和菓子『人参カステラ』と「あかねご飯」の、モグモグ兎さん
その日 愛満と愛之助の2人は、何やら朝早くから、いつもよりかなりの念の入れようで、黙々と茶屋内の掃除をしたり。
意味もなく何度も茶屋の出入口の扉を開け、外の様子を確認したりと、いつになくソワソワした様子で、いつ訪れるか分からないお客様の来店を首を長くしてお待ちしていた。
「愛之助、愛之助!僕の格好おかしな所ない?」
明らかに緊張しまくりの様子の愛満は、本日何度目かになる服装等を含めた身だしなみチェックを愛之助に頼み。
そんな愛満からのお願いに、つい5分前に服装&身だしなみチェックをしてあげた愛之助は、嫌な顔ひとつせず。二つ返事で了解してくれ。
見落としがないよう、頭の先から足元まで、じっくり愛満の服や髪型、爪の先までチェックした後
「………………う~ん、そうでござるね、…………まず始めに今日の髪型は、いつものように寝癖もなく綺麗に整えられているでござろう。
で、次に手や爪も綺麗に整えられていており。これもバッチグーのオッケーでござるし。
肝心の服装にしても清潔感のある白シャツにカットソー素材のグレーのベストを合わせでござるね。そこにネイビー地のストライプ柄のテーパードパンツをはき、…………うんうん!さすが拙者の兄者、愛満でござるよ。
全体的に清潔感が溢れていてでござるね。見た者が皆、愛満に好印象を持てる装いでござるよ!
愛満、愛満!ところで拙者の装いはどうでござるか?おかしな所などないでござるか?」
最近メキメキとファッション関係に詳しくなった愛之助が、本日の愛満の装いに満面の笑みでオッケーサインを出してくれ。
何やら愛満の緊張感が移ったのか、自身の装いもチェックしてほしいとお願いして
「ありがとう、愛之助。愛之助にそう言ってもらって安心したよ。
じゃあ、次は愛之助の装いを確認するね。………………まぁ、と言っても愛之助みたいにファッションセンスはあんまりないからアレだけど、…………僕に任せて任せて!
…………えっと、…まず今日愛之助が着ている上の服が、白の?」
「ホワイトでござるよ、愛満」
「あっ、そうそう。へへへ~♪、白じゃなくてホワイトだね。
で、そのホワイトの袖レースがついた……カ、」
「カットソー素材でござるよ。」
「そうそう!そのカットソー素材の紫じゃなくて、………ラベンダー色でしょう!どう?当たってる?」
「スゴいでござるよ、愛満!そうそう、ラベンダー色でござるよ!」
「ムフフフフ~♪でしょでしょ!
で、ラベンダー君の、マイ○ロちゃんのイラストが描かれたトレーナーに、下のズボンが白地の」
「愛満、白地ではなくオフホワイト地でござるよ。」
「あっ、今は白地じゃなくオフホワイト地て言うんだ。いろいろと横文字に進化しちゃったんだね。お爺ちゃんの僕には難しいや………。
まぁ、それは言いとして、そんなオフホワイト地に縦縞、…じゃなくて、…………ちょっと待ってよ。ここまで出かかってるから、……………う~んと確か、この前愛之助が見てた雑誌に書いていたような、……ないような…………。
あっ、ストライプだ!そうそう縦縞の事を今はストライプって言うんだったね。
で、縦縞改めてストライプ柄のズボンじゃなくて、…………えっと確か、さっき愛之助が言ってた、…そうそう!テーパードパンツだっけ?
そんなテーパードパンツがオシャレにコーディネートされていて………うんうん!大丈夫大丈夫!今日も愛之助に良く似合った素敵な装いになってるよ。」
「本当でござるか!ありがとうでござるよ、愛満!」
「いえいえ、どういたしまして、……………それより僕の方こそ、いろいろとありがとね、愛之助。」
ファッション関係には、かなり疎くなってしまう愛満が苦笑いを浮かべながら、いろいろと助けてくれた愛之助に感謝の言葉を伝えつつ。
「あっ!それより愛之助。今日の髪型ツインテールにしたんだね。良く似合ってるよ。」
いつもは若侍風なポニーテールにしている事が多い愛之助が、今日はツインテールにしている事に気付き。その事を愛満が似合っていると誉めた所。
「あっ!気付いてくれたでござるか愛満。
実はでござるね。この髪型、可愛らしいタリサとマヤラのウサ耳を真似してでござるね。少しでも似せようとツインテールにしてみたでござるよ!
とうでござる?タリサ達のウサ耳に少し似てはおらぬでござるか?」
愛満に自身がコーディネートした装いを含め。タリサ達のウサ耳を真似して自分で結ったツインテールの髪型を誉められ嬉しそうな愛之助は、ツインテールの髪型を指差しながら、タリサやマヤラ達の頭に生えているウサ耳に似ていないかと聞き。
「あっ、タリサやマヤラのウサ耳を真似してたんだ。
うんうん、その髪型、愛之助に良く似合ってるし。タリサやマヤラ達のウサ耳にも何処と無く似てるね。可愛い可愛い!」
すっかり愛之助のお兄ちゃん気分の愛満は、タリサとマヤラのウサ耳に『似てる似てる』と上機嫌のなか弟の愛之助を誉めてあげ。
自分が着たいと思う服を着るのが一番だと常々考え。またこの短期間の中、弟馬鹿にすっかりなってしまっている愛満しか居らず。自身の欲望を止めてくれる人の居らぬ愛之助は、日に日にガーリー路線へと一直線なのであった。
◇◇◇◇◇
そんなこんなしながら、愛満達が本日お招きしたお客様の到着を待っていると『チリ~ン、チリ~ン』と茶屋の扉のベルが鳴り。
扉から真っ白なウサ耳がチラッと見えた、次の瞬間
「愛満!愛之助!タリサが遊びに来たよ~!」
「マヤラもきちゃよ~!」
今日も元気良く、タリサとマヤラの2人が万次郎茶屋内へ飛び込んで来る。
そして少し遅れて、頭に真っ白なウサ耳の生えた。小柄な体型でいて、糸目の優しそうな年配の男性を始め。
真っ黒なウサ耳が生え。グラマラスな体型と共に口元の黒子がセクシーな。年配と言うか、年齢不詳の美魔女のような女性に加え。
灰色のウサ耳が頭に生え。最初の年配男性とはかなり対称的な、筋肉ムキムキの40代前半の男性達3人が立っており。
愛満と目があった年配男性が深々と頭を下げ。
「おはようございます。
私タリサとマヤラの父親、アルフと言いまして、横に居りますのが妻のアコラ、その隣が長男のルクチになります。
昨日はタリサとマヤラが大変お世話になったようで、更には珍しい和菓子というお土産まで頂き。本当にありがとうございます。
それで、…………タリサが預かった手紙を読んだのですが、………私達には大変有難い話になるのですが、………本当に良ろしいのでしょうか?」
大変緊張した様子のタリサとマヤラの父親になるアルフが愛満達へと挨拶し。
まずはタリサ達が昨日お世話になったお礼の言葉や持たせてくれた沢山のお土産等の事に感謝の言葉を述べつつ。
どこか半信半疑の様子で、途中言葉をつまらせながら、昨日タリサから受け取った。
愛満からの手紙の内容を確認するかのように少々矢継ぎ早ではあるのだが、改めて愛満達へと手紙の内容に間違いがないかと質問してきて
夫アルフの隣で、夫の話を黙って聞いていた妻のアコラが突然、我慢できない様子で話し始め。夫アルフの言葉に付け加えるように
「夫の話の途中ですが、私からもお礼の言葉を言わせて下さい。
ここ最近の事情で子供や孫達にお腹一杯食べさせる事が出来ず。親として情けない思いの日々でした。
しかし昨日こちらから帰って来たタリサやマヤラの2人が、いつになく楽しそうに愛満さんや愛之助さん達2人に優しくしてもらったと教えてくれ。
更には見た事もない美味しい和菓子と言う甘いお菓子やご飯をタダで、お腹一杯食べさせてもらったとも聞きました。
親として感謝の言葉しかありません。ありがとうございます、本当にありがとうございます。
………………そして恥ずかしい事なのですが、今の私達には何かお礼をお返しする事も出来ず。本当に心苦しいでばかりです。」
潤んだ瞳を真っ赤にしながら頭を下げ。愛満達へとお礼の言葉を述べて、最後には3人で深々と頭を下げる。
そんなアコラ達の姿に、若輩者の自分達に深々と頭を下げる彼らの今の現状や心情等を察すると共に心苦しく。
「えっ!いや、そんな、…………そんなそんな!
僕達そんなたいした事なんて全然してないですし。逆にタリサ達に癒されたぐらいで、…………気にしなくて大丈夫ですよ。ねぇ愛之助。」
「そ、そうでござるよ!拙者達は当たり前の事をしただけでござる。
だからアルフ殿もアコラ殿、ルクチ殿も頭を上げてほしいでござるよ!
それに拙者達とタリサ、マヤラは、すでに大切な心の友になったでござるし。だから友の間に遠慮は要らぬでござるよ。ねぇ愛満。」
「そ、そうなんですよ!
だからアルフさんもアコラさん、ルクチさんも頭を上げて下さい。」
自分達より年上の人達に頭を下げさせてしまった事に軽くテンパりながら、愛満と愛之助の2人は『頭を下げてもらう事などしてないですよ』と慌てて止めに入り。
逆に必死にお願いしてアコラ達に頭を上げてもらう。
そうしてその後、頭を上げたアルフ達3人と少し話。手紙の内容に間違いがない事を説明して、早速アルフ達の職場となる『風呂屋』を見てみたいとのアルフ達からの強い要望に答え。
愛満達は神社へ続く並木道を挟んだ隣に建つ『風呂屋』へと、タリサやマヤラを交え。アルフ達3人を案内するのであった。
◇◇◇◇◇
「到着しました。ここがアルフさん達に働いてもらう事になる風呂屋です。
……………えっと、それじゃあ。まずは建物内の説明から始めますね。
一応建物内は土足禁止になっておりますので、ココで靴を脱ぎ。こちらの靴箱に靴を入れ。鍵代わりの鍵板を無くさないように持っていて下さいね。」
少し歩いて風呂屋に着いた愛満達は、さっそくアルフ達の職場になる風呂屋内を案内しつつ。
アルフ達にやってもらいたい風呂屋の『受付業務』や『店内の接客・清掃』等の仕事を説明し。
追々で良いので、出来ればアルフ達にやってもらいたいと考えている。
風呂屋内ならば、風呂屋内建物に3ヶ所在る。内装の違う『食事処(食堂)』の経営&調理や接客。
風呂屋内に2ヶ所在る。土産品等を販売する『売店コーナー』の接客、販売。
風呂と共に利用出来る。風呂屋内にある『宿泊室』の接客・清掃に加え。
風呂屋外の仕事になる。風呂屋から少々離れた所に建つ。温熱を利用した家畜(鶏のような生き物)の世話と共に食用の鶏肉、卵の管理を含めた『養鶏場』の飼育と経営。
風呂屋内に在る飲食店や、これから村で暮らす事になるアルフ達が食す事になる。
地熱を利用した村の畑で生産される予定の。野菜や果実等の世話係になる。畑仕事を主に行う『野菜農家』を始め。村に在る果樹園の管理、生産を主に行う『果樹農家』等々。
生産から商品管理等の多岐にわたる仕事内容を職場になる仕事場を紹介がてら軽く回りつつ。途中、愛満達はアルフ達からの質問に丁寧に答えながら説明して周り。
一番大事なお知らせで、基本お風呂やサウナ・風呂屋店内等の温度や温泉水の管理は、風呂屋に住む妖精達がやってくれている事。
風呂屋内にある妖精達の休憩所兼食堂・寝床でもある果樹園には、思い思いに寛いでる妖精達が沢山居り。
中には人見知りの妖精の子や臆病な妖精の子も居る為。
妖精達がアルフ達に慣れるまでは、むやみやたらに休憩所になる果樹園に近付き。妖精達をビックリさせたり、驚かせないようにとも頼み。
他にも悪戯大好きな、悪戯っ子の妖精も中には居る為。
悪戯されないように気を付けてと、すでに何度か悪戯っ子からの先例を受けた事の有る愛満が苦笑いを浮かべながらアルフ達に話。
また悪戯が酷い時には普段、風呂屋内に居る妖精達を一手にまとめてくれている。『湯』と書かれた法被を着た。妖精達のボス的存在の妖精に相談するか、自分に言って下さいと伝え。
この後、風呂屋で働いてくれる事になる。アルフ達兎族一族の人達は基本風呂屋の風呂、サウナ等を無料で利用できる『無料パスカード』を手渡す事等を説明した。
◇◇◇◇◇
そうしてアルフ達が満足するまで風呂屋内や養鶏場、広大な畑、果樹園等の案内や説明を終えた愛満達は、次に今日一番の目玉になる。
タリサ達、アルフ一族に住んでもらう予定の場所へと案内。
【ちなみに今から案内する場所は、愛満と愛之助の2人が風呂屋近くに昨日の夜に不眠不休でヘロヘロになるまで、自身達の力を使いまくって造った住居になり。
タリサ達の為にと、自身渾身の力作になる住宅街を造り上げていた。】
まずアルフ達を案内しながら、風呂屋から住宅街まで続く道並みの懲りに懲りまくった。
美しい風景を生み出す両脇の竹林の中に、石畳道が緩いカーブを描きながら伸び。
暗くなってくると、その脇を竹に見立てたランプが独りでに光り始め。石畳道を幻想的に照らし出す風景は、また後日の楽しみに取っておくとして
今は自然溢れる午前中の日があるうちにしか楽しめない石畳道の美しい風景にアルフ達が心を奪われるなか。
竹林の石畳道をアルフ達が歩き抜けると、そこにはアルフ達が見た事もない。
高度な技や沢山の木材を贅沢に使用した。美しい外見の立派な木造一軒家の家々が建ち並んでおり。
【愛満達大力作の、まるで祇園花見小路風な美しい街並みに仕上げた。ちょっとした観光名所になりそうな住宅街になっていた。】
そんな初めて目にする美しい街並みや外見に
しばし言葉がでないアルフとアコラ、ルクチ、タリサ、マヤラ達兎族の5人は、呆然と立ち尽くし。知らず知らずのうちに感動の涙を流し。
そんなアルフ達の姿を見ながら愛満と愛之助の2人は、5人の驚いた顔や喜んでくれている様子に『昨日夜遅くまで頑張ったかいがあったね』とお互いの頑張りを褒め称えるのであった。
そうして一通りの案内をしなくてはいけない場所を見て回った7人は、お昼の時間が近くなり。
お腹を空かせた様子のタリサとマヤラの事を考え。お昼ご飯を食べに万次郎茶屋へと戻って行く。
◇◇◇◇◇
万次郎茶屋に戻って来たアルフ達大人組は、茶屋に戻って来てからも、まだ先ほど見た美しい光景の数々が頭から離れず。
今だ夢見心地のなかボッーとしつつ。大きなため息をついていた。
「…………ハァ~~~……………」
「……フゥ~~~~……………………………」
「…………………………ホォ~~~~…………」
すると何処からともなく香ってくる。お腹を刺激する匂いの基が気になり出し始め。
匂いの基を探すうち、だんだん意識がハッキリしていき。
辺りをキョロキョロしていると、いつの間にか自分達の座る。目の前のテーブル一杯に色鮮やかで、見た事もないような美味しそうな料理の数々が並んでいる事に気付き。
「愛之助さん、お寛ぎの所申し訳ないのですが、この料理の数々は何ですか?誰かお偉い方々でも来るんですか?」
驚いたアルフは、目の前に座る愛之助へと失礼になるのかも知れないと思いつつも、思わずこの料理の数々は何なのかを聞いてしまう。
するとそんなアルフの質問に、何やら実に申し訳なさそうに頭を下げた愛之助が
「あっ!アルフさん達、気付いたでござるか?
良かったでござる、良かったでござる!
先程から話し掛けてもボンヤリした様子であったでござるから、拙者も愛満も歩き回って体調でも悪くしたのかと心配してたでござるよ!あ~ぁ、本当に良かったでござる♪
あっ、それからこの料理でござるね。
この料理は、愛満がアルフさん達をおもてなしする為に作った料理でござるよ。
あっ、けれどもう暫くしたら最後の料理を持って愛満が戻ってくるでござるから、お腹を空かせた所、本当に申し訳ないでござるが、今暫く待っていてほしいでござるよ。」
「えっ!そうなのですか!?それは何と言うか、申し訳ありません。
それに私達の為に、こんな沢山の豪華な料理まで、…………本当にありがとうございます。
それに私達でしたら何時間でも待ておけますので、本当に気になさらずに大丈夫ですよ。」
愛之助の話にアルフは答えながらも、その瞳は正直で、目の前に置かれた。お腹を刺激する美味しそうな匂いと共にモクモクと白い湯気を上げる料理達に目は釘付けなのであった。
そうしていると店の奥から大きな土鍋を持った愛満が戻って来て
「すいません。お待たせしちゃいましたね。お腹減ったでしょう。
じゃ、料理が冷めないうちに早速、アルフさん達の歓迎会を兼ねたお昼ご飯を食べましょうか。」
今だ料理に目が釘付けなアルフ達に声をかけ。
昨日愛満に習ってから、すっかり気に入った様子のタリサ、マヤラ号令の下。皆で食事の挨拶をして、各々が気になった料理に手を伸ばし。初めて口にする食事に舌鼓を打つなか。
皆が料理を食べ始めたのを確認した愛満は、邪魔にならないようにテーブルの端に置いておいた土鍋の蓋を開け。
モクモクと白い湯気上がるご飯の中にバターを加え。豪快に杓文字で混ぜ合わせると、みじん切りした人参とコンソメスープで炊き上げた『あかねご飯』を完成させ。
人数分のお茶碗に好みの量を聞きながら、土鍋の中の『あかねご飯』を注ぎ。
一人一人に出来立ての『あかねご飯』入りのお茶碗を手渡して行くのであった。
◇◇◇◇◇
その後、テーブルの上にあった全ての料理を食べつくしたアルフとアコラ、ルクチの3人は、愛之助が淹れてくれた。
ほのかな甘味と渋味が癖になる美味しい緑茶と、お茶請けの『甘納豆』と言う。小粒で甘い、砂糖がまぶされた黒い豆を食べながら、久しぶりに感じた満腹感の余韻に浸っていた。
と言うのも、いつもは幼い子供達や成長期な子供達にお腹一杯とは言わないものの。
少しでもひもじい思いをさせたくない一心で、自分達の食べる量を減らし。子供達へと分け与え、我慢する事が多かった為。
「ハァ~~~~♪あの小さく切られた人参という野菜と、白い米と言う穀物をコンソメスープと言う汁で炊いたらしい『あかねご飯』は実に旨かったねぇ~……………。」
何やら先ほど食べた人参を使用した『あかねご飯』の美味しさを思い出した様子のアルフが、ついポロリと先ほど食べた料理の中で、自身が一番気に入った料理の感想を溢してしまう。
するとそんなアルフの隣で、お茶請けの『甘納豆』を食べながら寛いでいたアコラも
「あら、あなたは『あかねご飯』が気に入ったのね。………そうね、沢山お代わりしてたものね。
う~ん、『あかねご飯』ねぇ~……そうね、私はどちらかと言うと、穴が開いて歯ごたえのある食感の蓮根と言う野菜や、ゴボウと言う野菜が入っていた。甘めな味付けの『筑前煮』と言う煮物料理がスゴく美味しかったわ。
あまりの美味しさに夢中になって、気がつけば1人で大皿半分以上の量を食べてしまってたいたもの。」
歯触りや食感が気に入った蓮根やゴボウ等の根菜類が豊富に使用され、煮込まれた『筑前煮』を気に入り。沢山食べ過ぎたと恥ずかしそうに照れ笑いしながら話し。
アコラの隣に座っているルクチも
「俺は『鶏団子の照り焼き』という料理が旨かったな。
そのまま食っても旨かったが、温泉卵というヤツを絡めて食ったらもっと旨くなると愛之助に進められさぁ~。試しに食ってみたら、本当に旨くなって驚いたよ!
…………ハァ~~~…………それと共にさぁ。出来る事ならアッチに留守番させてる妻や子供達、兄妹達にも食わせてやりたいともしみじみ思ったよ。
アレなら家のチビ達も串に刺さっていたから、自分で串を持って食いやすいだろうし。甘めの味付けで食も進むだろうなぁ~………………。」
何やら洞窟に留守番させてきた妻や子供、兄妹やその家族の事を思い出した様子でしみじみ語り。
洞窟に留守番させてきた妻や子供達があの料理を食べたらどんなに驚き、喜ぶかを思い浮かべる。
そんなルクチの話に、これ以上愛満や愛之助の好意に甘え。無理を言うのは悪いと考え。
料理を食べている間、洞窟に残してきた家族や一族の皆の事を考えないようにしていたアルフやアコラも
「そうだね。あんなに美味しい料理、この先いつ食べれるか解らないから、残してきたあの子達にも食べさせてやりたかったね。
ゴメンよ、ルクチ。お父さんがいらない事を口にしたばかりに、お前にツラい事を考えさせてしまったね。」
「いいえ、あなた。私もよ。ルクチ、ゴメンね。
帰ったら昨日山で採取した山菜や、また山に狩りに出て、皆に何か栄養がつく物作ってあげましょうね。」
「あっ、いやいや!そんな意味で言った訳じゃないんだよ。
だから親父もお袋も変に気にしなくて大丈夫だから!」
アルフ達がルクチを慰めるように声をかけ。ルクチが慌てた様子で両親を気遣っていた所。
母親アコラの話の途中で席を外し。何処からか戻って来て、ニヤニヤした様子のタリサとマヤラの2人が元気良く。
「あのね、あのね!タリサは『人参カステラ』が一番美味しかったよ。」
「マヤラもにんにんカチュテラがおいちかった!」
先ほど食べた料理の中に無かった料理名を言い始め。
その料理名に。初めて目にする彩り鮮やかな料理の数々を前に、少々興奮気味に愛満や愛之助達へと料理の事を質問したアルフやアコラ達の記憶には無かったはずだと不思議に思い。
アルフがタリサとマヤラへと、それはどこで食べたのかと聞けば、さっき愛満の片付けの手伝いに台所に行ったさい。カステラの切れ端を食べさせて貰ったんだと教えてくれる。
そうするとあんなに美味しかった料理の数々に、その料理も絶対美味しいはずだと気になって仕方ないアルフ達は、先ほどまでの落ち込んでいた様子が嘘のよう。
タリサとマヤラの2人に、その『人参カステラ』とやらは、どんな味で、どんな見た目だっのかと質問するのだが
「甘くてね、しっとりしてた!」
「うんうん!ちっとりちてた!」
「後はねぇ~、確かご飯に入ってたオレンジ色の粒々したのがカステラの生地の中に入っていたと思う。」
「にんにんはいってちゃた!」
「あっ!それに食べた時に底の部分がジャリジャリして甘いのがついてた!」
「しょうしょう!ジャリジャリちておいちかった!」
「それにスゴく大きくてね。おっきい四角の形のこんな形をしていてね。それを愛満が切り分けてたの!」
「マヤラのかおより、ちゅご~~~くおっきかちゃの~!」
等の身振り手振り付きでは有るものの。
小さな子供の説明では、料理のイメージがなかなか掴めず。アルフ達は首をかしげるばかりで苦笑いするしかなく。
特に人参を使用した料理に熱い思い入れが有るアルフは、人参を使用したお菓子ながら全貌が掴めず、実に残念がり。
家に帰りついたその時まで、そのお菓子の事が忘れられず。どんなお菓子なのかと考える事になるのであった。
◇◇◇◇◇
そうしてその後、その疑問は洞窟に帰り着き。
アルフ達大感謝のなか。愛満と愛之助が持たせてくれた大量のお土産の箱の1つを開け。
箱一杯に詰め込まれた『人参カステラ』をタリサとマヤラの3人で一緒に見た瞬間。謎は無事に解け。
「あっ!お父さんコレ!コレコレ!コレが『人参カステラ』だよ!」
「ちょうちょう。
とうたん、こりぇがにんにんカチュテリャよ!」
「ほぉ~、これがタリサとマヤラが美味しいと言っていた『人参カステラ』ですか。
どれ、ちょっと3人で味見してみましょうかね。」
『人参カステラ』の事が気になって気になって仕方がなかったアルフは、やっと謎が解け。
早速味見としょうして、タリサ、マヤラの3人で並び。
ちょびっとだけと口で言いつつ。切り分けられた『人参カステラ』をコッソリと3人で食べ始め。
「お、美味しい!なんて美味しいんでしょう!
タリサが言っていた通り。あの『あかねご飯』にも使用されていた人参という野菜が入っていて、生地はしっとりふんわりとした軽い口当たりに、底のジャリジャリした食感が甘くて面白くて………う~~ん、これは癖になる美味しさですね。」
余りの美味しさに手に持っていた残りの『人参カステラ』を一気に食べ終えてしまい。
箱一杯に詰め込まれた『人参カステラ』を熱い瞳で見つめつつも断腸の思いで蓋をして、カステラを箱に直し。
美味しかった『人参カステラ』を忘れるよう、愛満達からの別の土産のお茶の葉を使用した『緑茶』を飲みながら
「…………ハァ~~、それにしてもこの『緑茶』と言うお茶は美味しいですね。
……ゴクゴク……うんうん、美味しい。
そうそう、この美味しい『緑茶』と言えば。見た事も食べた事もない美味しそうな食べ物達が、あの場所で暮らしていれば気軽に食べれるなんて、………まるで夢のようです。」
先程食べた少々珍しい見た目の美味しい料理の数々を思い出した様子で幸せそうに微笑み。
何やら思い出した様子で、更に笑みを深めて
「それにしても明日からは忙しくなりそうですね。
まず初めに明日は家族みんなで愛満さん達の暮らす、あの場所へと引っ越し作業をするとして、その後それぞれにあった仕事の振り分け等々。
ほぉ~~、………今から考えるだけで、本当に大忙しな日々が少し続きそうな気がしますね。
しかし、けれどそれと共に楽しみでもあります!
うんうん!これは私の直感ですが、きっと素晴らしい毎日がこれから私達に訪れるでしょう!」
「うんうん!訪れる、訪れる♪」
「ちょうちょう!
きっちょ、ちゅばらちいまいにちににゃるね♪」
明日からの夢と希望と美味しい食べ物に溢れる事になる3人の1日は過ぎていくのであった。
「……………うむ、やっぱりもう一つだけ『人参カステラ』味見しちゃいますかね。」
「あっ!お父さんズルい!タリサも、もう一つ『人参カステラ』食べる!」
「マヤラも!マヤラも!」
登場人物
・愛満
今回 万次郎茶屋を訪れるタリサ達家族の為。いろいろと準備して、緊張した面持ちで待っているご様子
・愛之助
今回、自分なりにココ一番のお洒落な服装に身を包み
大好きなマ○メロちゃん達に似たタリサ達家族を茶屋へと迎える為。茶屋付近の掃除を頑張ったご様子
・タリサ
兎族の6才の男の子
・マヤラ
兎族の3才の男の子、タリサの弟
・アルフ
タリサとマヤラの父親
真っ白なうさ耳の生えた小柄で、糸目の優しそうな年配男性
物腰が柔らかく、何やら愛満お手製のカステラがお気に召したご様子
・アコラ
タリサとマヤラの母親
真っ黒なうさ耳のグラマラスな体型で、口元の黒子がセクシーな年配女性
一見派手な容姿ながら頭が引く。物腰も柔らかく、子供思いの優しき母親
・ルクチ
タリサとマヤラの兄にしてアルフ家長男
灰色うさ耳の筋肉ムキムキの40代前半のしっかり者で、働き者の家族思いの心優しき男性