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『ぜんざい』と賢者の旅人



世間からは誉れ高い賢者と言われている。王都に有る、歴史ある魔法学園の元学園長のベルは、その日もあてのない旅をしていた。


実はベル、学園を退職し自由気ままな隠居生活の中。

地図にも載らないような小さく貧しい町や村などを旅してまわっては、魔法の才能や学の才能がある者達を見つけ。

自分の貯蓄で開いた足長商会を通じ。王都にある学園へ金銭面の援助のもと。貧困から抜け出す一歩として送り出す活動をしているのだ。


そして今日もまた目的地も決めず。自由気ままに山道を歩いていたベルは、不思議な力に導かれるように、細やかな細工が美しい建物や石畳道などが並ぶ街へたどり着く。


そんな王都の街並みにもひけをとらない。高度な魔法技術で生み出された美しい光景を前にして。

世間から賢者ともてはやされるベルでさえ、まだ見た事もない高度な魔法技術の数々に。ついつい時間を忘れて、夢見心地で見いっていた。


するとその内の一軒の建物入ろうとしていた。2人の兎族の幼子の子供達が立ち尽くすベルに気付き。ベルの元へとやって来て、心配して声をかけてくれる。


「兄ちゃん、こんな所で何してるの?外にずっと立ってると風邪引いちゃうよ。」


にいたん(兄ちゃん)コホンコホン(風邪引いたら)なちゃら(咳がでて)のどいたいたなっちぇ(喉も痛くなって)えんえんするよ(大変だよ)。」


「これはこれは、2人とも見知らぬ私の事を心配してくれてありがとう。

いやはや実は、あまりにもこの村の街並みや光景が美しくてね。ついつい時間を忘れてた見いってしまっていたんだよ。」


見知らぬ人物になるベルの事を心配して声をかけてくれた兎族の2人にベルは頬を緩めて嬉しそうに返し。

ベルの話に何やら納得した様子のタリサが大きく頷きながら


「あっ、そうだったんだ。ならしょうがないね。

この村はね。最近出来たばかりで、他の村といろいろ違っているみたいなんだ。

だから村の中に建物てる建物にしても、見慣れない構造になるんでしょう?

それに信じられないくらい街並みもスゴく綺麗になるし。

だから父ちゃんや兄ちゃん達が話してたんだけど。初めてこの村にやって来た人達は、今の兄ちゃんみたいにビックリしたり、見いちゃったりして。いろんな意味でその場に立ち尽くしちゃうんだって。」


自身も父親や兄達が話している話で仕入れた情報を自信有りげな様子で披露し。

その場に立ち尽くしていたベルの事を慰めるよう。いつか見た父親や兄の姿を真似して。

自身の小さな身長等の関係からベルの肩ではなく。腰の辺りを優しくポンポンと叩き。慰めの笑みをプレゼントする。


するとそんな兄のタリサの姿を見ていた弟のマヤラは、兄の真似をして


にゃら(なら)ちょうがにゃいね(しょうがないね)にいたん(兄ちゃん)ジョンマイ(ドンマイ)!」


小さなプニプニした手で、ベルを慰めるようにベルの足を優しく撫であげるのであった。



◇◇◇◇◇



そうして、そんなこんな事が有りながら。

あの後、父親か兄の真似をしていた。幼いタリサやマヤラの姿をベルは微笑ましそうに見詰め。

村中の至る所に設置されている休憩用のベンチ椅子に座って、お互い自己紹介しながら3人が話していると


「あのね、それでマヤラは3歳になってね。スゴくお喋り好きなだけど、まだ小さいから少し滑舌が悪いんだ。

だからね、ベル兄ちゃん。マヤラの話が聞き取りにくかったらゴメンね。

けど、マヤラも一生懸命話してるから笑ったりしないでね。

あっ、ベル兄ちゃん、ちょっとお耳貸して

(コショコショ)あのね、実は前に住んでた町でね。

マヤラと家の近くで遊んでたら、知らない冒険者のおじさん達からマヤラの話し方を真似されてバカにされた事があったんだ。

そしたらマヤラ、その事にショックを受けてね。しばらくの間全然お喋りしなくなちゃったんだ。」


タリサはマヤラに聞こえないようにベルの耳に耳打ちしながら。

この村に移り住む前に住んでいた町で、弟のマヤラの話し方を見知らぬ冒険者に笑われた事があるとベルに説明して、大好きな弟のマヤラの為。

まだまだ滑舌が悪いマヤラの話し方等を笑ったりしないでねとベルにお願いする。

そして弟のマヤラも


ちょうにゃの(そうなの)ちゃまに(たまに)キチンチョ(キチンと)はなちぇるちょきも(話せる時も)あるんじゃけど、まじゃまじゃ(まだまだ)べんきょうにゃの(勉強中なの)。」


一生懸命話し。


そんなタリサ達の話に元教職員のベルは、見知らぬ冒険者達に怒りを覚えながら。不安そうな様子で自分を見詰めるタリサ達の不安を拭き取るように頭を優しく撫でてあげ。


「もちろんですとも、こんなに一生懸命お話しているマヤラ君の事を誰が笑ったりしますか。

それにね。幼い頃は皆、少々舌足らずな話し方や滑舌が悪かったりするものです。だからマヤラ君もタリサ君も、そんな事心配しなくても大丈夫ですよ。

それよりマヤラ君は、その年で話し方のお勉強を頑張っているとは、頑張り屋さんで素晴らしい事ですし。

マヤラ君の兄になるタリサ君にしても、弟のマヤラ君の事をしっかり見守っていて、実に素晴らしいです。うんうん、2人とも偉い偉い。」


タリサやマヤラ達を誉め。何やら思い出した様子で


「あっ、それからですね。私、こう見えてもう257才のお爺さんですので、気軽にベル爺ちゃんと呼んでくれると嬉しいです。」


見た目20代中間にしか見えない。若々しい姿のままの。

エルフ族生まれの祖母の血を色濃く受け継いだ長命のベルが『ベル兄ちゃん』ではなく『ベル爺ちゃん』と呼んでほしいと話し。

突然のベルの話にタリサとマヤラが、自身の祖父よりベルが年上な事を知り。かなりビックリした様子で


「えっ!ベル兄ちゃ…………いやいや、ベル爺ちゃん257歳なの!?スゲ~~家の爺ちゃんより年上だ!」


「ほ、ほんちょに!?…………チュ、チュゲ~!うちのじいじより(爺ちゃんより)じいじなの(年上なの)?」


思わず椅子から立ち上がり。ベルの周りをピョンピョン跳び跳ねながら興奮した様子でベルを見詰め。


「はい、そうなんですよ。耳が人族のように丸いですけど、身内にエルフ族の者が居ましてね。

そのエルフの血を色濃くひいてるからでしょうか。こんな見た目ですが、私は長命になり。

見た目もこうして20代中間から容姿が止まってしまったんですよ。」


長髪の髪で隠れていた耳をタリサ達に見やすいよう。髪をかきあげ見せてあげ。

『本当だ、本当だ』、『スゴい、スゴい』と驚きながらも瞳を輝かせ。興奮した様子で話す、タリサやマヤラの様子をベルは微笑ましそうに見詰め。また何かを思い出した様子で


「あっ、それより。タリサ君やマヤラ君は何処かにお出かけする予定じゃなかったんですか?

最初、何やら何処かのお店に入ろうとしていたみたいですが。」


初めタリサ達が何処かのお店に入ろうとした姿をチラリと見た事を思い出したベルが2人に問い掛け。


「あっ、そうだった!今日は愛満が『ぜんざい』作ってくれるから美樹に食べ尽くされる前に、いつもより早めに茶屋に行こうってマヤラと決めてたんだった。危ない危ない、コロッと忘れてた!」


「あっ、ほんちょだ(本当だ)!マヤラもわしゅれてちゃ(忘れてた)!」


愛満お手製の『ぜんざい』の為に万次郎茶屋へといつもより早く訪れるはずだった予定を思い出した2人は慌てた様子で話。


「あ~~~ぁ、ぜんざいぜんざい!思い出したら今すぐ食べたくなっちゃった。

あのね、ベル爺ちゃん。愛満が作る『ぜんざい』は、頬っぺが落ちそうになるくらいスン~~ゴイ美味しいんだよ。

あっ、そうだ!どうせならベル爺ちゃんも一緒に愛満の作ってくれた『ぜんざい』食べに行こうよ!この後、何の予定もないって話してたでしょう?」


しょうしょう(そうそう)ベルじいじ(ベル爺ちゃん)いこういこう(行こう行こう)

よしみちゅ(愛満)がつくるぜんざいはね、チュゴク(スゴく)おいちいんじゃから(美味しいだから)ビッチュリしゅるよ(ビックリするよ)!」


ウキウキした様子のタリサとマヤラの2人に、手やズボンを引かれ。ベルは万次郎茶屋に入店する事になる。



◇◇◇◇◇



チリーン♪チリーン♪


「「いらしゃいませ(ござる)(アル)」」


「あっ、タリサとマヤラでござる!

今日は少し遅かったでござるね。2人お待ちかねの『ぜんざい』出来てるでござるよ、って……アレ?後ろの人は誰でござるか?……お客さん?」


タリサとマヤラがやって来た事に気づいた愛之助が、そんなタリサ達の元へと嬉しそうに駆け寄り。

タリサ達の後ろに立つベルに気付き、お客さんなのかと首をかしげる中。


茶屋奥のカウンター付近に居た愛満と黛藍の2人もタリサ達に手を引かれ入ってきたベルの存在に気付き。

少し驚きながらも愛之助達の元に移動して、お互いに自己紹介を初め。


「あ、おはようございます。私、この万次郎茶屋の主人、名を愛満(よしみつ)と言います。

隣にいるのが弟の愛之助(あいのすけ)で、その隣に居るのが友人で同居人のササ族の黛藍(タイラン)になります。」


「おはようございます。そして、丁寧な挨拶ありがとうございます。

私、チャソ王国内を(おも)に旅して廻っている(まわっている)。名をベルと申します。

実は、先ほど店の前でタリサ君とマヤラ君の2人に声をかけてもらいまして。その縁で、こうして茶屋にお邪魔させて頂きました。」


ベルが自身の自己紹介も兼ねて愛満達に挨拶し終えると


「そうなんだよ!僕達ベル爺ちゃんと友達になって仲良しになったの!

それでね。僕もマヤラも大好きな愛満お手製の『ぜんざい』をベル爺ちゃんにも食べてほしくて

ちょっと強引だったけど、こうして『ぜんざい』を一緒に食べようと連れて来たんだ~♪ねぇ~~、マヤラ♪」


あい(うん)よしみちゅ(愛満)ちゅくって(作って)くれる『ぜんざい』はね。チュゴク(スゴく)おいちい(美味しい)から、みんなじぇ(皆で)たべちゃら(食べたら)もちょ(もっと)おいちくなりゅ(美味しくなる)ちょおもちゃ(と思った)の♪」


嬉しそうにベルを茶屋へと連れ来た訳を話。そんなタリサやマヤラの話に


「そうなんだ、それはナイスアイデアだね。タリサもマヤラも偉い偉い!

それにマヤラの言うとおり。自分が美味しいと思う物は、独り占めしないで皆で仲良く食べたら美味しさが倍増するもんね。

ちょっと待っててね。今『ぜんざい』持ってくるから」


ナイスアイデアだとタリサとマヤラの2人を誉め。

愛満は、そんなタリサ達へと声をかけ。人数分のぜんざいを取りに茶屋奥へと愛之助を連れて消えて行き。


残されたタリサ達は愛満と愛之助の2人を見送りながら、愛満達が持って来てくれる『ぜんざい』を食べる為。

茶屋内で良く座るテーブル席へと移動しょうとしていると


「タリサもマヤラもベルさんも待つアルよ。今日座る席はテーブル席じゃないアルよ。

さっき愛満達が、今日は底冷えする寒さだと話してたアルよ。それで茶屋内の小上がりになる座敷に炬燵(こたつ)なる物を出してたアルね。

他にも『ぜんざい』は炬燵で食べようとも言ってアル。

それにさっき少しの間、炬燵に入ってみたアルがスゴく温くて最高だったアルよ。」


愛之助コーディネートのマ○メロさんが胸元に小さく刺繍されたアイボリー色のケーブル編Vネックセーターと、デニムパンツをさらりとオシャレに着こなした二足歩行のパンダ姿の黛藍がベル達に声をかけ。


茶屋内に設置されたテーブル席に混じり。元々、万次郎茶屋内に畳コーナーとして造られていた。

小上がりの和室(畳コーナー)に設置された炬燵で『ぜんざい』が食べれると聞いたタリサとマヤラが


「えっ、炬燵!万次郎茶屋でも炬燵置いてあるの!?ヤッタ~~~!僕、炬燵大好き♪

あのね、僕が虜になった炬燵はね。そもそも愛之助の部屋に置いてあって、僕もマヤラも最近良く潜り込み行ってたんだ。

そもそも昔の家にあった竈や暖炉と違って煙や煤も出ないし。換気の為に窓やドアを開けてなくても良いんだよ。

一番心配しなくちゃいけなかった火や残り火の心配もしなくても良くて。

それにね。こう~~体が温まってポカポカしてきてね。ついつい眠くなってきちゃうんだけど、そのままその場で眠れちゃうんだ。

だから僕もマヤラも最近愛之助の部屋に行くと、ついつい炬燵で寝ちゃうんだよね。」


こたちゅ(炬燵)だいちゅき(大好き)♪」


小上がりに設置されるより前。愛之助の部屋で炬燵を満喫していた様子の炬燵ラブのタリサ達2人は小躍りするほど、体全身を使って喜び爆発させ。


『まぁまぁ、落ち着くアルよ』と黛藍にたしなめられながら、小上がりの炬燵席へと移動し。

愛満と愛之助の2人が『ぜんざい』を持って戻って来る間。ベルを含めた4人は、タリサやマヤラ、黛藍達がすっかり虜になった、温かい炬燵を満喫するのであった。


そうして4人が炬燵でぬくぬく温まっていると人数分のおしぼりやお箸、赤い漆が塗られた木のスプーン

湯飲み、煎茶の葉葉が入った茶筒、保温ポットや急須(きゅうす)等のお茶セットに加え。

箸休めの『シソの実のしば漬け』が乗ったワゴンを押した愛之助が戻って来て


「お待たせでござる。愛満は、今ぜんざい用のお餅を焼いてるでござるから、もうちょっと待つでござるよ。」


おしぼりを配ったり、煎茶の茶葉を使ったお茶を準備したりしていると。愛満が『ぜんざい』用のお餅を焼いていると言う愛之助の話に


「お餅?どうしてお餅を焼くアルか?美樹の話だと『ぜんざい』のお餅は汁と一緒に煮ると聞いたアルよ?」


『ぜんざい』好きの美樹から、少々『ぜんざい』の事を聞いていた黛藍は、不思議そうに愛之助へと問い掛け。

そんな黛藍の問い掛けに愛之助は、手際よく人数分の『煎茶』を煎れながら


「黛藍、よく知ってるでござるね。

そうそう、黛藍の言うとおり。『ぜんざい』のお餅は、汁と一緒に煮るタイプも有るでござるよ。

しかし今、愛満がぜんざい用のお餅を網で焼いてるよう。焼いたお餅をぜんざいの汁と合わせたり。

つきたてのお餅とぜんざいの汁を合わせたり。ぜんざいの汁とは別に、お餅だけを別の鍋で湯がいて合わせたりと

『ぜんざい』とは、小豆を使った汁とお餅のシンプルな組み合わせながら、実に自由で様々なレシピが有るのでござるよ。」


自身が知る『ぜんざい』の話を黛藍に伝え。


「それにでござるね。拙者の味わった『ぜんざい』な話をするならば、ぜんざいの汁と一緒に煮たお餅は柔らかく。餅の回りにぜんざいの汁の小豆(つぶ餡)が絡み。実に美味しいのでござるよ。

だから拙者の好みで言えば、餅と一緒に煮るタイプのぜんざいは俄然(がぜん)、つぶ餡派になるでござるよ!

一方、焼いたお餅は焼き網で香ばしく焼かれ。カリッとした部分や、ぜんざいの汁で柔らかくなったカリもちっとした部分もあり。

それもまた2種類の食感が楽しめ、実に美味しいのでござるよ。

う~~~ん、そう考えると、それぞれに違った美味しさがあるでござるね♪」


自身が味わった。ぜんざいの汁と一緒に煮た餅や、網で焼かれた餅のそれぞれ違った美味しいポイントを話。


「ヘェ~~~!焼いたお餅も美味しそうアルね。」


「どっちもおいちょう(美味しそう)

マヤラ、はやく(早く)たべちゃい(食べたい)!!」


「ほぉ~、それは実に美味しそうですね。私も早く食べてみたいです。」


「………ジュルリ………コクコク!」


約一名、愛之助のお餅の話でヨダレを足らさんばかりに『ぜんざい』を要求してる者がいる中。

人数分の『ぜんざい』のお椀を持った愛満が大堂から戻り。それぞれの前に『ぜんざい』の入ったお椀を置いてあげながら


「お待たせ、『ぜんざい』出来たよ。お椀の中には1人3つのお餅が入ってるからね。

後、お餅は焼きたてで、とっーても熱いから火傷したり。一気に食べて喉に詰まらせないように気を付けて食べてね。」


焼きたて熱々のお餅の事等を注意する中。ベルを覗いた4人は、少々絞まりない、ニヤニヤした顔をしながら愛満の注意を聞き。『どうぞ、美味しいうちにお召し上がり下さい』との言葉をうけ。


ニヤニヤから満面の笑みに変わった表情で『ぜんざい』のお椀の蓋を開け。

タリサ達4人が『ぜんざい』を一心不乱にモグモグと食べ進めるのを見ていたベルは、初めて見る『ぜんざい』を前にドキドキしながら一口食べ。


「ホォ~、これはこれは美味しいですね。

『ぜんざい』と言う甘味を初めて食べましたが、甘味の中に旨味やコクが感じられ。この小豆という豆は柔らかく、口の中でお餅と絡まり。初めてての味ながら実に口に合い、美味しいです。

それにお餅も愛之助君の言うとおり。

焼かれている為なのか香ばしく、カリッとした食感や。ぜんざいの汁につかったカリもちっとした2種類の食感が楽しめます。」


初めて口にした『ぜんざい』の味の感想を教えてくれ。そんな美味しい『ぜんざい』を作った愛満へと


「愛満さん、すごく美味しいです。こんな美味しい『ぜんざい』をごちそうして下さり。本当にありがとうございます。」


感謝の気持ちを伝える。


「いえいえ、そんなそんな。こちらこそ、僕が作った『ぜんざい』を美味しいと言って頂き、本当にありがとうございます…………エヘヘ、照れるな。

あっ!そうだ。実はですね。家の『ぜんざい』、甘味が強くて独特の風味が楽しめる三温糖をコクをだすために使っているんですよ。

他にも『ぜんざい』の汁の材料になる小豆も缶詰じゃなく。

ちょっと手間隙かかりますが、豆からじっくりコトコト煮て作ってあって。そのため豆も柔らかく、豆の潰しぐあいも自分で調製できるんです。

て言ってもこれ、お恥ずかしながら全部祖母からの受け売りなんですけどね。

それにこの『ぜんざい』の作り方も故郷の祖母から習ったんですよ。

だから『ぜんざい』の味を誉めてもらうと、まるで祖母が誉めてもらってるようで嬉しいんです。」


愛満は照れくさそうに笑いながら、どこか懐かしそうに故郷にいる祖母の話をする。


そんな愛満の姿に、ベルは目の前に有るお椀の中の『ぜんざい』を見つめ。この一杯の『ぜんざい』の中には、食べる人への沢山の真心がこもっている事を感じ。


「そうだったんですか。この『ぜんざい』には、お婆様の食べる人への真心と共に、愛満さんのお婆様の教えを守る気持ちが沢山詰まっているのですね。

それに愛満さんはお婆様の事をとても大切にされ、大好きな事が伝わりますね。」


「いえいえ、そんな事ないですよ。

それに婆ちゃんの事は大好きですけど、大切にしているかというと解らないから普通ですよ、普通。」


愛満が、ますます顔を真っ赤にして照れくさそうに話し。『普通です、普通』と恥ずかしそうにする中。

愛満の様子を孫を見るかのように優しく微笑みながら見ていたベルは


「それからもう一つ。私は愛満さんにお礼を言わなくてはいけません。

豆類は料理に使うものとしか考えがなかった私には、甘く味付けしたり、お菓子に使うなんて発想がなく。

知らず知らずのうちに、この『ぜんざい』という一杯で、自分自身が固定観念に囚われていた事に気づかされ、勉強になりました。愛満さん、ありがとうございます。」


愛満の両手を掴み。両手でガッシリ握手するとお礼の言葉を述べる。


「いえいえ、そんなお礼を言われるような事、僕何もしてないので…………………あっ!それより『ぜんざい』のお代わりいかがですか?

まだまだ沢山鍋に作ってありますから、遠慮せずにどんどん食べて下さい。」



◇◇◇◇◇



「それにしても今回出会えた朝倉村の村人の皆さんは、村自体もそうですが村人の一人一人が心根優しく、素晴らしい人達ばかりでしたね。」


今日もまた山道を一歩一歩踏みしめるベルは、何やら思い出し笑いをしながら呟き。


「初めて食べさせて頂いた『ぜんざい』も粒々の餡子や、カリッと焼かれたお餅が美味しかったですね。

それに茶屋や神社、風呂屋の皆さんも働き者の素晴らしい人ばかりで、風呂屋のお風呂も清潔に保たれ。

そんな中を精霊達が楽しそうに飛び回り、実に旅の疲れが癒えました。」


朝倉村で体験した出来事を思い深げに話。


「本当に、刺激ある沢山の初めてに出会える旅は悲しい事もありますが、その倍の楽しい事があるからこそ止められませんね。

しかし私一人だけこんな良い思いをした等、あやつらにバレると後で何とグチグチと言われるか…………………ハァ~~~仕方ありません。あやつらにも朝倉村の事を教えてあげますか。」


あの後、タリサとマヤラの両親が働く『風呂屋・松乃』で3日間ゆっくりノンビリと朝倉村を満喫し。

旅の疲れを癒したベルは、また1人でも多くの貧困にあえぐ子供達を救う為。今日も歩き出すのであった。





《『ぜんざい』と賢者の旅人の登場人物》


・ベル=王都にある魔法学園の元学園長

祖母がエルフ族の257歳のお爺ちゃんになり。長髪の髪型に丸耳。

自身の資産を活用して、貧困にあえぐ子供達を救い。魔法や学の才能が有る子供達を援助して学園へと通わせる。


・タリサ、マヤラ=兎族の兄弟、炬燵と『ぜんざい』を愛す。


・愛之助=今回も安定のマ○メロちゃんラブの様子


・黛藍=温かぬくぬくの炬燵にハマる予感。


・愛満=今回も安定の婆ちゃん子の様子




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