和菓子『西瓜牛乳羮』と、大暑と兎族のシモナ
チリーン、チリーンと万次郎茶屋の扉に取り付けられたベルが鳴るなか
「………………は~~~い!いらっしゃいませなのじゃ~、…………。」
商品棚奥から山背がのそりと顔を出し。お客さんの確認もせずに。少々、良く言えばまっとりとした。悪く言えばヤル気の無い態度で目をしょぼしょぼさせながら、来店客への挨拶をしていた。
「あっ、今日は山背1人なの?愛満は?それに愛之助やタリサ達も居ないけど、どうしたの?」
万次郎茶屋へとやって来た町役場勤務でいて、タリサ達の年の離れた姉ラスカを母親に持ち。
同じ職場に勤める自称プリティー王子事、弟のルタンの姉にあたるシモナは、そんな山背の態度を気にする事もなく。
珍しく茶屋内に居ない愛満達の事等を山背に畳み掛けるように質問する。
しかし眠気眼な山背は、そんなシモナからの矢継ぎ早の質問など気にした様子もなく。
マイペースにお茶やお茶菓子の準備をしながら、実にゆっくりした速度でノソノソと、茶屋内のテーブル席へと移動し。
「あぁ~、愛満達か、アイツらはのう~。愛満は風呂屋松乃の品切れした兎饅頭を納品に行っておってのう。直ぐに帰ってくるはずじゃ。
それから愛之助達は、久しぶりに晴れたからと大喜びして花夜の所に遊びに行っておるのじゃよ。
そしてそして、……大切な事じゃから言うのじゃが!
確か、愛満が松乃に行くさいに茶屋の看板を準備中にして行くと言っておったと思うのじゃが、ワシの気のせいかのう~?」
愛満達が店に居ない理由を教えて上げつつ。
シモナに空いてる席に座るように勧めながら、一応接客をしなければいけないと思った山背は、シモナへと冷たく冷えた緑茶を出したり。
夏季限定の山背お気に入りの『塩水まんじゅう』を差し出したりと、本来準備中の看板が下がった茶屋内にズカズカと入ってきたシモナを不思議そう見つめ。
何か愛満達へと用事でもあったのかと問い掛けたのだが…………、そこは山背に負けず劣らずのマイペースなシモナは、山背の問い掛けを聞いているのか、いないのか
「へぇ~愛満は松乃で、愛之助達は花夜君の所に遊びに行ってるんだ。こんな暑い日に大変ねぇ~!
まぁ、私もこの暑さに嫌気がさしてね。外の用事を済ませた次いでに、ちょっと涼しい茶屋で休憩でもしょうとかと足を向けたんだけどね。
はぁ~~~、こんな蒸し暑い日に飲む冷たく冷えた緑茶は本当に美味しいわねぇ♪
あっ、それにこの水まんじゅう、ほのかに塩気が感じられて美味しいし~!」
山背が出してくれた。冷たく冷えた緑茶や『塩水まんじゅう』を美味しそうに飲む食いしながら自身の話を述べ。
「あっ、そうだ!さっき茶屋に入る時に今日一日限定の和菓子が有るみたいに書いた張り紙が扉の所に貼ってあったんだけど、何になるの?
それに今日って何の日だったっけ?」
逆に山背へと質問をしてくるほどで、………………。
そんなシモナの問い掛けに大きなため息をついた山背は、何やら色々と飲み込んだような顔をして、グッと堪えて大人の対応をとり。
「はぁ~~~、………………それはのう。確か昨日の晩に愛満が言っておったのだが、今日は『大いに暑い』との名前通り。
一年でもっとも気温が高く。道路には陽炎がゆらめき、空を見上げれば入道雲が見え。暑さが厳しくなる節気の1つ『大暑』になるのじゃよ。
じゃから、明日からますます暑くなると思うからの、シモナ。
少々めんどくさがり屋の気が有るから、お主、こまめに水分補給等を心がけ。無理等せず、適度に頑張って夏の暑い時期を過ごす事じゃ。」
少々…………いや、かなりマイペースな性格ながら、多々めんどくさがり屋な気が見え隠れするシモナの体調面等を気遣い。
「あぁ、そうそう。ちなみに今日の大暑の日の一日限定の和菓子はのう。
あそこの商品棚に並んどるのじゃが、夏の熱い太陽に熱せられた石畳道をモチーフにした『西瓜牛乳羮』になるぞ。」
とシモナに教えて上げた所。
5個目の『塩水まんじゅう』で頬を膨らませたシモナに小脇に抱えられた山背は、和菓子が並ぶ商品棚へと連れてこられ。
もう一度シモナへと『西瓜牛乳羮』の説明をさせられた後、先程山背のオゴリで『塩水まんじゅう』を5個食べ終えはずシモナから(ここだけの話、結構なサイズになる)10個の『西瓜牛乳羮』の注文を受けるのであった。
「へぇ!『西瓜牛乳羮』10個じゃと!?………だ、大丈夫なのか??和菓子と言うか、和菓子の中で流し菓子になる、この『西瓜牛乳羮』は、2人から3人で分けるサイズの結構な大きさになるぞ!
何々??私の勘がコレは美味しそうだと告げているのじゃと!だから大丈夫とは…………………。
………………まぁ、お主が良いのなら良いのじゃが、………………なら、大暑の日1日限定の『西瓜牛乳羮』10個じゃな。
分かった分かった。これ以上何も言わんのじゃあ。
あっ、それと全部店で食べていくのじゃな。………うんうん。了解したのじゃ。直ぐに皿に盛り付けて持ってくるから、お主は席に戻っておって大丈夫じゃぞ。
あっ、そうそう!どもどもお客様、まいどありなのじゃ!」
◇◇◇◇◇
「はぁ~~~、どっこいしょ!!
シモナ、お待たせしたのじゃ。注文の品の『西瓜牛乳羮』と、お代わりの緑茶持って来たのじゃあ。」
何やら大仕事終えた雰囲気を出す山背が、シモナの注文の品の『西瓜牛乳羮』が10個乗った大皿と共に、冷たく冷えた緑茶が入ったポットをワゴン(山背サイズの)を押しながらテーブル席へと戻って来る。
「うわ~~~!さっきも商品棚で見たんだけど、本当に西瓜を使った和菓子になるのね!」
山背にはあぁ言ったものの。朝倉町にやって来て初めて食べた西瓜に、ここ何年もドハマりしているシモナは、『フルーツポンチ』や西瓜を使った『西瓜シャーベット』等のお菓子?を食べた事はあっても、西瓜と牛乳を組み合わせた和菓子を見た事も食べた事もなく。
その為、いつになくテンション駄々上がりのひどく興奮した様子で、山背にお礼の一言を述べつつ。目の前に置かれた『西瓜牛乳羮』を恐る恐る口にして
「……………な、何コレ!?西瓜と牛乳って意外に合うのね!知らなかった。
それにこの『西瓜牛乳羮』。スッキリした味わいなんだけど、西瓜独特のシャリシャリした果肉感も残ってて、程好い甘味が感じられて美味しいわ。
うんうん!これならペロリと10個食べ終えちゃいそうよ♪はぁ~~~美味しい♪」
初めて食べた『西瓜牛乳羮』の感想を述べ。
そんなシモナの横でちゃっかり持って来た自分の分の『西瓜牛乳羮』を食べている山背も
「お~~~ぉ!!最初、今日の限定和菓子が西瓜と牛乳を使った寒天菓子と聞いておったから遠慮しておったのじゃが、コレはコレで以外に乙じゃのう~♪
うんうん!優しい甘さの牛乳寒と共に自然な甘味の西瓜が良く合うのう~♪
食わず嫌いはいかんのじゃあ!」
何やら一人納得した様子で話し。山背の話に同意するよう頷いていたシモナも
「本当よねぇ~!
それにこの『西瓜牛乳羮』。最初、夏の熱い太陽に熱せられた石畳道をモチーフにしてると聞いて意味が解らなかったんだけど。
石畳風に並んだ食べごたえある西瓜の切り身や、そんな西瓜の切り身の間から見える。
多分西瓜の果汁でほんのりピンク色に染まった牛乳寒天が相まって、これを石畳道だと思う愛満の発想が面白いし。
愛満って、ちょっと天然ちゃんでいて、本当に不思議で可愛いわよねぇ~♪
はぁ~~~、私もあんな可愛い弟が欲しかったわ!家のルタンときたら外面は良いのに口が悪いから何て言うかもう!」
新たなスイッチが入ったらしく。『西瓜牛乳羮』を頬張ると共に、自称プリティー王子の弟ルタンの愚痴や、最近の出来事等をマシンガントークで話始めてしまい。
そんなシモナの姿に山背が密かにため息をつくと共に。
すっかり眠気が吹っ飛んでしまった目を今度は虚ろにさせながら、『風呂屋・松乃』にお土産用の箱詰め菓子『兎饅頭』を届けに行った愛満が1秒でも早く帰って来る事を願うのであった。
「はぁ~~~、……大暑の日ではないが、ワシもシモナのお喋りの熱で、すっかりやらせそうじゃわい。
愛満や~~~、早く帰って来てくれ~~~!!!」




