和菓子『女郎花』と処暑と夏バテからの大爆発
ワイワイガヤガヤと大勢の人で賑わう建物内で3人の男性が1人の女性を囲み。
「アヤナちゃん、今日の夜ヒマ?
ヒマなら一緒に晩飯食いに行かない?俺、アヤナちゃんの為に最近流行りのあの店予約したんだぜ!」
「いやいや!アヤナちゃん、俺と一緒にディナーでもどう?
アヤナちゃんの為なら俺、色々とガンバちゃうよ。」
「アヤナちゃん、アヤナちゃん!
こんな奴らより俺と一緒にご飯食べに行こうよ!」
年若い冒険者の身なりをした3人の男性がディナーへのお誘いの言葉を投げ掛ける。
そんな3人の男性からのお誘いの言葉に満更でもない様子の年若い女性が、………少々言葉が悪いかもしれないのだが、キャピキャピと若さ振り撒き。
計算したような少々嘘くさい舌足らずな喋り方で、………そう、まさに昔で言う『ぶりっ子』しながら
「えっ~~♪どうしょうかなぁ~♪
う~~~ん♪………皆に誘ってもらってアヤナ、スゴく嬉しいんだけど、アヤナ困っちゃう~♪」
全然困った様子が見えないなか。自分に好意を示す男性達とのお喋りを楽しんでいた。
するとそんな4人のやり取りを見ていた王都ギルドで古株になり。ベテランギルド職員にして、アヤナと同じ年頃の娘を持ち。
他のギルド職員からも高い信頼おかれる。ママさん職員の中年マダムの星、モナが近付いて来て
「ちょっとアヤナさん。貴女、今日予報機関から送られて来た野分情報、各ギルドに送ったの?
只でさえ貴女新しい部署に移って、まだまだ仕事に不慣れなんだから、周りの皆に迷惑かけないように5分前行動を心掛けなくちゃダメよ。
それに貴女が任された部署は、人様の命に大きく関係してるんだから、貴女の不注意で周りの人達に迷惑なんかかけたりしたら、それこそ大事だし。貴女の評価が悪くなるのよ、ねぇ。」
自身と同じギルド職員になるアヤナを注意し。アヤナの周りを取り囲む。
駆け出し時代より顔見知りと言うか、……何かとモナが親心?お節介心?で日頃から世話を焼いていた冒険者の男性陣を散らし。
ココは心を鬼にして、不貞腐れた様子のアヤナへと向き合い。
自身の22歳になる娘と同い年の事もあり。
日頃から何かとアヤナの事を気にしていたモナは、入社以来仕事勤務が不真面目で、何かと周りが手助けし。それを当たり前だと思っている節が有るアヤナへと
「それに貴女、まだ勤務中でしょう?
そもそも窓口業務を担当する職員ならまだしも、貴女の今の持ち場は建物2階の部署になるんだから、こんな所で油を売ってたらダメよ。
それに今は只でさえ、みんな野分が発生しやすい時期で、野分の事を気にしてるんだから………。
ほらほら!貴女も早く部署に戻って、貴女が受け持つ地区の明日からの野分情報を含めた天候情報を送ってあげなさい。」
モナが注意すると、反省した様子のないアヤナがキッとモナを睨み付け。
「何おばさん?モテる私に嫉妬してんの?意味解らないんだけど!
いちいちうるさいっーの!!私のする事に口出ししないでよ!
あーーぁ、マジ最悪!何なのこのおばさん!」
先程までの舌足らずな喋り方が嘘のようにモナへと暴言を放ち。
なんと目の前に立つモナを力の限り突き飛ばすと、悪態つきながらその場を離れるのであった。
◇◇◇◇◇
「でね!この時期、野分の被害を受けやすい頃じゃない。
だからここ最近、少しでも早くうちに来る冒険者達に野分の情報を伝えたいと思って
毎日のように天候情報を含めた野分情報を王都のギルド内に在る天候部署へと、去年みたいに細めに、出来れば早く送ってほしいと連絡してるんだけどね!
どうやら去年まで天候情報を各ギルドに送ってくれてた。この地区の担当者の人が替わったみたいで、………。
しかも新しくこの地区を担当する子が、何やら問題有りのギルド勤務2年目の女の子みたいなのよ……………。」
その日営業中の木札が準備中の木札に裏返された万次郎茶屋には、朝倉町に在るギルド職員になり。
愛満の茶飲み友達になる平莉が、暇そうに店番と言うか、……………愛満不在の中。1人万次郎茶屋で留守番をしていた。
自称万次郎茶屋看板ボーイになるらしい山背を自身が座るカウンター席隣へとガッチリ捕まえ。
平莉ご自慢の真っ赤な赤髪と同じように顔全体を真っ赤にさせて、更には青筋を立てながら、ここ最近の鬱憤をマシンガントークと言う名のお喋りの力を使って発散させていた。
「まぁ、仕事に不慣れながらも一生懸命頑張ってくれてるなら、それはそれとして少しは解るわよ。
けどね!王都のギルドで働く友達に聞いたら!その子、比較的この時期しか忙しく天候部署の勤務なら楽できるし!
天候情報を送ってくれる予報機関のエリートと出会いたいからとか馬鹿な事言ったり。
用もないのにギルド1階に下りては、若い冒険者やお金や地位を持った男性冒険者に近付いてチヤホヤされるのを楽しんでるみたいなのよ。
…………まぁ、ハッキリ言っちゃうと、よく仕事をサボっる。
私にとってみれば、天候&野分情報を規定通りの時間に送ってくれない。下手すれば3日に1回は、情報を送るのをコロッと忘れたらしくて、コッチから連絡してやっと送り。その事を謝りもしない。実に実に憎たらしくて、悪いヤツなのよ!
ねぇ、山背。この話聞いて、ハァ!!何なのコイツ!と思わない!」
隣に座る山背に問いかける。
そんな平莉のマシンガントークにビックリして固まっていた山背であったが、ここは何か相槌を打たねば自身の身がヤバイと本能で感じとり。
「そ、それはいかんのう~!つ、常に危険と隣り合わせの冒険者達には天候にしろ、野分は命にも関わる事じゃからのう~!
じ、実にけしからんヤツじゃ!」
平莉の問いに返事を返すのだが、興奮気味の平莉は、そんな山背の返事を聞いているのかいないのか話を続け。
「そもそもギルドが天候にしろ野分情報を少しでも早く知れるのは、ギルドが発行した依頼で、依頼をこなすなり。遠出する冒険者達の安全を守る為と共にね。
村や町、そこに住む人達の安全や作物の成長を守る為に昔の人達が考え。苦戦しながらもなんとか誕生させた素晴らしい部署なのよ!
それなのに王都ギルドの人事を受け持つ人は何を考えてるんだか……………!
………ハァ~~~!この際だからハッキリ言うけど、年とか性別とか種族とか、本当どーーでも良いから、責任もってキチンと仕事をしてくれる人を天候部署に回してよって感じよ!」
更に怒りを爆発させ。何やら他の事も思い出した様子で
「そうそう!それにあんだけ口を酸っぱくして注意してたのに、時の鐘パーティーメンバーは揃いも揃って、みんな6人とも夏バテしちゃうし!
前に愛満に教えてもらった。夏もだけど、この時期が1番起こりやすい食中毒の注意をギルドに来る冒険者達に注意してるんだけど、皆ちゃんと理解してるのか解んないし!」
と話し。最後はボロボロと大泣きしてしまい。そんないつにない平莉の姿に山背は大慌てし
「だ、大丈夫か平莉?…………………ど、ど、どうすれば良いのじゃ!?ワシは女と子供の涙には弱いのじゃ!!
……!!!……!!!……………あっ、そうじゃ平莉!ほれ、ワシが平莉の好きな愛満がお手製の和菓子をお腹一杯奢ってやるのじゃ!
じゃから平莉、そう泣かんで元気だすのじゃよ!」
右往左往しながら必死に慰めるのであった。
◇◇◇◇◇
「大丈夫、平莉?…………はい、冷たいおしぼりだよ。
それから麦茶もね。これ飲んで喉を潤して」
「ぁ、ぁりがと…う、ょ、愛満。」
「ううん。僕こそ何か平莉が大変な時に配達で茶屋に居なくてゴメンね。」
「……ぅ、ぅんん。ゎ私なら山背に話を聞ぃてもらってスッキリしたから気にしなぃで!」
平莉大泣き後。何も知らずに配達から帰って来た愛満は、顔全体を真っ赤にさせ。更には声もガラガラで、いつもと違う平莉の姿と共に
何やらヒドくグッタリした様子の山背の姿に驚いたりしたのだが、お疲れの様子の山背が頑張って、平莉がこうなった訳をかいつまんで教えてくれ。
何とか平莉がこうなった訳を知った愛満は、大泣きして熱を持った顔を冷やす為のおしぼりや、冷たく冷えた麦茶を差し出したりと甲斐甲斐しく世話をやいていて
「そ、そう?本当に大丈夫?
……………………………………………………………………………………あっ、そうだ。
平莉、せっかく万次郎茶屋に来たんだから、いつもみたいに和菓子食べない?
今日はね。運が良い事に『処暑』限定の和菓子『女郎花』が有るんだよ。」
急ではあるのだが、沈黙に耐えられなくなった愛満は、本日の8月23日の『処暑』の日にあたる。
秋の七草の一つ。女郎花の花をモチーフにして作った和菓子『女郎花』がある事を告げ。
「えっ!?女郎花?……女郎花って何?それに処暑って?」
今だガラガラ声の平莉が和菓子『女郎花』や『処暑』の日の事に興味をもち、問い掛けるなか。
何とか平莉の様子が少し元気になった事にホッとしつつ。手早く和菓子『女郎花』とお代わりの麦茶を手渡し。
「えっと………まずはその和菓子『女郎花』はね。
僕の故郷の秋の七草の一つ、黄色い小花の花になってね。
その女郎花の花をモチーフにして、女郎花の小花の色の黄色に染めた『ういろう』生地で、一口サイズに丸めた小豆のこし餡を包み込み。
白ごまを表面に数粒添え。黄色の小花が秋風に揺れる風情を表してみたんだ。」
ちゃっかり平莉の隣のカウンター席に座り。何やらスタンバイバッチリな様子の山背へも和菓子『女郎花』と共に麦茶を手渡しながら
「『処暑』はね。簡単に説明すると『暑さが和らぐ』と言う意味でね。
今の頃になると昼間はまだまだ暑い日が続くけど、厳しい暑さの峠が少しずつ越えてきて、朝夕には涼しい風が吹き始めてるでしょう。」
簡単にではあるがのだが、愛満が『処暑』の事を説明するとペロッリと一口サイズの和菓子『女郎花』を3個完食した平莉が、愛満へと『女郎花』のお代わりをお願いしながら
「うんうん!ちょっと前までは一日中、朝から晩までスゴく暑かったけど、最近は比較的朝夕は過ごしやすくなってきたよね。
それに虫の声が聞こえるようになってきたよね。」
「そうだね。
あっ、けどさぁ~、野分の話で悪いけど、涼しくなったと思ったら野分の影響で、また振り返して暑くなる時があるから、それは嫌だよねぇ~!
さっきも配達途中に余りの暑さにヤマトさんの純喫茶で休憩がてらのお茶してきゃったよ。」
「あーぁ、解る解る!私も今日は本当は仕事が昼までだから真っ直ぐ家に帰るつもりだったんだけど、余りの暑さについつい万次郎茶屋で足が止まっちゃったのよ。」
その平莉の足が止まったせいで山背が悲惨な目にあったりしながら、愛満との何気無い話で、いつもの様子に戻った平莉は、愛満との何気無い世間話を楽しみつつ。
夏バテと言うか、この暑さで平莉の感情が爆発してしまった1日は過ぎていく。
◇◇◇◇◇
ちなみに平莉が怒っていた怒りの原因はモチロン、王都ギルド勤務のアヤナになり。
山背や平莉から話を聞いた愛満も『それはちょっと………………』と顔をしかめ。
更には、あの後万次郎茶屋へとお茶をしに来た。何気に(結構高貴な)貴族になるササ族の黛藍の姉、光紅も話を聞いて呆れた程で…………………。
結果、ギルド勤務の女性陣から男性陣に始まり。冒険者達からも母親のように慕われていたモナに暴行を働いた事件。
日頃のアヤナの勤務態度
アヤナを贔屓していた人事の管理職の男の不正が発覚したりと、アヤナの職場での立場が悪くなっていき。
色んな事が発覚して、とうとうアヤナは王都での人気上位になるギルド職員の座を辞めさせられる事になり。
まぁまぁ、手酷いシッペをくらうと言うか、人生勉強をさせられるのであった。
【この件に関して、僅かばかりではあるのだが、愛満の力も少し働き。
黛藍大好きな黛藍の両親や兄妹も光紅からの情報で、怒り心頭で怒っており。この件に関してギルドへと苦言を届けていた。】
【和菓子『女郎花』と処暑と夏バテからの大爆発、の登場人物】
・アヤナ
王都ギルド勤務の22歳の女性
少々…………かなり勤務態度に難有り
・モナ
王都ギルド勤務の古株兼ベテランのママさん職員
22歳の娘を始め、5人の子供を持つ
王都ギルド職員を始め、冒険者達からも幅広く慕われる
・平莉
朝倉町に在るギルドに勤めるギルド職員
愛満の茶飲み友達
ここ最近続いた暑さにやられ、本人無自覚のなか夏バテ中
なので、ここ最近の色々な出来事、鬱憤等がたまりにたまり大爆発するご様子
・山背
今回、愛満が急な注文と共に配達のなか、準備中の木札が下がる万次郎茶屋で1人お留守番していたのだが、何やら大変な目に合うご様子
・愛満
今回も暑さにも負けずに万次郎茶屋の仕事を頑張るご様子
・光紅
結構高貴な貴族のご令嬢
ササ族(愛満曰く、子パンダの姿)、夫子有り
朝倉町でパンダ雑貨店を営む
・愛之助、タリサ、マヤラ、光貴
今回、友達のタクの家にお出かけ中
・ヤマト
ケンタウロス族
朝倉町で純喫茶を営む、パティシエ
愛之助達の友達のタクの父親




