和菓子『苺大福』と苺好きとひな祭り
その日 愛満は、空は薄暗く、愛之助がまだ眠っている朝早い時間からある物を大量に作り。魔法がかかった大きな漆塗りの箱に詰め込んでいた。
「ふぅ~~。愛之助が起きてくる前に、ここ何日かで作り貯めしていた『苺大福』と合わせて、なんとか700個作り終えれたけど、これくらいで足りるか……う~ん、心配だなぁ……
朝倉村のみんな細い体型のわりには、かなりの大食いの人達が多いから………
あっ!いかんいかん。愛之助が起きてくる前に苺大福早く隠さなくちゃ、苺大好きの愛之助に見つかったら食べ尽くされちゃうよ。」
愛満がゴソゴソと苺大福がぎっしり詰まった箱をなおしていると、運悪く起きてきた愛之助が台所にやって来て
「おはようでござる。愛満 最近いつもより早くから働いてるでござるね。…うん?……くんくん……なにやら苺の匂いがほのかにするでござる。」
「えっ!…あ、うん。今日の朝食用に苺とベリーを使ったスムージーを作ってみたんだ。愛之助少し味見する?」
大好きな苺の事になると敏感に察知する愛之助に片手間に作った苺とベリーのスムージーを少し味見させながら、なんとか苺大福の事を誤魔化す愛満であった。
◇◇◇◇◇
「おはよ~う。タリサ遊びに来たよ~♪」
「おちゃよ~う。マヤラあちょびにきちゃよ~♪」
今日も元気に万次郎茶屋に遊びに来たタリサとマヤラは、昨日までの店内とはがらりと様変わりした。
見た事もない十二段飾りの豪華絢爛な雛人形や天井から吊るされたいろんな種類のつるし雛、壁には淡い色のグラデーションでまとめられたピンクや白、黄緑のペーパーナプキンで手作りしたフラワーぽんぽんなどの赤やピンク、白に緑を基調に可愛らしく飾り付けられた店内を見渡し、驚きながら
「うわー!すごい可愛いね。今日は何かお祝い事があるの?」
「ありゅの?」
各テーブルに桃の花が描かれたテーブルクロスをかけていた愛満に質問する。
「そうだよ。今日は僕の故郷でお祝いしていた上巳の節句のひな祭りになるんだ。あちらでは、女の子の祭りとしての認識が多かったけど、本当は五節共の一つで上巳の節句は季節の変わり目に穢れを払うって感じの祭りなんだよ。
だから、今日はごちそうを作ってお昼から村のみんなでひな祭りのお祝いをしょうと、村人皆に招待状を送ってたはずなんだけどタリサ達アルフさん達に聞かなかった?」
「うーん、聞いたような聞いてないような……解んないや。」
「マヤラもわかんにゃい!」
楽しげに3人で話ながら、ひな祭りパーティーの準備を終え。
作り終えて時が止まる魔法がかかった大皿料理を、村の皆が取りやすいようにビュッフェスタイルに並べ始める。
「うわー!すごい美味しそうでござる。今日のパーティー料理はなんでござるか?」
約3名よだれをたらさんばかりに料理の数々を見つめる者がいるなか、そのうちの1名愛之助が愛満に質問する。
「今日はね、かなり張り切っていろいろ作ったよ。
まず、鮪や鯛、イカやホタテ、イクラ、海老、厚焼き玉子、胡瓜をサイコロ状に切って酢飯の上飾り付けた大きな寿司桶いっぱいの『ちらし寿司』でしょう。
他にも『うどとグレープフルーツの甘酢あえ』、『かぶと蟹と菜の花のうま煮』、『カリフラワーとチキンのクリームグラタン』、『水菜とカリカリベーコンの彩りサラダ』、『椎茸の肉詰め』、『春菊の白あえ』、『玉葱と桜えびのかき揚げ』、『蓮根と海老しんじょのあんかけ』、『はまぐりの潮汁』の10品」
「料理名を聞いてるだけでお腹が空いてくるでござるね!」
愛満が教えてくれる料理名を聞き、それだけでますますお腹が空いた愛之助が早く食べたそうにしていると愛満がほふく笑み。
「フッフフフ、愛之助、今日のパーティーは、まだまだこれだけじゃないんだよ!
他にもババーンと黛藍にお願いして作ってもらった『包子』でしょう。
それにシャルさん家に注文した『五平餅』、『ポン菓子』、『雷おこし』、『甘酒2種類』
ライさん家の『黄金唐揚げ』、サナさん家の『玉子焼き3種類』
レムさん家の『焼きとうもろこし』、『焼き芋』、『旬の焼き野菜』
ターハ達パン屋さんの人気の『パン6種類』
青那のラーメン・袋屋の人気の『鶏チャーシュー』、『煮玉子』が運ばれて来んだよ。
それに愛之助達お楽しみのデザートもお雛様らしく『ひなあられ』、『菱餅』、『苺とミルクと抹茶の三色プリン』、『クリームどら焼』、『みたらし団子』、『三色団子』
そして一番の目玉になるデザートの『苺大福』になるよ。」
「苺大福!!!愛満!苺大福があるでござるか?どこにあるでござるか?」
「苺大福!苺を使った和菓子なの?美味しいの?どこにあるの?」
「マヤラ イチゴたべりゅよ!イチゴたべれりゅよ!」
※『マヤラ 苺食べるよ!苺食べれるよ!』
苺の名前が出たとたん機敏に反応する3人の苺好きの熱におされ。愛満は、ついつい『苺大福』をパーティーの手伝いをしてくれている黛藍も含め1人1個づつ味見としてあげてしまう。
「美味しい!外側のお餅はモチモチして、中の苺は回りがパリパリして全部美味しいね!けど、なんで苺のまわりパリパリしてるの?」
「美味しいでござる。大きな苺が真ん中に入っていて、まわりの餡もほのかにミルクの味がして、拙者この餡子好きでござる。」
「おいちいね。マヤライチゴだいしゅき!」
「本当に美味しいアルネ。黛藍 何個でも食べれるアルヨ。」
4人からのお褒めの言葉を聞きながら、連日1人での早朝作業の苦労が報われる思いの愛満は
「美味しい?気に入ってもらって良かった。
その苺大福はね。僕が故郷でよく好きで買って食べてた苺大福を参考にして作ってみたんだ。
ちょっと大変だけど、苺のまわりをホワイトチョコで一粒一粒コーティングしてね。白餡もオシャレに練乳風味に味付けして、お餅で包んで作ったんだよ。
まだたくさん作ってあるから、パーティーが始まったらいっぱい食べてね。」
4人に話しかける。すると愛之助達は、残りの苺大福を大切そうに食べながら、高速に首を上下に動かし。
苺大福が置いてあるテーブルや数を確認して、何やら作戦を練り始めるのであった。
◇◇◇◇◇
こうして朝倉村の店は、どこも昼から臨時休業になり。
村人みんなで、この世界初の『おひな祭りのパーティー』が開催され。
帰り際には、可愛いちりめん巾着に詰め込まれた金平糖やひなあられのセット、来年のひな祭りの時に使えるちりめん兎のお内裏様とお雛様人形セットの置物などが貰え。
村人みんな満腹のお腹と満面の笑顔とともに家路に帰って行く。
ちなみにあの時4人の作戦の内容は、後日愛之助の秘蔵のお菓子箱から発覚される事になり。
どうやらあの日、誰にも気づかれないうちに一人5個の苺大福を確保して、こっそり愛之助の時が止まる箱に隠し入れ。
後日4人で、その苺大福を美味しく食べていた所を愛満に発見され。愛満に軽く怒られはしたが、4人のあまりの懇願により、春限定の『苺大福』が、一年中の販売に切り替わるのであった。




