ごま塩野菜ラーメンとキツネ族の青那
その日茶屋の台所に立つ愛満は、昨日の夜に異世界人の美樹との話の途中で、ふと話題に上がった袋ラーメンが食べたくなり。
別名小さき巨人の母の数少ない手料理になる5袋パックで、お手頃価格で売られているインスタント袋ラーメンを使い。
冷蔵庫のあまり野菜の野菜炒めなどがこんもりとのった『ごま塩野菜ラーメン』を作っていた。
「うわー、美味しそうでござる。今日のラーメンとトッピングは何でござるか?」
「今日はね。袋ラーメンのごま塩味で、トッピングに焼豚の切り落とし、キャベツ、人参、玉葱、もやし、竹の子、キクラゲの薄めに味付けした塩コショウ味の野菜炒めとポーチドエッグ、厚めに切った輪切りトマトを両面香ばしく焼いた焼きトマト、生ワカメ、付属の白ごまになるよ。」
「美味しそうでござるね。お腹が空いたでござる。愛満 こっちのラーメンはもう運んでいいでござるか?」
「ありがとう、愛之助。そっちに置いてあるのは完成してるから運んで大丈夫だよ。」
愛満から配膳の許可をもらった愛之助は、お昼を食べに茶屋に帰って来た美樹や黛藍、凱希丸、タリサ、マヤラなどが待つ店内へ、ラーメン茶碗にこんもりと美味しそうに盛られた『ごま塩野菜ラーメン』を運んで行く。
「お待たせでござる。愛満特製のごま塩野菜ラーメンでござるよ。みんな火傷しないように気を付けるでござる。」
火傷の注意をしながら皆の前にできたて熱々のラーメンを置いてあげる優しい愛之助は
「まず、最初に休憩時間の美樹に…どうぞ。マヤラに…どうぞ。タリサに…どうぞ。
凱希丸殿と黛藍は、すまぬが少々待つでござる。申し訳ない。それに凱希丸殿はタリサに先に譲ってくれてありがとでござる。」
「「「「はい(だっぺ。)(アル。)(でやんす。)(コン。)」」」」
お盆の関係上、ラーメン3杯しか運べず。後になる凱希丸と黛藍の2人に愛之助が申し訳なさそうに謝っていると、愛之助の耳に2人以外の声が聞こえ。皆が座っているテーブル席を見渡す。
するとそこには、いつの間に来たのかテーブルの端にキツネ族の朱冴と、朱冴の隣の席に見た事のない青年の2人がちょこんと座っていた。
「あれ?朱冴いつ来たでござるか?それに隣の人誰でござる?」
「さっき来たでやんすよ。それと隣に座っているのは、一番下の弟の青那でやんす。
この前故郷の両親に朝倉村の事や商売の事を知らせる手紙を送ったでやんす。
するとその手紙を見た青那が1人で村まで訪ねて来たでやんすよ。まぁ、一応去年成人したでやんすから送り返すのも可哀想でやんすし、私の店で働かせてやっているでやんす。
あっ、それからさっきから奥で愛満が呼んでるでやんすよ。」
「あっ!いけないでござる。朱冴達のラーメンの追加とラーメン運ばなきゃ麺がのびてしまうでござる。」
人の良い愛之助は、朱冴達が何も言わなくても2人の分のラーメン追加と残りのラーメンを運ぶため慌てて台所に走って行き。
そして、残り4杯分のラーメンを愛満に手伝ってもらいながら持って戻って来た愛之助は、自分達の分のラーメンを朱冴兄弟に先に譲ってあげ。
愛満も嫌な顔ひとつせず、逆に火傷しないように気を付けてねと朱冴達に声をかけ、愛之助と自分の分のラーメンを新たに作るために台所へと戻って行く。
そうして愛満がラーメンを作る間暇な愛之助は、暇潰しに初めて食べるラーメンを美味しそうに、夢中で食べている青那を改めてじっくり見る。
アイボリー色の髪色に朱冴より濃い、愛之助が大好きなココア色からミルク色のグラデーションになった大きなキツネ耳とフサフサした尻尾。
それ以外は兄の朱冴に良く似ていて、ペラペラの細身な体格に、いっけんチャラそうに見える、八重歯がチャームポイントの甘い顔立ち。
なのに何故かほっとけないような朱冴と同じ雰囲気があり。
ついつい手を貸し、弟のように甘やかしてしまう、そんな全体的にまだまだ少年の面影が残る人物に見えた。
そんな愛之助の眼差しに、青那は自分がじっと見られている事に気づき。
ラーメンが欲しそうに見えたのか、自分の食べかけのラーメンをおずおずと愛之助の方に差し出す。
そんな青那の行動に何やらお兄さん気分の愛之助は、否定するため首を横に降り。
「美味しいでござるか?青那殿がたくさん食べるでござるよ。」
優しく声をかけ。後で食べようとポケットに忍ばせておいた愛之助お気に入りの『イチゴミルク飴』をプレゼントする。
「うわ~飴コンか?ありがとうコン♪甘い物なんて、最近 全然食べれなかったから嬉しいコン!」
「そうでござるか、青那殿に喜んでもらえ、拙者も嬉しいでござるよ。
あっ、あんまり話していたラーメンの麺がスープを吸って美味しくなくなるでござるね。ごめんごめん。
さぁさぁ、拙者の事は気になさらずにラーメン食べるでござるよ。」
愛之助が優しく声をかけるのだが、真面目な青那は、飴を貰うさいに愛之助から質問されたラーメンが美味しいかの質問に
「ラーメン初めて食べるコンが、美味し過ぎるコン!
まず、控えめに塩コショウで味付けされた炒めた『野菜炒め』はシャキシャキと歯ごたえが残ってる絶妙な美味しさコンし。
そこに切り落とし焼豚の旨味や沢山の野菜の旨味が合わさり、そのまま食べても、麺と一緒に食べても美味しいコン。
『切り落とし焼豚』にしても、食べごたえある大きめ切られ、味も染み込み。噛み締めるたびに旨味が口の中で溢れてくるコン。
『煮玉子』も中の半熟の黄身と麺やスープがお椀の中で絡まり、濃厚な味わいにレベルアップするコンよ!」
「煮玉子でレベルアップでござるか?」
「そう!レベルアップコンよ!
それに『焼きトマト』にしても、焼かれた事でほのかな香ばしさと甘みが強く感じられるコンし。
厚切りだから、外側は柔らかい部分と中は歯ごたえ残る半生の部分があり、食感の違いやラーメンに深みがでてるコン。
具材の端の方にトッピングされた『生ワカメ』も、一見目立たず地味ではあるコンが、白ゴマの入った塩スープと絡み。独自の食感と風味が楽しめ、最高に美味しいコン♪
塩ラーメン自体も風味豊かな塩味とほんのり香るカレー風味、白ゴマの香ばしさがプラスされ、ちぢれた麺と良くあってるコン!」
初めて食べたラーメンのあまりの美味しさに、熱い気持ちが押さえきれず。青那はその熱い想いを全て愛之助に伝えきり、また勢いよくラーメンをすすり出す。
その後、愛満が新たに作った愛之助と自身の2人分のラーメンや食べ足りない者達が美樹秘蔵のカップラーメン各種でカップラーメン会なるものを始めたりと、和やかな空気のなか、その日のお昼ご飯の時間は過ぎていくのであった。
◇◇◇◇◇
それから数日後、朱冴と青那の2人が何やら神妙な顔をして万次郎茶屋を訪れ。
「愛満、愛之助、お願いがあるでやんす。あの美味しいカップラーメンと袋ラーメンを私の店で売らせて欲しいでやんす。この通りでやんす。」
朱冴が頭を下げ、兄の横で弟の青那も
「愛満さん、愛之助さん。この前食べたラーメンに心打たれたコン。お願いだコン。
どうか、どうか、僕にあのラーメンの作り方を教えてほしいコン。そして愛満さえ良ければ、あの美味しいラーメンを販売する店をやる許可を下さいコン。
兄の朱冴にも了解を得て、朱冴の店の片隅に7席のカウンターと小さな厨房を作ってもらう約束もしたコン。
この通り店をやる場所も決め、店の事で迷惑はかけないようにするコン。どうか、どうか、お願いしますコン。」
土下座せんばかりに2人からお願いされ。
最初は異世界の食べ物をそのまま店で販売しても良いものかと困惑した愛満と愛之助であったが、いろいろと話し合い。
兄 朱冴には愛之助や美樹、タリサ達とラーメン試食会なるものを3ヶ月に一度開き。カップラーメン、袋ラーメンの各上位5位までを販売する事に決め。
一方、弟 青那には二つ返事で、愛満監修のもと、ポピュラーで人気の高い袋ラーメンと村で入手できる食材を主に使い。
・野菜は、兎族レムの店から購入
最低5種類の野菜を使った野菜炒め・蒸し野菜などのトッピングの作り方
・卵は、兎族サナの店から購入した卵を使い
3種類の黄身の固さの煮玉子の作り方
・肉は兎族ライの店から購入した鶏肉を使い
手作りする鶏チャーシューの作り方
他にも大吉村のベーコンやウィンナーを使ったトッピングなどの作り方を青那が苦労しないようにみっちり教える。
ちなみに他には何を教えたかと言うと
お客さんが飽きないようにと春夏秋冬の四季折々でトッピングの野菜を旬の野菜に変えたり。
夏には冷やし中華を始たり、卵や肉の調理や味付けの仕方を変える、克海が運んで来てくれる魚介類の使用方などを教えたりした。
その際に素直で可愛いい青那のためにと愛満達は頑張り。朱冴のお店の店内一部を青那の為だからと、かなり増築してあげ。
青那1人や従業員が増えた場合に3~4人がスムーズにストレスなく働けるように考え、働きやすく整備し。
他にも厨房内だけでは無く、大柄な冒険者達などが来店しても不快に感じず、座った人にぶつからずに自由に動き回れる広々した通路を作り。
カウンター席10席とお手洗いが装備された他の朝倉村の店舗にしては、小さめになるのだが、考えに考えられた。
和のティストで、オシャレな『ラーメン・袋屋』を開業してあげるのであった。
◇◇◇◇◇
こうして、後に村を訪れた冒険者や旅商人達から、じわじわ人気が出て、大ヒットの商品になった。
袋とカップのラーメンを売る兄 朱冴のコンビニ風商店と10席の小さな店ながら青那の努力や人柄
季節折々に変わる様々なトッピングの数々、トンコツ味、ごま塩味、味噌味、醤油味などのラーメンの味や店の雰囲気に根強い固定客がつき。
順調に客足を伸ばす弟青那の『ラーメン・袋屋』が村へと仲間入りする。
◆◆◆オマケ◆◆◆
ちなみに青那の『ラーメン・袋屋』が開店したさい、やや緊張した表情の愛満が、同じ日本人出身の美樹へと
「ねぇ、美樹。青那の店、ラーメン屋て名乗ってもラーメン好きな人達から怒られないよね?」
「………大丈夫だと思うぜ。だって、この世界の日本人は俺が知る限り俺と愛満と愛之助の3人だけだし。
袋ラーメンもカップラーメンも、れっきとしたラーメンにかわりないんだから…………大丈夫な………はずだよな。」
こんな話を2人でしていたらしいとか




