光貴絶賛「鱈のかぶら蒸し」と、異変と不安
「さぁ~てと、明日用の自宅と茶屋用の米洗い、仕込みも終わった事だし。明日茶屋で販売する軽食のメニューでも考えようかな。
…………うーん、明日は何を作ろう。あっ、それより明日の天気はどうだったけ?
確か山背が明日の天気を予想してボードに書いてくれてたはずだけど」
何やら独り言を呟いていた愛満は、今日最後の家事を終えた様子で、一仕事終えたとばかりに凝り固まった体をほぐすように背伸びをしつつ。
台所隅に置かれていたノートや筆記用具等を持ち。台所から茶の間へと移動するのであった。
◇◇◇◇
「あっ、愛満!今日もお疲れ様でござるよ。
さぁさぁ、拙者達が温めておった炬燵に足を入れ。拙者が煎れたこの梅昆布茶を飲んで一息つくでござるよ。」
「愛満、愛満!ここ空いてるへけっよ。それに今僕達が食べているへけっ。このザラメ煎餅、一緒に食べようへけっよ♪
ほら、ここココ、僕の隣に座るへけっ♪」
「いやいや、拙者の隣も空いているでござるよ。
さぁさぁ、愛満、コチラヘどうぞでござるよ!」
「ダメ!ダメへけっ!こっち、コッチへけっよ!
愛満、僕の隣に座るへけっ!」
「いやいや、拙者の隣へ座るでござるよ!」
「愛満、コッチこっちへけっよ!」
「コッチでござるよ!」
「コッチへけっ!」
と無駄な争いが起きたりした中。
あの後、茶の間へと移動して来た愛満に目敏く気付いた。茶の間でまったりと『梅昆布茶』と『ザラメ煎餅』を頬張りつつ。
何やら最近2人がハマっているらしい。花図鑑を2人仲良く眺めていた愛之助と光貴達から手厚い接待を受けた愛満は、有り難く2人から『梅昆布茶』や『ザラメ煎餅』を受け取り。
両脇に移動して来た愛之助や光貴に挟まれ。少々狭苦しい思いをしつつ。
自身が持参して来た、万次郎茶屋で販売している軽食の献立が走り書きされたノートや、今現在、万次郎茶屋用の冷蔵庫に入っている食材が手書きされたボードを前に何やら考え込み始め。
「………うーん、それにしても明日の軽食、何作ろうかなぁ…………。
ええっと、確かこの前回の和食の日の時は長芋や白菜を使って『長芋の挽き肉のはさみ揚げ・千切りキャベツ付き』に『白菜と豚肉の甘酢炒め』だろう。
それに汁物の『長葱とホウレン草の味噌汁』、箸休めの『牛蒡と蓮根のぬか漬け』。
後は麺軽食が『桜えびとワカメのにゅうめん』で、まぐれ軽食の丼物が『ネギ塩豚丼』を作ったんだよな………………うーん。」
毎日『和食・洋食・中華』と日替わりになる。明日の和食の日の軽食料理を何にするか悩んでいた所。
そんな愛満の様子に気付いた愛之助と光貴の2人が愛満の前に置いてあるノートを覗き込みつつ、話しかけてきて
「愛満、どうしたでござるか?
あっ、もしかして明日の軽食の献立でござるか?」
「愛満、どうしたへけっか?明日の軽食の献立考えてるへけっか
?」
「うん、そうなんだよ。
あのね、明日は今日と一緒で少し難しい天候になってさぁ~。
今日みたいに朝から午後までの間、春一番のような強い風が何度も吹くらしいんだ。それに場所によっては少し肌寒くも感じるらしくて…………。
けど山背曰く、お日様は1日中出てるはずだから温かいと言えば温かくも感じるらしくて………………。
それに夕方からは、また今日みたいに冷え込んでくるぞとも教えてくれてね。
本当、何とも言えない難しい天気になるんだよね。
だからさぁ、明日の軽食はポカポカ陽気の献立てまとめれば良いのか、はたまた肌寒い天気の時の献立にまとめれば良いのか、こうして頭を悩ませていると言う訳なんだよ。」
愛満が万次郎茶屋で販売している軽食は日々の天候等も取り入れられて作られており。
そんな軽食の献立を前日の夜に日々考えている愛満は、明日の天候が不安定な事もあり。何を作ったら良いのかと頭を悩ましていると話すと
「へけっ~~~!それは悩む所へけっね。
光貴も天候と言えば、今日の寒かったり暑かったりした天候には本当に困ったへけっよ!」
「ありゃ~~~、それは悩ましい所でござるね。愛満も大変でござるよ!
それに光貴と一緒で天候の事と言えばでござるね。
拙者も今日朝起き、少し肌寒いと感じたでござるから、少し温かい服装にしたのでござるよ。
しかし昼過ぎあたりで少し暑く感じてきはじめ。拙者と同じように温かい格好をした光貴やタリサ、マヤラ達と一緒に中に着込んでいた服を1枚脱いででござるね。
拙者の魔法でチャチャっと脱いだ服を洗ったり、乾かしたりとしたのでござるよ。
しかしそうしたらでござるよ!!!今度は夕方過ぎ辺りから逆に肌寒く感じてきてでござるね。
もう少ししたらタリサ達はアルフ殿が迎えに来たり。拙者達はお風呂の時間になるのでござるが、風邪を引いてはいけないと思い。
お昼過ぎに洗った服を、またタリサ達と一緒に着なおしたりと、
本当大変だったのでござるよ。」
愛満の悩みに大変だねっと同意しつつ。何やら愛之助は愛之助達で大変だった今日の出来事を話してくれ。
そんな愛之助達の話に愛満が『大変だったね』と返しながら、また明日の軽食の献立を考え込み始め。
「…う~~~ん、……………本当どうしょう、……………………。
………………………よし、決めた!やっぱり明日は、今日みたいに肌寒いといけないから軽食の1品は体が温まる温かい料理にするとして、……………何を作るかが問題なんだよね。
う~~~ん、何を作ったら皆喜んでくれるかなぁ~、…………………悩む所だ………………。」
「うんうん、本当でござるね。日々の献立作りは難しいでござるよね。
そんなお困りの愛満ためならば、ココは拙者達が少しお手伝いするでござるよ!
えっ~と、確か今日は『洋食の日』でござったから、ホウレン草や蓮根、蕪、南瓜、白葱等を種類豊富に使った『鮭とホウレン草、じゃが芋のグラタン』、『手羽元と根野菜のローストチキン』でござろう。
それに『キャベツとベーコンのコンソメスープ』、箸休め代わりの『大根とパプリカのレモンマリネ風』
麺軽食の『しらすとヒジキ、万能ネギの蕎麦ペペロンチーノ風』、まぐれ軽食の丼物になる『オムライス』だったでござるよね。」
「そうへけっ、そうへけっ。
それにその前の日はへけっね。確か『中華の日』だったへけっから、白菜や大根を使ってへけっ。
『白菜巻き焼売と蒸し野菜のせいろ蒸し』へけっと『大根と豚バラ肉のオイスターソース煮』
汁物の『中華風コーンスープ』、箸休めの『大豆モヤシの辛み漬け』へけっでしょう。
それに麺軽食の『餡掛け焼きそば』、まぐれ軽食が『ニラ玉丼』だったへけっよね。」
さすが食いしん坊の愛之助と光貴の2人。
いつにない鮮やかな記憶力で、今日と昨日の軽食料理の献立をスラスラと間違いなく話。
そんな2人の話に何やら気付いた様子の愛満が
「えっ、嘘!あちゃあ~~~、気付かぬ内に今日と昨日の丼物が玉子でガブってた!
はぁ~~~、久々の大ポカやっちゃったよ。……………もっとちゃんとしなくちゃだね………トホホ」
ここ2日間のまぐれ軽食の丼物が玉子を使用した料理で重なっていた事に気付き、愛満が落ち込む中。
愛満を慰めるように愛之助と光貴の2人が
「愛満、そんなに気にしなくても大丈夫へけっよ!
それにお客さん達の皆も『美味しい、美味しい』って愛満が作る軽食セット食べてたへけっし。
クロエちゃんなんか、自分は玉子料理が大好きだから2日もお昼に美味しい玉子料理が食べれて嬉しいって言ってたへけっよ!」
「そうでござるよ!
それに愛満。何やら隠しているようでござるが、ここ最近、この辺りで無差別に起こっている横揺れと言うか、地震のようなを現象を心配して、よく眠れていないでござろう。
それに眠りも浅いみたいでござるし。目の下のクマも目立ってきているでござるよ。
後、夜中何度も目を覚まして拙者や光貴、美樹や黛藍達の様子を確認してくれているのでござろう?
拙者、気付いていたでござるよ。
だから2日間のまぐれ軽食が玉子料理で重なったとしても、何の問題もないでござるよ!
それより拙者達は愛満の体の方が心配でござるよ!」
最近頻発している。地震等なかなか起きないはずの異世界の朝倉町で街の皆が不安がる中。
地震が多い日本で生まれ。地震の怖さや恐ろしさ等を僅かばかりでも知る愛満は、ここ最近朝倉町が在る山と言うとか山々が連なる、山全体を揺らすような。
横揺れのような地震が度々起きるたびに心配して、家族でもある愛之助達は勿論の事。
朝倉町に住まう人達の身を心配して眠りの浅くなっている愛満の事を、逆にここ最近密かに心配していた愛之助達は愛満を励ますように声をかける。
◇◇◇◇◇
と言うのも、ここ最近朝倉町が在る山と言うか、巨大な山々が連なる全体を緩やかな横揺れが度々発生しており。
愛満達は知らないのだが、愛満の力でかなり抑えられているものの。
朝倉町から遠く離れた大吉村の方にも僅かばかりの揺れが感じられる程で…………。
しかも時間帯もバラバラでいて、無差別に起こる横揺れのような地震に加え。
今だ揺れの原因が解らないだけに、朝倉町を守る立場の愛満としては言い知れぬ不安が募るばかりなのであった。
◇◇◇◇◇
そうして愛之助や光貴達から励まされてヤル気を取り戻した様子の愛満は、風呂上がりの美樹や黛藍が加わるなか、改めて明日の軽食の献立を考え始め。
アイデアを求める為、愛之助達に何か食べたい物がないかと聞いた所。
愛満と一緒に軽食の献立を考え込んでくれていた光貴が元気良く右手を上げ。
「はいへけっ、はいへけっ!あのね、あのね、愛満。
僕、去年食べたへけっね。蕪を使った『かぶら蒸し』がまた食べたいへけっ!
あの優しい口当たりの『かぶら蒸し』の生地の中に、彩り鮮やかな人参や椎茸、木耳なんかが入ってていてへけっね。
そんな『かぶら蒸し』の底には、豪華にも鱈の切り身や銀杏、海老なんかが豪華に隠れていてへけっ。
そこに旨味がギュッとつまった金色色した餡が、トロ~リとかかっていているへけっよ!
へけっ~~~♪あの時食べた『かぶら蒸し』、本当に美味しかったへけっよ♪」
去年の暮れに愛満が作ってあげた。蕪を使った『かぶら蒸し』の感想と共に、また食べたいとリクエストしてくれ。
そんな光貴の話を微笑ましそうに聞いていた愛之助達も去年食べた『かぶら蒸し』の事を思い出した様子で、『かぶら蒸しかぁ~、良いねぇ♪』と賛成の声を上げ。
何やら冷蔵庫や魔法袋の中身が書かれたボードを確認していた愛満も
「『かぶら蒸し』かぁ~…………………、うん、良いねぇ!
今確認したら冷蔵庫に人参や玉子を始め。明日の夜の鍋の具材にと仕入れて来た、鱈の切り身も沢山有る事だし。
それに乾物コーナーには木耳、備蓄室には銀杏缶。冷凍室には大降りの海老の在庫が確認できたしね。
かぶら蒸しに一番大切な『蕪』と言うか、去年レムさん家から沢山お裾分けして貰った。かぶら蒸しにも使える『蕪のペースト』の在庫が沢山有る事だし。
明日の軽食や僕達のお昼ご飯は『蕪と鱈のかぶら蒸し』を作る事にするね。」
と話して、そこからはトントン拍子に明日の軽食の献立が決まっていき。
アルフ家六男『菜々ファーム・励』野菜農家組合長・レム曰く、豊作だった蕪を大量にお裾分けしてもらい。
愛満も婆ちゃんから習った蕪の保存法の1つ。
皮を剥いた蕪の身を適当な大きさに切って柔らか目に湯がき。
ミキサー等にかけてペースト状にした物を密閉容器に入れて冷凍保存した。
約1ヶ月は冷凍保存出来る蕪のペーストを使い。
【ちなみに愛満は『蕪』をペースト状にした後、魔法袋に直しています。】
明日愛満が作る『かぶら蒸し』を始め。蕪のポタージュスープ等にも幅広く活用できる蕪のペーストを使い。
明日の小鉢の1品が『鱈のかぶら蒸し』に決まり。本日の業務を無事全て終えれた。
◇◇◇◇◇
ちなみに万次郎茶屋では、季節折々の愛満お手製・和菓子を始め。
茶菓子等を販売しているのだが、それと一緒に茶屋を訪れたお客さん達の小腹を満たす為。
愛満曰く、軽食なる………らしい?
日替わりの軽食の三種類から選べ。軽食と言うだけに、お値段もお手軽な銀貨二枚になり。
毎日和食、洋食、中華と変わる。食べる人の事を考え、季節折々の食材を使った。
1、『米軽食』
アルフ家三男シャル家産の米を使った、ツヤツヤ光輝く白米・汁物・小鉢2品(と言う名の、ちょっとした主菜と副菜になる)・漬物・お茶・果物
(白米、汁物はお代わり3回まで無料で出来ます。)
2、『麺軽食』
麺料理1品・小鉢2品・漬物・お茶・果物
3、『まぐれ軽食』
主菜・汁物・小鉢1品・漬物・お茶・果物
その日の天候や天気。その時期の旬の素材、茶屋の冷蔵庫に有る食材を上手く組み合わせ。毎日変わる軽食料理が作られており。
まぁ、サービス精神満載の愛満が作るため。また良く食べる異世界の人達の胃袋事情の事等も考えられ。
金額度外視でいて、自宅家庭菜園の野菜・苺等を上手く利用した。
日本人から見たら軽く大盛りサイズになるであろう。はっきり言って量的には全然軽食の量ではない。
3種類から選べる軽食料理を、自身も婆ちゃんから習った家庭料理を駆使して、日々頭を悩ませながら頑張っていた。
◇◇◇◇◇
そうして止む気配のない、最近度々起こる地震のような横揺れに不安を覚えつつ。
何とか明日万次郎茶屋で提供する三種類の軽食料理
・米軽食の白米、汁物の『長芋の沢煮椀』
小鉢2品(と言う名の主菜と副菜になる)『鱈のかぶら蒸し』、『長ネギの肉巻き~ポン酢炒め~』
箸休めの『白菜のおかか醤油漬け』
果物の『ポンカンゼリー』
・麺軽食の麺料理『釜玉うどん~鯖味噌胡麻つけ汁~』
・まぐれ軽食の丼物『牛丼~牛蒡・豆腐・牛スジ入り~』
等々の献立に何とか無事決まった。明日の軽食の献立が書かれたノートを眺めつつ。
頭の中で明日やるべき事の段取りを組み立てていた愛満は、明日も頑張ろうと己に気合いを入れ直すのであった。




