「うなトロ稲荷」と土用干し
「あっ!愛満~!ナイスタイミングでござるよ。拙者、新書コーナーの最後の一冊、陰干し終わったでござるよ。」
「あっ、愛満!戻って来たんだね!僕達もマヤラと2人で絵本コーナーの最後の一冊陰干し終わったよ!ねぇ~マヤラ♪」
「うん!」
「僕も!僕もへけっ。僕の担当した写真集コーナーの最後の一冊陰干し終わったへけっよ!」
愛満宅に在る書庫に面した庭にテントを建て造った。日陰になる場所に何やら沢山の本を台の上に並べ。
力を合わせ愛満宅に所蔵された大量の本を陰干ししていた愛之助達は、1人万次郎茶屋で店番していた山背に呼ばれ。万次郎茶屋にやって来た、とあるお客さんの接客から帰って来た愛満へと各自が担当した本達を並び終えた事を誇らしげに話ながら、愛満の元へと嬉しそうに駆け寄って行く。
そんな愛之助達の報告を微笑ましそうに聞いていた愛満は
「ワァ~スゴい!愛之助もタリサもマヤラも光貴も、みんな本当に暑いなか頑張ってくれてありがとうね。」
頑張った愛之助達一人一人へと労いの言葉をかける。
すると愛満の周りに群がるタリサ達4人は、愛満からのお褒めの言葉に照れくさそうにハニカミ。
何やら照れ隠しするよう口々に愛満が茶屋に戻ってるさい、本を陰干しする作業中に愛之助から教わった事を得意気に話し始め。
「愛満あのね、あのね!知ってた?土用丑の日の今日と言うか、梅雨明け後の土用の期間中に本を陰干しするとね。虫やカビを防ぐ事ができるんだって!」
「そうそう!それにへけっね。梅雨明け後の土用の期間に本や衣類を陰干しする事を『土用干し』と言うんだへけっよ!」
「ちょうちょう!だからああちて本さんたちをかげ干ししてあげるちょね。本さんたちうれちくて、よろこぶんだってあいのちゅけがおしえてくれちゃの♪」
そもそも愛之助も愛満から教わった話なのだが、嬉しそうに、また誇らしげに一生懸命自分に話すタリサ達の姿に愛満は始めて聞いたかのように驚き納得した様子でタリサ達の話を聞き。
そんなタリサ達へと頑張ったご褒美がわりじゃないけどと話しつつ。茶屋から戻る際に持って来た『とある食べ物』と冷たく冷えた麦茶を大量の本を陰干しするのを頑張った愛之助達へと振る舞うのであった。
◇◇◇◇◇
「はい、どうぞ。まずはおしぼりで手を拭いてね。
それからお昼ご飯前だから1人5個になってね。そんなに量はないけど、朱冴からの注文で作った土用丑の日にちなんだ。限定料理の『鰻』と『いなり寿司』がコラボした『うなトロ稲荷』になるよ。
あっ!そうだ。そもそもね。なんで『うなトロ稲荷』を作ったかと言うとね。
なんか朱冴があんまりにも親族の人達にうちの町でしか食べられない『いなり寿司』の事を手紙や、たまに仕入れの際立ち寄った時に自慢するから親族の人達が怒ったみたいでさぁ~。
そんなに言うなら朱冴が『美味しい、美味しい』言ういなり寿司を食べさせろと詰め寄られたみたいで…………。
で、たまたま親族の人達の休みが重なった今日と言うか、何日間ヵかけて朱冴の元へと集まり。
今日のお昼から親族会と言う名の『いなり寿司祭』を行う事が朱冴が知らない間に、いつの間にか決まったらしくてね。
何やら親族の人達と言うか、ご両親や兄妹達にかなり詰め寄られた朱冴が、そんな両親や兄妹達に一泡ふかせたいと強くお願いされて
見映え良く、口の小さな女性や子供達でも食べやすい一口サイズのいなり寿司を作ってみたんだ。」
愛満宅の庭に生えた桜の木の巨木の下、ブルーシートを敷いた日陰のなか愛満は自身の力を使い心地好い冷風を出してあげながら、そもそも『うなトロ稲荷』が生まれた訳を話し。小皿に盛られた『うなトロ稲荷』を手渡していく。
すると愛満から手渡された『うなトロ稲荷』に愛之助達は三者算用の反応をみせ。
「ウヮ~~♪何これ!一口サイズのいなり寿司の上に鰻の蒲焼きが乗ってるんだね。豪華~♪
前に食べた一口サイズの鰻の蒲焼きが乗って、白ごま入りの酢飯が詰め込まれたいなり寿司と一緒なのかなぁ?
あっ、けど鰻の下には千切りに切られた胡瓜が見えるや。
うんうん!見た目も一口サイズで可愛いし、スゴく美味しそう!」
「う、鰻の蒲焼きでござるよ!!!
ヤッター!!朝の『う巻き』の玉子焼きに始まり。思わぬご褒美で鰻がまた食べれるとは、拙者、ここ一番のラッキーボーイ&幸せ者でござるよ!」
「うなトロ稲荷へけっか?うなは『鰻』で稲荷は『いなり寿司』と解ったへけっが、トロは何へけっか?」
「…モグモグ……モグモグ……う~ん♪おいち~♪」
お腹を空かせたマヤラがフライング気味に『うなトロ稲荷』を小さいお口でモグモグ食べるなか。タリサ達も出遅れたとばかりに食べ始め。
「……モグモグ……モグモグ……う~ん♪美味しい!
甘じょっぱい味付けされたいなり寿司の油揚げとね。白ごま、枝豆、大葉が混ぜ込まれた酢飯、鰻の蒲焼き、シャキシャキ食感の胡瓜の組み合わせが口の中で一つに合わさって最高なの~♪」
「うんうん!本当に最高に美味しいでござるね!
それに拙者の繊細な舌からの情報では、何やらすりおろされた長芋からのトロロの食感や旨味が感じられ。ペロリと食べられちゃうでござるよ!
う~ん、この美味しい『うなトロ稲荷』が3個しか食べられないとは、実におしいでござるよ。」
「そうへけっか、そうかへけっか。トロは長芋のトロロへけっね!
……モグモグ……モグモグ………そう言われればトロロの食感や美味しさが感じられるへけっよ。
うんうん♪枝豆や白ごま、大葉が混ぜ込まれた酢飯入りのいなり寿司だけでも美味しいへけっが、鰻と胡瓜の下に隠れたトロロがそこに加わり。ウルトラトリプルマーベラス美味しいへけっよ♪」
何やら新たに読んだ漫画から仕入れた味の表現を口にしながら、食いしん坊な愛之助達は空になった小皿を寂しそうに見つめ。愛満から手渡された麦茶を飲み干すのであった。
◇◇◇◇◇
そうして『うなトロ稲荷』を満喫した愛之助達は、約20分程度の休憩をとると書庫に残った残りの本達を陰干しする為。
また市販品の鰻を使うものの。愛満お手製のお昼ご飯『鰻重』の為。
更には愛之助の強い希望から夜は鰻好き繋がりで仲良くなった愛之助の友人にあたる。
小月熊族のレデッキー兄妹が営む。朝倉町近くの滝で採れる鰻に良く似たナナキを使用した鰻屋さんへと美樹達を含め。愛満宅家族皆で『鰻の蒸籠蒸し』を食べに行く為にと愛之助を始めタリサ、マヤラ、光貴達は実に楽しげにキビキビと動き始めた。
(ちなみにタリサとマヤラの両親にあたるアルフとアコラが風呂屋・松乃や産婦人科医院で夜勤のため。タリサとマヤラは本日、愛満宅へとお泊まりになる。)




