丼料理「浅蜊の玉子とじ丼」と、グルメハンター・ワッコ族のウカヒ
「ふふふ~~♪ふ~~~ん♪ふふ~♪ふ~~~~♪」
日に日に暑さを感じるようになってきた今日この頃。
何やらその辺に落ちていた木の枝を指揮者のように振り回している男……性?…………………いや、男の子のような見た目の人物が、ご機嫌な様子で山道を歩いていた。
そうして途中疲れたのか、休憩とばかりに山道脇の岩の上に座り込み。乾いた喉を水袋の中身の水で潤しながら
「はぁ~~~、それにしてもお腹空いたなぁ~。早く朝倉町に着かないかなぁ……………。
う~~~ん、朝倉町まで後どれくらいだったけ?
……………………まぁ、いいや。それより!朝倉町に着いたら一番に愛満の所に行って、まずはアレだろう!それにアレやアレ!
後はアレも食べちゃって!お腹いっぱいアイツを食べてやるんだ!!!」
始めはお腹が空いたと力なく呟き。最後の方は朝倉町に着いたら食べる予定の料理の事を思い出した様子で大きく頷きながら、また歩き始めるのであった。
◇◇◇◇◇
「はい、お待たせ。今日のまぐれ定食は、3月から6月までが旬になる『浅蜊』を使った『浅蜊の玉子とじ丼』でしょう。
それにウカヒの為の浅蜊スペシャルメニューを組み合わせた。小鉢の『浅蜊と青菜の辛子合え』、汁物の『浅蜊の味噌汁』
季節野菜を使用した漬物『新キャベツの彩り浅漬け』、デザートの『苺の牛乳寒天』になるよ。
それに余った浅蜊を使ってチャチャッと作った。
万次郎茶屋からのサービスになる『浅蜊と新じゃが芋のグラタン風』、『浅蜊と新玉葱のかき揚げ』、『浅蜊と韮の中華焼きそば』になるよ。
あと、……………ちょっとって言うか、いろいろと統一感のない献立になってるんだけど、………そこは気にしないで食べて!」
本日もまた元気に開店した万次郎茶屋では、開店してまだそれほど時間がたっていない中。
何やら親しげな様子で客に話し掛けている愛満が、出来立てホカホカの軽食まぐれが乗ったおぼんを2つ差し出しながら、目の前のカウンター席に座る人物へと、軽食のまぐれが乗ったおぼんをそれぞれ差し出す。
「うゎ~~♪いつ来ても愛満が作る軽食料理は本当に美味しそうだね!それに見てるだけで僕のお腹を刺激するよ♪
ハァ~~~♪コレコレ、夢にまで見た、ずっと食べたかった『浅蜊』だよ!
う~~~ん、本当に美味しそ~~~う♪」
実に嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。一見子供のような見た目になる人物が、何やらうっとりした様子で、自身の目の前に置いた『軽食まぐれ』等の浅蜊料理の数々をいろんな角度から暫しの間見詰める中。
そんなウカヒの姿に照れくさそうに笑みを浮かべた愛満が
「ほらほら、ウカヒ。ウカヒが大好きな貝の『浅蜊』なら、まだまだ沢山冷蔵庫の中に置いてあるんだから、せっかくの浅蜊料理、出来立てホカホカの温かいうちに食べなよ。
冷めたら美味しくなくなちゃうかもしれないよ。」
とウカヒを即し。
口だけでは飽きたらず。目でも久し振りに口にする事になる浅蜊料理の数々を記憶に色濃く残したかったウカヒが、少々名残惜しそうにしつつも大好きな『浅蜊』や、庶民の間では普段なかなか高価で口に出来ない『卵』を贅沢にも使用した丼を一口食べると
「うんうん、コレコレ!
この愛満の故郷の『浅蜊』って言う貝になるんだったけ?
その浅蜊がさぁ。僕の故郷で良く食べられてた固い甲羅みたいなのに身を包んでた魔貝に味や食感が似てて
まぁ、大きさ何かは全然違うんだけど、たまにむしょうに食べたくなるんだよね!
うんうん、美味しい美味しい♪」
実に嬉しそうに木製のスプーンを指揮棒の用に動かしながら話した。
と言うのも、ウカヒが朝倉町で初めて食べた際にはひどく驚いた。ウカヒが生まれ育った村付近の泥沼にだけ生息しているらしく。
地球で言う所の、ちょっとした軽自動車サイズになるそうなのだが…………良く良く考えれば恐ろしい。
日本人には慣れ親しまれた貝類の1つ、『浅蜊』に良く似ているらしい。
魔獣等に詳しい山背曰く。魔貝になるらしい。日本の浅蜊に良く似た。
何度も言うが、大きさは全く違うものの。味や食感が良く似ているらしい。
愛満お手製の旬の浅蜊を使用した浅蜊料理をウカヒがすっかり気に入り。
愛満が先ほど話していた通り。日本で言う所の3月から6月までが浅蜊の旬になる。この時期になると必ず朝倉町へとウカヒは訪れては、朝倉町でしか食べる事が出来ない。
ウカヒの故郷と違い気軽に食べられる浅蜊料理を毎年食べに来ており。
種族がら余り高くならない低い身長な事や、黒目が大きなつぶらな瞳等が相まって、幼い子供のように見えるものの。軽く大人三人前ぐらいならペロリと食べ。
幼少期の時期は茶色の髪色から、大人になるにつれチャコールグレーのような髪色に変化していく珍しい種族になる。
何より美味しい物を食べる事が大好きなワッコ族でいて、自称グルメハンターなるウカヒは、大降りの木製のスプーンを使用し。口一杯に丼の中身を頬張りながら、本日2杯目になる『浅蜊の玉子とじ丼』を大絶賛してくれていた。
そんなウカヒの姿を嬉しそうに見ていた愛満が、空になったコップに檸檬の風味や香りが楽しめる檸檬水のお代わりを注いであげつつ。何やら思い出した様子で
「そうそう、それよりウカヒ。食事中に悪いんだけど、今回うちに来るまでの道中、何か気になる事とかなかった?
それに横揺れと言うか、何か体に感じる揺れ等、旅の途中に感じなかった?」
ここ最近、朝倉町で話題になっている横揺れと言うか、地震が多い事で有名な日本生まれの愛満等からしたら日々不安だけが膨らんでいる。
今だ原因が解らず。度々街を揺らす原因不明の横揺れの解決の糸口になるかと、街までの道中、何か変わった所がなかったかと聞いてみた所。
頬をパンパンに栗鼠のように膨らませ。口をモグモグさせていたウカヒが何やら思い出すように腕を組み。眉を寄せながら考え始めてくれ。
「う~~~ん、何か変わった事ねぇ~~…………………何かあったかなぁ~??
あっ、横揺れなら何度感じたりしたんだけど、……………う~~~ん、………そうだ!変わった事と言うかね。何日か前の夜にビックリした事があってね。
もしかしたら夢なのかも知れないんだけど、ココから山三つ向こうで野宿した時に夜中にトイレで目が覚めちゃってね。
危ないからテント近くで小をしてたら、木々の向こうの方で、何だか大きな生き物が動く気配がして
慌ててその場に座り込んで、気配を消してやりすごそうかと思ってたら、何か小山ぐらいの大きなの生き物と言うか、赤く光る目のような物が付いた生き物がドシドシ?………ノシノシ?って、周りの樹木をへし折りながら、山中を移動しているのを見た気がするんだ。
……………けど、チラッと見ただけだし。夜中だったから周囲も暗くてハッキリ見たのかと言われれば、僕が寝ぼけていただけなのかも知れないし………………。
まぁ、コッチに襲ってこなかったら本当に良かったんだけど、………アレ、一体なんだったんだろう?」
何日か前に自身が体験した出来事を不思議そうに話してくれ。
「そっか、そんな事があったんだね。それは怖かったよね。
それにウカヒがそんな恐ろしそうな生き物に襲われなくて本当に良かったよ。
僕ならあまりの恐ろしさに腰を抜かして動けなくなってたとこだよ。ウカヒ、教えてくれてありがとう。
あっ、それから、ちょっと今、魔獣関係に詳しい山背がギルドに出掛けて居ないんだけど。帰って来た時に今ウカヒが話してくれた、さっきの話を山背に話しても大丈夫?」
ウカヒの話を聞き。その場を自身に置き換えて想像した愛満は、少し顔を青ざめさせつつ。
そんなウカヒの話に感謝の言葉を述べながら、ウカヒが綺麗に飲み干してくれた『浅蜊のお味噌汁』のお代わりを注いで上げる為、空のお椀をウカヒから受け取り。
新たに浅蜊のお味噌汁をお椀に注ぎ入れながら、ウカヒが話してくれた話を山背に話しても大丈夫かと聞き。
ウカヒから快く承諾を受けた愛満は、その後ウカヒと2人。
とある事から常に有り余っている自家製の苺を使用した『苺のシャーベット』に舌鼓をうちつつ。
お腹を空かせて友達の花夜の家から帰って来た愛之助達が、いつの間にか交じる中。
朝から続いていたギルド長の琴柏谷との話し合いを終えた山背へと、ウカヒから聞いた話を伝えるのであった。
◇◇◇◇◇
そうして今日もまた、1日も早く周辺を騒がせている横揺れの原因が解決する事を愛満達が強く望む中、万次郎茶屋の1日は過ぎていった。




