「南瓜のすり流し」と正月事始め、すす払い
「愛満、愛満!」
何やら小声で愛満へと話し掛け。抜き足差し足ならぬ、コソコソとした様子で愛満の元へとやって来た。少々お疲れ気味なご様子の山背が、実に疲れた様子でその場に座り込み。愛満へと助けを求め。
「愛~満!!ワシを助けてほしいのじゃ~!
アイツら鬼なのじゃ。こんな小さくプリティーな年寄りのワシに煤払い用の長い竹を持たせ。屋根や軒下の煤を払い落せと言うのじゃぞ!!
それにワシが掃除した箇所は、いまいちホコリが落ちておらんとケチをつけるのじゃ………………………フン!!知るもんか!!!
はぁーーー、それよりもワシャ~ァ、もう腕がプルプルして明日には筋肉痛で苦しみそうじゃわい!!」
何やら作業中の愛満の右足にしがみつき。愛満から離れないぞとばかりに頑なな様子で愛満の足やズボンを握り締め。
ブツブツと何故『煤払い』と言うか、ワシのようなプリティーでいて、小さい体で見上げるような高さの朝倉神社の屋根や軒下を掃除しなければならないのかや、そもそも体格にあった適正な掃除場所の割り振りがなっとらんだの。
ワシもタリサ達がお手伝いしている本殿の廊下拭きなら一番になっていただの。
マヤラがお手伝いしている境内の掃き掃除の手伝いだったら文句も言わぬのにと悔しそうに話して、愚痴り始める。
そんな山背の話に可哀想だと思いながらも、愛満はついつい笑みを溢しつつ。誰ともなしに話し掛けるように独り言を話し始め。
「あのね。そもそも今日朝倉神社で行われている『煤払い』は、お正月に年神様をお迎えする為の一年分の汚れを落とす大掃除になってね。
かつて僕の住んでいた故郷で昔、囲炉裏を使っていた頃、家中に煤がついていたのを払い。
綺麗にした事から『煤払い』と呼ばれるようになったそうなんだ。
他にも山背がお手伝いしてくれた煤払いの掃除はね。普通一般の人が気軽に出来ない掃除の1つになって
12月13日の今日、僕の故郷の全国に在る神社仏閣に勤める巫女さんや神主さん達が一斉に『煤払い』を行うと言うか、………『煤払い』には一年でたまった穢れを払う意味があってね。
神具とされる『笹竹』を使って、本殿や正門などのホコリを取り除いていくんだよ。」
と話して、時折足元の完全にいじけてしまった様子の山背の様子を気にしつつ。
「そうそう、山背が掃除道具に使ってた竹もね。
竹竿の先に藁をくくりつけて『煤梵天』と呼ばれる道具を今日の日の為に香夢楼達と一本一本手作りしたんだよ。」
「……………………………」
「あ、後12月13日の『正月こと始め』の日に今日みたいに『煤払い』を行ってね。それぞれの神社仏閣、各家庭なんかで正月準備が始まっていくんだよ。
で、その神社仏閣で『煤払い』してる様子がテレビのニュースなんかで取り上げられてね。
僕や婆ちゃんは、そんな様子をテレビ見て、あぁ、今年も最後の大仕事、正月準備が始まるなーって、毎年気合いを入れる気持ちで見てたんだ。」
何やらグツグツいっている大鍋の中身を焦げ付かないように気を付けながら混ぜて
「それにね。なんで12月13日が『煤払い』や『正月こと始め』になるかと言うとね。
僕も婆ちゃんから習ったんだけど、僕の故郷では旧暦の12月13日は『二十八宿』という古代のとある国で生まれた天文学・占星術によると鬼宿という日にあたるらしいんだ。
で、そんな『鬼宿』の日は『万事進むに大吉』と言って大変縁起が良いとされていてね。
大切な年神様をお迎えする準備を始める日も、そんな良い日に始めようと昔の人が決めたんじゃないかなぁと教えてくれたんだよ。
ちなみに家は大仕事はまだしてないけど、今日の日の為に神棚や仏壇の掃除だけはバッチリと終わらせてきたけどね。山背は自宅の大仕事終えた?」
今だイジけて黙りの山背へと、めげずに話し掛け。
先程から愛満が1人、大鍋を使って作っていた。朝倉町で採れた南瓜や玉葱、モーモーの牛乳等を使用した『南瓜のすり流し』と言うか、『南瓜のポタージュ風スープ』を煤払い後の掃除参加者達へと、エルフ族のターハ達3兄妹が作る雑穀パンと一緒に無料で振る舞うため大量に作っていて
「あ~~~ぁ、せっかく『南瓜のすり流し』完成したんだけど、誰か味見してくれる人はいないかなぁ~!………………………あ~ぁ、本当に困った困った!」
少々ワザとらしいのだが、そんな『南瓜のすり流し』を味見してくれる人を探すふりをしながら足元の山背の様子を気にしつつ。
美味しそうな『南瓜のすり流し』の匂いが気になるのか、先程からモゾモゾしている山背の頭や背中を優しく撫でて上げ。
大切な家族の1人。イジけモードの山背のテンションを上げるため頑張るのであった。




