和菓子『冬将軍』と大雪
「はい、どうも。お買い上げ有り難うございやした~~~!
またのお越しをお待ちしておりますなのじゃ。
…………………………ハーーーァ、やっと最後の客が帰ったのじゃ。ハァ~~、疲れた疲れた。
次の客が来るまでの間、働き者のワシは一息付かせてもらうかのう………………って、タリサは何をやっとるんじゃあ???」
凍えるような冷たい風が強く吹き付け始めるこの時期。
日本で言うところの二十四節気の1つで、愛満考案の万次郎茶屋・大雪1日限定和菓子になり。
愛満曰く、甲冑や兜をキリリッと着こなした。
少々野性味溢れる見た目の口髭やゲジゲジ眉毛がチャームポイントになるらしい。雪だるまの妖精?がモチーフになった。
生菓子『冬将軍』を買い求めにやって来た茶屋ファンのお客さん達の接客を終えた山背は、少々お疲れの様子をみせつつ。
先程の接客で忙しい最中。山背の元へとお代わりの『冬将軍』を貰いに1人やって来たマヤラが、何故かチビッ子組の冬の茶屋内の定位置になる小上がりの畳コーナー(炬燵コーナー)ではなく。
1人小人族用のミニテーブル席に座り。
何やら期待たっぷりにワクワクとした様子で、茶屋出入口を見つめている姿を目にし
「ちょいちょい、愛之助達や。
ワシの目がボケてなければ、何やらマヤラが1人。お茶やお茶菓子を前に、アソコのテーブル席に座っておるのじゃが、何をしておるのかのう???
ワシに解るように教えてくれんかのう?」
実に不思議そうに首を傾げながら愛之助達へと質問を投げ掛けた。
するとそんな山背の質問に苦笑いを浮かべた愛之助達がマヤラに聞こえないようにと気を使いながらコソコソと
「あの~……………その~……………、」
「実はへけっね…………………。何と言ったら良いへけっか………………」
「その~……………実はでござるね。」
3人とも最初は口ごもりながらも
「愛満に教えてもらったのでござるが、今日は暦の上では二十四節気の1つ。『大雪』になるでござろう。」
「そうそう!大雪の頃は雪が激しく降り出す頃とされてね。
風もビュービュー強くてなっていって、温かい格好して外にでなくちゃブルブル震えちゃうくらい寒い時期になるんだよ!
他にも立冬から1ヶ月がたって寒さも本格的になり。今はまさに冬本番を迎えてるんだって!」
「それにへけっね!庭の南天やクチナシの実が色づきはじめてへけっね。
愛満の故郷の方では、山に住む動物達が冬眠に入るそうなんだへけっよ!山背知ってたへけっか?」
「あっ!それにでござるね。寒さが日に日に厳しくなっていくこの時期はでござるね。
霜のおかげと言うでござるか、露地栽培で育てられる冬の野菜の大根や白菜、ネギ等が寒さに対抗して凍らないように頑張って甘味を出していってでござるね。
野菜の本来の甘味が増して、とっても美味しいのでござるよ!山背、知っていたでござるか?」
「それにね、それにね!確か美樹がこの前、冬の時期の鮭は美味しいんだって、山背と一緒にお酒を飲んでる時に言っててね。
熱燗につけた酒のツマミにシンプルに『鮭の塩焼き』や『鮭の揚田げ』、『鮭のちゃんちゃん焼き』なんかが食べたいなぁ~、って愛満に聞こえるように話してたんだ。山背、覚えてる?」
「あっ!タリサ、その話。まさか鮭と酒でかけたでこざるか?」
「本当へけっ!鮭と酒で同じ言葉へけっね!」
「えっ!!……………あっ!本当だ鮭と酒でかぶってるや!
アハハハハ~~~~~~♪」
何やら鮭と酒の同じ言葉に3人が腹を抱えて笑い転げるという、変な現象が起こるなか。
【実は、愛満や美樹の故郷。日本では年末に向けて面白いお笑い番組が連日放送されていて
その事を覚えている。お笑い好きの美樹が愛満宅の書庫に何故か沢山有るお笑い芸人のDVDを連日暇さえあれば観ており。
そんな美樹につられた愛之助達の間でも静かにお笑いブームが加熱していて……………。
かなり低レベルながら、ああして変な笑いの壺に陥るという変な現象が今現在、茶屋内や愛満宅で日々起きていた。】
お喋り好きな3人は、山背の質問の内容など軽く瞳を忘れた感じで、何やら『大雪』の話やら冬眠、冬野菜、鮭等々。
話題が飛び飛びの話を披露し、大笑いしていた。
そんな3人の様子に山背が『ダメだこりゃ』とばかりに大きなため息をつきつつ。
笑いが収まった様子の愛之助達3人へと、もう一度同じく質問を投げ掛け。今だポツリとテーブル席に1人座り。何やらワクワクした様子で出入口を見ているマヤラを指差した所。
『あっ!そんな質問だったね』とばかりに3人が顔を見合わし。マヤラの事はすまなそうに見つめながら、わざとらしい咳払いをして
「ゴホン、ゴホン!え~~~ぇ、そもそもでござるね。
大雪の頃に日本に訪れるのが、厳しい寒さをもたらす『冬将軍』になるのでござるよ。」
「そうそう!他にも愛満が寒さがましてくると、よく聞くのが『冬将軍』の言葉だとも言ってたよ。」
「へっけ、へっけ!確か綺麗なお天気お姉さんが、わざわざ寒いなか外に出てへっけね。
体をプルプル振るえさせながら明日や1週間のお天気を伝えつつ。『冬将軍』の言葉を使ったりするんだへけっよね!美樹が言ってたへっけ!!」
途中、光貴やタリサ達のプチ情報?を挟みつつ。
「で、『大雪』に訪れる『冬将軍』はねでござるね。正式には『シベリア寒気団』になり。
愛満曰く、その名の通りシベリア方面から到達し。愛満が住んでいた日本の日本海側に降雪をもたらし。太平洋側には乾燥した冷たい風を吹き荒らすそうなのでござるよ。
他にも『冬将軍』とは冬の厳しい寒さを表した言葉で、ナポレオンと言う武将?の者が、その昔ロシアなる国に攻め込んだおり。
厳しい寒さのため撤退した事を『generalfrost(極寒将軍)に負けた』と、とある国の新聞が表現したのが由来になり。
シベリアからの寒気団を『冬将軍』と言うそうなのでござるよ。」
愛之助が話し。その『冬将軍』がマヤラと何の繋がりがあるのかと山背が首を傾げる中、愛之助が話を続け。
「それでねでござるね。そんな大雪の頃に訪れる『冬将軍』をモチーフにした今日のオヤツを振る舞われる際、愛満から『大雪』や『冬将軍』の話を聞き。
拙者達が面白半分で、外で凍えるような冷たい風が強く吹きつけた時、『冬将軍が来たでござるか!』や『冬将軍が来たへけっ~!』、『冬将軍が朝倉町に到着したんじゃない!』と言っていたらマヤラがすっかり信じこんでしまってでござるね。
あぁして愛満お手製の和菓子を冬将軍が茶屋に食べに来ると考え待っているのでござるよ。」
マヤラがあぁしている訳をやっと教えてくれ。
山背を含めた4人が、幼いマヤラの夢を壊さいないようにするには、どうしたのもかと頭を悩ませるのであった。
◇◇◇◇◇
そうして頭を悩ませた愛之助達であったが、何やら閃いたようの山背が、山背必殺技の1つ。
愛満を台所から茶屋内へと呼び寄せて、何とかマヤラの夢を壊さいないよう上手くその場を納めてくれるように頼み込み。
その後、新たなお客さんの訪れに、またもや忙しくなってしまった山背が満足に休憩もとれないまま、お茶を一口も飲めず。
こっそり異次元ポケットに隠していた和菓子『冬将軍』も食べれず。
泣く泣く、自称万次郎茶屋看板ボーイに変身したりしつつ。
今度は愛之助達もお手伝いしてくれたりと、本日の大忙しの万次郎茶屋の1日が過ぎていく。
「どうもどうも、ありがとうございましたなのじゃ……………………………って、………ハァ~~~、今日は本当に大忙しで大変な1日なのじゃー!」




