「ビール鍋」と男達の秘め事『咲々華会』
その日 朝倉町にある菜の花畑では、とある者達が集まり。咲き誇る菜の花達に隠れるように建てられた東屋のなか、何やらコソコソしていた。
「皆の者、ちゃんと各自担当の食材は持ってきたかのう!」
お気に入りの唐草柄の手拭いを盗人被りした。サングラス姿のとある陸亀に良く似た人物が自身の回りのベンチに座る男達に声をかける。
すると何故かお祭りの屋台で売っているような。お面を被った筋肉ムキムキの獅子族の中年親父が
「おう!俺は【赤】の指示通り。予算内で獅子族自慢の自家製ビールを身内価格で大量に持って来たぜ!」
愛満やドワーフ族の頑張りからこちらの世界でも何とか無事完成した。ビール缶が詰められたビール箱2箱を自信満々な様子で、東屋に備え付けられたテーブルの上に置き。
そんなお面姿の獅子族の中年親父が話終えると、中年親父の隣に座る。とある有名プロレスラーのマスクを被った兎族の男性が
「俺も実家の八百屋から【赤】から貰った予算内で、菜の花こと『菜花』とニンニクを持ってきたよ。
後、旬の野菜のアスパラガスが旨そうだったから、ちょろっとパクっ………いやいや、ハハハ~!貰ってきたよ。」
少々後々問題になりそうな言葉を言い直しながら自身が持ってきた紙袋から実家の八百屋の商品にあたる。大量の旬の食材の菜花とニンニク1つ、アスパラガスをテーブルの上にと取り出す。
そしてそんなマスク姿の兎族の大好きに続くよう。
最近美樹の影響で朝倉町で流行っている黒マスクに帽子、黒ブチ丸眼鏡姿の猿族の男性も
「自分も妻の桃花の目を盗み。店で一等品のゴマ油を身内価格で安く仕入れて来ました!
後、いつも妻が私の為に酒のツマミに作ってくれるキノコのオイル煮も持って来たので、良かったら皆さん食べて下さい。」
少々興奮した様子で、美しい黄金色したゴマ油の入った瓶とキノコのオイル煮の瓶をバックから取り出し。
何やらワクワクした様子のお面やマスク、手拭いを被った赤毛の筋肉質の男性や兎族、ドワーフ族、ホルタ族、ケンタウロス族等の種族様々な者達が
「俺も今日のためにたい。【赤】が言うように村から貰った予算内で買える一番一等品になる昆布を仕入れて持ってきたばい!
あっ、けどたい!昆布を買った店のおばちゃんが昔からの知り合いやからけん。沢山の魚の干物もオマケに付けてくれたたい。
やけん、それも一緒に持って来たけん。皆で酒のツマミに一緒に食べようや!」
「俺も俺も!【赤】の指示通り。愛満から教えてもらって最近うちの酒屋で売り始めた『酢』を買って来たぜ。
後、今日仕事の関係で参加できなかった親父や兄達から差し入れで、日本酒仕入れて来たから皆で楽しく飲もうや!」
「自分も【赤】の言ったとおり。予算内でササミのスライスを身内価格で沢山仕入れて持ってきましたよ。
それに働いてる者の強みをいかし。今朝さばきたての新鮮なササミなので、特に美味しい事間違いなしです!
そうそう。【橙】と少し内容が被りますが、今日参加できなかった親父や兄貴、弟達から差し入れで、家の店自慢の『唐揚げ』を貰ってきたので酒のツマミに食べて下さい。」
「オラもだっぺ!【赤】の指示通り。予算内で家の店で売ってる大鍋とすりおろし器を身内価格で安く仕入れて持ってきただっぺ!」
「私も今回の料理には美味しい水が必要だとの【赤】の言葉からホルタ族住みか自慢の沢から美味しい水と、その水を使って作った氷を持ってきました。」
「自分も【赤】から受け取った予算内で、私達ケンタウロス族自家製の赤と白のワインを樽で2樽仕入れて持って来ました。
それに今回参加できなかった他のケンタウロス族の者達から果樹園で今朝採れたフルーツ盛り合わせやお好み焼きを預かって来たので、皆さん食べて下さい。」
口々に自身が持って来た品物をテーブルの上に出しながら話す。
そんな皆の言葉を満足そうに大きく頷いて聞いていた。盗人被りの陸亀ことコードネーム【赤】が
「うむうむ。皆の者、良くあの限られた予算内に素晴らしい品物を仕入れてきてくれたのじゃ。
感謝感謝なのじゃ、上出来なのじゃ!うむうむ、今回も誉めてつかわすのじゃ!」
何やら所々偉そうに上から目線で他の面々を誉め称え。
「う~ん、それにしても【紺】の奴は少し遅れているようじゃなぁ……………。いつものように店が忙しくて遅れておるのかのう?
はぁ~~。まぁ、しょうがない。今日は少し風もあり寒い事もあるし。【紺】がまだ揃ってはおらぬが、今日の会合を始めようとするかのう。
あっ、そうじゃった!ワシもほれ、愛満から譲ってもらった生醤油と割り箸、取り皿、おしぼり。
それに愛満が持たせてくれたお手製の『いなり寿司』や『巻き寿司』なんかが詰められたお重も持ってきたのじゃ。
後、鍋の火用に少し趣向を凝らし。今日は火鉢を準備しておるから、【青】が持ち寄ってくれた魚の干物も火鉢でサッと炙って頂こうかのう~♪」
少し遅れているらしい。朝倉町で中華料理店を営むコードネーム【紺】の事を気にしつつも自宅から持ってきた品物や三段重ねのお重をテーブルの上に出し。
他の面々がテーブルを吹いたり。おしぼりや割り箸、取り皿、プラスチックカップ等々。各自が持参した品物等を並べる姿を見つつ。
【赤】は、コードネーム【銀】が持ってきた大きな鉄鍋、コードネーム【藤】が持ってきた、とある鍋の具材になる菜花を自身の魔法でチョチョイと水洗いし。
コードネーム【青】が持ってきた昆布を鍋の大きさに合わせて切り分け。昆布についた白い粉を拭き取る等の下拵えを終えると、他の者達がテーブルのセッティングを終えたのを確認し。
「うほん!えっーでは、本日はお日柄も良く。こうして今日もまた咲々華会が無事開かれた事に感謝をしてじゃのう。咲々華会、会合を開催する事を宣言するのじゃ~~!!」
声高らかに宣言するのであった。
◇◇◇◇◇
「そうそう!【銀】が持って来てくれたこの大鍋にのう。【青】が持って来てくれた昆布を敷き。
そこに【紅葉】が持って来てくれたビールを加え入れ。【若草】が持って来てくれた水をビールの倍加え薄め。火にかけ、1度沸騰させるのじゃ。」
何やら鍋奉行のよう。今日のメインデッシュになる大鍋に付ききりで、火加減などを厳しく監視しつつ。ビールを使った少し珍しい鍋を作っていき。
そんなビールを使った珍しい鍋に、コードネーム【紅葉】の獅子族の中年親父がひどく驚いた様子で話し掛け。
「ちょ、ちょ【赤】よ。俺達の作り出したビールを使ってもらうのは嬉しいが、鍋の汁にビールを使って本当に大丈夫なのか?」
「なぁに【紅葉】や、そんなに心配せんでも大丈夫じゃぞ。お主達獅子族が苦労して作り上げたビールは無駄にはせんのじゃ。
それにのう。このビールを使った鍋は、愛満秘蔵の書庫にあったとある料理上手の少々顎に特徴の有る、家族思いのお方が主人公の漫画から仕入れたレシピになってのう。」
【赤】が話ながら沸騰した鍋の火を弱火にしつつ。下拵えを終えたササミのスライスや菜花を鍋に入れ。
「こうしてのう。鍋に入れたササミの色や菜花が色がまっ青になってしんなりして変わったら、先程準備しておいた。
ワシが持って来た『醤油』
【橙】が仕入れた来てくれた『酢』
【藤】が仕入れて来て、【銀】が仕入れて来てくれたおろしがねですりおろした『おろしニンニク』
【茶】が仕入れた来てくれた一等品の『ゴマ油』
で作ったタレに付け食べると……………モグモグ、モグモグ
くーーう!【緑】が言うた通り、新鮮なササミも上手いが、そこに菜花の苦味がほんのり加わり。酒にも合い!いくらでも食べれる美味しさなのじゃ~♪
ほら、お主も食うてみるのじゃ。ほらほら、他の者達も菜花を使った鍋が完成したのじゃ。遠慮せずにどんどん食べると良いぞ!」
皆に完成した鍋を進め。【紅葉】や他の者達が恐る恐る食べ始め。
「「「「「……………モグモグ、モグモグ……………こ、これは!!…う、旨い!」」」」」
皆の手が止まらない様子の中。自身も満足そうに鍋を食べ進めながら【赤】は話を続け。
「それにのう。今は【緑】が仕入れた来てくれた朝捌きたてのササミのスライスを使っておるからチョイと解らぬが。
本来鍋の汁にビールを使っておるから、ビールの力で肉の臭みがとれ。肉が柔らかく煮えるそうなのじゃよ。
本来なら【緑】のササミのスライス肉と【紺】のベイ肉のスライスを使って食べ比べが出来る予定だったのじゃが、【紺】が遅れておるからのう~。…………ハァ~~こればかりはしょうがないのじゃ。」
実に残念に話。みんな鍋に夢中で自分の話など聞いて無い事に気付かずに、何やら大きく頷くと
「そうそう、そうじゃった。簡単に説明するとじゃなぁ。要は、肉と菜花を使った『しゃぶしゃぶ鍋』になるそうなのじゃよ。」
皆が自身が作った鍋を食べ、酒を飲み進める様子を満足そうに見詰める【赤】は、せっせと鍋奉行に徹するのであった。
ちなみに今回も好物の食べ物のレダーを敏感に察知したあの者達もいつの間にか咲々華会の会合に参加していて
「うんうん!いつ食べても愛満のいなり寿司は美味しいでやんす~!う~ん、トレビア~ン♪デリシャス~♪」
「………ハフ、ハフ……モグモグ……ハフ、ハフ………ふぅ~、焼きたての干物は熱いニャゴ!
しかししかし!この焼きたて熱々の干物に勝るもなは無しニャゴ!!それにこの焼きたて熱々の干物を一口食べニャゴ。そこにキンキンに冷えたビールを流し込むと、まさに至福のひとときニャのニャゴ~♪」
何気に咲々華会の会員になる。コードネーム【朱】と【鉄】の2人は、自身の好物を口にしながら幸せそうに話。
そうして各自が持参した食材や調理器具で作った鍋やお酒を楽しんでいると。朝倉町で兎族のエタールと中華料理屋さんを営んでいる。大吉村出身の兎のお面を被ったコードネーム【紺】が遅れてやって来て
「ごめんごめん!出先にお客さんがあって遅れてしもうたばい!
本当、すまんかったね!あっ、俺の担当のベイ肉のスライス肉、【赤】が言ってた予算通り持って来たばい。
それに遅れたお詫びにうちの店人気の杏仁豆腐を持って来たけん。後で皆でデザートに食べようや。」
すまなそうに謝りながら、咲々華会会員の13人は終始楽しそうに飲み食いしていくのであった。
◇◇◇◇◇
と、このコードネームでお互いを呼び合う。お面やマスク、手拭いを被って変装している者達は、純粋にお酒が大好きで、お酒や美味しいツマミを皆で楽しく楽しみたいと考える。朝倉町に住む男達になり。
少々上から目線で話していた山背が、酒の言葉を簡単にもじって名ずけた咲々華会の会長で。
家で飲むと妻や家族に小言を言われたり。店で飲むと小遣い面に大打撃がくるやお酒臭い等、またまた妻や家族から小言をもらってしまう等の悩みから会員で毎月コツコツ積み立て積立金を使い。
週に何回かある会合と言う名の飲み会の下。参加できる会員が密かに会員に送られてくる暗号を解いて集まり。
他の者達に邪魔をされなさそうな場所に集まっては、積立金の中から仕入れて来たお酒や料理を会員達で楽しんでいるのであった。
ちなみにこう見えて咲々華会に加入した会員は、ゆうに3桁を越えていて。
会員同士が自身の好きな色の名前をもじってつけたコードネームで呼び合う訳は、何やら男心をくすぐるという理由やミステリアスでカッコいい等。
家族に咲々華会の事がバレないようにする等の今一つ会員以外の者達(特に妻や女性陣達から)が納得出来る訳はないそうで……………。
頑張れ咲々華会!負けるな咲々華会!
《「ビール鍋」と男達の秘め事『咲々華会』登場人物・咲々華会のコードネーム》
【赤】…山背、咲々華会 会長
【若草】…ホルタ族の男性、名:フニオ、山背の古くからの友人
【紅葉】…獅子族の中年男性(親父)、ビール職人
【青】…大吉村に住む男性、名:克海、鬼族と竜人族の間の子、真っ赤な髪色
【茶】…猿族の男性、名:次郎、妻子有り(妻の名:桃花)、油屋等を営む
【藤】…兎族の青年、実家が八百屋等を営むレム家長男、名:カイマ
【橙】…兎族の青年、実家が酒屋、米屋等を手広く営むシャル家三男、名:コルニオ
【緑】…兎族の青年、実家が肉屋等を営むライ家長男、名:タオ
【銀】…ドワーフ族の男性、家族で加治屋を営む
【灰】…ケンタウロス族の青年、ワイン園で働く
【朱】…狐族の青年、名:朱冴、神出鬼没のいなり寿司ラブの人
【鉄】…ケットシー族の男性、名:コテツ、神出鬼没の魚介類大好きなちっこいニャゴおじさん
【紺】…黒エルフ族と兎族の間の子、名:穂高、大吉村出身、中華料理店を営む




