周りの迫害から幼い弟達を守るのに必死で生きてきて、毎日空に昇る太陽の事などこれぽっちも興味が無かった璃知香が
「へぇ~~!あの毎日朝になったら昇り、夕方になったら下がる。愛満が言う太陽とやらは、季節によってそんな違いがあったのか!全然 興味無かったから知らなかったぜ!」
「そうなんだよ、それにね。
他にも春分の日には、お墓参りをしてご先祖様を供養したり、作物の豊作を祈願したりもするんだ。
そして、僕が一番待ち遠しくて、楽しみにしてた牡丹餅を食べるんだ!」
「牡丹餅?」
「そう、牡丹餅♪僕の家では必ず『春分の日』になるとね。
婆ちゃんお手製のこし餡を使って『牡丹餅』と、粒あんを包み、きな粉と砂糖、ひとつまみの塩を混ぜ合わせた『きな粉糖』をまぶした『きな粉の牡丹餅』
きな粉の牡丹餅と同じようにきな粉糖の変わりに、黒すり胡麻と砂糖、塩をひとつまみ混ぜ合わせた『黒ごま糖』をまぶした『黒ごま牡丹餅』の3種類の牡丹餅を朝早くから作ってくれ。
家族みんなで先祖代々のお墓にお墓参り行って、仏壇にお供えしてから皆で食べていたんだ。
けどある時、牡丹餅作りの手伝いをしていて不思議に思ってね。 婆ちゃんに、なんで『春分の日』になると牡丹餅を作り、食べてるのって聞いてみたら
婆ちゃんが『牡丹餅』に使われる小豆の朱色には、邪気を払う力があるんだよって教えてくれてね。
昔の人達は、小豆を使った当時ではごちそうになる『牡丹餅』を大事なご先祖様へとお供えして
お供えした後に、家族みんなで一緒に食べていたのが、現代まで風習として伝わったんだろうと言われているんだよって、教えてくれたんだ。」
祖母の事を思い出したのか、何やら懐かしそうに祖母との思い出を交えた『春分の日』の云われを話してくれ。
「だから朝倉村でも、みんなで春の訪れをお祝いしてね。
朝倉村に住む村人達の大切な人達のお墓は無いけど、変わりに神社に手作りしたお重いっぱいの牡丹餅を神饌して
神楽殿で、村の人達がそれぞれ得意な歌や躍り、楽器等を楽しみながら奉納したら、空に飛び立った皆の大切な人達に届くんじゃないかと考え。
『春分の日』にお祭りをしょうと急に思い立ち、実行したと言う訳なんだ。」
愛満が、ある日突然思い立った『春分の日』のお祭りの訳を説明する。
すると普段は口数少なく、引っ込み思案の愛之助と仲良しの緑香が、何やらギュッと両手を握り締め。
「……………僕…………僕が愛之助達と一緒に唄ったら、お空に旅立ったお父さん先生とお母さん先生にも届く?喜んでくれる?」
真剣な表情で愛満へと質問する。
そんな緑香の姿に、常々 愛之助から緑香がいかに竜人族の中で忌み嫌われる色落ちの自分達を愛し育んでくれた。亡きお父さん先生やお母さん先生を大切に思っているのかを知っている愛満は、思わず目頭や心が熱くなるのを覚えつつ。
「………緑香、……うん!きっと緑香が届いてと思いながら心を込めて歌えば、お空に旅立ったお父さん先生にもお母さん先生にも、僕は届くと思うよ!」
優しく声をかけると、緑香の兄達である香夢楼達も緑香へと声をかけ。
「私も届くと思いますよ。きっとお父さん先生もお母さん先生も喜ぶでしょうね。」
「そうですよ、緑香。お母さん先生は特に緑香の歌声が好きでしたから、久しぶりに緑香の歌声を聞けて、泣いて喜ぶかも知れませんね。」
「そうだぜ、緑香!俺もお父さん先生もお母さん先生も、感激屋だから泣いて喜ぶと思うぜ!」
お父さん先生とお母さん先生が相次いで亡くなって以来、酷くなった迫害や差別などの影響で歌を事を辞めてしまった緑香の勇気を後押しする。
そんな皆の優しい声に、緑香は力強く頷き。神社横にある白梅園前の公園で、歌の練習をしている愛之助達の元へと走って行くのであった。
◇◇◇◇◇
「マリアさん達の魔法を使ったイリュージョンでした。
皆さん、もう一度マリアさん達に大きな拍手をお願いします。
いやー、マリアさん達の魔法を使った花のイリュージョンス綺麗でスゴかったですね。………では、次の奉納に移ります。
続いては、苺忍者隊による合唱で『苺元気100%』になります。皆さん、大きな拍手でお迎え下さい。」
美樹の上手な進行で、村人やたまたま朝倉村に来ていた冒険者も一緒になり、楽しい『春分の日』のお祭りは進んでいく。
そんな皆の楽しそうな笑顔を見ながら愛満は、万次郎茶屋が用意した。
低価格の10円で販売している『3種類の牡丹餅』や温かい飲み物の『煎茶』、『梅昆布茶』、『抹茶ミルク』
箸休めになる無料の『しば漬け』、『昆布と椎茸の佃煮』を即席のテントで、お祭り参加者達へと販売していた。
ちなみに愛満の他にも、村で飲食店を営む者達が即席テントでお店を開いてくれ。
お店で販売している商品をサイズを小さくしたり。原価がかからないように工夫したりと、各店舗でいろいろアイデアを出し合い。低価格のワンコイン(50~100円)で販売できるように考えられた。
兎族シャル家の米屋、米菓子店から『おむすび』、『日本酒』、『甘酒』、『ミニ五平餅』
エルフ族3人兄妹でパン屋を営むターハ達から『プチあんパン』、『プチジャムパン』、『プチマヨコーンパン』
ササ族黛藍の包子屋から『肉包(肉まん)』
兎族ライ家の唐揚げ店から『鶏レバーカツ』、『砂肝のピリ辛炒め』
兎族サナ家の卵屋と厚焼き玉子店から『卵スープ』、『玉子焼き』
兎族リメルのプリン専門店から『プリン』
兎族レム家の八百屋から『苺の盛り合わせ』
兎族エルピコの恵み店から『蒸しキャベツの餡掛け』、『フライドポテト』
狐族青那の袋屋から『チキンラーメンご飯』
ケンタウルス族の鉄板屋から『ねぎ焼き』
ケンタウルス族のジュース屋から『苺ジュース』
ケンタウルス族のヤマト夫婦と妖精族のササナが営む純喫茶から『苺のトライフル』
等々の沢山の食べ物達になる。
「はぁ~準備は大変だったけど、皆の笑顔をこうして見ると改めて開催して良かったと思えるよ。
それにいつもは人前に出たがらない緑香も楽しそうに歌ってる姿も見れたし、コレは来年もやらなくちゃね!」
愛満が1人満足そうに大きく頷くのであった。
◇◇◇◇◇
そうして、神楽殿のまわりから人には見えないキラキラ輝く沢山の光の粒が空に舞い上がり。朝倉村がある山全体を優しく包み込んでいた。




