また食べたい「鰯のなめろう」と立秋と鰯雲
「それへけっ!」バシャ、バシャ
「よ~し!僕だって負けないぞ!それそれ!」ビシャ、ビシャ
「それでござるよ!」バシャー、バシャー
「ちょれ!」ジャー、ジャー
何やらアチラコチラで石畳に水をまく音が響くなか。
「これこれ!4人ともいくら歩道や馬車道を歩く人が居らんと言って、力任せに水をまくでないぞ。特にそこの2人!
っと、言ってるそばから、こりゃこりゃ!………アワヮ、アワヮワ~!
ゴホゴホ~!だ、誰じゃ犯人は!ワシの顔に水鉄砲で水をかけるんじゃない!
この水は水遊びする為の水じゃないんじゃぞ!あの2人みたいに真面目に道に水まきをするのじゃ!」
茶屋前に設置された長椅子に座り。ボンヤリ空を見上げていた山背の怒鳴り声と共に子供達の笑い声が響く。
万次郎茶屋の店前では、愛之助や光希、タリサ、マヤラ達4人が仲良く水まきと言う名の水遊びを満喫していた。
◇◇◇◇◇
「うんしょ」ジャー 「よいしょ」ジャー
「そうそう、マヤラ上手に水まき出来てるでござるね。
よしよし!マヤラがこんなに頑張ってくれてるのでござるから、拙者も水まき頑張らねば!」
バシャー、バシャー、バシャー、バシャーー!
「うん!水まきたのちい!………よいしょ」ジャー 「うんしょ」ジャー
お揃いのマイ◯ロちゃん使用の麦わら帽子を被るマヤラと愛之助2人は、少しずつ移動しながら楽しそうに
そして真面目に、とある水鉄砲を乱射している者達とは対照的に水まきを行っていた。
「あっ!あいのちゅけ、じょうしゃんのお水なくなちゃった!
マヤラのじょうしゃんにお水ちょうだい。」
マヤラが空になった自身の像の形をしたジョウロを掲げ。愛之助に水を入れてくれるように頼む。
そんなマヤラのお願いに、マヤラの隣にしゃがみこんだ愛之助は
「はいはい。お水でござるね。了解でござるよ。
それよりマヤラ。ほら、頭から流れ落ちる汗を拭うでござるよ。それにはい、水筒のお茶を飲んだ後に塩飴を舐めるでござるよ。」
雲で太陽が絶妙な位置に隠れ。曇り空ながら、暑さでマヤラの額から流れる汗を愛之助が首から下げた手拭いで拭いてあげつつ。
魔法で手早く冷やした日陰に有るベンチに座らせると、麦茶の入った水筒を渡し水分補給させ。
最後には、ほんのり塩味が感じられる林檎飴をふくませ。
空になったマヤラが持つ像さんのジョウロに自身の魔法を使って水を入れてあげる。
「あいのちゅけ、ありがと。
フゥ~、しょれにしてもきょうもあちゅいね。」
「本当でござるね。8月7日の今日と言えば、暦の上では立秋になるのにござるのに、本当に暑くて堪らないでござるよ。」
「りっちゅん?りっちゅんってなぁに?」
「あぁ、立秋でござるか?立秋はねござるね。
簡単に言うと、今日から秋が始まると言う事でござるよ。
と言っても、実際には連日のようにうだるような暑さの猛暑日の時期になるでござるが」
簡単にではあるのだが、愛之助なりに一生懸命マヤラの質問に答えてあげ。更に続けて
「それにでござるね。少々マヤラには難しい話になるかも知れないでござるが、立秋以降の暑さを『残暑』と言うのでござるよ。
まぁ、実際には今のよう、まだしばらくの間は厳しい暑さが続くのでござるが、少しずつ少しずつ、この先朝昼晩吹く風に涼しさが感じられるようになるのでござるよ。
それに空を見上げれば、うろこ雲や鰯雲等、流れるような形の雲が現れ始め。秋の訪れを教えてくれるのでござるよ。」
愛之助が話終えると、黙って話を聞いていたマヤラが『スゴイ、スゴイ』と誉めてくれ。
「へぇ~!くもがあきにょおとじゅれをおちえてくれるんじゃね!シュゴイシュゴイ!」
「ほぉ~鰯雲のぅ~!
鰯と言ったら、この前食べた『鰯のなめろう』が旨かったのう~♪
それになめろうからの『さんが焼き』、『鰯の骨煎餅』等々……………ありゃ~、酒が良く進んだわい!………また食べたいのう…………」
いつの間にやって来たのか、全身びしょ濡れの山背が愛之助の隣に座っており。鰯雲繋がりで、つい4日前に食べた。
鰯を使った『鰯のなめろう』や『さんが焼き』、鰯の骨をカラリと揚げた『骨煎餅』が食べたいと、何やら疲労感駄々もれの様子のなか呟く。
そんな山背の様子や、突然の登場に驚きながらも食いしん坊の愛之助とマヤラの2人もつられ。
「あぁ、あの時食べた長ネギや大葉、生姜、茗荷に始まり。味噌、醤油、味醂、料理酒で味付けされた『鰯のなめろう』でござるね。うんうん!あれは美味しかったでござるね。
それに『さんが焼き』やポリポリ食感の『骨煎餅』……………ハァ~~~、拙者もまた食べたいでござる♪」
「いわちのなめろう!アレおいちかっちゃよね!
マヤラもまちゃたべちぃ!!」
口々に『鰯のなめろう』や『さんが焼き』を食べたいと話始め。
3人で力を合わせ。今日のお昼か明日のお昼に『鰯のなめろう』や『さんが焼き』を愛満にお願いして作ってもらい。絶対食べる事を心に誓い。
その後、山背も加わり3人で水まきを頑張るのであった。
◇◇◇◇◇
「アハハハ~~~!……………ハァハァ!あぁ~~水まき楽しい!
あれ?バケツの中の水が無くなちゃった。ついでに水鉄砲の水も補充してこう。
………………………ありゃ?ビニールプールの中の水がもう無いや!」
「ハァハァ!タリサ発見!覚悟!とりゃー!」 バシャー
「………………」
「へへへ!光希の強さに怖じけずいたか!
…………ありゃ?タリサどうしたへけっか?水遊び終わりへけっか?」
お互いずぶ濡れになる中。ついさっきまで熾烈な水の掛け合いをタリサとしていた光希は、水をかけたにも関わらず。
タリサが水をかけ返してこない事を不思議に思って、どうしたのかと話しかけると
「あのね、光希。愛満が水まき用に準備してくれたビニールプールの水がもう無くなちゃったんだ。ほら、見てよ。」
「えっ!本当へけっか!………ありゃりゃ?本当へけっ!
ハァ~~~ァ、なら水まき終わりへけっね…………。」
「本当だね。あぁ~~ぁ、水まき楽しかったのに………。」
タリサと光希の2人がガッカリする中。
マヤラと山背と3人。あの後 万次郎茶屋隣になる黛藍の店の前や、朝倉神社へと続く大通り前の道まで真面目に水まきをしてきた愛之助達が茶屋前まで戻って来て
「フゥ~終わった、終わったのじゃ!」
「只今戻ったでござるよ。水まき完了ででござる。
タリサも光希も茶屋前の水まき終わったでござるか?
拙者とマヤラ、山背達3人も無事アチラ側の水まき終えてきたでござるよ。」
「にいたんたち水まきおわた?
ぼくちょとあいのちゅけ、やましえ、あっちの水まきしてきちゃよ!
しょれにね!タイランが水まきがんばちゃごほうびにって、水まきおわりにこおりにょのおかちたべしゃしぇてくれるんじゃよ♪」
何やら特殊任務の如く。一大任務を終えたとばかりにやり遂げた感満開で、水まきを終えてきた事や
暑いなか自身のお店の前にまで水まきしてくれた事を感激した黛藍が、ご褒美にと自身の店のヒット商品『雪花氷』を水まき終わりに持って来てくれ。皆に食べさせてくれる事等を誇らしそうに話。
2人はどうだったの?と期待に満ちた瞳で、兄のタリサや光希達2人を見上げる。
そんなマヤラの話に、水まきどころか水遊びに熱中していたタリサと光希の2人は大いに慌て。
口をモゴモゴさせながら、少々居心地の悪い思いをするのであった。
◇◇◇◇◇
そうして立秋の日の今日の日も、何やかんやと愛之助達は楽しげに充実した1日を過ごす。
ちなみに『鯵のなめろう』が有名ななか。なぜ『鰯のなめろう』かと言うと
もともと魚好きの愛満の実家でも祖母が『鯵のなめろう』を作っていたのだが、小さな巨人こと大食いの母や酒好きの祖父、食べ盛りの子供達が居た為。毎回『鯵のなめろう』だと量が足りず。
更には鯵でなめろうを作ろうとすると大量の鯵をさばかなくてはいけなく。『鯵のなめろう』1品だけにそこまで時間をさけず。いつも大変で…………。
いつしか愛満が祖母の料理をお手伝いし始めた時期から、包丁を使わなくても下処理出来る鰯でなめろうを作れる事に祖母が気付き(包丁を使うのは使います)
安くて美味しい大量の鰯を仕入れ。愛満と2人、毎回家族が満足する量の『鰯のなめろう』を作り始めたのであった。
【また食べたい「鰯のなめろう」と立秋と鰯雲、の登場人物】
・愛之助
今回も大好きな兄の為にと茶屋前の水まきを頑張る
鰯雲繋がりで、とある食べ物を食べたくなったご様子
・マヤラ
今回、小さい体ながら愛之助達と水まき頑張る
お肉もお魚、お野菜も好き嫌い無く大好き
・タリサ、光希
今回、水まきと言う名の水遊びを満喫するご様子
・山背
今回、のんびり日光浴を満喫するはずが、ならず者の水鉄砲ボーイ2名から被害を受け。愛之助達の元へと避難する。
後に鰯雲繋がりから酒に良く合う、とある食べ物をまた食べたくなったご様子
・愛満
今回、茶屋前で水まきをしてくれている愛之助達を気にしつつ。
突然入った大口の饅頭の注文を1人、自身の持つ力を大いに使い頑張り。黙々と饅頭作りをしているご様子
ちなみに後ほど愛之助達のお願いから大急ぎで鰯を仕入れ。
愛之助達熱望の『鰯のなめろう』や『さんが焼き』、『骨煎餅』を作ってあげる




