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麹と酒粕の二種類の甘酒と魔女


その日 朝倉村では、朝から強風がふぶき底冷えする寒さに万次郎茶屋にやって来たタリサやマヤラが鼻を垂らしていた。


「う~ぅ 外寒かった。風がピューピュー吹いてて、マヤラが飛ばされるんじゃないかと心配でお互いの体を紐で結んできたよ。」


「マヤラ いちゅかい、かりゃだブンて ういちゃよ!ビックリちた!」

※『マヤラ 一回 体がブンと浮いたよ!ビックリした!』


「途中まで迎えに行けば良かったね。ふたりとも怖かったね。ごめんね。そうだ!この前飲んで二人が気に入ってた暖かい甘酒持ってきてあげるね。」


「タリサもマヤラも大変だったアルネ。はいアル、ティッシュで鼻をかむアルヨ。」


「タリサもマヤラも寒かったでござろう。炬燵を温めておいたから早く入るでこざるよ。今日はヒーターも稼働してるでござるから座敷はテーブルより暖かでござるよ。」


心配した愛満達にたっぷり甘やかされながら、ぬくぬくの炬燵に入り。タリサとマヤラの一日が始まる。



◇◇◇◇◇



一方 朝倉村近くの山道で、強風にブロンドの髪をなびかせながら、1人の女性が一通の手紙に書かれた地図を風に飛ばされまいと握りしめ、朝倉村を目指していた。


「えっと……あとはこの道をただまっすぐに歩けばマリアが住む朝倉村に着くのね………けど、この道すごいわね。

いったいどこの高度の魔法使いが作ったのかしら?

歪みがなく平らで歩きやすい道。道脇にバランスよく配置された魔法のかかった見た事もない美しいデザインの街灯…………王都にいても、ここまでの計算された美しい道や街灯見た事ないわよ。」


兎族アルフ家三男シャルの嫁で、元冒険者で白魔導師マリアの古くからの友人でもある。

先祖が異世界から召喚された魔女を起源にもつ歴史ある一族で、一族の者だけしかなれない不思議な力を持つ、珍しい魔女のリサは、厚着をしているのにもかかわらず。

寒さで唇を真っ青にしながら、目にする美しい全てのものに心を弾ませ。あちらこちらフラフラと探索をしだす。


「あっ!いけない、いけない。早く村に着かなくちゃ約束の時間に遅れちゃうわ。それにまた遅刻でもしちゃったら、昔みたいにマリアに怒られちゃう!」


先ほどからゆうに1時間は時間が経過している事に気づいたリサは、慌てて村を目指す。



◇◇◇◇◇



そして、なんとか約束の時間30分前に朝倉村にたどり着いたリサは、またフラフラどこからともなく聞こえてくる。

楽しそうな笑い声に誘われるままに万次郎茶屋の扉を開いた。



チリーン、チリーン♪


「「「「「いらしゃいませ(でござる。)(アル。)」」」」」


扉を開けた瞬間、独特な甘い匂いと人族や兎族、ササ族の全体的に小柄な5人に出迎えられる。そんな店内に漂う独特の甘いにおいを気にしつつ


「こんにちわ。朝倉村に住んでるマリアを訪ねて来た魔女族のリサと言う者なんだだけど、こちらはお茶を飲めるお店でいいのかしら?」


「はい。うちお店は、お茶や和菓子という甘味物や軽食を楽しめる『万次郎茶屋』というお茶屋になります。

マリアさんのお知り合いでしたか。はじめまして、僕がこの茶屋の主人 愛満です。

隣が弟の愛之助、マリアさんの旦那さんの末の弟になる兎族のタリサとマヤラ、ササ族の黛藍になります。

ここへはマリアさんと待ち合わせですか?」


愛満が皆の自己紹介をしながら、リサに茶屋へと来た理由をマリアとの待ち合わせか、お茶を楽しみに来たのかと聞く。


「いいえ。約束の時間より30分早くついてしまったから、時間つぶしを探していたところなのよ。」


「そうでしたか。なら、うちの茶屋でゆっくりされて下さいね。それに今日は一段と風が強く寒かったでしょう。良かったら、こちらの炬燵やテーブルのお好きな方にお座り下さい。」


愛満に進められたリサは、初め近くのテーブルに席に座ろうとしたのだが、トコトコと近くにやって来たタリサやマヤラに

『お姉ちゃん、唇 真っ青だよ。テーブル席じゃ寒いから炬燵に一緒に入ろう。』

『ちゃむ、ちゃむよ』と誘われ。手を引かれて炬燵に入る事になる。


「はぁ~~。なにこのテーブル。中が温かくて、足の爪先から体がポカポカしてくるわ。」


「そうでしょう!炬燵に一度入ると、炬燵の魅力から抜け出せなくなる。すごい(パワー)を秘めてるんだよ。

しかしお姉ちゃん、一体何時間寒空の外にいたの?なかなか唇の色 戻らないよ。」


「ねえたん、だいちょうぶ?そとちゃむい、ちゃむいよ。コンコンなりゅよ。こたちゅでぬくぬくちてね。」

※『お姉ちゃん、大丈夫?外は寒いよ。風邪引いちゃうよ。炬燵で温もってね。』


「外は寒かったでござろう。この新しい半纏を着るでござるよ。綿が隅々まで入っているから温かくて、腰から上も温まるでござるよ。」


「本当に唇真っ青で、少し震えてるアルよ。ヒーターもリサさんが座わってる近くに動かすアルね。暑くなってきたら教えてほしいアル。

しかし、本当に大丈夫アルか?僕の姉さんが言ってたアルが、女性には冷えが一番大敵らしいアルよ。」


温かな炬燵に入り、安堵感から無意識に体が震えだし、唇は真っ青で、顔が能面のように真っ白なリサを心配し。

朝の体が冷えきったタリサ達にしたように4人はかいがいしくリサの世話をしてあげる。

そうしていると奥から白い湯気を上げる湯飲みをおぼんに乗せた愛満が戻って来る。


「はーい、みんな甘酒持ってきたよ。リサさんも甘酒飲んで、冷えきった体を中から暖めて下さいね。

それに今日の甘酒は、朝タリサ達が飲んだ甘酒と同じで、麹で作ってる甘酒だからノンアルコールで安心して皆 飲めて、甘くて美味しいよ。熱いから火傷しないようにゆっくり飲んでね。」


声をかけながら、皆の前に麹ともち米、水だけで手作りした甘酒と口直しの塩昆布がのった小皿を置いてくれる。


「うわーい!今日二回目の甘酒だ。僕 甘酒大好き。甘くって粒々したのも美味しくて何杯でも飲めちゃうよ。」


「拙者、酒粕の甘酒も酒粕独特の風味があり好きでござるが麹の甘酒も甘くて大好きでござる。」


愛之助やタリサ達の喜びの声を聞きながら、リサは生まれてはじめての甘酒を口にする。


「美味しい…………ほどよいとろみと粒々した柔らかな穀物の食感に甘さとコクがあって、お腹の中から体がじんわりと暖まってきて本当に美味しいわ。」


「黛藍はすりおろし生姜を入れて飲んでるけど、生姜味も美味しいアルよ。」


皆で甘酒を飲んで楽しんでいると全力疾走のマリアが茶屋の前を走り向け。

何かを発見した様子で、茶屋へと高速でUターンして来る。

そして、寒さで顔を真っ赤にしたマリアは、やや力強い足取りで万次郎茶屋に入って来て、炬燵に入ってまったりしているリサを見付けるやいなや、何やら背筋がヒヤッとする微笑みを浮かべ。


「フッフフフ。やっと見つけたわ、リサ。ちょっとこっちにいらっしゃい。」


声をかけ。甘酒を飲み、だいぶ顔色が戻ったきたリサを茶屋の隅へとれんこ………連れて行き。何やら2人で話はじめ。

微笑んだままのマリアにたいし、少々青ざめた表情のリサが、何度も頭を下げ始めるという一幕が繰り広げられるのであった。



◇◇◇◇◇



そうしてその後、穏やかな笑みを浮かべるマリアと瞳を潤ませたリサの対照的な様子の2人が炬燵に戻ってくる。

するとタイミング良く、マリアの分の甘酒や愛之助達用のおかわりを持った愛満が台所から戻って来る。


「はい、マリアさん甘酒どうぞ。皆もおかわり持ってきたよ。」


「あら愛満、ありがとう。………うん、美味しい!それに良い香りね。」


愛満にお礼の言葉を伝え。皆から少し離れたテーブル席に場所に移動し。


「それにリサの事、ありがとうね。

あの子しっかりしてるように見えて、自分の興味がある事になると周りや自分の体調も忘れて、のめりこむ癖があるのよ。

それで何度か命の危機もあったんだけど、注意しても一週間くらいで忘れちゃうし……ハァー、本当に良い子なんだけどね。

………今回も王都で何かあったらしくて、ふさぎこんでると聞いたから、気分転換になればと村に呼んでみたんだけどね。

まぁ、一応。往復の日数もあるから、今日から3日間は村にいる予定だから、その間茶屋に遊びに来たらよろしくね。」


「そうだったんですか、初め店にいらした時、顔色も悪く。唇も真っ青だったから、何か事件でも巻き込まれたのかと心配してたんですよ。

きっと茶屋に来る間に、何か興味あるものでも見つけたんでしょうね。」


「まぁ。あの子たら、村に着いてから万次郎茶屋にいたみたいな事を言ってたのに。やっぱり何処かで道草してたのね。」


マリアとのたわいのない話を終え。

マリアは、リサや愛之助達のいる炬燵へと移動し。愛満から新作和菓子やお昼ご飯をご馳走してもらったり。

マリアの夫のシャルが心配して茶屋へと迎えに来るまで、時間を忘れてマリアとリサの2人はたわいもない話をしながら、和やかな時間が過ぎていった。



ちなみにその間、何度も甘酒のおかわりを繰り返し。すっかり甘酒が気に入ったマリアは、愛満に甘酒の作り方を聞き。


将来マリア家の米屋・酒蔵でも販売できるようになると考えた愛満が、手書きの『麹のノンアルコールの甘酒』の作り方や『アルコールを含む酒粕の甘酒』の2種類の甘酒の作り方のレシピを教えてあげるのであった。



◇◇◇◇◇



そうして、3日間朝倉村でのんびりと過ごしたリサは、仲良くなった村人達に見送られながら元気に王都な様子で帰って行き。


その間にマリアが夫のシャルや家族達と一緒に米農家に始まり、米屋、米菓子店、酒蔵、酒屋などと手広く営んでいるシャル家は、愛満からプレゼントされた2種類の甘酒のレシピをもとに『麹』や『酒粕』を使った2種類の甘酒を大量に生産させ。

五平餅、ポン菓子、雷おこしを売っている米菓子売場で一緒に売り出したところ、健康面や飲みやすさ、味の美味しさなどから大ヒット商品になり。

マリア達が毎日忙しく甘酒作りや接客に終われていると1ヶ月後に家財道具一式を持ったリサが朝倉村に舞い戻って来る。


「リサ、どうしたの?」


「あっ!マリアおはよう。私も朝倉村気に入ったから王都の仕事辞めて引っ越して来たんだ。」


「はぁ!!リサ あんた家は?仕事は?どうするの?」


「う~ん。家は決まるまで風呂屋に泊まるとして、仕事は王都で貯めたお金があるから五年は働かなくてもなんとかなるかなぁと思って………ダメだったかなぁ?」


「……はぁ~……そうだったわね。リサは決めたら後先考えない猪突猛進タイプだったわ…………大丈夫。今から愛満の所に相談に行くわよ。」


何やら覚悟を決めたマリアは、リサを連れて万次郎茶屋に行き。


愛満と愛之助との4人で、いろいろ話し合ったすえ。

リサが王都でやっていた仕事を朝倉村でもする事に決まり。

リサ1人にしたら興味がある事だけに没頭し過ぎてご飯を食べ忘れたりする事が多々あった為

マリアからの強い願いのもと、マリア達が住む酒蔵兼店舗兼住居の隣に長細い病院兼住居を愛満チートでパッパッと建築してもらい。

こうして無事、リサは朝倉村の住人になり。村初の病院が仲間入りするのであった。


ちなみに何度か命の危機を体験したリサであるが、こう見えて王都では魔女一族の不思議な力で凄腕な医学者兼医者なのである。




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