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「ワンタンスープ」と風邪ピキさん



「はい…………OKと、これで書類も全部揃ったし。今度は抜けてる書類もないと思うから大丈夫。大丈夫だよ。

じゃあ、後はこっちでちゃ~んと手続き(てつづき)しておくからハン爺ちゃんもチャナン婆ちゃんも安心してね。

それに町長の愛満からは早々とOKサインが出ているんだし。後は娘さん家族が朝倉町へ移住して来るのを待つだけだよ。

あっ、それにね。愛満がギルドの方に依頼してくれて信頼できるパーティーに娘さん家族の護衛もお願いしてるから、大船に乗ったつもりで娘さんやお婿さん、お孫さん達が町に来るのを待ってると良いよ。」


兎族特長の子沢山になるアルフ家次女で、朝倉町に在る町役場勤務のラスカは、目の前に並んだ書類に不備がないか確認しつつ。どこか心配そうに自分を見つめている老夫婦事。

頭にヤギのような2本の角が生えた。シャモア族のハン爺ちゃんとチャナン婆ちゃんを安心させるよう優しい言葉をかけた。


するとそんなラスカの言葉に涙をグッと堪えるハンや嬉しそうに笑みを浮かべ、ボロボロと大粒の涙を流しすチャナン達がラスカに向かって両手を合わせ。


「寒いなか迷惑かけてすまんのう、ラスカちゃん。ありがとう、本当にありがとう。

そもそも本来であれば、娘家族の移住受け入れの書類をちゃんと確認して提出しなかったワシらが悪いのに

こんな年の瀬も迫った雪降る寒い日に、わざわざ家まで足を運んでもらって心苦しいよ。すまんかったのう。」


「ありがとう、本当にありがとうね、ラスカちゃん。

あの戦争で、突然やって来た敵兵から住んでた村を焼かれ。命からがら逃げる事しか出来ず。

更には逃げる途中に敵兵から切られた傷で、私も父ちゃんも足や手を悪くしてしまい。

まさに住む場所も生きる気力も無くし。

父ちゃんと2人、途方にくれていた私達を朝倉町に縁ある冒険者のテネト君が助けてくれて、今では何の心配もなく。

前みたいに畑で綿を育てて、糸を紡んで暮らせていけているに…………まさか戦争の影響で音信不通になった娘夫婦とも連絡がとれ。

そのうえ一緒に暮らせるようになるなんて………………本当に、本当にラスカちゃんを始め。

私達家族に力を貸してくれた。この町の領主の愛満ちゃん達みんなに感謝の気持ちでいっぱいよ。

ありがとう、ありがとうね、ラスカちゃん。何度言っても感謝の言葉が足りないわ。」


本日何度目かになる感謝の言葉を伝えられ。大慌てするラスカなのであった。



◇◇◇◇◇



実は、このシャモア族のハン爺ちゃんとチャナン婆ちゃん。

元は有る意味、朝倉町と負けず劣らない。

見方によっては少々不便と言うか、人気がないと言うか、……………広大な土地でありながらアチラこちらに大なり小なり岩がゴロゴロと転がる(落ちている)

不便な岩肌の山で、…………更に加えて植物がなかなか育ちづらい。

そんな貴族達から見向きもされないような。チャソ王国の山岳地帯の総勢50人前後になる村で暮らしており。


村人は全てハン爺ちゃん達と同じシャモア族になって、シャモア族独特の急な斜面をバランスを崩さず歩ける特徴をいかし。

細々とではあるのだが、シャモア族が暮らす山肌の急斜面でしか育たない。

大変珍しい『ズーヌ』なる村名産の植物を育て。

そのズーヌなる植物から採れる。日本の綿の用な、綺麗な(うす)緑色の(綿)を使い。

糸を紡ぎ暮らしていたのたが、ある日いつものように畑仕事をしていたおり。

突然やって来たクコン王国の兵士と出会(でくわ)し。問答無用で切りつけられてしまい。

後遺症の残る怪我を負わされながらも、命からがら逃げおおせたものの。

兵士達が居なくなったのを確認して、恐る恐る村へ戻った所。

無惨にもハン達が住んでいた村は焼き放たれ。あちらコチラで炎が上がり。

何とか火を消し終えた時には皆、煤だらけの疲労困憊な状態になっており。

更には村にあった食料や貴重品等々が見事に姿を消していた。


そして悲しい事に今回の突然の残虐な(おこな)いで、シャモア族の村人の中に幾人かの犠牲者が出てしまった事が分かり。

生き残った者達は、この先生活するにしても兵士に負わされた怪我を治療する金が消え(盗まれ)

蓄えていた食料も奪われていて、この先どうすれば良いかと頭を悩ませていた所。


村への奇襲を近くの街へと知らせに出た村の者が、たまたま村の近くで遠征を兼ね魔獣退治の依頼を受けていた冒険者のテネト達に廻り合い。

何とか命からがら助けられ。村への復旧を手助けしてくれたのだが、慣れ親しんだ場所ながら、ある日突然襲われ。

恐怖心が残るこの場所ではもう暮らせないと考える者達が幾人か出始め。

とうとうあの時の記憶がフラッシュバックしたのか具合が悪くなる者達がチラホラと出て。

その事を知った冒険者のテネトから、友人が納める村で、村人を幅広く募集していると教えてもらい。


【ちなみにこの時、まだ発展途上中の朝倉村だったので村人募集になってます。】


村の皆で話し合いに話し合いを重ねた結果。

村に残る者と移住する者に別れ。幾人かの者達が住み慣れた故郷を離れ。愛満が納める朝倉村(朝倉町)へと移り住む事になる。



他にも戦争の影響で音信不通になっていた。元クコン王国を挟んだゴルモ王国に住む娘夫婦とも何やら運が回ってきたのか、ハン爺ちゃんやチャナン婆ちゃんを含め。

娘夫婦と顔見知りになる知り合いと『風呂屋・松乃』で偶然再会して、戦争の影響で音信不通になっていた娘家族と無事連絡がとれるようになり。

事情を知ったラスカ伝いに愛満へと話が伝わって、愛満の心遣いで(金銭面など含め)両親の事を心配していた娘家族と朝倉町で再会が出来る事が決まり。

何十年か振りに再開できた娘夫婦や孫達と顔を合わせられ。

愛満達のお陰で、何十年か振りに幸せな時間を過ごしたハン夫婦は、朝倉村へと移住して来て以来、良い事続きの日々を振り返り。

改めて町の皆に感謝の気持ちを覚えつつ。充実した日々を過ごしていた。


するとその後、自分達が住む村へと帰った娘夫婦と度々連絡を取るうち。

片手に後遺症が残りながらも一生懸命、新たに愛満から頼まれた。元住んでいた村で育てていたズーヌと何処と無く似ている『綿の木』を育てている父の姿と共に

足に後遺症が残りながらも父と力を合わせ。糸を紡ぐ母の姿を再会したおりに目にした娘夫婦は、年を取った(年老いていく)両親の体調や怪我の後遺症等を心配して、夫婦(娘夫婦)で何度も話し合い。

一緒に住もう言われるようになるのだが、娘夫婦の迷惑になるからと遠慮していたハン達だったが、心から両親を心配した娘や婿を含め。

何度も一緒に暮らそうと言われるうちに真剣に話し合うようになっていき。


結果、自分達も経験した王国を横断する長旅を怪我の後遺症が残る高齢な両親にさせられないと考えた娘家族が、両親が住む朝倉町へと移り住む事を決め。

町役場勤務のラスカを始め。朝倉町の町長になる愛満達とも話し合い。

無事ハン夫婦と同じ。綿農家をこれから営む事になる娘家族が朝倉町へと移り住む事が決まったのであった。



そして本日、兵士から受けた手や足の怪我で後遺症が残るハン爺ちゃんやチャナン婆ちゃん達の為。

町に移り住む娘夫婦の子供達の学園への入学手続き(てつづき)、移住に関する手続きを進めていたラスカが、たまたま書類の不備を見つけ。

明日が今年最後の仕事納めの最終日になる中。

心配事なく、安心して心穏やかな正月を過ごしてほしいと考えたラスカは、今年一番の寒さと共に雪が降りしきる町内を移動し。

いつものように愛満の(チート)をフルに使い。増築プラス二世帯住宅仕様にリフォームされたハン爺ちゃん、チャナン婆ちゃん宅へと書類の不備の直しに訪れていた。



◇◇◇◇◇



「それじゃあ、ハン爺ちゃん、チャナン婆ちゃん。

私、役場へ帰るね。また何かあったら遠慮しないで、いつでも声かけてね。

あっ!それからココ最近スゴく気温が下がって寒さが厳しくてなってきてるから、今みたいにちゃんと暖房器具をつけてね。

こまめにお茶やお水を飲んで水分補給して体調崩さないように気を付けてね。」


玄関先までラスカを見送りに出てきたハン爺ちゃんやチャナン婆ちゃんへと声をかけ。

見送りは良いから風邪を引かないように早く部屋に戻るように言い。

役場へと帰り道を歩き出すのだが、朝から振り続ける雪を見て、改めて寒さが感じられ。

また暖房の効いた温かい部屋との温度差があり。時折、雪を舞い上げるような強風も吹いていて、体の芯から冷え込むような、あまりの寒さに心が折れ始め。


「………………う~~~ぅ……それにしても今日も本当に寒いわねぇ。

…………う~~~~ぅ、寒!!これは足の裏や腰、お腹なんかに何枚もカイロ貼ってても寒くて堪らないわ。

はっきり言って、雪を喜ぶなんて子供しかいなしいしね。

……………ハァ~~~、この寒さが冬せいだと解っていても、あまりに寒くて嫌になちゃうわよ。」


時折吹き付ける強風に首もとに巻いたマフラーに顔を隠し。ついつい何度もうなり声のような声を出しつつ。独り言が溢れてしまう中。

それでも頑張り。何とか屋根が設置された朝倉町一番の大通りまで歩いてきたのだが、あまりの寒さにラスカはやられ。

大通りの歩道脇に座り込み。何やらダルいと言うか、倦怠感と共に頭がボッーとしてしまい。

早く役場に帰り書類の手続きをしなくちゃと頭では思いながらも気がつくとラスカの足は、その場にピタリと止まり。

これ以上1歩も動けそうにもなく。

どうしたものかと、いつもと違い働かない頭で考え込んでいると


「あっ!ラスカ姉ちゃんだ!ラスカ姉ちゃんどうしたの?

こんな所に座り込んでいたら風邪引いちゃうよ!」


「ラスカねぇちゃん、だいじょうぶ?」


「本当へけっよ!ラスカちゃん、大丈夫へけっか?」


「ラスカ殿、本当にどうしたでござるか?顔が真っ赤でござるよ!」


無性にエルピコが営むお店『大地の恵み店』の焼き芋が食べたくなり。

強風&雪の中、袋一杯の焼き芋を買いに出掛けていたタリサ達と遭遇して、いつもと違うボッーとしたラスカの様子を心配して声をかけてくれ。

口では『大丈夫、大丈夫』と話すラスカの事を心配して肩を貸してくれ。万次郎茶屋へと移動する。



◇◇◇◇◇



「ありゃ~~~あ、これは風邪の引きはじめだね。大丈夫、ラスカ?あなた、熱があるわよ。気付かなかった?

それに最近少し無理しすぎたんじゃないの?」


たまたま運良く万次郎茶屋へとおやつを買いに来ていた。朝倉町で病院を営む医師のリサに診察してもらったラスカは、風邪の引きはじめだと診察され。


寒がりの為、冬の間ちゃんと温かい格好を気にかけていたのにとショックを受けた様子でラスカが呟き。


「そんなぁ~~~、誰か嘘と言って頂戴!

だってこれじゃあ、カリンのお店のお正月限定コスメが詰め込まれた福袋買いに行くけなくなるかもしれないじゃない!

えっ~~~、あんなに楽しみにしてたのに……………。

どうしょう!風邪なんて引いてたらお正月に福袋買いに行けなくなちゃうわ!」


熱のせいなのか、少々いつものラスカと雰囲気が変わる中。

元旦に売り出される熊族のカリンが店主を勤めるコスメ店の正月限定福袋が買いに行けなくなるかとも落ち込んだ様子で話。

そんなラスカの話に苦笑いを浮かべたリサは


「あのね、ラスカ。いくら風邪引かないように服装を気にかけていたとしても無理をしすぎたらダメなのよ。

ほら、何と言ったかしら愛満から教わった………………め、めめ、……あっ、免疫力!

そうそう、免疫力よ。その免疫力が落ちてね。ラスカは今、風邪を引きやすくなってるのよ。」


もしかしたら、カリンのお店で元旦に販売する。お正月限定福袋が買いに行けなくなるかも知れないと落ち込み。話を聞いていない様子のラスカに話し掛け。

後で風邪薬やうがい薬を貰いに来るように言い。

先程購入した2箱にもなる。お持ち帰り用の『お汁粉』が納められた箱を山背から受け取ると嬉しそうに箱の中を見つめ。足早に病院へと帰って行き。


山背から風邪を引いておるなら炬燵に入り。半纏を着て体を温める事じゃあ。との助言を受け。

万次郎茶屋の温かい炬燵に足を入れ。半纏に袖を通す中。

何やら美味しそうな匂いを放つお椀を持った愛満がラスカの元へとやって来て


「風邪の引きはじめなんだって、大丈夫?

ほら、朝倉家特製のこの『ワンタンスープ』食べて、元気だしてよ!」


今だ少し落ち込み中のラスカを励まし。朝倉家特製なる『ワンタンスープ』を進め。


街外にもファンが居るカリンのお店のお正月限定コスメが買えなかったらどうしょうと頭の中が一杯の様子のラスカは、いつもより鈍い動作でモソモソとワンタンスープを口に含む。

すると先程までの落ち込みようが嘘のよう、ワンタンスープを口に含んだラスカが勢い良くワンタンスープを食べ始め。

お椀の中が無くなる頃には、先程まで少し紫がかった鼻の頭や頬を赤くして


「愛満、愛満!これ、スゴく美味しいわね♪

何て言うの、アッサリとして飽きのこない醤油ベースのスープも良かったし。生姜の風味もして、またそれも良かったわね。

後、このツルッとしたワンタンの皮としっかり詰まった具の食べごたえあるワンタンが最高で、朝から少し喉の調子が悪かったんだけど美味しく食べれたわ。

ありがとう、愛満。」


愛満が進めてくれた『朝倉家特製のワンタンスープ』を誉めてくれ。

それに気を良くした愛満が嬉しそうに笑みを浮かべ。


「ねっ、このワンタンスープ美味しいでしょう!

リサがラスカは風邪の引きはじめと聞いてね。僕も風邪ぴきな時なんかに婆ちゃんが作ってくれた。

この『ワンタンスープ』を思い出して、ラスカにもどうかなぁと思って作ってみたんだ。

これ食べたら風邪なんてイチコロだよ!

それにラスカが誉めてくれた、その食べごたえあるワンタンの中には、挽き肉に海老、椎茸、長ネギ、(ニラ)、生姜、ニンニク何かの具材が盛り沢山に入っているんだ。

だからそれ一杯でお腹いっぱいになるし。ワンタンの皮で喉ごしも良くてツルリと食べられちゃうんだ。」


嬉しそうに話すと、何やら自身も婆ちゃんから習った事だと言って話し始め。


「それに僕の生まれ育った故郷では、その昔から風邪を引いた時には薬代わりに『ニンニク』を食べていてね。

婆ちゃん曰く、その(平安時代)に編纂された医書『大同類聚方だいどうるいじゅうほう』や、現存する最古の医書『医心方(いしんほう)』には、風邪にはニンニクを処方するって事が書かれていたそうなんだ。

そして時代と共に、とある時代(江戸時代)に書かれた『養生訓(ようじょうくん)』には、すりおろした生姜を一欠片(ひとかけら)飲むと、寒さや風邪を防げるとも書かれてあるんだよ。

で、と言う事で風邪ピキのラスカには、この『生姜湯』を飲んでもらいます!」


声高らかに愛満が宣言して、その後ラスカが『生姜湯』と共に『ワンタンスープ』のお代わりをお願いするなか。

新しい年まで残すところ3日をきり。


いよいよ今年も残すところ後3日。

実家時代の癖もあり。何故か自身の(チート)は使わず全て手作りで、29日には比較的日持ちして味の落ちにくい物を

また30日には比較的日持ちはするが味の落ちやすいおせち料理を

31日には魚介類を中心に日持ちしにくいお節料理を作る為。

風邪など引かないように気合いを入れなおす愛満なのであった。




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