和洋菓子『豆パイ』と兎族のアコラと助産師
リーフ達が教鞭をとる朝倉学園が無事開校し。
兎族やコプリ族、竜人族、ケットシー族などの子供達が毎日の給食や勉強、友達と遊ぶ事などを楽しみに元気良く学園に通ってくれ。
今のところ何の問題もなく。幸先良く、日々学園は子供達の幸せを第一にと考え廻っていた。
◇◇◇◇◇
そしてその日の万次郎茶屋でもタリサとマヤラの2人が、いつものように元気良く。
「愛満、愛之助、おはよう。タリサがやって来たよ!それに愛満から頼まれた母ちゃんも一緒に連れて来たよ。」
「よしみちゅ、あいのちゅけ、おはよう!マヤラもきちゃよ!かあたんもいっちょじゃよ。」
今日も気持ちが良く清々しい朝の挨拶を口にしながら、愛満が今日2人が家へと帰る時『明日大事な話が有るから、万次郎茶屋に一緒に来てね』と、お願いしてあった。2人の母親アコラを連れてやって来る。
「あっ、タリサとマヤラだ。おはよう。
それにアコラさんもおはようございます。今日はわざわざすいません。来てくれてありがとうございます。
それに2人ともアコラさんを茶屋まで連れてきてくれてありがとね。」
2人に朝の挨拶を返しつつ。タリサとマヤラの2人にアコラを茶屋へと連れて来てくれた事にお礼の言葉を伝える。
そんな愛満からの感謝の言葉にタリサは照れくさそうにハニカミながら
「ううん!お礼なんて言わなくても大丈夫だよ。
それにね。逆に僕達の方が、最近忙しそうにしてた母さんと万次郎茶屋に来るまでの間、久しぶりにターーァクサンお喋り出来たからお礼を言いたいぐらいだよ。………………エッヘヘヘ~♪ありがとね、愛満。」
少々進士な的な話をして、万次郎茶屋で愛之助や愛満達から勉強などを学ぶ変わり。
朝倉学園に通う事が免除される事になったタリサは、ミニ黒板や勉強ドリル等を準備してタリサを待つ愛之助の元へと。背中に背負ったランドセルをガチャガチャ鳴らしながら、嬉しそうにスキップをして茶屋内のタリサ達の指定席になっている。小上がりへと移動して行く。
すりとその場には、まだ勉強をしなくても良いタリサの幼い弟、マヤラ1人が残され。
勉強するため愛之助が待つ小上がりへとスキップしながら歩いて行く兄のタリサを少し寂しそうに見送り。
勉強の邪魔をしてはいけないし。どうして良いか解らないのかマヤラは立ち尽くす。そんな様子のマヤラを前に、愛満は
「あっ、そうだ。ごめんごめんマヤラ。僕、コロッと忘れてた。
あのね。タリサはああして、これから毎日僕や愛之助に習って勉強しなくてはいけないんだけどね。
マヤラにも大切なお勉強の宿題があってね。マヤラの大好きなお絵描きを使って。
このお絵描き帳絵日記にマヤラが前の日に過ごして楽しかった事や嬉しかった事を描いていってほしいんだ。………どう?出来る?」
タリサがこれから愛之助と茶屋で勉強する事で、マヤラが仲間外れにされていると思うのではないかと心配した愛満と愛之助が話し合い。幼いマヤラでも出来る事と、考えた結果。
前日の楽しかった事や嬉しかった事を愛満達が準備した絵日記に描いていくという事を考え出し。
その事を今思い出したふりをしながら愛満がマヤラに伝える。
「えっ!!いいにょ?
マヤラ、にいたんのべんきょうのじゃまににゃらない?」
愛満の話にマヤラが驚きつつも嬉しそうに声を弾ませ話。
「うん、そんな事ならないよ。それにマヤラがちゃんとタリサの勉強の邪魔をしちゃいけないと考えてるんだがら、そんな心配しなくても大丈夫だよ。」
タリサの勉強の邪魔にならないかと心配するマヤラへと愛満が大丈夫だよと太鼓判を押してあげ。
愛満の話し声に、愛之助と一緒に弟のマヤラを迎えに来てくれた兄のタリサと仲良く手を繋ぎ。3人は茶屋内での指定席になってきている小上がりへと仲良く移動して行く。
そんな仲の良いタリサ達を微笑みと共に愛満が見送っていると。愛満に呼ばれ万次郎茶屋へとやって来たアコラが、遠慮した様子でオズオズと愛満へと話しかける。
「あ、あのう~~、愛満おはよう。
タリサ達から私に何か話があると聞いて来たんだけど、…………あの子達や家の夫に何かあった?」
「あっ!!アコラさん おはようございます。す、すいませ~~ん!本当にごめんなさい!
わざわざ茶屋まで来てもらったのに、すっかりお待たせしてしまって忙しいんでしょう?本当、ごめんなさい。」
アコラだって忙しいだろうに、自分がわざわざ茶屋まで呼び出しておいてほったらかしにしていた事に愛満は、何度も何度も頭を下げて謝罪し。
すっかり気心知れた中なので、今では敬語を使わない関係ながら、少々テンパってる為。敬語や普段語がごちゃ混ぜになりながら話を続け。
「あっ、そうだ。実はですね。今日はアコラさんに、ちょっと折り入って相談があって………………あっ!その前に立ち話もなんだから席に座って下さい。どうぞどうぞ!
そうそう!それからアコラさんが好きな『黒豆茶』やお茶菓子を準備してたんですよ。すぐ持って来るね!」
愛満は前もって準備していた。アコラが最近好んで飲んでいる『黒豆茶』や茶菓子を振る舞い。
ここしばらく真剣に悩んでいた。
この世界での妊娠や出産の事、今現在の朝倉村での妊娠や出産の現状、それに伴う自分の考え。
そしてアコラが知るこの世界での妊娠、出産の現状などを質問し。自身の胸のうちを正直にアコラに伝えようと頑張って話し。
「……と、医者であるリサさんにも承諾を得て。
リサさんの病院横に、妊娠から出産まで全面的に手助け出来る産婦人科医院を建てたんだ。
だからそれに伴い、誰かお産や子育てに慣れていて。尚且つ『助産師』として働いてくれる人を探していて……………。
僕、男になるから女性の体の事なんか良く解んないんだけど、………………それでもそんな妊婦さんや、女性特有の病気で苦しんでる人の心に寄り添い、手助け出来る人を村に招きたいと真剣に考えているんだ。」
話しているうちに力が入り。声も大きくなり、額から汗が流れてくる中。愛満は自身の考えを話続け。
「それにせっかく何かの縁あって朝倉村に住んでくれた。そんな村人達の妊娠から出産までを安心して過ごしてもらいたいし。
家族皆が待ち望む大切な赤ちゃんを安心安全な清潔な環境や場所で産んでもらいたいんだ。
他にも戦争や様々な事情で片親になってしまった人や、血の繋がらない子供達を無償の愛で育てている人達の子育てを支援、手助けしたいたとも思ってる。
女性特有の病気で苦しんでる人にしても痛みを取り除いてあげたり。心に寄り添うような手厚いケアをしてあげたい。
……………はっきり言って、こんな若僧の僕なんて役に立たないと思う。
けどね、こんな僕でも妊婦さんや女性特有の病気で苦しんでる人を手助け出来る場所を創る事や、同じ考えを持つ仲間を集める事は出来ると思うんだ。
だから僕はそんな僕と同じ考えを持つ仲間を集めて、万全の体制で手助け出来る場所を造り上げたいんだよ。
アコラさんはどう思う?絶対に妊娠から出産までを手助けするための病院は必要だと思うよね!
……………………って、やっぱり、こんな僕の甘チョロイ考えじゃ無理だと思うよね。
ハハハハー、そうだよね。絵空事ばかりで中身がなくてダメダメだよね…………………。」
ついつい興奮気味に熱い胸のうちを一生懸命アコラへと伝えた愛満であったが、途中からアコラからの相槌や話しかけられる事が無くなっている事に気づき。
最後の方は力無く空笑いをして、顔を上げてアコラの顔を真正面から見れなくなるくらまでに落ち込み、ションボリする。
一方、そんな愛満の様子にも気づけないくらい興奮しているアコラは、突然椅子から立ち上がり。
力無く項垂れる愛満の元へ駆け寄ると力強く抱き締め。
「愛満!!素晴らしいわ~!本当に素晴らしい~~!本当に、本当にスゴいわよ。
そこまで子供を産む人の事や子育てをする人達の事を考えてくれるなんて。私涙が出るくらい感動したわ。
それにこんな素晴らしい事を考え、自ら動いてくれる人、私が知る限り1人もいなかったわ!ありがとう、本当にありがとう、愛満!」
大粒の涙を流して喜び。愛満の考えにも強く賛成してくれ。更には
「それにね。愛満さえ良ければだけど、その助産師と言う大役、私に勤めさせてくれないかしら?
こう言うのも何だけど、私なら出産経験もあるし。娘や嫁達の孫や曾孫達を何人も取り上げ、出産を手助けしてきた経験も沢山有るわ。それに子育てにも慣れてる方だと思うの。
どうかしら?………私じゃ駄目、愛満」
愛満が探す『助産師』の大役にも立候補してくれる。
そんなアコラからの突然の話に、目を見開きビックリした愛満であったが
「ほ、本当に!?アコラさん、本当に良いんですか?
産婦人科医院が建ってると言っても、まだまだ何もかもが手付かずで1からになり。大変になりますよ?」
本当にこんな大役引き受けてくれるのかと質問をすると
「えぇ、もちろんよ!むしろ愛満のその顔を見て、俄然ヤル気が出てきたくらいよ!」
満面の笑みを浮かべて返事を返してくれ。何やら肩の荷が降りた様子の愛満は大きなタメ息をついて
「あ~~~ぁ、良かった!
実はこの話を愛之助としてた時、タリサ達からアコラさんの話を聞き。ずっとアコラさんに頼めないかと考えていたんだ。
けど、アルフさんの話だと『風呂屋・松乃』の接客係の教育に力をいれている様子だったのから、何か悪いかなぁと考えちゃって話を切り出せなくて………………。
だからごめんなさい。アコラさんから切り出させるような真似をしてしまって」
頭を下げながらアコラに謝り。そんな愛満をアコラが優しく微笑みんで許し。
「そんな事気にしてたの?全然大丈夫よ。
逆にね。松乃も日々のお客さんが増えてきて接客係の子供達も文句のつけようが無いくらいバッチリなのよ。だから今さら私がいなくても大丈夫だし。
それについこの間、私の後釜でもある次の責任者も決まちゃったしね。」
「えっ!そうだったんですか?僕、全然知らなかった。
それならもっと早くにアコラさんに相談すれば良かった~~!あ~~ぁ、下手こいた~!
それにあんまりにも不安や心配で、ここ何日か眠れぬ日々を過ごして胃がキリキリしてたんですよ~~ぉ。」
愛満も知らなかった新事実に思わずテーブルに額を付けたまま、ここ何日間かの不調を訴えてしまう。
そんな愛満の姿にアコラが笑みを溢しながら、まだまだ幼い自分の子供達のマヤラやタリサの頭を撫でるように愛満の頭を優しく撫でてあげ。
「あらあら、何かごめんなさいね。
けどね、愛満。そんなに悔しがる事無いのよ。それに逆にこの話を聞けたのが、今日で良かったぐらいだし。」
「えっ!?どう言う事ですか?」
アコラの話にテーブルに付けていた頭を上げ。少し機嫌が治った様子の愛満が質問する。
「だってね。その引き継ぎ、お客さんの多さから昨日までかかっててね。つい昨日までバタバタしてたんだから。
今日の休みだって何だかんだ言って2週間振りになるのよ。」
「えっ!そうなんですか?………なんだ、なら良かった~~!って!違う違う!休みが2週間振りってどう言う事ですか!」
アコラの2週間振りの休みと言う話に愛満が食い付き。アコラへと『風呂屋・松乃』の勤務体制はどうなってるのかと詰め寄る中。アコラが上手に愛満を煙に巻き。
「はいはい。それは良いから、落ち着いて愛満。
それより!あ~~~ぁ♪昔から子供が好きだったから将来子供達に接する仕事に就きたいと思ってたのよ。
娘や嫁達のお産や子育てを手助けするにしても、もっと楽に楽しみながらお産や子育てをさせてあげられないかとも悩んでて。
だからね。その手助けを出来る機会をくれて本当に嬉しいわ。ありがとうね、愛満。」
「そ、そんな!お礼を言わなきゃいけないのは僕の方ですよ。
アコラさん、本当にありがとうございます。」
お互いに感謝の言葉を伝えつつ。愛満の悩みが無事解決し。アコラの長年の夢も叶い。
アコラが愛満との話で乾いた喉を程好い温さになっている『黒豆茶』で潤す。
すると今日の分のドリルや勉強、絵日記を描き終えたタリサ達が愛満とアコラが話し合っていたテーブル席へとやって来て
「大切な話終わった?」
「おわちゅった?」
愛満達に話しかけ。話が終わったとの返事を聞くと、アコラや愛満の膝の上にいそいそ座り。
愛之助が出してくれた愛満達と同じ『黒豆茶』や、今日のお茶菓子になる『豆パイ』を食べ始める。
そんなタリサやマヤラの姿に愛満とアコラが顔を見合わせ、笑みが溢れ。アコラの目の前に置かれたお茶菓子の『豆パイ』をアコラにも進める。
「アコラさんも良かったらどうぞ、食べて飲ん下さいよ。
それに沢山話をしたから喉も渇いたでしょう。お代わりの黒豆茶もポットに持ってきてるので遠慮せずに、どうぞどうぞ。」
「そうでござるよ。拙者達とアコラさんの間で遠慮は無しでござるよ。」
「あら、それは嬉しいわね。愛満も愛之助もありがとね。」
愛満や愛之助の言葉にアコラは嬉しそうに微笑み。湯飲みに残った『黒豆茶』を飲み干し。目の前に置かれたお茶菓子の『豆パイ』を食べ始める。
「あら、この焼き菓子美味しいわね。
外側はサクサクした食感なのに中のお豆かしら?そのお豆がほっくり、しっとりしているわ。
それにいろんな種類の色鮮やかで甘い豆が入っていて、私好みの好きな味だわ♪」
一口食べて、中身が見えた豆パイの中身を何やら楽しそうに興味津々な様子で見たアコラは、私好みの味だと『豆パイ』の感想を愛満に教えてくれる。
すると母アコラの言葉に出遅れたとばかりにタリサやマヤラ達も続けて『豆パイ』の味の感想を話始め。
「タリサも美味しいよ!この中の豆、この前食べた甘納豆でしょう!それに栗やさつま芋の甘納豆も入っていてスゴーく美味しいね♪」
「マヤラもおいちいよ!
しょれににぇ、マヤラいちゃんしゃっまいものあまなっちょうがちゅきにゃの。」
「拙者も凄く美味しかったでござるよ!
それに愛満が作ってくれた、この豆パイ大好きでござる。
この前食べさせてもらった甘納豆にしても、そのまま食べても十分美味しかったでござるのに。
そんな美味しい甘納豆をパイ生地に包み。それが美しいきつね色の焼き色がつくまで焼かれ。コレが美味しくない訳ないでござるよ!
そしてやはり焼き上がった豆パイを一口に口にすれば、さらに美味しくスペシャルになってたでござる♪」
4人からの嬉しい『豆パイ』の感想を聞いた愛満は、本当に嬉しそうに微笑み。
「みんな ありがとう。
実はこの『豆パイ』婆ちゃんが好きな甘納豆を使って、簡単なお菓子が作れないかと、小学生の時に初めて婆ちゃんのために作ってあげた焼き菓子になるんだ。
だから作り方も小学生の僕が作れるくらい簡単で、市販のパイ生地を好みの厚さにのばし。
自分の好きな市販の甘納豆を包んで。卵黄とコーヒー用のクリームを混ぜたモノを塗って、オーブンで焼くだけなんだ。ねっ、簡単でしょう?
今朝起きてね。アコラさんに医院の話をしょうと考えた時、急に祖婆ちゃんの顔が頭に浮かんできてね。
婆ちゃんが力を貸してくれるんじゃないかと思って、気が付いたら『豆パイ』を作っていたんだ。」
愛満が婆ちゃんとの思い出が詰まった『豆パイ』を見つめ。
アコラや愛之助達へと今日のお茶菓子に『豆パイ』を作った訳を話す。
そんな愛満の姿に自身の膝の上に座るマヤラの頭を優しく撫でながら、沢山の子供達を産み育ているアコラが
「そうだったのね。だからこの『豆パイ』には愛満のお婆ちゃんへの想いも詰まっていて、こんなに美味しいのね。」
愛満の婆ちゃんへの想いが詰った『豆パイ』を食べながら、この世界初の『助産師』になるアコラが優しく微笑み。
お産や子育て、女性特有の病気等に悩む人々の相談や心の拠り所にもになる。産婦人科医院が朝倉村に誕生するのであった。
◇◇◇◇◇
その後、アコラは村の産婦達や噂を聞き付けてやって来た沢山の人々達を助け。
夫アルフが番頭をする『風呂屋・松乃』のお風呂の不思議なパワーを使用したりしながら、多くの助産師の後継者を育てあげ。様々な人達の力になっていく。




