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『焼き鳥盛り合わせ』と失恋記念日



「でな、イサヤ。徳利(とっくり)に入った日本酒を他の人の盃にカッコ良く注ぐ為には、こうやって徳利を右手で持ち。左手は徳利の下に添えて、盃に触れないように8分目くらいまで注ぐのが良いらいんだぜ!

それに忘れちゃならないのが!注ぎ終えた最後に徳利の口先を前にクルって、ちょっと回すんだよ!そしたらカッコ悪く注ぎ終えた後に滴が垂れないんだぜ!知ってか?」


顔を真っ赤にしたウサ耳、尻尾の生えた兎族の青年が隣に座る。自身と良く似た兎族の青年の肩をガタガタ揺らしながら得意気に話す。

すると酔っぱらいの兎族青年から注いでもらったばかりの盃の酒を肩をガタガタ揺すられながらも上手く溢さないように飲み干した青年が


「解った、解ったから!だから俺の肩をそんなに揺すらなくても大丈夫だよ。それにあんまり揺すると大事な酒が溢れちまうだろう!

しかしエグマ、お前お銚子2本でもう酔っぱらってしまったのか?……………ハァ~~、だから店に来る前に言っただろう。お前は兄弟の中で特に酒に弱いんだから自分で考えながら呑むんだぞって。

ほら、回りのお客さんの迷惑になるから少し声のボリュームを下げて静かにしろよ。

それに徳利からの酒の注ぎ方を自分の知識のように話してるが、そもそもその話は熱燗が来た時に美樹が話してくれた話だろう。」


かなりデキ上あがっている酔っぱらいの兎族の青年事。タリサとマヤラのすぐ上の兄にあたる三つ子のうちの1人。エグマの様子を心配、注意しながら自身の目の前の席に座る美樹へと


「美樹、ごめんな。エグマが急にラトスのやってる居酒屋で酒が飲みたいと言い出したのに。コイツときたらお銚子2本で酔っぱらちまって………本当にすまん。」


弟の事を心配しながらも苦笑いを浮かべて頭を下げ。エグマを挟んで隣に座るもう1人の弟クニタが、酔いつぶれて椅子から落ちそうになっているエグマを心配そうに介抱していた。

そして三つ子の長男イサヤの言葉や、そんな3人ことを微笑ましそうに見ていた美樹は


「何言ってんだよ!それを言うならイサヤ達だって3日前に隣街への買い付けから夜遅くに帰って来たばかりだろう。

それにエグマが酒が弱い事は前々から知ってるし。俺達友達だろう、そんな事気にすんなよ!

……………それより、エグマの奴どうしちまったんだ?

いつもはアルコール度数が低い酒を飲んだりして自分のペースで酒を楽しんでるのに……今日はそんな事関係無く勢いのまま飲んでたみたいだけど?」


バレンタインデーの日を入れて3日間。隣街への買い付けから戻って来たエグマの様子がいつもと違う事から、何かあったのかと心配した美樹は、イサヤ達に問い掛ける。

すると美樹の問い掛けに酔いつぶれたエグマを介抱している。もう1人の弟クニタと顔を見合せたイサヤは、何やら言葉を濁らせながら頭をかき。


「いやさぁー、………………。実はな、ここだけの話。14日のバレンタインデーの早朝に朝倉町を出発して、隣街に着いたのがバレンタインデーだったろう。」


「バレンタインデー?………あぁ、14日はバレンタインデーだったなぁ。うちの店もバレンタインデー前の何日間も前から怒濤(どとう)の大忙しでさぁ。こう言ちゃあ悪いけど、14日がバレンタインデーて言う感覚もなけりゃ。あの日は1日があっという間に過ぎていった感じだぜ。

それにそもそも朝倉町に来るまでは、こっちの世界にはバレンタインデーなんか言うイベントは無かったし。2月14日がバレンタインデーだった事も記憶の彼方にいって、全く感覚もなかったよ。

………あっ、けど、会計の時やたら女性のお客さん達からチョコを貰うなぁ~とは思っていたけど」


今だ従業員を雇う事に何処か少し躊躇している美樹は、バレンタインデー何日間前からの怒濤のお客さんを接客するのに必死で、14日がバレンタインデーなんて言う感覚が向け落ちていた。


が!!!職業がら自身の身なりを気にし。それでいてオシャレ力が高く。更に美容師と言う職業がら女性の髪型やメイク、服装等のちょっとした変化に敏感に気付く美樹は、かなり女性達から人気が高く。はっきり言って非常にモテ。

本人が気付かないだけで、密かに本命チョコが多数見栄隠れするチョコレートを受け取っていたのであった。


しかし、そんな事に気付かない鈍感と言うか、日本で人間関係や恋愛関係、ストーカー等で苦い思いをした事のある。

若いながらも以外と苦労人の美樹は、恋愛関係のレーダーをピタリと封印していて。恋愛関係面になると積極的にアプローチされても本人(美樹)には悪気はないのだが、これぽっちも全く気付かないのだ。

よって美樹の中で、イサヤが話すバレンタインデーと言う言葉とエグマの様子がいつもと違う事に何の関係性や、何の意味があるのかが結び付かず。意味が解らないといった様子で首を傾げる。


そんないつもの美樹の様子に、うっすらと美樹恋愛歴を本人から聞いているイサヤは、思わず苦笑いを浮かべ。

美樹の店の話を聞いたクニタの方は


「あぁ、うちの姉ちゃん達もバレンタインデー前に少しでも綺麗になるんだと意気込んで肌や髪を手入れしに行かなくちゃと言ってたもんな。」


バレンタインデー前の浮き足立つ様子の姉達の言葉を思い出し。沢山いる姉や兄達の妻が美樹の店に押し掛ける様子を思い浮かべたのか、思わず顔をしかめ。

美樹の様子に苦笑いを浮かべているイサヤの方は、美樹にお代わりのビールを注がれ。話をそくされるように、歯切れ悪く。


「………………う~ん、何と言う。はっきり言っちまうと、去年の終わりぐらいから隣街にお袋の産婦人科で使う。妊婦さん用の薬草を使用した塗り薬を買い付けに俺達3人がお袋の頼みで、ここ最近度々(たびたび)町を離れてただろう。」


「あぁ~!アコラさんの産婦人科で使用する妊娠線が目立たなくなる?か、出来にくくなるだっけ?とにかく肌に優しくて体に害の無い。妊婦さん達から人気の塗り薬だったよなぁ。うちの美容院に来てくれる女性のお客さん達が話してたぜ。

けど確か、塗り薬を作ってるお袋さんや奥さん、娘さん達に変わって中年の息子さんが朝倉町へと持って来てくれてなかったけ?」


イサヤ達の母親アコラが院長を勤める産婦人科で使用する塗り薬の事や、それを朝倉町へと運んで来てくれている中年男性の事を知っている美樹が話し。


「それに良く愛満の万次郎茶屋で、隣街で待ってる母親や家族へお土産にと四季折々の和菓子セットを嬉しそうに買って帰ってる姿や、愛満と楽しそうに世間話してるのを見た事あるから………あのおじさんどうかしたのか?」


「そうなんだよ。おじさん人が良いから去年の暮れに寒い中1人で荷下ろししてて、腰をグキッとやっちまったみたいで。

俺達が発見した時には脂汗ダラダラ流しながら、それでも荷台の荷を下ろそうと必死で頑張ってたんだぜ。

けど、一度腰をやっちまちゃうと癖になるって言うだろう。

だからお袋とも話し合って、去年の暮れから俺達が隣街まで買い付けに行き。おじさんには暖かくなる春先まで今は大事をとって安静にしてもらってるだよ。」


家族思いの人の良いおじさんに起こったグキッと事件を教えてくれ。


「……そう、でだ!婆ちゃん達が塗り薬の調合する間に完成した塗り薬を詰めたり。それを木箱に詰め、重たい荷物を運んだり、ちょっとした家の中の男仕事を手伝いしたりして。

婆ちゃん達家族の好意で、婆ちゃんやおじさん家族の家に世話になってたんだけど、ただでさえ腰をやっちまったおじさんの世話で忙しいのに俺達の飯の世話までは悪いから、婆ちゃん家の家の近くに有る飯屋に腹が減ったら飯を食い行ってたんだけど、……………。

そこに小柄で、そりゃあ見た目も話し方も可愛らしい女が働いてたんだよ。

で、俺達3人で何度も飯を食いに行ったりしてたら、話し好きで社交的なエグマが客の接客をやってたその女と仲良くなり。案の定惚れぽいエグマがその女を好きになちまったんだよ。」


何やら大きなため息をつき。美樹に注いでもらったビールを勢い良く飲み干すと、覚悟を決めたように話を続け。


「で、たまに訪れるだけなのに自分を見かけたら駆け寄り親しげに話してくれるし。やたらボディタッチも多かった事から、勘違いしたのエグマはコレは脈有りと思い。

到着した日がバレンタインデーだと言う事もあり。その女からチョコレートなり、告白でもされるんじゃないかとドキドキして婆ちゃん家に着いた後。エグマ急かされて、いつものように3人で飯屋に飯を食いに行った訳なんだよ。」


去年の暮れから始めったらしい。エグマが隣街の飯屋に勤める1人の女性に恋に落ちた話を話してくれ。

そんなイサヤの話に。エグマの惚れぽいと言うか、恋を見事実せられるか達成出来たかとかは黙秘するとして。エグマが恋多き男と知っている美樹は、隣街にバレンタインデーが広まってる事の方に驚き。


「あぁ、エグマの例の病気が発動したんだね。

それよりさぁ、隣街にバレンタインデーが浸透してる事の方が驚きなんだけど。どう言う事なんだ?」


「ほら、荷馬車便のショウ達が毎日隣街とうちの街を行き来してるだろう。『赤い稲妻』の狼族のショウや虎族のコウ達の所の。で、その荷馬車内でイベント前なんかは宣伝してくれてるんだよ。

それに隣街からうちの街自慢の風呂や旨い食い物なんか目当てに沢山の客が来てるし。王都や遠く離れた所から来る客達は、馬車を動かす馬にしろ人間にしろ休憩が必要で、当然隣街を経由して来る訳だし。

他にも当然うちの街のお陰で、距離は有るにしても隣もそれなりに潤い。何だかんだとうちの街で開催されるイベント関係なんかの日取りや内容なんかを見聞きして、町民全体に幅広く広まってるみたいだぜ。

俺も隣街でショウ達に会った時なんかは良く声をかけて話をするし。」


テーブルに突っ伏し、すっかり眠りこんだしまった弟に自分の上着をかけてあげたイサヤが、隣街でショウ達にたまに会う事を話し。

そんなイサヤの話に同意するように頷いていたクニタが、何やら確認する様子で酔っぱらって隣で眠る弟の様子を念入りに確認し。


「それでさぁ…………エグマが惚れた女って言うのが、蓋を開けたら複数の男にコナをかけては良いように使って金を貢がせ。

関係が悪くなると次の町へとトンズラしては、また別の男(得物)を見つけて良いように男を扱う悪女だったって訳なんだよ。

しかも違法な魔道具の力で見た目や年齢による衰えを偽装してたみたいで……………」


弟の惚れた女性が指名手配もんの悪女だと小声で美樹に教えてくれ。クニタの話を聞いてたイサヤも眠るエグマの様子を気にしながら


「そうなんだよ。しかも何の因果か、それが回り回って俺達が飯屋に飯を食いに行ってたバレンタインデーの昼間に

たまたま飯屋に立ち寄った旅人や行商人の男達が、その女に昔騙された男達で、それが示し会わせたように何人も本当に偶然に飯に食いに来て。

更にはエグマのようにバレンタインデーだと受かれた。今騙されてる隣街に住む男や、近くの村に住む男達が女を驚かそうとサプライズで飯屋に来ちまったりと。用は新旧の男達が鉢合わせしちまった訳なんだよ。

で、そっからは大修羅場で、あれよあれよと言う間に女の悪事がボロボロと全てバレ。あんまりの騒ぎに街の警備隊達が大勢駆け付けるほどの大騒ぎになり。」


何やらその時の事を思い出したのか急に顔を青ざめ。


「それに今までさんざん女に良いように使われ。金を搾り取られた男達に運がめぐってきたのか、女が隠し持ってた違法な魔道具が急に壊れちまって………………。

俺、腰を抜かすほどに驚いちまって………………もっ、言葉に出来ないほどに凄かったんだぜ!」


震える肩を両手で擦りながら話。自分を落ち着かせるように手酌で、温くなった熱燗をグイッと一口飲み干すと


「でだ。最初は男女の交際のもつれの痴話喧嘩かと軽く考えてた警備隊の目が違法の魔道具の登場で目の色が変わり。

更には女の悪事を証明する。結婚を約束する何人もの男達に宛てた何通もの手紙。結婚を理由に金を借りた手形なんかの証拠の品に始まり。

女が男達から結婚を理由に金をもらってたのを見たや聞いたと証言する人達が多数現れてさぁ。俄然(がぜん)警備隊達の疑いの目が深まり。

そうりゃあもう、罵声に罵声が飛び交うヒドい修羅場になって。

最後は皿が飛ぶやらイスが飛ぶやらで、収集つかないから騎士のお偉いさん達も駆け付けたりして、女は見事御用になった訳なんだよ。」


「そうそう。しかも女への聞き取りで、うちのエグマにもバレンタインデーを利用して魔の手を伸ばそうとしてたらしく。

3日間の隣街に居る間にエグマも警備隊から聞き取り調査をお願いされたり。失恋の痛手にプラスして女の怖さを十分過ぎるほど見聞きして味わったみたいで、心に深いダメージをくらったみたいなんだよ。」


恋多き男のエグマに起こった衝撃過ぎる出来事を話。


いつものようにただ失恋しただけならば慰めの言葉もかけれるが、惚れた女性が何十人者男を手玉にとるような悪女になり。しかも見た目も年も違法な魔道具で偽証し。

更には逮捕されると言う大捕物に、その女性の本性を見抜けなかった自分の不甲斐なさや。

あんなに可愛らしかった女性が、次の瞬間には見た目から何から大きく変わり果て。鈴の音のように可愛らしかったチャーミングな声が酒やけのガラガラハスキーボイスに変わり。

詰め寄る男達に罵声を浴びせる姿、半狂乱になり手当たり次第物を投げる姿、証人達に見境なく悪態をつく姿にイサヤ達も含めて恐怖を覚え。


エグマは、自分はまだ交際に発展しておらず。金銭面等被害に遭わずにすんだ事に良かったと胸を撫で下ろしながらも、心の隅にそれでも彼女が好きだったという気持ちや、見た目に始まり声や年。

今まで自分と話していた事。見てきた物は全て嘘だったのか騙されていたのかという、信じたくない気持ち。

騙されていた事への彼女への怒りや憎しみ等。様々な気持ち、感情が心の中でごちゃ混ぜになり。

自分はこの先どうしたら良いか解らず、心の中がバラバラに壊れたみたいで苦しいんだとエグマが涙ながらにイサヤ達に話したそうで。

普段の失恋した後と違い。エグマは村に帰って来からもヒドく落ち込み悩み続けていて。


今もこうして酒に弱いながらも酒の力を借りて吹っ切ろうとしている弟エグマの姿に。自分達はどう声をかけ。接して良いか解らないとイサヤとクニタは、頭を悩ませた様子で美樹に相談し始め。

弟を騙した女に怒りを覚えながらも、普段通りにいつものようにエグマに接し。振る舞えば良いのかと質問される。


そんなイサヤとクニタからの悲痛な相談に、そもそもあまり良い恋愛をしてきてない美樹も頭を抱え。最善の答えを考え探し求めていると。


美樹達が気付かずうちにいつの間にか、熱燗のつまみに注文した『焼き鳥の盛り合わせ』を美樹達以外にお客さんがいない事を良い事にモシャモシャ勝手に食べていた。

見た目10~3歳に見える自称38歳のラトスが営む居酒屋従業員のムツが、食べかけの焼き鳥の串を強く握り締め。


「はぁー!!イサヤ達そんな事気にしてんのかよ!

あのなぁー!恋や愛って言うもんは、そもそも酸いも甘いも込みで、騙し騙しされの騙し(化かし(ばかし))合いなんだよ。

それにエグマ起きろ!お前さっきから起きてただろう。俺様の前で狸寝入りするなんて100万年早えんだよ!

良いかエグマ。お前はその女に恋をして騙され、恋に破れ失恋して。その女に恋をした事を失敗、損をしたと思うか?」


初めは酔いつぶれて本当に寝ていたのだが、いつしかイサヤ達の話し声で目が覚め。自分の話をしている事に起きるに起きられなかったエグマをムツが叩き起こし。


「実らなかった恋や愛だって、残酷にも踏みにじられた恋や愛だって、どんな恋や愛もお前の損になる事はないんだぞ。

だって考えてみろ。どんな災難、凶事にあった場合といえども、まる損というものは決してないだろう?

今は苦しく悲しく悔しくても、その苦しさ悲しさ悔しさがきっとお前の糧になり。お前の人生を華やかにする肥料になるんだぜ!

それにいつかお前と同じように苦しみ悲しみ悔しさに押し殺されそうになってる奴に出会った時、お前ならその苦しみや悲しみ、悔しさを乗り越える力を貸してやれるし。

トヨとこの何かの本で読んだけど、苦しみぬいて得られたもにだけ、価値はあるみたいだぜ!」


エグマに語りかけ。次にエグマの両隣に座るイサヤとクニタ達へと


「だからイサヤ、クニタ。お前達が大切で、同じ時間を母親の腹で育ち。一緒の時に産まれてきた弟のエグマの事を心配するのは解る。

だがな。お前達、側にいる奴等がいつまたってもエグマを心配して暗い顔してちゃ。エグマだって、いつまでたってもウジウジ考えすぎて暗い顔のままだろうし。

それじゃいつまでたってもエグマはうつむいたままで、新しい恋も見つけられないぜ!

だからこういう時は当事者が落ち込むまで落ち込んだら、後は一緒に笑い飛ばしてやるのが一番なんだぜ!」


何やら自分の持論を話し、ウジウジ悩む事はないと豪快に笑い飛ばした。

そんなムツの横に座り。焼き鳥を勝手にモグモグ食べていた従業員のウナも、焼き鳥を食べる手を止め。


「そうですよ。どんなに辛くても、生きていれば必ず雨は上がり。その後綺麗な虹が見れるのですから。

それにそもそも貴方は苦しむためにこの世に生まれてきたのですか?…………………違うでしょう。生きる事の素晴らしさを味わうために生まれてきたのでしょう?

なら今はその女性の事で心が苦しいかも知れませんが、これからは貴方が巡り会う素敵な人の事を考え。貴方の限りある時間を素晴らしい事に重心を置き。限りある貴方の時間を素晴らしい事(もの(者、物))に使いなさい。

イサヤ達貴方達も、その女性に怒りを覚えるでしょうが、私がトヨの所で読んだとある聖職者の言葉を借りるならば、一瞬だけ幸福になりたいのなら、その女性に復讐しなさい。

けれど永遠に幸福になりたいのなら、その女性の事を許してやる事です。」


イサヤ達を諭し。何やら思い付いたとばかりに


「あっ、そうですエグマ。少々言葉は悪いですが、貴方は少し女性をみる目を育てる必要があるようです。

なので、女性のお客様が多数来店される美樹の美容院を少しお手伝いして、少し女性をみる目を育てるのも良いかもしれませんよ。

あそこは女性が心をホッと落ち着かせ、リラックスする場所でも有り。美を探求する場所でも有りますから、今の貴方にピッタリだと思いますよ。」


まだまだ女性を見る目が育っていない様子のエグマへと助言を授ける。


「そうだよ!エグマもイサヤもクニタ、美樹も4人とも元気だしなよ!

それにね、騙される人よりも騙す人の方が数十倍苦しいはずだよ。」


ムツ達と同じく勝手に焼き鳥をモグモグ食べていた。ベビーフェイスな自称3人の中で可愛い担当のクウが、何やら可笑しそうにクスクス微笑み。いつものように少しかん高い声でキャピキャピと話始め。

ウナに諭された後ながら、何で騙した奴の方が苦しいんだとイサヤとクニタの口から愚痴が溢れる中


「だってね♪騙した人は地獄に落ちるんだもん♪………そう、必ずね……決まってるでしょう♪」


最後はアイドル顔負けウィンク付きで、妙に説得力が有る恐ろしい言葉を一瞬真顔で吐き。クウの真剣身を帯びた言葉に美樹達の背筋がゾゾっと凍る中。

食べかけの『白レバー』の焼き鳥串を美樹達の前でフリフリ振りながら


「そ~れ~よ~り~!せっかく僕達のラトスが美味しい焼き鳥を下拵えから頑張って焼いてくれたのに、どうして熱々の美味しいうちに食べないの!

この『白レバー』なんてね。いわいる高級食材のフォアグラみたいで、食感は柔らかく。口の中に入れた途端チョコレートのようにとろけ。尚且つ、レバーのコッテリ味が更に凝縮され。油の旨味がプラスされた濃厚な美味しさなんだよ!

さらにさらに付け加えると何十羽の雌鶏のうち1羽にいるかいないかという超希少部位で、出会えたら幸福と思って即注文しなきゃいけない串なんだよ。」


先程の様子と一変、可愛らしく頬を膨らませながらプンプンと怒り。ムツやウナ達も自身のお気に入り焼き鳥を見せ付けながら


「そうだぞ!俺の好きな『ぼんじり』なんて、味わいはジューシーで、たっぷりついた脂の甘さが全面に出てて。

ひと噛み食べると口の中でとろけるような食感や歯切れよく噛み切れるのに適度な弾力があり。ひと噛みごとに味わい深くなっていき。

まさに脂の甘さと共に歯ごたえも楽しめるのが『ぼんじり』の最大の魅力なるんだぜ!

更にはラトスが食感の違いをお客さん達に楽しんでもらう為にと。脂の甘みを楽しんでもらうために王道のタレで焼いた『ぼんじり・タレ』

タレのぼんじりよりしっかり焼いて脂を落とした。肉のもちもち食感を楽しめる『ぼんじり・塩(塩レモンも有る)』の2種類が楽しめるんだぜ!

なのに何故焼き立て熱々の旨いうちにお前達は食べない!」


「そうですよ!私の好きな『背肉』なんて皮、脂、肉の旨みがトリプルで楽しめる最高の部位なんですよ。

更に付け加えるなら歯ごたえは強めの弾力が感じられ。ひと噛みするごとに大量の肉汁が口の中であふれ出てきて、ジューシーで有りながらしつこさはなく。旨みだけが口の中に残る見事な部位なんです。

他にも部位自体が大きくない事から1羽から約串1本分くらいの量しか取れず。私の好みでは、ワインでゆっくり上品に味わいたい1本なんです。

そんな美味しい焼き鳥達をラトスが良い塩梅で焼き上げているのに」


自分達イチオシの焼き鳥がいかに美味しくオススメなのかを力説後。3人が食べ尽くして空になった『焼き鳥盛り合わせ』の皿を美樹達にズイッと差し出し。頬を膨らませたクウやウナ、ムツが


「それにね。美樹達が注文した今日の『焼き鳥盛り合わせ』は、エグマやイサヤ、クニタの様子がいつもと違う事や、美樹が仕事で疲れてるみたいだからってラトスが心配して。4人を元気付ける為に、いつもの盛り合わせに無い貴重な部位の串のあれもこれもと盛り合わせにしてくれたんだよ。知ってた?」


「そうですよ。流石に全部が全部を気付けとは言いませんが、少しばかり気付いてくれても良いものを、貴方達ときたら全然気付く様子もなく。…………私、正直ガッカリしました。

前に愛満達が食べに来てくれた時は直ぐ気付いてくれましたよ。

愛満までとは言いませんが、もう少し気配り、目配りを身に付けた。男が惚れるような中身の有る男に成長しなさい。」


「まぁ、何にも言ってないのに気付けと言うには酷だが………何で俺達がお前達の『焼き鳥盛り合わせ』食い尽くしたか解ったか?

お前達良くうちに飲みに来てくれてるだろう?だから少しばかりはラトスの優しさにしろ。何かに気付いて反応してくれるかと楽しみに待ってたんだぜ。」


『元気だしてね♪』や『ファイトです!』、『クヨクヨすんなよ!』等、沢山の励ましの言葉が書かれた。ビールカップの下に置かれたコースターや割り箸入れを等をムツが指差し。

ムツ達3人は『手のかかる、しょうがない弟分達だぜ(ですね。だよ♪)』最後は笑って笑顔で微笑み。何やら空の焼き鳥皿に3人で手をかざし。


次の瞬間、皿の上には焼き立て熱々の白い湯気上がる美味しそうな焼き鳥が乗っており。

コースターや割り箸入れに書かれた励ましの言葉達が『鈍感』やら『鈍ちん!』、『そんなんじゃ女にモテないぞ!』との言葉と共に。小さな文字で『今度女性にモテる方法を教えてあげましょうか?』、『男は中身だ!心配するな!』、『次は大丈夫だと思うよ♪頑張るのみ!』等の励ましの言葉に変わっており。

美樹達4人は思わず顔を見合せ。いつもより豪華過ぎる『焼き鳥の盛り合わせ』やコースター、箸入れを見、しみじみ読みながら、何で気付かなかったんだろうと今更ながら反省し。

そんな回りの人達からの優しさや真心を十分に噛み締めながら、笑みがこぼれるのであった。



◇◇◇◇◇



そうしてその後、ウナの話に納得したエグマが美樹の美容院に弟子入りする事になり。

暴走するエグマを止める監視役も兼ね。イサヤとクニタも美樹に弟子入りする事になり。


仕事に私生活(友人関係)を持ち込まない美樹は、エグマ達をビシビシ指導しながらも4人楽しそうに日々仲良く働き始め。

春先までの隣街への塗り薬の買い付けも手伝いながら、慢性的だった美容院の人手不足は、無事解決したのであった。






◆◆◆◆◆



ちなみにココだけの話。

イサヤ、エグマ、クニタ達が他の男性のように被害に遭わなかった訳は、愛満お手製のミサンガをプレゼントされて3人とも足首にしており。

他にも弟のタリサとマヤラ達から手作りの(愛満が少しお手伝いした)お守りや、両親から貰った朝倉神社のお守りを肌身離さず身に付けていて。

悪意ある人や物、出来事等から本人達が知らないだけでバリバリに愛満チートに守られていて。


そしてバレンタインデーのあの日。とうとうエグマに女が魔の手をのばそうとしていた為。愛満のチートの力が敏感に察知してフルスイングで機能し、効能以上の働きをみせ。女の悪事の数々が露見したのであった。


まぁ、守られていても人が人を好きになる気持ちは止められないもので……………。それにともない失恋でおった心の傷までは、愛満のミサンガ()でもお世話できません。




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