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「鶏もも肉のハーブ焼き」と、戦争の傷痕



顔色は青白く、頬がこけ、痩せ細った顔をしたご婦人が1人。広々とした豪華な造りのベットに横になるなか


「ウィルソン先生、正直におしゃって下さい。……私、病気なんでございましょう。

それも胃の辺りの……………もって、後何年でございますか、………それとも後何ヵ月の命になるのですか?」


何やら思い詰めた顔をして、幼少の頃より病弱だった自身の主治医を勤める。家お抱えの、白髪混じりの高齢の医師、ウィルソンに話しかける。

するとそんなご婦人の診断をしていたウィルソン医師は、何やら嬉しそうに頬を緩め。


「アンネルスお嬢様、ご安心下さいませ。貴女様はご病気でも無ければ、ここ最近の吐き気や食欲不振等の症状は、あるお目出度い事に関連する事になるのです。」


「おめでたいことですの?」


「はい、アンネルスお嬢様。お嬢様がここ最近日々苦しんでいる。その吐き気や食欲不振と言いますか、そんな吐き気や食欲不振の原因になる物は『悪阻(つわり)』と言い。

どうやらアンネルスお嬢様は悪阻がひどく重い方になるようで、………………。

何を言いたいかともうしますと、おめでとうございます、アンネルスお嬢様。

いや、今からは、ついつい昔からの癖でアンネルスお嬢様と呼んでおりましたが、ちゃんとアンネルス夫人と呼ばねばなりませんね。

ゴッホン!アンネルス夫人。夫人のお腹には現在旦那様との赤子が居り。只今、妊娠3ヶ月でございます。」


ご婦人事、アンネルス夫人のお腹の中には愛する旦那様との間の赤子が宿った事を伝え。嬉しそうに祝いの言葉を述べる。


そんなウィルソン医師からのお祝い言葉に、ベットの上のアンネルスは言葉を忘れたように驚き。わなわなと唇を震わせる。大粒の涙を流して


「…………ほ、本当ですの、ウィルソン先生?

ほ、本当に私のお腹の中に旦那様との赤子が居りますの?」


間違いではないかと確認するように、まるで祈るかのように震える声で問い掛け。


幼少期の頃から病弱で、何年も寝たり起きたりを繰り返す生活をしていたアンネルスは、昔から子供を産む(が出来る)のは難しいと言われていた為。

きっかけは家と家とを結ぶ政略結婚だったのだが、7年前に15歳で結婚した今では、周囲が羨む程の相思相愛の旦那様との間に子供を授かる事を日々渇望していて

幼き頃からの付き合いで信頼関係を築いていたウィルソン医師の言葉に一瞬頭の中が真っ白になってしまったのだが、自分の聞き間違えではないかと祈るような気持ちで聞き返していたのだ。


「えぇ、本当でございますよ、アンネルス夫人。

さぁさぁ、まずはお腹のお子の為に何か栄養がつく物を召し上がって頂けねばなりませんね。

ほらほら、あまり泣きすぎますとお腹のお子がビックリしてしまいますよ。」


嬉しそうに大粒の涙を流す夫人を見て嬉しそうに、また慈しむようにウィルソン医師が声をかける中。


医師の言葉に自分の事のように喜びに震えていたメイドがハッとしたように気を取り直し。

少々慌てた様子で、嬉しさのあまり涙をこぼし続けるアンネルス夫人が泣き過ぎて体調を崩さないように気遣うのであった。



◇◇◇◇◇



「私のアーチャー。本当に可愛いわね。

早く旦那様が戦場から無事に帰って来て頂けないかしら、そうしたら旦那様と3人。教会にこの子の誕生や健やかに成長する事を願い、ご祈祷に行けますのに、…………。

それに大きくなったら、この子に旦那様が得意な武術を教えて頂いたり。

一日も早くこの子の名を呼んで頂けるのに、…………あなたも早くお父様に自分の名を呼んでほしいわよねぇ、アーチャー。

……………フフフ~♪ウフフフフ~♪ねぇ、ツグスズ。貴女もそう思うでしょう?」


実に楽しげに万次郎茶屋、窓辺付近のテーブル席に座るご婦人が1つ席を挟んで隣の席に座る。メイド服を着た女性に話かける。

するとご婦人から話し掛けられたメイド服を着た女性事、ツグスズは優しい微笑みを浮かべ。


「えぇ奥様。本当にアンネルス奥様とチャールズ旦那様のお子、アーチャーぼっちゃまは賢く、可愛らしいでございますね。」


「そう、そうでしょう!私と旦那様のアーチャーは旦那様に似て本当に賢く、可愛らしいのよ♪」


ツグスズが奥様と呼ぶご婦人は嬉しそうに微笑み。

自身の隣の子供椅子にちょこんと座る。大小様々な細かな刺繍が施された子供服を着た。2~3歳くらいの男の子(幼児)を愛しそうに見つめ。優しく頭をひと撫でする。


と、このくらいの年齢の子供ならば、大人しくじっと椅子に座っている事を嫌がる子も多いかと思うのだが、その子は嬉しそうにニコニコと母親と笑みを交わせ。大好きな母上の横に並ぶ椅子に行儀良く座っており。

しかし時折、自身の目の前に座る人物達のとある部分を心配深げに見つめいて、…………………。


そんな男の子の幼児に心配深げに見つめられている。男の子の前に座る人物事。

先程から自身達の目の前に置かれた。白い湯気上げる美味しそうな鶏肉料理に目が釘付けで、まさに涎を足らさんばかりに、…………いや、すでに涎を垂らしているのだが、…………。

元戦争孤児にして現在7歳になる執事見習いのザーバや、その妹5歳のメイド見習いニィヤ達は、奥様のアンネルスか先輩メイドのツグスズ、どちらかからの食事を始める合図を大人しく待っていて、………。


アーチャーぼっちゃんの視線等で、ザーバ達の垂れている涎に気付いた先輩メイドのツグスズから涎を拭くように注意されたりなんかしつつ。

アンネルスやツグスズ達の前にも置かれた。アンネルス大好物になる鶏肉料理が冷めてしまう前に食するようにとツグスズが進め。


幼いアーチャー用にと別に作られ。食べやすいように盛り付けられたチキンのパエリアや手羽元のハーブ焼き、サラダ、スープ等々を頑張って自分で食べようとしているアーチャーの為。

アーチャーの隣の席に座るツグスズが、それとなくアーチャーの食事のお手伝いをしてあげている中。


念願のハーブ焼きを食べれたたニィヤが幸せそうに頬を緩めて


「はぅ~~~~♪奥様、この鶏肉料理、本当に美味しいですね!私、前にこの鶏肉料理を奥様達に初めて食べさせてもらって以来、すっかりこの鶏肉のハーブ焼き料理が大好きになりました♪」


本当ならば自分達の雇い主になる高貴族のアンネルスへと、こんな風にいっかいのメイドが気軽に話し掛けたり。

雇い主と同じテーブルで見習いメイドや見習い執事、メイド達が食事をとる事など、他の貴族の家ならば、それはそれは酷い罰が下されたり。

アンネルス宅でも普段ならば先輩メイドのツグスズに叱られたりするのだが、現在アンネルス達が食事に来ている万次郎茶屋では何故かそれが許され。


元は小さな農村の村で産まれ育った戦争孤児になる。まだまだ幼いメイド見習いのニィヤは大好きな兄を含め。

自分達兄妹を助けてくれたアンネルス奥様、アーチャーぼっちゃま、先輩メイドのツグスズ達とまるで家族のように楽しく、賑やかに一緒に食事出来る事が心から嬉しく。

先の戦争で両親を相次いで亡くしたニィヤは、実に幸せそうに『鶏もも肉のハーブ焼き』を食べて、奥様のアンネルスへと話し掛けた。


そんな可愛らしいニィヤからの問いかけに、自身もニコニコと笑みを浮かべ『ハーブ焼き』を食していたアンネルスが


「そうね。いつ食べても愛満が作ってくれた『ハーブ焼き』は、婆やが作ってくれたあの時の『ハーブ焼き』に良く似ていて、本当に美味しいわね。」


と答えを返してくれ。アンネルスの答えを聞いたニィヤは嬉しそうに


「はい!本当ですね、奥様。

それにこの鶏肉、ハーブの香りが素晴らしいですし!皮がパリッとしていて、なのに身はふっくらジューシーでいて、私いくらでも食べれる気がします!

奥様、こんな美味しい料理を食べさせて頂き。ありがとうございます!私、明日からもっともとと頑張って働きますね!」


「お、俺も、…じゃなくて自分もありがとうございます、奥様。

本当にこのハーブ鶏美味しいです!」


兄妹共々満面の笑みを浮かべ。自分達の主人になるアンネルスへとお礼の言葉を伝え。


どちらかと言えば、婆ちゃん直伝の和食料理が得意な愛満が腕を振るう為。和食中心の料理が多い万次郎茶屋では大変珍しい。

洋食風な見た目の様々なハーブが使用された鶏肉料理やサラダ、スープ、パン等々がテーブルの上に並ぶなか。

アンネルス達は和気あいあいとした雰囲気で、実に美味しそうに料理を食べ進めるのであった。


◇◇


そうして満足そうに綺麗に料理を食べ終えたアンネルス達の元へと茶屋の主人でもある愛満が食後のお茶を持って近づいて来て


「お話し中の所失礼します。皆さん、空になったお皿を下げさせて頂きますね。」


押してきたワゴンへと空になったお皿を下げながら新たに持ってきたカップへとお代わりの紅茶。まだまだ幼いザーバ達の為へとタリサ達も大好きなカルピスを注ぎ。

アンネルス達の前へ紅茶やカルピスが注がれたカップ、茶菓子の『桃のコンポート』が盛り付けられた菓子皿を置き。


「奥様、本日のお料理はいかがでございましたか?何か気になる点などございましたでしょうか?」


何やら執事?貴族の料理番のような、いつにない丁寧語でアンネルスへと話しかけ。

そんな愛満の問い掛けに慣れた様子のアンネルスが嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべ。


「いええ。今日もいつものようにとても美味しかったわ。

それに貴方が上手に婆やの味付けを引き継いでくれているから、まるで旦那様と一緒に食べていたように美味しい『ハーブ焼き』を食べられて私は幸せ者だわ。

………あっ、けれど1つだけ贅沢を言えるならば、戦場でお国のために頑張ってくれている旦那様達が隣に居てくれない事が不満かしら。」


不服を表すかのように頬を膨らませてみせ。その後すぐに茶目っ気たっぷりの笑みを浮かべて、つかの間の愛満とのお喋りを楽しみ始め。


時たま愛しそうに自身の隣に座り。桃のコンポートをキッズ用スプーンを上手に使い。満足気な様子で食している息子アーチャーを見つめては幸せそうに笑みを浮かべるのであった。


そうして本日のランチを心行くまで楽しんだアンネルス達はツグスズが手配した迎えの馬車に乗り。朝倉町内に建つ屋敷へと帰っていった。



◇◇◇◇◇



「ねぇ、山背。僕思うんだ。戦争って絶対しちゃいけないんだって、…………………。

だってね。違うかもしれないけど、僕が知る戦争って、簡単に言えば人の持っている物を欲しいが為に理不尽にも喧嘩を始め。

力が有る人って言うか、そんな国や人を好きに動かせる人達が自分達の利益の為にそれを正義だと言い放ち。

僕には意味の解らない正義の名の元に自分達よりも弱い人達や、その理不尽さに抗えない人々に過剰な力を振り回してるだけのように思えるんだ。

それにね。沢山の犠牲を出して手にした物なのに、それを最後まで大切にしてるようには見えなくて……………。

『隣の芝生は青く見える』と言うことわざがあるけれど、本当にその通りだと思う。

他の人が持ってるからスゴく良い物に見えるかも知れないけど、………そしてそれを何がなんでも自分の物にしたいと思ちゃうかもしれないけどさ。

それがいざ自分の物になっちゃたら、また捉え方が変わっていってね。全然別の物のような。まるで色褪(いろあ)せたように見える気がするんだよ。

結果、全然関係ない人達が沢山、……………そう、本当に沢山の人達が傷付き。

けど傷付けた人達は知らん顔して、本当の意味での責任をとらなければいけない人達は上手く下の者に責任を押し付け。悠々と暮らしていたりするんだもんね。」


「………………本当じゃのう~。」


「それにさぁ、少しでも自分達と違うと言うか、自分達の常識と外れていたら文句を言い。簡単に迫害や差別をしたりしちゃうし、………………。

……そりゃあ、僕だって自分の常識範囲外の人と出会ったら怖いよ。………怖いけどさぁ、怖いなら怖いなりに相手と関わらなきゃいいんだし。わざわざ相手に気持ち悪いだの、変だの言う事はないんだよ!

そんなので周囲との人の間で勝手にランクづけしたりして、その中で優越感に浸ったって、虚しいだけだと思うのに、………………。

本当、人ってある意味とっても身勝手でいて、臆病な生き物でもあるんだよね。

……………こぉ~、…何とも上手く言えないんだけど、……何処の世界でも人と言う者は異なる二面性を持っていて、優しさと共に残酷さを持った生き物なんだなとつくづく思うよ。

………………………本当難しいね。」


家路へと帰る。アンネルス達が乗る馬車が見えなくなるまで茶屋出入口で見送っていた愛満が、何やら自身の胸の中でモヤモヤしていた感情が我慢できなかった様子で、終始話がまとまらなくなりながらも山背へと自分の思いを話。

愛満と同じように戦争はしない方が良いと常々言っている山背も、そんな愛満の意見に同意するかのように大きく頷き。


何とも言えない雰囲気が2人を包む中。気合いをいれるかのように自身の足を叩いた愛満は、無理矢理にでも笑みを浮かべ。気合いを入れ直した様子で仕事へと戻っていく。



◆◆◆◆◆




カランコロンコロ~~ン♪


万次郎茶屋の出入口に備え付けられたベルが鳴り。茶屋への来客の訪れを知らせてくれなか。

アンネルス達が万次郎茶屋へとご飯を食べに来た日を何日間遡ったある日の事。

万次郎茶屋では茶屋に訪れたとある人物を確認した愛満が


「あっ、ツグスズさん、こんにちは。いらしゃい。

アレ?今日は1人なんですね。………あっ、そうか。今の時間帯ならアンネルス奥様はお昼寝の時間かなぁ?」


万次郎茶屋を訪れたツグスズへと声をかけ。自身が作業しているカウンター前の席を進めながら、ツグスズの前に手早くおしぼりやレモン水を差し出し。

ツグスズが頭を下げ。慣れた様子でおしぼりで手を拭き。乾いた喉を潤すようにレモン水を一口飲み終えると


「ええ。今日は久しぶりに天気が良かったから奥様がいつになくアーチャーぼっちゃまの服の刺繍に励まれてね。

そのせいで少し疲れちゃったみたいで、お昼寝しているぼっちゃまと、いつもより深くお眠りになっているみたいなの。

だからロジャー(執事)ザーバ(執事見習い)ニィヤ(メイド見習い)達が奥様の事を見ていてくれると申し出てくれてね。ちょっとだけ奥様の側を離れさせてもらったの。」


と話し。更に続けて


「あの、……それで愛満さん。また悪いんだけど、明日奥様やぼっちゃま、ニィヤ達とこちらでランチをしたいから、いつものあの料理をお願いできるかしら?

それから、………この前頂いた。いつも分けてもらっている『ハーブ鶏』が残り少なくなってきてしまったから、また分けてもらえないかしら?」


実に申し訳なさそうにしながら、何やら万次郎茶屋へのランチの予約や『ハーブ鶏』なる物を分けてもらえないかと聞き。


そんな申し訳なさそうな態度をとるツグスズからの問い掛けに安心させるように笑みを浮かべた愛満は


「もちろん大丈夫だよ。全然遠慮しなくて良いからね。それに困った時はお互い様だからツグスズさんもそんな顔しないの!

ほらほら、笑って笑って!

あっ、けど『ハーブ鶏』は鶏もも肉やじゃが芋なんかにハーブやオリーブオイルをまぶさなきゃいけないから、明日お店に来た帰りに渡す事になるんだけど、……それで大丈夫かなぁ?」


と言いって、ツグスズがホッと安心した様子で安堵のため息をつき。改めて愛満へとお礼の言葉を伝え。

奥様が起きた時に自分が居なくてパニックになってはいけないからと言い。足早に帰ろうとするなか。


ツグスズを含めアンネルス、ぼっちゃまのアーチャー、執事のロジャーや執事見習いのザーバ、メイド見習いのニィヤ達へのお土産だと秋限定のどら焼きや饅頭、大福等の詰め合わせを手渡し。自宅へと足早に帰るツグスズを見送った。





◆◆◆◆◆



と、アンネルスやツグスズ達が誰かと言うと


アンネルス奥様事、アンネルスは朝倉町に暮らす。良く忘れがちになるのだがチャソ王国ではかなり高貴な身分になる。高貴族産まれのササ族黛藍(タイラン)の母の友人の娘になり。

とある出来事等から黛藍の母を頼り。朝倉町へと移住して来たお人で、……………。


元々貴族社会では良くあるようにアンネルスの家と格式の合う。代々王国軍に席をおく、とある高貴族の嫡男と幼少期時代に婚約を結んだ後、15の年に結婚。

結婚何年目かのある日の事、めでたく子宝にも恵まれたのだが、不運にもその年、やっと子宝に恵まれた直後に戦争が始まってしまい。

夫の生家、ザーモンド一族を率いる。チャソ王国・高貴族でもあり。王国軍騎士の夫チャールズ、義父達が戦争に出陣(参加)しなくてはならなくなり。

……………………なんと言って良いのか、その後戦争に出陣した夫のチャールズや義父達が勇敢にも敵軍と戦い。無念にも戦死したとされる知らせが届き。

そのショックからお腹の子供が予定より早く産まれてきてしまい。待ちに待った赤子は早すぎる生まれから産後3日で静かにその鼓動を止め。

アンネルスの心が悲しみや絶望で引き裂かれそうになるなか。

それでも何とか一族の長の妻としての勤めをはたそうとしていた所。

元から仲が良くなかったチャールズ()の腹違いと言うか、今は亡き義父の妻、第2夫人の息子。義弟から今後自分が一族を率いる為(ちなみにアンネルスの夫チャールズは、今は亡き正妻の1人息子になる)

姉上は、どこか静かな場所で療養するようにと強引に進められ。その日のうちに療養と言う名のお家乗っ取りにして、着の身着のまま嫁ぎ先を追い出される事になり。


あまりの出来事に気を失ってしまったアンネルスは、幼少期から自分の世話をしてくれていた乳母の娘になるツグスズや。

夫チャールズを長年支えてくれていた老執事のロジャーの2人の助けを受け。命からがら王都の実家へと帰って来れたものの。

その時にはもうアンネルスの心は音をたて壊れてしまっていて、…………………。


その後、実家の離れで生活するようになったアンネルスの中では夫チャールズはまだ生きており。

今なお王国のため勇敢にも戦場で戦っていて、死産した赤子も生きていると記憶がおかしくなっていた。


その為、夜な夜な屋敷の中をさ迷い。自身の赤子を探し続けるという行動をとるようになってしまい。

赤ん坊を見ると自分の子供だと勘違いして連れて行こうとするなどの行為をとるようになっていき。


現在アンネルスが我が子だと思っているアーチャーはと言うと、……実は人間ではなく自動人間(オートマタ)になり。


娘を不憫に思ったアンネルスの母が王都でも一部の人の間では大変有名になる。その道(裏)の魔導師に頼み込み。

娘アンネルスや戦死した婿の遺品の髪や爪等を使い。産み出された特殊な自動人形(オートマタ)になる。

そのため大変高額でいて、特殊な自動人形になるだけに普通に会話もでき。更には食事もとる事ができて、成長すると共に感情等も生まれる事から、一見自動人間にはとても見えず。

アンネルスは、その自動人形の事をすっかり自分の子供だと思い込み。

またその自動人形事、アーチャーが来てからアンネルスの症状はみるみる良くなっていく、……………ものの。

一度心が壊れてしまったアンネルスの中では様々な記憶が混じり合わさっているようで、…………。

息子アーチャーや、気心の知れたツグスズが側に居る時や体調が良い時等は良いのだが、たまに記憶がフラッシュバックしたりして正気に戻る時があり。

酷い時など錯乱状態に陥り。自分で自分を傷付けてしまい。1人にする事は長い時が経った今でも出来ず。


他にも王都に建つ実家の離れに住んでいたのだが、じわじわと自動人間(アーチャー)の事が、何故か貴族達の間で噂され始め。

自動人間と言うものの。喪ってしまった義理の婿を始め。娘のアンネルスの面影を継ぐ。孫のようなアーチャーの事は目に入れて良いぐらい可愛く。

また、やっと少しずつ落ち着いてきた娘の心がこれ以上傷つく事を恐れたアンネルスの両親は、長年の友人になる黛藍の母君に相談した後、治安の良い朝倉町へと娘達を移住させる事を決めたのであった。


そうして王都から朝倉町に移住して来たアンネルス達は、旅の途中孤児のザーバ兄妹に出会ったりしたりしながら、少しずつ朝倉町での生活を落ち着かせていき。


そんなある日の事、アンネルスが突然、自分が大好きだった乳母が作ってくれていた。ハーブの使い手としても有名だったツグスズの母が独自にブレンドし。それをお肉や野菜等に漬け込んで(まぶして)焼いた『ハーブ焼き』を食べたいと言い。

『あの料理は旦那様もお好きだったのよね』と、アンネルスが嫁ぐ前に流行り病で亡くなってしまっていた乳母の料理を旦那様が食べられるはずのない事を言い始め。


ハーブの使い手で料理上手だった母と違い。料理の苦手なツグスズが朝倉町へと移住するさい、何かと相談にのってくれた黛藍へと相談して、そこから愛満へと話が伝わり。

日本では有名な乾燥ハーブミックスを駆使していて、…………


【そう!あの巷ではすっかり顔馴染みになった。スーパー等で良く見かける『ハーブソルト』です】


そんなハーブソルト等を使い。何度かツグスズや、食べ盛りのザーバやニィヤ達等に味見してもらったりしながら見事アンネルスが望む。

愛満がハーブ焼きにはコレが合うだろうと思われる『鶏もも肉』や『じゃが芋』、『玉葱』プラス季節野菜等々を足したりして、オーブンで焼き上げ。

たまに飽きが来ないように鶏肉を豚肉や牛肉等に変え。アンネルス達満足のハーブ焼き料理を作り。

アンネルス達が万次郎茶屋へとランチに来るさいや、後は焼くだけでいい状態にした。真空パックの『ハーブ鶏』等をアンネルス達の為だけに特別に提供しているのであった。




ちなみにここだけの話。

アンネルスは愛満の事をお抱え料理人と勘違いしており。万次郎茶屋へ来たさいなどはアンネルスを混乱させない為。

茶屋を貸し切りにしたりして、愛満は料理人が貴族に接するように丁寧語で喋り。山背共々、振る舞っていました。





「鶏もも肉のハーブ焼き」と、戦争の傷痕の登場人物


・アンネルス

チャソ王国・高貴族のご婦人

15歳の時にチャールズの元へ嫁ぐ

幼少期から病弱ながら守りの刺繍が得意

【守りの刺繍とは、刺繍を施した物を着ている者、持っている者を悪から守ってくれる魔繍になる】


・チャールズ

チャソ王国・高貴族ザーモンド家の嫡男、アンネルスの夫

チャソ王国軍の騎士、先の戦争で戦死


・アーチャー

亡きチャールズとアンネルスの髪や爪等で誕生した自動人間

チャールズとアンネルスの息子

母親思いの優しい子


・ツグスズ

アンネルス付きのメイド、料理が苦手

アンネルスの亡き乳母の娘


・ザーバ

小さな農村の村で産まれた男の子、7歳

執事見習い

両親を先の戦争で相次いで亡くす


・ニィヤ

5歳、ザーバの妹、メイド見習い


・ロジャー

元ザーモンド家執事、幼少期からチャールズを見守ってきた老執事

チャールズが戦場へと出陣のさい、家に残る妻アンネルスの事を託される


・ウィルソン

幼少期からアンネルスを診てきた老医師


・黛藍

日本では馴染みのパンダに見えるのだが、こう見えてチャソ王国・高貴族ササ族産まれになるお方

今回母上のお手伝いで、影に日陰に同じ高貴族のご婦人の手助けをしていたご様子


・愛満、山背

今回も町人の為にとコツコツ頑張っているご様子



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