「年越し蕎麦」と大晦日
「『年越しそば』はいかがですか~~~?
すりおろされた大和芋がお蕎麦の上に乗っていて、するっとした喉ごしで美味しいですよ~~~!」
「縁起物の食べ物じゃぞ~~~!是非、一杯食べていかんかのう~~~!
それに甘辛く煮つけた牛肉や食べごたえあるかき揚げもお好みでトッピング出来るぞ~~~!」
愛満や山背の呼び声が響く、大晦日のその日。
あちらコチラで、今年最後の儲け時とばかりに出店が出店され。
愛満の故郷の村で祀られている女神様一族を奉る『朝倉神社』では、そんな出店と共に『二年参り』をするために朝倉神社を訪れている大勢の人達で賑わっていた。
そしてそんな中、愛満はと言うと、朝倉町を納める町長と言う立場から、日頃お世話になった町の人達への今年最後の恩返しとばかりに『年越し蕎麦』を作り。
朝倉神社を訪れている人達へ、無料で『年越し蕎麦』を振る舞っていた。
◇◇◇◇◇
「ハァ~~~♪この『とろろかけ蕎麦』とやら、本当に美味しいはねぇ、愛満。ありがとう。
それに温かいお蕎麦の汁で、お腹の中から温まったし。年寄りの私でもペロリと食べれたわ。」
年越し蕎麦ブース横に設置されたベンチに座り。年越し蕎麦の『とろろかけ蕎麦』を食べていた。愛満の茶飲み友達の1人、葦那が体の中から温まり。ほんのり赤くなった頬を緩め。
何処かホッとした様子で、年越し蕎麦を振る舞っている愛満へと話し掛ける。
「あっ、葦那お婆。こんばんは。それに『とろろかけ蕎麦』口にあったみたいで本当に良かった。
実はさぁ。最初、甘辛く煮た牛肉とかき揚げ何かの、どちらかと言うとお腹に溜まる『お蕎麦』にしようかと思ってたんだけど。
夜も遅く食べるお蕎麦だし。老若男女の人に食べてもらえるようにと思って、僕の実家でも良く食べてた。
すりおろした大和芋に、同じくすりおろして軽く汁気をきった大根おろしを加え。滑らかになるまですり混ぜた『とろろ』に『なめこ』、『小ネギ』をトッピングした『とろろかけ蕎麦』にしてみたんだ。」
爺ちゃん子、婆ちゃん子の愛満は嬉しそうに、年配のご婦人になる葦那へと、今年の『年越し蕎麦』が『とろろかけ蕎麦』に決まった訳を話していた所。
「はい、お待たせしました。全部乗せの、スペシャル年越し蕎麦になります。
蕎麦の汁が熱いので、火傷しないように気を付けて下さいね。」
そんな2人の近くで、美樹が接客するお客さんの『とろろ』や『なめこ』、『小ネギ』に加え。
山盛り盛られた『牛肉の甘辛煮』や『ワカメ』、風呂屋・松乃の密かなロングヒット商品の『温泉玉子』
お椀からはみ出している『かき揚げ』の全部乗せの年越し蕎麦に目線が釘付けな葦那婆に苦笑いを浮かべつつ。
「あっ、アレはね。一応食べ盛りの人達の為に『牛肉の甘辛煮』や、『かき揚げ』、『温泉玉子』、(水で戻すだけのお手軽)『ワカメ』がトッピング出来ますよ、と立て札出してたら、いつしかスペシャル盛りなる『年越し蕎麦』が誕生してたんだ。
…………ビックリだよねぇ。夜も遅いし、皆の胃袋心配してたのが大きな間違いだったよ。」
話して、お互いに顔を見合わせて苦笑いを浮かべる愛満と葦那なのであった。
◇◇◇◇◇
ちなみにそんな愛満達の側では、仲良く並んでスペシャル盛りの年越し蕎麦を食べている光貴達チビッ子組がおり。
何やらコソコソと年越し蕎麦を頬張りつつ。
「タリサ、マヤラ、知ってたへけっか?
この『年越し蕎麦』、食べると金運が上がるみたいへけっよ!」
「えっ!金運が上がるの!?」
「ほんとうに!?」
「へけっ、へけっ!間違いないへけっよ!だって愛満が教えてくれたへけっよ!
それにへけっ。そもそも一般的には、長寿祈願で『年越し蕎麦』を食べると考えられているそうなんでへけっが
なんか昔、愛満が住んでいた故郷では金銀細工の職人さん達が、年末に団子状の蕎麦粉で作った『そばがき』で作業をしていて飛び散った金銀を集めていたそうで、そこから蕎麦は『お金を集める縁起物』とされてへけっね。
他にも麺が他の麺より切れやすい事から、蕎麦は『旧年の災厄を切る』とも考えられてへけっ。
年の最後に長寿を願うと共に験を担ぎ、『年越し蕎麦』を食べる事が広まったみたいへけっ!
あっ、それから蕎麦を翌年に持ち越す事は縁起が悪いと考えられてへけっね。基本、年内に食べきるのが良いみたいへけっよ。」
と話して、そんな3人の話を聞いた人達が、年を越す前に金運なり。長寿祈願をお願って『年越し蕎麦』を食べる為、一気に年越し蕎麦ブースへと大勢訪れる事になり。
そんな光貴の話が広まって、『年越し蕎麦』を振る舞っていたブースでは、ちょっとした大騒動のてんてこ舞いになってしまい。愛満の力が大活躍する事になった。
◇◇◇◇◇
一方、愛之助が何をしているかと言うと、友達の緑香達のお手伝いをしており。
朝倉神社の一角のお授け所で、お守りやお札等々を販売・接客をしていて、何やら急にお授け所へと訪れる人達の足が遠退き。
不思議に思いながらも、少しホッとした時間がとれる事に感謝しつつ。
「ふぅ~~~、何やら人並み越えたみたいでござるね、緑香。」
「…………ぅ、うん。少しでも休憩できて良かったね。」
「うんうん!本当でござるよ。
しかし、すっかり町の皆に大晦日の『二年参り』が根付き。今年も大勢の人達が朝倉神社へと足を運んでくれて嬉しいでござるね。」
「…ぅ、うん。皆、嫌な顔一つせずに僕達が居る神社に来てくれて本当に良かった。
……………そ、それに、………えっと、えっと、…………た、確か愛満とお兄ちゃん達が話してたんだけど
『二年参り』って大晦日から元旦にかけて、年をまたいでお参りする事を言うんでしょう?」
先程、愛之助が口にした『二年参り』の意味を確かめるように話。
「あっ、緑香も『二年参り』知ってたでござるか?
そうそう、『二年参り』はでござるね。
緑香が言っていたように大晦日から元旦にかけ、年をまたいでお参りする事を言ってねござるね。
無事に一年を過ごせた事を感謝してお参りしながら、今年一年の穢れを祓い。
12月31日の大晦日から1月1日の元旦に年をまたいだ後、新しい年の幸せを祈願して、神様にお参りする事を言うのでござるよ。
………あっ、健康のお守りをお探しでござるか?それならばコチラの健康祈願のお守りが…………」
愛之助と緑香の2人がお喋りしていると、新たな『お守り』を購入する人々の波が訪れ。
またお守りやお札等の販売、接客に性を出す中。
今年最後の大晦日も、朝倉町の人々は無事一年を過ごせた事に感謝。
それぞれ顔に笑みを浮かべながら、108の除夜の鐘の音に耳を傾けつつ。新しい年の訪れを楽しげに待つのであった。




