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乾燥食物「切り干し大根」と、食いしん坊でいてグルメな種族



日に日に寒さが身にしみてきて、冬の訪れを感じる今日この頃。


トントントン、トントントン


トントントン、トントントン


との、軽やかな包丁の音が響く中。


その日、朝倉町で野菜料理店『大地の恵み』を営む。

タリサ達の年の離れた兄にして朝倉町で野菜農家や八百屋等を一家で営むレム家の三男・エルピコは、友人でもある愛満と2人。何やら大量の大根を千切りにしていて、…………。


「ふぅ~~、終わった、終わった。……………ねぇ、エルピコ。今切った大根でスが入ってた大根は終わりだったよねぇ?」


業務用の大きなボウル山盛りに盛られた千切り大根に囲まれた愛満が、自分と同じように大量の千切り大根入りの巨大ボウルに囲まれたエルピコへと話しかけると


「あっ、愛満終わったの?ありがとう。

それに、うん。スが入った大根はコレで終わりだよ。」


何やら少しぼんやりした様子のエルピコが答え。


「いやいや、エルピコの方こそお疲れ様。

じゃあ、大根の千切り作業も終わった事だし。この大量の千切り大根達を干しに行こうか」


大地の恵み店裏に愛満の(チート)をちょちょいと使い。新たに建て上げた。乾燥野菜を干す(作る)為だけの野菜干し場へと移動した2人は、またコツコツとザルの上に大量の千切り大根を並べる作業を始め。

大量の千切り大根を黙々とザルの上に並べていたエルピコが


「愛満、今日は本当にありがとうね。

僕がポカしちゃって3箱にもなる大量の大根の事を忘れて、結果スが入るまで放置しちゃったのに、それを愛満に助けてもらうかたちになちゃって、………………。

それに父さんや兄さん達がせっかく苦労して育て上げた大根なのに、それを忘れちゃうなんて、………………僕、本当何やってるんだろう。………大馬鹿者だよ。」


実に申し訳なさそうにし。少し赤くなった目を潤ませながら何やら項垂れた様子で愛満へと話しかける。


そんなエルピコの姿に気まずいその場の雰囲気を吹き飛ばすかのように笑い声を上げた愛満が


「何言ってんだよ、エルピコ!僕とエルピコの間だろう。それに友達なら困った時に力を貸すのは当たり前だよ。」


と言って、何気無い風に装いながらザルの上へと千切り大根を重ならないように並べつつ。


「それにさぁ、エルピコがレムさん達が精魂込めて育てた大根を無駄にしたくないって気持ちも痛いほど解るし。

僕だってたまにポカしちゃって食材を無駄にしそうになる時だってあるんだよ。

……あっ!そうそう。このスが入ちゃった大根と同じような時が僕にもあってね。

その時は僕もちょっと落ち込んだりしちゃいながら、いつまでもクヨクヨしててもしょうがないとスイッチを切り替え。気を取り直して、その昔僕も婆ちゃんから習った。

スが入った大根を使って美味しく食べれる。大根おろしを使用した『みぞれ鍋』にして皆で美味しく食べたんだ。

ほら、家には一年中食べ盛りの山背や愛之助、美樹達が大勢居るから、そこは上手く助けてもらったりしながらね。」


終始笑みを浮かべつつ。後半の方は少しおちゃらけた様子で話して


「だからさぁ、エルピコ。僕だって日頃、愛之助や山背、光貴、タリサやマヤラ、美樹、黛藍でしょう。

それにエルピコのお爺ちゃんのアルフさんやお父さんのレムさん達、みん~なに大なり小なり助けてもらっているんだからエルピコも気にする事ないんだよ。

それにたまたま僕が婆ちゃんから習った。スが入った大根の使用法を再確認作業しているのをエルピコに手伝ってもらっているだけなんだから気にしない!気にしない!

ほら、いつもみたいに笑って笑って!僕はエルピコの笑顔が好きなんだから!」


自分の失敗と言うか、尊敬する父親や兄達が育てた大根を無駄にしそうになった自分自身の不甲斐なさにひどく落ち込むエルピコを励ますのであった。



◇◇◇◇◇



そうして、今だ終わらぬ。大量の千切り大根をせっせと干している愛満達はエルピコの気持ちも持ち直した事もあり。

ここだけの話。少々飽きてきてしまっている大根干し作業を(まぎ)らかすようにお喋りを始め。【勿論!大量の千切り大根を干す手は動かしつつ。】


「ねぇ、愛満。そもそもこの千切り大根って干して一体何になるの?

後、本当にあのスが入った大根が美味しく食べれる?」


スが入った大根の事をエルピコが愛満へと相談したさい。簡単にではあるのだが、スが入ってしまった大根の使用法を愛満が説明してくれたものの。

スが入り。少し(しぼ)んだと言うか、乾燥に弱い野菜になる大根の成れの果ての姿?、……………いや、途中?初期段階の瑞々(みずみず)しさを少々失ってしまった。大量の大根を目の辺りにしたエルピコが不安そうに質問。


そんなエルピコを安心させるよのうに笑みを浮かべた愛満が


「うん。スが入った大根でも料理次第では十分に食べられる物になるから大丈夫だよ。

後、この大量の千切り大根を干しているのは、僕の故郷の方では良く知られている乾燥食物『切り干し大根』を作るためでね。

今みたいに千切りした大根を屋外で4~5日干して、夜間は室内になおしたりして作る乾燥食物兼保存食になるんだ。

ほら、家の茶屋で何度か、この切り干し大根を使った。切り干し大根の煮物やハリハリ漬け風の漬物なんかを出した事があると思うんだけど、覚えてない?」


「??切り干し大根の煮物にハリハリ漬け、???、………………う~ん、…そう言われれば何かボンヤリと覚えているような、…………覚えていないような、…………。

ちょっと待ってよ。………えっ~と、…た、確か細長い麺のようなシワシワした切り干し大根と共に人参や油揚げ、椎茸だっけ?

そんな食材なんかも入ってたような気がすんだよねぇ。

あっ!後、優しい味わいぽかったような気もする!

それに全体的に薄茶色っぽい見た目の煮物だったような気もするんだけど、どお?あってる?」


「……う、うん。………そうそう、そんな感じの薄茶色っぽい煮物料理だよ。」


そもそも和食料理の一つ『煮物』とは、愛満が思うに醤油や出し汁等を使い。様々な食材を煮たりするため全体的に茶色っぽい料理になってしまう事が多く感じられ。

そんな『切り干し大根の煮物』を薄茶色っぽい料理だったよねと自信満々の様子で聞くエルピコに愛満が苦笑いを浮かべながら、そんな感じの煮物料理だよと返事を返すしかなかったのであった。


「あっ、けどさぁ、愛満。何でそもそも大根を千切りに切ったの?

そのまま大根を干したり。輪切りや半月切りとかじゃあ駄目なの?」


「ううん、大丈夫だと思うよ。僕もたまに薄くスライスした輪切り大根や半月切りにした大根で切り干し大根を作ったりなんかするからね。

けどほら、エルピコの店では野菜を使った惣菜関係の料理を作って販売しているでしょう?

だから千切りにした切り干し大根の方が切り干し大根を使った一番有名になる料理『切り干し大根の煮物』やサラダ、酢の物、炒め物、炊き込みご飯に漬物等、幅広く料理出来るからね。

こっちの方が良いかなと思って、今回千切りにした大根で切り干し大根を作る事にしたんだよ。」


エルピコの店、野菜料理等をメインに販売している『大地の恵み店』の事を考え。今回千切りにした大根で切り干し大根を作る事を決めたと話し。


「後さぁ、僕の故郷(日本人)では(古く)から乾燥食物は日持ちがして、保存食になると一般市民の間で知られていてね。

わりと気軽に野菜を干しては自家製の乾燥食物(保存食)を婆ちゃん達が作ってたんだよ。

けど僕の故郷(日本)は湿度が高い国になって、食物を乾燥させるには工夫が必要でね。

そんな工夫の1つになるのが、この千切り大根みたいに大根を細長く切る事で乾燥早め。また乾燥しやすくして、簡単に乾燥食物を作れるようにしていたんだよ。

あっ!それに他の乾燥食物繋がりで言えば、うちの町のケットシー族の皆が好んで良く食べている。小魚を使った『煮干し』にしても加熱させてから内臓ごと乾燥させていたり。

凍らせた後に乾燥させ出来上がる『凍み蒟蒻』なんかも僕の故郷(日本人)の知恵で生まれた保存食になるんだよ。」


自身が知る乾燥食物の事を触り程度にチョロッとだけ。何気無い気持ちで愛満がエルピコへと話した所。


「へぇ~、スゴいねぇ!だってそれって、愛満の故郷の人達は日々いろんな事を考えながら、その場その場に合った適応術をくししながら知恵を働かせ。

いかに自分達が暮らしやすいようにと工夫をしながら頑張っていたって事でしょう?

はぁ~~、本当にスゴいや、僕も見習わなくちゃ!」


何故か暇潰しの1つにでもと何気無く話した乾燥食物の話に感心深げなエルピコが、しきりに乾燥食物作りを思い立った日本人の事を誉めてくれ。僕も見習わなくちゃと言い始め。


「いやいや、それほどでもないんだよ。

ただ、どちらかと言うと順応性が高いと言うか、……手先が器用でいて、真面目なのは真面目だと思うんだけど、ハチャける時はテンション高めでハチャけてるみたいだし、…………。

あっ!それに少し食いしん坊な種族なのかもしれないなとは思うかなぁ、………。」


「食いしん坊な種族?」


あまりにも日本人を誉めてくれるエルピコに謙遜した様子の愛満が自分が思う日本人の一面と言うか、食に関してはかなりグルメになるであろう。食に敏感な日本人の一面をフッと思い出した様子で話し。

『食いしん坊な種族になるかな』との愛満の突然の言葉にエルピコが不思議そうに首を傾げるなか。

苦笑いを浮かべた愛満が


「いやね。前にアルフさんや凱希丸さん、朱冴達に聞いた話を纏めると、ここチャソ王国やその他の国と言うか、王国や帝国、連合国、国なんかでは、その国独自の料理を提供する店が在ったとしても、あまり他国の料理を販売するお店が無かったと聞いてね。

いろんな国を回って行商人をしていた朱冴が言うには、たまに他国の料理を販売している店が在ったとしても、その国独特の味付け方や調味料の関係からか、本場と比べて、たいして美味しくなかったとも言っててさぁ。

そんな事をフッと思い出したら、僕の故郷の方でもうち(日本)以外の他の国では、自国以外の料理店はあまりないと言ってた(報道され)なぁと思い出してね。」


「えっ?普通そうじゃないの?

僕が戦争前に住んでた町でも種族がら食材や味付けなんかで少しバラつきがあったりしたものの。だいたいは似たり寄ったりの、チャソ王国風の味付けをした料理ばっかりだったよ。

それにたまに他の国からチャソ王国に来た人(移住)なんかが祖国の味を求めて、自分の国の料理を振る舞う店を開く事があったけど、なかなか上手くいかなくて、そう長く続く店はなかったような気がするよ。

(愛満に聞こえないように小声でコッソリと)

それより何より!いやいや、愛満が気付いてないだけで逆にここ(朝倉町)がスゴいだけなんだよ。」


「そっか、コッチの世界でもそうなんだ。

まぁけどアッチ(地球)の世界みたいに、まったく別の(料理)にアレンジされまくてないみたいだから、それはそれでまだマシな方なのかな?

さっきエルピコの話しを聞いてたら、その国の自国の人が故郷の料理を作ってるみたいだし、…………。

それにアレンジされていても、その料理自体が美味しいなら良いんだけど、……………それが逆だったらと考えると、せっかくその国の料理なり、何かしらに興味を持って店に来てくれた人に変な記憶を植え付けちゃう事になる訳だし。

意外に食べ物の記憶って深く残るからねぇ~、…………そんな料理と共にその国が記憶されるのは可哀想と言うか、無念と言うか、……………………。」


昔 愛満が地球に住んでいたさい、とある番組で見た。最初の方は素人を装いながら後半は(身分)を隠す為等で覆面をし。

その道のプロや料理人達が他国の料理人(日本料理を作る)、間違った教えをしている人達を成敗する番組で放送されていた。アレンジされまくりの日本料理やお寿司の数々を思い出し。

そんな料理や作り方を見て驚き。何とも言えないやるせなさを(にじ)ませた料理人、職人達の顔を思い出した愛満は考え深げに頷きながら話し。更に話を続けて


「あっ、それから話が色々と飛んじゃったけど、僕の故郷の人達が食いしん坊だと僕が思う訳はね。

何故か僕の故郷の国では種類様々な他国料理店が田舎にも関わらずアチラコチラに在ってね。

しかもそれが気軽に食べれて、うちの国(日本人)の人達の口に合うようにアレンジされていたりするんだけど、それがまたスゴく美味しくて!

あっ、勿論!グルメな人が多い事もあり。その国独自の味付けや辛さのまま販売しているお店もあるんだけどね。

更には他国で流行っている料理や文化なんかが、わりと気軽にと言うか、ユルメな感じで伝わってきたりするんだよ。」


愛満が生まれ育った日本では、他国で流行っている料理や文化が気軽に国民の間で広がり。

下手したら他国でも一部の地方や人々の間でしか流行っていないような料理や文化が、気軽に田舎に在る店やコンビニ等でも買えるようになっていて

愛満が思うに他国では、色々と自国の文化なり。複雑な宗教関係等も相まって、自国以外の他国で流行っている料理や文化等を気軽に取り入れる事は難しそうに思え。


「今思えば、それって本当にスゴい事だと思うんだよね。

だってさぁ、簡単に他国の料理や文化と言っても、その料理や文化を自国へと受け入れる事は、ある意味その国を受け入れてなきゃ出来ない事だし。

いくら料理なんかが美味しかったり。文化と言うかファッションや物がオシャレだったり、クール、可愛くても、他国ではまかり通ってた事がその国では難しかったりして、様々な事からお店(経営)だって簡単には上手くいかないだろうし、…………。

…っと、しかしそれが僕の故郷(日本)だと1カ国や2ヵ国、3ヵ国だけじゃなくて、何ヵ国もの多岐にわたる料理店や雑貨店、お店なんかが数々在るんだよ!

更には小さな島国に住んでいる僕達が、その国に行かずにして気軽に他国の美味しい料理やオシャレな服、小物なんかを楽しめるんだから

きっと他の国じゃあ、なかなかこんな事出来ないと思うんだよね。

うんうん!やっぱりそう考えると日本人は食いしん坊のグルメだと思うし。そんな日本人に産まれてきた事に感謝だね!」


そもそも先程話した愛満の故郷、日本人が食いしん坊な種族になると言う持論を話し。

後半の方になると、軽くエルピコの存在を忘れた様子で感心深げに頷きながら話を続け。

先程謙遜していたのが嘘のように自分の故郷になる日本を誉め称え。1人勝手に満足気な雰囲気を醸し出す愛満なのであった。



◇◇◇◇◇



そうして大量の千切り大根を無事干し終えたエルピコ達は、その後愛満自家製の切り干し大根を使い。

愛満も婆ちゃんから習った『切り干し大根の煮物』や『ハリハリ漬け』の作り方に加え。

その昔、自分で調べ考えたりしてレパートリーをコツコツ増やした。切り干し大根を使用した。マヨネーズや胡麻、中華風や同じ乾物のヒジキ等を使い味付けした種類様々な『サラダ』を皮切りに『酢の物』や『炒め物』、『炊き込みご飯』、『漬物』等々。

切り干し大根を使用した乾物料理をエルピコへと伝授。


今日もまた愛満の何がない日の1日は、和気あいあいとした雰囲気のなか過ぎていった。





乾燥食物「切り干し大根」と、食いしん坊でグルメな種族 の登場人物


・エルピコ

朝倉町で野菜農家や八百屋を営むアルフ家六男レムを父親に持つ、レム家三男

おっとりした性格でいて、愛満と似たり寄ったりの小柄な体格

愛満と大変気が合う友人の1人

野菜料理をメインに販売する『大地の恵み』店を朝倉町で営んでいる

今回 何やらいつにないポカをして、テンションただ下がりで落ち込み中なご様子


・愛満

今回、何やら友人の1人エルピコを助けるため力を貸しているご様子



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