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『カステラアイス』と八朔


「いやいや!そんな見送りは良いからアルフさんもルクチさんもグレエテさんも他の皆さん達も冷風器の効いた室内に早く戻って戻って。

僕達なんかにそんなに気を使わなくても大丈夫ですから!それに受付にお客さんが来たらいけないでしょう?」


「そうでござるよ。アルフ殿もルクチ殿、グレエテ殿もまだまだ早朝の8時台とは言え。今日も一段と日差しが強く暑いでござるから早く松乃に戻るでござるよ。

ほらほら、ダーフィトとも夜勤明けでござろう?そんな状態で暑い外に出て熱中症にでもなったら大変でござるよ。」


「そうそう、僕達もう帰るだけだから本当に見送らなくても大丈夫ですよ。

あっ、忘れちゃいけなかった。さっき渡した『カステラアイス』はですね。一応風呂屋・松乃で働く人達全員に行き渡るように多目に持って来たはずだから、冷凍庫になおして休憩時間にでも皆で食べて下さいね。」


早朝の8時台とは言え。もうすでに夏の暑さがジリジリと感じられるなか開店前の準備の手を止め。

風呂屋・松乃の出入りまで出て来て愛満や愛之助を見送ろうとする風呂屋・松乃に勤めるアルフやアルフ家長男ルクチ家族、兎族の面々の体調面等を心配し。大勢での見送りを断るなか。


これ以上アルフ達の仕事の邪魔にならないようにと考えた愛満達は、旅館で良く見る従業員が出入り口に並び団体客をお出迎えするような格好(体制)で、大勢の風呂屋・松乃に勤める従業員達に満面の笑みと共に見送られながら、少々恥ずかしそうに足早にその場を去るのであった。



◇◇◇◇◇



「ハァハァ、ハァハァ……………いや~~~!あんなに大勢の人達に見送られるとは、少々照れくさくて恥ずかしいものでござるね、愛満。」


「ハァハァ、ハァハァ……本当だね、愛之助。

けど、久々の徒競走ばりの早歩きは疲れたね。最後の方は無言で足と腕を動かすだけだったよ。」


風呂屋・松乃から徒競走ばりに早歩きして万次郎茶屋へと帰って来た愛満達2人は、真っ赤になった顔や火照った体を冷風器(クーラー)が効いた茶屋内でクールダウンさせつつ。

ついでに愛満の(チート)を使ってチャチャっと汗まみれの服や体を綺麗にして、小上がりコーナーの畳の上に力なく倒れこんだまま。

先程までの自分達の姿を思い出した様子で、クスクス笑いがこぼれるなか話し始める。


「拙者もでござるよ。

それにしても、アルフ殿を始め。皆持っていった『カステラアイス』喜んでくれて良かったでござるね。

夏の暑い時期のアイスクリームは別格でござるもんね!

それに、確か八朔(はっさく)の日にちなんで八朔ジャムが練り込まれたバニラアイスクリームがカステラの間に挟まれ。冷た冷やされているのでござるもんね。」


「そうそう、『八朔の日』にかけて八朔ジャムを使ったアイスクリームを…………アルフさんが好きなカステラに挟んで…冷たく冷やし。………八朔の日の贈り物として………今朝作ったんだよね。」


今朝早くから愛満達が日頃お世話になっている風呂屋・松乃や町役場、ギルド等々に手土産を持ち挨拶回りをしていて

いつもより早い時間から和菓子作りをしていた事もあり。更にはそこにほどよい運動と涼しい環境が加わって、若干愛満の瞼が下がり始めているなか。

まだまだ元気一杯の様子の愛之助は、先程の軽い運動も相まってフルパワー全快のご様子で


「拙者も今朝端切れを少し味見させてもらったでござるが、しっとりとした口当たりのフア甘のカステラの間に、ほろ苦い八朔ジャムが練り込まれたバニラアイスクリームが挟まれておって、実に美味しかったでござるよ♪」


今朝愛満が『カステラアイス』を作るさい。味見係を兼ねてお手伝い(担当)していた愛之助は、その時カステラアイスの切れ端を味見させてもらっていて

その時食べてた『カステラアイス』の事を思い出した様子で、嬉しそうに頬を緩め『カステラアイス』の感想を話し。

愛満が眠り込んでいるのに気づかぬまま、更に話を続け。


「それにしても愛満の故郷の節句の1つでもある『八朔』の日とは、実に面白いでござるね。

確か8月朔日(ついたち)を指し。『田の実の節句』とも呼ばれ。農村などではお世話になった人に初穂を贈る風習があるそうでござるもんね。

それに『田の実』とは稲の実のことで、稲の実りを田の神様に感謝しておこなわれていたものが『田の実』=『頼み』となっていき。

今では日頃お世話になった相手に感謝を伝える日となったでござるから、愛満も今日は朝早くから頑張り。日頃お世話になっている人達へと手土産片手に挨拶して回っていたでござるもんね。…………って、アレ?愛満どうしたでござるか?

ありゃ?疲れて眠ってるでござるよ。」


愛満が眠り込んでしまってる事に気付いた愛之助は、何やら1人でずっと話していた事に照れくさそうにハニカムと万次郎茶屋に常備されている膝掛けを取りに行き。

愛満の上へと優しくかけてあげて、一人静かに万次郎茶屋の開店準備を頑張るのであった。



◇◇◇◇◇



そうして、とある夏の日の万次郎茶屋の1日は静かに過ぎて行った。






【登場人物】


・アルフ

兎族の中年男性。タリサ、マヤラの父親になる。

風呂屋・松乃の番頭兼支配人

カステラ好き


・ルクチ

兎族の男性(妻子あり)タリサ、マヤラの一番上の兄にあたる。

兎族特有子沢山にして、20人いるアルフ家 長男にあたる(六ッ子になる)

風呂屋・松乃の副番頭兼副支配人


・グレエテ

ルクチの妻

風呂屋・松乃の仲居頭


・ダーフィト

ルクチ、グレエテの子供(長男)

風呂屋・松乃(早番、遅番、夜勤、日勤が有る)で働き両親や祖父を支える一方、夜は定時制に通う親孝行な息子


・愛満、愛之助

今日も兄弟仲良く町のために頑張ります!




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