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フィッシュバーとタラのみそ漬けと吟遊詩人のケットシー



その日 愛之助は、社務所に住む香夢楼(かむろ)達に愛満と一緒に手作りした。籠一杯の可愛らしい魚の形をした『フィッシュバー』を持ち境内を歩いていた。

すると何処からともなく綺麗な音色が聞こえてきて


♪~、♪♪♪、♪~♪♪


「うん?何処からか、綺麗な音色が聞こえてくるでござるぞ。何処からでござるか?気になるでござるなぁ。」


興味を持った愛之助は美しい音色に誘われ。恐る恐るではあるが、音色の出所へと近づく事にする。


そうして、途中音色の出所を何度か見失いながらも、無事音色の出所に到着した愛之助は、まだ怖さもあり。恐る恐ると建物影からこっそりと音の出所の神社裏をのぞきむ。


すると次の瞬間、驚きながら二度見して、満面の笑みを浮かべた愛之助は、何度も嬉しそうにほふく笑みながら、ゆっくりと音の出所へと近付いて行く。


実は、愛之助がのぞきこんだ視線の先に居たのは、神社裏に力なく座り込み、1人ギターを弾いていた。両耳が倒れた白黒のハチワレ柄の可愛らしいケットシーであったのだ。


そのため、なるべくケットシーを警戒させないように慎重に近づいた愛之助は、さも今気付いたかのように少々下手くそな演技をして


「はじめまして。拙者、すぐそこの万次郎茶屋に住んでいる愛之助と言う者でござるが、そなた、こんな所でどうしたでござるか?」


愛之助がケットシーに話しかける。すると愛之助に話しかけられたケットシーは、何やら悲しそうに潤んだ瞳で


「はじめましてニャ。僕は吟遊詩人で、ケットシー族のモカだニャ。ギターを奏でニャがら旅をしてるだけど、ここ2日ご飯を食べてニャくて、お腹がペコペコニャのだニャン。」


力ない声で愛之助に伝える。

そんなモカの話を聞いた愛之助は、それは大変だと慌てて、香楼達に持って行くはずだった籠の中の『フィッシュバー』を取り出し。お腹を空かせたモカへと手渡し、食べるように促す。


「えっ!良いのかニャ。……それなら遠慮せずに頂くニャ。ありがとうニャ。

クンクン、おぉ~!これはモカの好きなお魚ニャの匂いがするニャ、それに小魚の形してるニャ!

……パクパク………モグモグ……美味しいニャ!……カリッパリとして香ばしく美味しいニャ。」


愛之助にお礼を言ったモカは、愛之助の持っていた籠の中の『フィッシュバー』を1人で半分以上あっという間に食べ尽くし。

更に、愛之助が香夢楼家五男の緑香(ろこ)と一緒に飲もうと水筒に入れ持ってきていたホカホカの『梅昆布茶』を飲み。

何やら満足そうに一息つき、改めて愛之助にお礼の言葉を伝えながら、先ほど食べた『フィッシュバー』の美味しさを身ぶり手振り付きで話し出す。


「フィッシュバー初めて食べたけど、すごく美味しかったニャ。小さい小魚とカリカリした木の実みたいなのを甘いので固めてて、カリパリッとして美味しかったニャ。

それに形も食べやすい大きさで、小魚の形してて可愛いかったニャよ。

はぁ~♪さっき食べたばかりニャけど、思い出したらまた食べたくニャってきたニャ。ねぇ愛之助、あのフィッシュバー、モカでも作れるかニャ?作り方は簡単かニャ?」


愛之助にフィッシュバーの作り方を聞く。

そんなモカの可愛らしい姿をうっとり見ていた愛之助は、モカの質問に慌てて自然と緩む表情を引き締め。


「そうでござるね。

今日のフィッシュバーは、香夢楼達や白梅園の子供達のカルシウム不足を補う為に作ったでござるから、小魚もかたくちいわしでは無く。

小さい子でも食べやすいようにきびなごを使って作ったでござるから、モカも食べやすかったでござるね。

小魚の形にしたのも、愛満が小さい子達がついつい手に取るようにと考え、愛らしい形や食べやすい大きさの小魚の形にしたでござるよ。」


モカの質問とは違う答えを愛之助がして、モカがポカンとするなか。モカの表情を見て、これではないと気付いた愛之助は、付け加えるように慌てて


「『フィッシュバー』の作り方も、愛満と一緒に作ったでござるが、今回は大量に作るから、オーブンできびなごと細長く切ったアーモンドをパリッと乾煎りしたでござるし。

きび砂糖液も溶かしたきび砂糖にお湯を加えてのばし、乾煎りしたきびなごとアーモンド、白ごまを加え。

全体がくっついてきたら火からおろし。クッキングシートの上で、火傷しないようにヘラや手を使って小魚の形に整形したでござるよ。

しかも熱いうちに手早く形作られば、あっというまに固まり始めてしまうから大変でござった。

まぁ、形を気にしなければ形作る手間は無くなるでござるが、モカが作るとなると…………。」


「意外に大変だニャね。モカが作るには、ちょっと無理そうだニャ」


モカがしょんぼりと項垂れるなか、愛之助が何とか励まし。

その後しばらくの間、何気ない話を2人で、楽しげに長々としていると愛之助とモカのお腹が勢いよく鳴り。

お互いにお腹が空いた愛之助とモカは、愛之助の誘いで、愛満が待つ万次郎茶屋へと美味しいお昼ご飯を食べに帰る事にするのであった。



◇◇◇◇◇



いっぽうその頃万次郎茶屋では、愛満やタリサ達4人が『フィッシュバー』を社務所に住む香夢楼達に届けに行ったきり帰りが遅い愛之助の事を心配していた。


「あいのちゅけ、かえちゅってこないね。もうちゅぐ、おひるになるのに……。」


「本当だよね。帰り遅いよね。………愛之助いないとつまんないや……。」


マヤラやタリサが店内の窓に張り付き、愛之助が帰ってくるのを外を眺めながら待っていた。

そんな落ち込んだ様子のタリサ達を心配した黛藍が


「タリサもマヤラも元気だすアルよ!たぶんきっと香夢楼達との話が面白くて、ついつい長話になり帰って来るのが遅くなってるだけアルよ!」


2人に声をかけ、必死に慰める。

そして愛満も帰りが遅い愛之助を心配しながら、愛之助がお腹を空かせて帰って来た時に、お昼ご飯をお腹いっぱい食べさせてあげられるようにお昼ご飯の準備を始める。


そうして4人がなかなか帰って来ない愛之助の事を心配していると、外を見ていたタリサ達3人が愛之助が外を歩いて帰ってくる姿を見つけ。嬉しそうに愛満に教えてくれる。


「愛満~!愛之助帰って来たよ~!………あれ、けどなんか横に見たことないケットシーを連れているよ。」


チリーン♪チリーン♪


「ただいまでござる。みんな帰りが遅くなってごめんでござるよ。それから愛満、ちょっと来てほしいでござる。」


タリサが愛之助の帰りを教えてくれ。それからちょっとして愛之助が茶屋に入り、皆に謝りながら愛満を呼ぶ。

そうして愛之助に呼ばれた愛満は、お昼ご飯作りの手をいったん止め。愛之助達がいる店内へと行くと


「愛満忙しい所ごめんでござる。実は、こちらのモカの事を紹介したかったのでござるよ。

こちら、神社で知り合って友達になった吟遊詩人でケットシー族のモカでござる。モカ、目の前にいるのが拙者の兄で、この万次郎茶屋の主人 愛満でござるよ。」


嬉しそうに初対面になる愛満とモカの事を紹介してくれる。


「はじめましてだニャ。ケットシー族のモカだニャ。

恥ずかしニャがら、お腹が空いて力尽きてた所を愛之助に助けられたのだニャ。あっ、名前は気軽にモカと呼んでほしいニャ。」


「こちらこそ、はじめまして。僕は愛之助の兄で、この万次郎茶屋の主人 愛満だよ。僕の事も気軽に愛満と呼んでね。」


愛満とモカが改めて自己紹介をしていると、愛之助も改めてタリサ達に一緒に遊べなかった事を謝り、モカの事を紹介する。


「タリサ達も今日は朝から一緒に遊べなくて、ごめんでござる。

こちら、今日友達になったモカでござるよ。お昼からはモカも一緒に遊ぼうでござるね。」


「ううん、気にしなくて大丈夫だよ 愛之助。

それよりこんにちわ、モカ。僕、兎族のタリサ。横にいるチビが弟のマヤラだよ。よろしくね。」


「ぼきゅマヤラ、よろちくね!」


「こんにちわアル。私はササ族の黛藍アルね。よろしくアルよ。」


タリサやモカ達が仲良く話す姿を見て、何やらほっとした様子の愛之助は、安心してお腹が空いてるのを思い出したのか、愛満に今日のお昼が何なのか質問する。


「あ~ぁ、お腹空いたでござる。ねぇ、愛満。今日のお昼ご飯何でござるか?」


「今日のお昼はね。昨日の仕入れの時に、美味しそうなタラの切り身を見つけたから、西京みそと酒、味醂を合わせたみそ漬けに一日漬けこんで、焼いた『タラのみそ漬け』

肉じゃが、白菜のグラタン、小松菜とささみのサラダ、白あえ、芽ヒジキの五目煮、キャベツとラディッシュの生姜漬け、アサリの味噌汁になるよ。

もうすぐしたら美樹や凱希丸さん達も来ると思うから、もう少しだけ待っててね。」


愛之助達に声をかけ、お昼ご飯を仕上げに台所に戻って行くのであった。



◇◇◇◇◇



そしてその後、お昼ご飯の時間になるまで暇な5人は、いつものようにお昼ご飯の準備のお手伝いのテーブルを拭いたり。ランチョンマットを敷き、お箸やお皿を並べ。

愛満の手伝いをしながら、美樹と凱希丸が来るのを待ち。

ほどなくして帰って来た2人を迎え、5人念願のお昼ご飯の時間が始まる。


テーブルいっぱいに並べられた美味しそうな料理の数々に、生まれて始めて『タラのみそ漬け』を食べたモカは、あまりの美味しさに自慢の尻尾をピンと上にあげ。


「美味しいニャ~!ニャんニャんだコレは!こんな美味しい魚、生まれて初めて食べたニャ。

美味しいだけじゃニャく、食欲そそる焼き色が美しいニャし。口の中で魚の身がホロホロ崩れ、魚独自の旨味や香ばしい風味が美味しすぎるニャよ!

ねぇ、愛満。この魚お代わりしても大丈夫ニャか?」


美味しすぎてあっという間に食べてしまった『タラのみそ漬け』が乗っていた皿を悲しそうに見ながら、愛満にお代わりしても言い方かと質問する。


「もちろん。たくさん作って焼いたから、お代わりしても大丈夫だよ。それにモカがそんなに『タラのみそ漬け』気に入ってくれて、作ったかいがあったよ。ありがとうね。」


優しい言葉をかけてもらい。お代わりの『タラのみそ漬け』を取ってもらったモカは、美味しかったアサリの味噌汁と共に、先ほど籠半分の『フィッシュバー』を食べたとは思えぬくらいの食欲をみせ。

5回お代わりをして、パンパンになったお腹を少し苦しそうにしながら、茶屋の座敷にある温かな炬燵で、座布団を枕がわりに眠り込み。


辺りが夕暮れに染まる夕方になって目覚めたモカは、頭についた寝癖に気づかぬまま。

お昼ご飯をご馳走になったお礼にと、茶屋にある一段高くなったお土産コーナーをミニ舞台代わりにし。得意のギターを使って、美しい音色を愛満達へとプレゼントしてくれた。


ちなみに、その美しい音色の演奏を聞いて愛之助達が感動しているなか、タリサとマヤラを仕事終わりに迎えに来ていて。

たまたまモカの演奏を聞いた風呂屋番頭のアルトや愛満達から『ぜひ、村で働かない?』と誘われ。


朝倉村なら新鮮で、珍しい美味しい魚料理が食べれと考えたモカは、風呂屋・松乃の半地下にある広々した劇場や万次郎茶屋のお土産コーナーも兼ねた小さなミニ舞台で、週4日間開催になる。

ミニ演奏会を開きながら、朝倉村で大好きな魚料理を愛満達にねだったりと、のんびり暮らしていく事になるのであった。






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