小籠包と嬉し楽しい入学式と親子とは
その日 朝から太陽ニッコリの穏やかな天気のなか、朝倉村初の入学式が朝倉学園の講堂で、どこか厳かにおこなわれていた。
「愛満、あそこあそこ!タリサが歩いて入場してきたでござるよ!制服が似合って可愛いでござるね。後で皆で学校入り口で写真を撮ろうでござるよ。」
「本当だね、タリサ可愛いね。
そうだ!写真と言えばリーフさんに聞いて、無人魔法カメラを何台か講堂内に浮かべているんだよ。
それで今日の入学式の動画撮影や写真をいろいろ撮って、後日村人みんなに配る予定なんだ。
ですからアルフさんやアコラさんも、後でタリサ達と一緒に皆で茶屋で見ませんか?」
「いいの?ありがとうね、愛満。
それにしても本当にタリサ達が着ている制服は、見た事ないデザインでカッコいいし、可愛いわね。
朝タリサが着替えた制服姿をマヤラが見てから、自分も早く制服が着たいて、興奮して大変だったぐらいよ。」
「タリサにいにい、かっちょいいね。マヤラもはやく、しぇいふくきちゃい!」
今日は仕事を休んでタリサや孫、ひ孫達の入学式を見に来ていた。アルフやアコラと保護者席でヒソヒソ小声でタリサの可愛さを自慢、誉めちぎるなか、入学式は何のトラブルも無く着々と進行し無事終わる。
そうして入学式の後片付け等を手伝い。万次郎茶屋に帰ってきた愛満達は、慌ただしく夕方から茶屋で開催する。
リーフやタイタン、アリー達が愛満達と話し合い、王都や各地から呼び寄せた。
昔馴染み友人知人の教師や事務全般を受け持ってもらう事務員、学園厨房で腕をふるってもらうコック達などの新たな朝倉村の村人になる。学園関係者達の歓迎会準備をしているのだ。
◇◇◇◇◇
チリーン、チリーン♪
「いらっしゃませ。ようこそおいでくださいました。」
「いらしゃいませでござる。良く来たでござるよ!」
「愛満、愛之助こんにちわ。今日はお招きありがとうございます。」
愛満と愛之助の2人が、今日の主役であるゲストを招き入れながら歓迎会が始まる。
「万次郎茶屋の皆さん。今日は新たに招いた学園関係者を歓迎していただき、こんな素敵なパーティーまで開いていただきまして、本当にありがとうございます。
突然ではありますが、この場で新たに学園に招いた者達の紹介をさせて頂きたいと思います。
私の隣におりますのが、新たに招いた学園教師の
半神族で猫族の琥珀
半神族で人族の八雲
半神族で狼族の白蓮
黒エルフの調宮と息子の和調5才
妖精族でピクシー族のココナとその家族
以上、教師5名になります。
次に、事務全般を受け持ってもらう。
半神族でホビット族のライラ
半神族で翼族の常盤
半神族で妖精族でブラウニー族のグラ
半神族で黒エルフ族の幸調
以上、事務員4名です。
次に学園の食事を一手に引き受けてもらう事になる。
半神族で狼族の紅蘭
半神族でホビット族のバウム
半神族で人族の桃水
起源のエルフ族のノエル
半神族で白猿族の伯楽
以上、コック5名になります。
住まいの方は、学園横の空き地に愛満に建てて頂いた。独身寮と家族寮になります。
これから学園や村のなかでも顔を顔を会わせる機会が多々有ると思いますので、どうぞよろしくお願いします。」
新たに学園に迎え入れた関係者の簡単な紹介を学園を取り仕切るリーフがしてくれ。
各々の一言二言の簡単な挨拶等も終わり。歓迎会は、和やかな雰囲気のなか進んでいく。
するとリーフの隣で、黙々と料理を食べていた黒エルフの親子がある料理を口にするとピタリと手を止め。
しばらくその料理を眺めていたかと思うと、それからずっとその料理ばかりを黙々と食べ進めていく。
「小籠包美味しいですか?これホタテ入りの小籠包と海老入りの小籠包になるんですけど、良かったらこちらもどうぞ、食べてみて下さい。美味しいですよ。」
シンプルな小籠包を気に入った様子の調宮と和調に気づいた愛満は、ホタテや海老の入った小籠包を進める。
「ありがとう。この小籠包美味しいですね。
私も息子の和調も普段は食にあまり興味が無く。お恥ずかしい話、食事を進んでとろうとはしないんですよ。
しかしこの小籠包と言う料理は、熱々のスープや、この回りの白いもっちりした皮や中のお肉が美味しくて、気づいたらついつい手がのびてしまいます。ね、和調。」
「うん。お父さん、この小籠包と言う料理は美味しいね。僕これなら毎日食べれるよ。」
小籠包を誉めてくれる和調達の話を通りがかりに聞いた黛藍が
「そんなに誉めてもらって嬉しいアルね!ありがとうアルよ。
この『小籠包』黛藍が愛満から作り方を習い。
今度、新しく黛藍のお店の『包子屋』で、売り出す予定アルよ。
そうだ!和調は5才アルよね?」
「………うん。僕5才だけど………。何?」
「そうアルか!ならタリサと同じアルよ!
それなら、あっちで一緒に小籠包食べ比べするアルよ!
あっちのテーブルには、他にチンゲン菜入りやトウモロコシ入りの小籠包があって、小籠包の食べ比べ、スゴく楽しいアルよ♪」
黛藍が、和調をタリサやマヤラ、愛之助達がいる座敷の炬燵テーブルへと誘い、連れて行き。
これから包子屋で売り出す予定の具材の違う小籠包を皆で食べ比べ。どれが一番美味しいか等を楽しそうに話し合う。
そうして、しばらく皆で仲良くいろいろな具材の小籠包を食べ比べしているとタリサが和調に
「けど、和調すごいね。熱くない?僕小籠包の中のスープが熱くて、少し舌火傷しちゃったよ。」
「マヤラもちたピリピリちゅる。」
※『マヤラも舌がピリピリする。』
「えっ!2人とも舌火傷したの!大丈夫?舌見せてごらん、すぐに治してあげるから。」
タリサとマヤラの話を聞いて、心配した愛満が、小籠包で火傷した舌を治したあげる。
「僕、このくらいの熱さなら全然ヘッチャラだよ。それにお父さんなら、もっと熱くても全然平気ですごいんだから!」
「へぇー、和調も和調のお父さんも熱いの強いんだ!スゴいね!!」
「あちゅくないの?かじゅなりもかじゅなりのとうたんもちゅごいね!ちゃちゅが!」
「和調も和調の父上殿も熱いの強いのでござるか!スゴいでござるね。拙者は猫舌でござるから、少しうらやましいでござるよ。
それにしてもお二人は、顔も良く似てるでござるし。将来は和調も父上殿のように立派なお方になるでござるね。」
タリサやマヤラ達が自分の父親を誉めるのを聞きながら、どこか得意気の和調は、くすぐったそうに微笑み。照れくさそうに小籠包を食べるのであった。
◇◇◇◇◇
そうして、いよいよ黛藍の店に新登場する事になる。小籠包の中身のアンケートを取り始める。
「僕は、この海老入りの小籠包が海老がプリプリして、お肉の小籠包とまた違った歯応えで美味しいかったよ。」
「拙者はホタテ入りの小籠包が、食べると口一杯に海鮮の旨味が広がり。なんだかリッチな気分になれたでござる。」
「僕は竹の子や椎茸が入った小籠包が、お肉だけの小籠包より、なんか旨味がたくさん出ている気がして美味しかったよ。」
「そうアルね。そう言われれば、お肉だけの小籠包より竹の子や椎茸入りの小籠包の方が食べやすかったアルね。」
黛藍に連れられやって来た。タリサと同い年の和調がアッという間に愛之助達と打ち解け。
和気あいあいと仲良く話している姿を、少し離れた場所で愛満が見ているとリーフと和調の父親の調宮がやって来て
「愛満さん、ありがとうございます。久しぶりに和調の笑ってる顔を見れました。」
調宮がうっすらと瞳に涙をため。愛満にお礼を言う。
特に何もしてない愛満は、何が何やら解らずままに条件反射で、つい調宮に頭をペコと下げてしまう。するとリーフが
「実はね、愛満。和調は、本当は調宮とは血が繋がってなく。本当の親子じゃないんです。
黒エルフの調宮は、私やアリーと同じ。私たちよりも数の少ないと云われる。珍しい黒エルフの起源の不老不死と言われてるんです。
5年前に産まれた和調は、産まれて直ぐに起源と同じ不老不死だろう黒エルフの長老達に認定され。
和調を産んだ母親が、崇拝する高貴な起源様達と同じ姿形の赤子をまんがいち怪我をさせたり、病気をさせてしまっては、心配で自分達では育てきれないと取り乱し。
お産を終えたばかりもあり。混乱させてはとツテを頼り。
村で一番若い起源の調宮に、まだ赤子の和調を預けてしまったんです。」
「…そんな!いくら自分が産んだ子供が起源だからと言って手放すなんて!…そんなのあんまりです。
……それにそれじゃあ、和調君はご両親の事知らないんですか?」
「えぇ。何度も長老が母親達を説得したんですけど、聞き耳を持たなくて……………。
そのため怒った長老が、この先和調の親と名乗っていいのは、和調を育てる調宮だけだと里中にお達しを出した程でして。」
「……………そんな。」
「そのため初めは、そんな事や母親の事等を知らなかった和調だったんですが、母親が新しく授かった弟の世話をしている姿を村で、たびたび見かけるようになり。
何か感じるところがあったのか、寂しそうにしてる姿に、近所のご婦人が和調を可哀想に思い。ついポロリと話をしてしまったそうで………。
それで知ってしまった和調が、周りの大人達に質問したそうで、その場ではなんとか隠しとうしたらしいのですが、感受性の豊かな子ですから、何か感じとったのでしょう…………。
いくら和調を産んだ母親が、初めての子育てと言う事や、熱心な起源を崇拝する家の生まれ等が配慮され。
調宮が親になり、育てる事に長老達との話し合いで決まったらしいとは言え。………やはり和調にとっては親に、特に母親に捨てられたと感じたらしく。
黒エルフの里では、それ以来あまり家から外出せずに引きこもりがちになり。
笑ったり、泣いたり等の感情表現をあまり表に出さなくなってしまったらしく。調宮も日々悩んでいたんです。
だから和調が、同い年のタリサ達と笑顔で話している姿を久しぶりに見れ。調宮はとても嬉しいんだと思います。」
悲しそうにリーフが調宮と和調親子の事を教えてくれる。
そんな悲しく、何やら言い表せない胸のわだかまりを抱えた愛満は、何かを吹っ切るようにポツリポツリと
「………………そうだったんですか。…………僕はまだ子供をもった事はありませんが、子供にとってみれば、どんな親でも血をわけた愛する親に変わりないのに………………悲しいですね。
それに人の教えとは、たまに悲しい結果を生む事になるのを最近つくづく考えさせられます。
………親子関係とは、周りから解らないぶん本当に難しいものです。
けど!血が繋がらなくても和調君のお父さんは調宮さんだけだと思いますよ。
だってさっきもタリサ達にお父さんが誉められて、本当に嬉しそうに笑ってましたもん、和調君。」
「ありがとう、愛満。そう言ってくれて調宮も本当に喜びます。
……それから今回朝倉村へ招いた者達が、ほとんど半神族な訳なんですが………。
実は愛満が、前に私と話した神族の父親の事が関係してるんです。
あの話を会話の弾みで、ポロリとタイタンが仲の良い半神族の者達に話してしまい。
少なからず片親の家庭と言う事で、半神族と解るまでの間、世間から未婚の母親が産んだ子と、何かと辛い思いをさせられた者達も多く。
父親に少なからず良い想いだけ持つ者ばかりでは無かったので、神族を崇拝する世論とは違う愛満の考えに惹かれてやって来た者達がほとんどなのですよ。
それに他の知り合いの半神族の者達も、是非に朝倉村に住みたいと言う者が多く。その中から学園関係者を選ぶだけでも、ひと苦労でしたよ。
しかし半神族の者達は、自由気ままで諦めが悪い者が多いですから、いつかふらりと村にやって来るかも知れませんね。」
「…………………えっ!ぇ!えっ!えぇーーーー!」
最後にリーフが話した、半神族の者達がふらりとやって来るかもしれないとの爆弾話に、声がかれるほど愛満が驚くなか。
リーフは改めて、愛満がおさめる朝倉村に調宮達を呼んで良かったと、しみじみと想う。
こうして朝倉村初の入学式と歓迎会の1日が、何事もなく平和に過ぎていくのであった。




