しらす丼としらすコロッケと旅一座のケットシー
その日 愛満は、万次郎茶屋の台所で1人黙々とミニサイズの小判型コロッケを大量に揚げていた。
「ふぅ~、これだけのコロッケを揚げれば、足りなくなる事は無いだろう…………う~ん。けど、みんな結構食べるからな………。
しょうがない、心配だから一応残りのしらすを使って、大葉と白胡麻も入れた玉子焼きを作とくか!
それにしても、愛之助達の方は準備順調に進んでるかなぁ?」
愛満がブツブツ一人言を呟きながらお昼ご飯を作っていた。
実は、愛之助にタリサ、マヤラ達3人や今日のためにお店を臨時休業にした美樹や黛藍の2人。
それにたまたま万次郎茶屋へと遊びに来ていたケットシーのモカ達6人は、王都にある歴史ある魔法学校の元教師であるリーフ、タイタン、アリーの3人が教鞭を取る事になる。
朝倉村初の小中高の学校・朝倉学園を愛満が建ててあげた翌日には、学校に通う事になる子供達の保護者達への説明会や入学式などの準備で、てんてこまいの3人の手伝いに朝早くから出かけているのだ。
そうして10人の為に美味しいお昼ご飯を愛満が1人で作っていると茶屋の扉についたベルが鳴り、来客を教えてくれる。
チリーン、チリーン♪
「はーーい。いらっしゃいませ。すいません。今日は茶屋定休日なんで……………」
調理の手を止め、来客の対応に台所から店内に出てきた愛満が目にしたものは、二本足で歩く2~30人の大人数になる。可愛らしいケットシー達であった。
するとその内の1人、茶色トラ柄の茶トラのケットシーが愛満に近づいてきて
「はじめましてニャゴ。ワシはこの村でお世話になっている吟遊詩人のモカの父親の『コテツ』ニャゴ。
そなたは万次郎茶屋の主人で、この村の村長 愛満殿で間違いないかニャゴ?」
ニャゴ、ニャゴ言いながら愛満に問いかけてくる。
「あっ、モカのお父さんでしたか、はじめまして。
はい、僕がこの万次郎茶屋の主人 愛満で間違いありません。
今日はモカを訪ねて来たんですか?すいません。モカだったら今、新しく村に出来た学校のお手伝いにちょっと出掛けてるんですよ。」
「モカも訪ねてきたニャゴが、今日は愛満殿にお願いがあって、こちらに訪ねさせてもらったニャゴ。」
「僕にですか?なんでしょう?僕に出来ることなら力になりますが」
「本当ニャゴか!?良かったニャゴ!愛満殿にしか頼めなかったことニャゴ。
実はモカからの手紙で、村にある風呂屋・松乃と茶屋のミニステージで演奏をさせてもらって、この村でのんびりといろんな珍しい美味しい魚料理を食べて生活していると書いてあったニャゴ!
…………うらやまし…………いニャゴ!モカだけズルいニャゴ!ワシも毎日三食昼寝つきで、魚料理食べてのんびり生活したいニャゴ!!!」
冷静に話していたコテツが、突然心のうちを叫びだし。
「そこで、良かったらワシらケットシー 一族の旅一座『ケットシーの七宝』も、この村でモカのように暮らさせて欲しいニャゴ。このとおり頼むニャゴ!!!
ワシもモカが手紙で自慢した『子持ちししゃも』が食べたいニャゴ!
ワシも結構いい年ニャゴ。長旅は体の節々にこたえるニャゴ!
年寄りを労って欲しいニャゴ!家長はツラいニャゴ!
嫁さん怖いニャゴ!美味しい魚を腹一杯食べたいニャゴ。
働きたくないニャゴ。ポカポカ天気のなかのんびり眠りたいニャゴ。
息子も娘もワシに冷たいニャゴ。優しくしてほしいニャゴ。
孫や曾孫は可愛いニャゴが、あいつら力加減を解ってないニャゴ。爺ちゃんツラいニャゴ!
小遣いばっかりせびってくるなニャゴ!秘蔵の煮干しを根こそぎ取られるニャゴ。
爺ちゃんの数少ない楽しみをとるニャて恐ろしい子達ニャゴ。」
途中からよだれと自分の願望や愚痴を垂れ流しまくりで、愛満の両手を掴んで懇願してきた。
「解りました!解りましたからコテツさん、落ち着いて下さい!コテツさんの口からたれてるよだれが、僕の手につきそうですし!
コテツさんの後ろから真っ白の毛並みの綺麗なケットシーの方が、何故か恐怖を感じる微笑みをうかべて近づいてきていて、僕 身の危険を感じるんですよ!
早く!早く正気に戻って僕から離れて下さい!!あっ!あっ!あ~~ぁ!!!」
◇◇◇◇◇
「愛満さん。主人が取り乱してしまって、ごめんなさいニャ。」
先程までのコテツを説教する般若のような様子とは一変して、穏やかな菩薩のような微笑みをたたえた。
モカの母親で、真っ白な毛並み美しいオッドアイのミムと愛満が和やかに話す。
一方、ミムからこってりと説教されコテツはと言うと説教中強いられた土下座の体制のまま、化石かしたように固まっていた。
そうして、これからの一族の朝倉村での生活の事などを話しながら、学園準備を終えたモカ達が帰って来るのを待っていると
チリーン、チリーン♪
「ただいまニャ!しらす料理できたニャ?モカお腹ペコペコニャ…………ニャーーーー!!!お母さん達ニャんでいるニャ!」
母親や兄妹や甥っ子、姪っ子などの一族の者達が大勢いるのに驚いたモカは、母親に詰め寄り問いかける。
「あら、モカ久し振りニャ。この前は手紙ありがとうニャ。
あの手紙読んでから、お父さんが自分達もモカと一緒に朝倉村に住むて聞かニャくて、大慌てで今日やっと村にたどり着いたのニャン。」
「ニャ!お母さん達もこの村に住むかニャ!……………そうかニャ……ニャァ、この村は魚も美味しくて、珍しい魚が食べられ、一年中魚が食べられ………魚が」
「て、モカ。魚の事しか言ってないでござるよ。
この村は魚だけが凄いんじゃないでござるよ!………はぁ~…しょうがないでござる、拙者が説明してあげるでござるよ。
この朝倉村は、自然溢れ人情味ある住みやすい素晴らしい村でござるよ。
魚の他にも、村自慢の風呂屋・松乃の様々な種類豊かなお風呂、サウナなど、食事処や売店、音楽を楽しめる巨大ホールなどもあるでござるし。
ここ万次郎茶屋は、季節折々の珍しい和菓子の数々や美味しく料理が食べられるでござるよ。」
愛之助が村の良い所を紹介し始め。
「他にも美樹が開いている。この世界1のオシャレな美容室
黛藍が作る美味しい熱々の包子屋
買い物や食べ歩きに最適な兎族のシャル家が開く酒蔵、米屋、米菓子・甘酒屋
ライ家が開く鶏肉屋、唐揚げ屋
サナ家が開く卵屋、厚焼き玉子専門店
レム家が開く八百屋、焼き野菜屋
エルフ族のターハ達が開くパン屋
キツネ族の朱冴が開くコンビニ
朱冴の弟の青那が開く袋ラーメンの袋屋
お土産や贈り物に最適なドワーフの凱希丸さんが開く置物や櫛、髪飾りの店
香夢楼達の香袋やお香を扱う香屋
コプリ族の反物、染め物を扱う呉服屋
他にも竜人族の香夢楼達兄弟が頑張っている朝倉神社と白梅園
魔女のリサが開く病院
鬼族の大鵬さんが教えるイキア道の道場
リーフさんやタイタンさん、アリーさんが教鞭をとる小中高の朝倉学園
などなど、まだまだ発展する予定の未来明るい村でござるよ!」
長々とであるが、何やら誇らしげに自信満々と村の素晴らしい所をモカ達に話しきる。
そんな愛之助が長々話すなか、美樹達から誘われ。
愛満家の自慢の桧風呂や外風呂の露天風呂に順番に入浴していた他のケットシー達が、ポカポカと湯気を上げ。
愛之助の話の途中に台所へと移動した愛満のお手伝いで、大皿一杯の『しらすコロッケ』や『しらすや大葉入りの玉子焼き』などを持って店内に戻ってくる。
「お昼ご飯になるよ。準備して!」
「おちるごはんになるにょ~!ちゅんびちて~!」
※『お昼ご飯になるよ~!準備して~!』
「ご飯ニャ!ご飯ニャ!ニャ!ニャ!ニャ!」
愛之助の話しの途中に台所へ行った(逃げた)タリサやマヤラもお手伝いするなか、愛満がザル一杯のしらすをテーブルの真ん中に置き。
「お待たせしました。みんなお腹すいたでしょう。
今日はモカのリクエストで、しらす尽くしのお昼ご飯になります。
『しらすコロッケ』に『しらすと大葉の玉子焼き』、『しらすの酢の物』、『しらす丼』に、今が旬の『生ワカメの味噌汁』になります。
炊飯器の中に炊きたて白米もたくさんあるし、しらすのおかわりもあるから、薬味などをお好みでのせてお腹いっぱい食べて下さいね。」
「すごいニャー!小さいお魚がザル一杯に入ってるニャ!すごいニャ!すごいニャ!僕 はじめて見たニャ!」
「うわ~美味しそうニャ。お母さん、僕しらす丼が食べたいニャン♪しらすいっぱいのっけてニャ!」
「ニャン!このしらすコロッケ美味しニャン!まわりはサクサクして、中はほっくりして、トロ~リしたモノとしらすがいっぱい入って、このまま食べれるニャン。」
「タマ、それチーズて言うらしいニャ。さっきモカが食べてて言ってたニャ。それにチーズ入りは当たりで、たくさん数は無いらしいニャ。」
「う~ニャン。しらすと大葉入りの玉子焼きは美味しニャ!分厚くボリューム満点で、私 何個でも食べれるニャ!」
「しらすが入った酢の物もさっぱりした味付けで、お腹に子供がいて最近食欲がニャかったけど、私これならいくらでも食べれるニャ。………うん。本当に美味しいニャン。あなたおかわり持ってきてニャン。」
「おかニャン。ぼくちらちゅじゃけ、たべちゃいニャ。ちらちゅだけちょうらいニャ♪」
※『お母さん。僕しらすだけ、食べたいニャ。しらすだけ ちょうだいニャ。』
などの大人数の可愛らしいニャニャの言葉を聞きながら、こうして吟遊詩人のモカの家族でもあるケットシーの旅一座が、新しく朝倉村に仲間入りするのであった。