『チョコチップアイス』と母上直伝
「ふぁ~~~~……………。」
「ふぁ~~~………なんだか眠くなってきたへけっ。」
「ふぁ~~~~、僕も眠くなってきちゃった…………」
「…zzz……………」
「ふぁ~~あ………って、これこれ。愛之助達がアクビばかりするものじゃからワシにまでアクビがうつてしまったではないか!」
ここ4日、朝倉町の空に粉雪が舞い。まだまだ寒さの残る今日この頃。
万次郎茶屋では悪天候のため外で満足に遊べず。茶屋内の小上がりコーナーに設置されたお気に入りのお炬燵で、暇をもてあましボッーとしている愛之助達4人と
降り積もった雪の対処にギルドに出掛けてる愛満に代わり。只今勤務中のはずの山背が、悪天候の為にお客さんが居ない事をいい事に何度も大きなアクビを連発していた。
◇◇◇◇◇
「ふぁ~~あ、…………あまりの暇さでアクビが止まらないでござるよ。………………しかしこうも雪が続くとなると、まるで街全体が巨大な冷凍庫に変身したかのように体の芯から冷えるでござるね。
それに降り続く雪で視界も足元も悪いでござるし。これでは余程の用が有る者以外、こんな寒空の下の外に出ようなどと思う者も少ないでござろう。
はぁーーーー、…………ただでさえこの悪天候でお客さんの客足も悪いでござるのに、これではますますお客さんの来店も無さそうでござるし。降り積もる雪で拙者達も外で満足に遊べず。どんどんヒマになってしまうでござるよ。」
何やら恨めしそうに苺忍者隊の本部の建物が建つ庭の方を見つめた。自称雪降り2日目で雪遊びにも飽きらしい。
【嘘です!!愛満や黛藍達から3日目以降、降り続く雪や降り積もった雪で危ない事や、風邪が街全体に流行っている為。
他にも愛満達との約束を忘れ。2日とも調子に乗って雪でビショビショに濡れたまま雪遊びをしていた愛之助達は、愛満や黛藍達から雷を落とされ。3日目以降室内で過ごす事を約束されたのです。
なので愛之助達は、美樹や力自慢の街の男性人に手伝ってもらって作り上げた『かまくら』でまだまだ遊びたかったのが本音。】
一通りの室内遊びを遊び尽くした愛之助は、何やら炬燵の上に置いた。薄茶色した粉が入った瓶をコロコロと転がしながら、ついついこぼれてしまう不満をもらす。
するとそんな愛之助の話に愛之助の隣に座る眠り眼のタリサが大きなアクビをこぼしながら
「………ふぁ~~~~ぁ、そうだね。…………ここ最近の雪のせいで街を歩いてる人なんて1人、2人居れば良い方だもんね。
あぁーーあ!これじゃあ、せっかく皆で作り上げた『かまくら』も雪に埋もれちゃってるだろうね…………ちぇっ!」
「かまくら…………くっ!そう、あの拙者達が汗水垂らし、雪にまみれながら力を合わせ。皆で作り上げた力作の『かまくら』をこんな雪が降り続く悪天候のなか手放さねばならぬとは、誠に断腸の思いであったでござるよ…………。
ハァ~~………まだ『かまくら』の中で温々のお炬燵に入り。タリサ達と皆で愛満お手製の美味しい『お汁粉』を食べるという夢を叶えてもおらぬのに………。ハァ~~、かえすがえすも愛満達の言う事を聞かなかった拙者達の行いを悔やむだけでござるよ。」
「本当だよねぇ。ちゃんと約束守って遊んでたら、今こうしてなかっただろうね。」
「本当へけっね。ついつい有り余る雪にハメを外しすぎたへけっ。」
「そうでござるね。それに愛満が気付いてくれて拙者に声をかけてくれなかったら拙者達みんな風邪を引いてたはすでござるし。
バレンタインデー1日限定の路沙莉の『香果音』店で開催される『チョコパー』に行けなくなっていたかもしれないでござるよ。」
「えっ!それは一大事だ!」
「本当へけっ、それは一大事へけっよ!
せっかく路沙莉が招待状まで送ってくれて誘ってくれたへけっに、路沙莉に悪いへけっ!」
力作の『かまくら』に未練たらたらの様子ながら14日に街に住む半神族の路沙莉が店主を勤める。『香果音』で開催されるチョコフォンデュを楽しむチョコパーティーを楽しみにしている愛之助達は『良かった良かった』と話し。
皆で胸を撫で下ろし一安心するのだが、何か思い出した様子のタリサが
「………………あっ!それからね。また雪の話で悪いんだけど、お父さんが教えてくれた話では風呂屋・松乃のお客さんは多いらしいんだ。けど、あまりの寒さや視界や足元の悪さで、みんな松乃の建物から出たがらないんだって。
それにこの雪で妊婦さんに何かあって直ぐに処置出来ないと困るからって、お母さん達も心配して病院に泊まりこんでるし。
…………雪って僕達が思う楽しい物でも有り。反面、普段の生活がおかしくなったり、スゴく大変な物でもあるんだなぁって改めて思ったんだ。
だってね、小ちゃい兄ちゃんも総出で雪かきや大きい兄ちゃん達の畑のお手伝いしてるし。
お父さんもお母さんも忙しいから何度も『ゴメンね』って、僕とマヤラに言いながら僕とマヤラを愛満達に預けてお仕事頑張ってるんだ。
それに愛満の所にお泊まりしてる今も愛満達に沢山お世話になってる訳だし。……………僕も小ちゃい兄ちゃん達みたいにお手伝い出来たら良いんだけど、………文句だけは一丁前で何にも役に立ってないんだ。」
先程の自分の発言を恥じるようにしょんぼりした様子で話し終え、急に落ち込みだす。
「いやいや、何を言ってるでござるよタリサ。拙者達はタリサとマヤラが泊まりに来てくれて毎日賑やかで楽しく、嬉しいでござるよ。
それにアルフ殿やアコラ殿達が大変な時に拙者達を頼ってくれた事が心から嬉しかったと愛満達も言ってたでござるし。拙者もスゴく嬉しかったでござるよ。
第一に!タリサもマヤラも光貴も山背だって、みーんな気付かないだけで、誰かの役に立ってるのでござるよ!もちろん拙者だって、その1人でござるよ。
だから、タリサは何も恥じる事なく。毎日元気いっぱいに笑顔に溢れた日々を過ごせば良いのでござるよ。
……………あっ、けど、何と言うか……………街や街までの山道に降り積もった雪の処理を話し合う為にギルドにいる愛満や、松乃で働いてるアルフ殿、他の従業員の皆、アコラ殿達が今もなお忙しく働いていると思うでござると、拙者だけこんなにのんびりしていて何だか心苦しく気の毒で、申し訳ないでござる。」
落ち込んだ様子のタリサを慰めながらも、今もなおを忙しく働いている愛満やアルフ、アコラ達の事を考えた愛之助は心苦しく感じ始め。暖房の効いた暖かい茶屋で、炬燵でぬくぬく暖をとる不甲斐ない自分を恥、落ち込み始めてしまい。
収拾がつかなくなり。落ち込んでいたタリサも慌てて、お互いにお互いを慰め合い始めるのであった。
そうして愛之助達がお互いを励まし合っていると、そんな中でもコロコロと何やらガムテープでしっかり止められ。タオルでガッチリ包まれた丸い球体を転がす事を止めない愛之助に興味を持った光貴が
「ところで愛之助。さっきから愛之助は何をコロコロと転がしてるへけっか?」
不思議そうに質問すると、何やら含み笑いをする愛之助が
「えっ!?コレでござるか?………これはでござるね………イヒヒヒヒッ~~♪
お正月に帰省したおりに拙者達の母上から教わった甘く美味しい食べ物になるのでござるよ!」
少々勿体ぶった様子で、タオルに包まれた球体をコロコロ転がし続け。
突然、コロコロと転がす手を止め。何かを確認するように球体を振り。球体の中の音を確認すると満足そうな様子で大きく頷き。
茶屋奥の台所へと歩いて行き。何のへんてつもない少し大きめの茶筒とチョコチップが所々見え隠れするチョコチップアイスがのった。色違いのマ○メロちゃんが描かれた5枚セットの小皿とスプーンを持って戻って来て
「お待たせしたでござるよ。拙者手作りの『チョコチップアイス』になるでござるよ。
さぁさぁ、アイスが溶けてしまう前にみんな食べてほしいでござる。マヤラも起きて起きてでござるよ♪」
一緒に持って来た白い湯気上がるホットミルクのカップとセットにタリサや光貴、マヤラ、山背達4人の前に『チョコチップアイス』を置いてあげ。自信満々の様子の愛之助は、早く早くと強く進める。
そんな愛之助の態度に、さっきの球体と目の前に置かれた『チョコチップアイス』が結び付かないままではあったが、愛之助が手作りしたという事もあり。自身の目の前に置かれた何のへんてつもない『チョコチップアイス』を興味深そうに見つめ。恐る恐る一口食べ。
「あっ、美味しい!ちょっとシャーベットみたいな食感だけど、チョコチップがアクセントになってて美味しいね!
愛之助、アイスも作れるようになったの?スゴいスゴい!!!」
「本当に美味しいへけっ!シャリシャリした食感が良いへけっね。それにチョコチップアイスで冷たく冷やされた口の中が蜂蜜入りの甘いホットミルクで暖められ、最高へけっよ♪
あっ、けど、さっきの球体がこの『チョコチップアイス』と何の関係があるへけっか?」
少々ホッとした様子で話。気持ち良く寝ていた所を起こされたマヤラも、まだ少し寝ぼけ眼のまま
「ふぁ~~~~♪あいのちゅけ、あいがとう。このアイチュちゅごくおいちいねぇ~♪マヤラ、アイチュだいちゅき♪」
「おっ!チョコチップアイスかのう?………うんうん、見た目も良いし、味も旨いのじゃ!
まぁ、欲を言えばアイス特有の滑らかな舌触りが欲しかったと言うのも本音じゃが、これはこれで旨いぞ!」
口々に魔法の粉で作った飲み物の感想を教えてくれ。改めて、あの球体と目の前の『チョコチップアイス』が何の繋がりが有るのかと愛之助に問い掛ける。
するとタリサ達の反応や感想を嬉しそうに聞いていた愛之助は、マイメロちゃん小皿と一緒に持って来た。窓辺に置いていた茶筒を炬燵の上に置き。
タリサ達からお代わりと差し出されたマ○メロちゃん小皿に茶筒の中に入っていた『チョコチップアイス』を小皿についであげ。
「この『チョコチップアイス』はでござるね。
先程も言ったかもしれないでござるが、拙者がお正月の時に愛満と一緒に実家へと帰省したさいに母上から教わったお菓子になるでござるよ。」
何やら『チョコチップアイス』の話を話し始め。
「その昔、母上はバレンタインの日に愛する父上の為に何かバレンタインにちなんだお菓子を作りたいと考えたらしいのでござるよ。
けど、母上は料理やお菓子が全く出来ないでござろう。
だから、お料理上手のお婆様と相談した後。お祖父様が言うには無謀にも、ガトーショコラやマードレヌを作ろうとしたでござるが………あっ!拙者の大切なアイスが溶け始めてるでござるよ!」
話に夢中で溶け始めてしまった自身手作りのチョコチップアイスに気付いた愛之助は、少々行儀が悪いのだが食べては話すと、話し続け。
「しかし、やはり料理が得意ではない母上は、ことごとく失敗してしまったそうなのでござるよ。
まぁ、軽く説明するとめんどくさいとちゃんと材料を図ったりしないとか。あっ、母上が言うには料理やお菓子作りはインスピレーションが大切だと言っていたでござるが。
そして他にも材料を溢したり、鍋を焦がしたり、鍋の中身を爆発させたり。
お婆様の目を盗み、嫌がるお祖父様を後ろから羽交い締めにしてスープンにのった謎の黒い物体Xを無理矢理食べさせ。軽く気を失わせる恐ろしい謎のお菓子を誕生させたりとか、…………フフフッ♪恥ずかしいからと後ろからお祖父様を羽交い締めにして食べさせて(味見)あげるとは、拙者達の母上チャーミングでオチャメでござろう♪」
「はっ!!いやいや、何を笑っておるのじゃ、愛之助!ワシは恐ろしくて鳥肌がたったぞ!
ハァ~~~~、あの料理上手の愛満の母上ながら、愛満と愛之助の母親は恐ろしい人じゃのう!」
オチャメだと笑って話す愛之助の話に、山背が鳥肌がたった両腕をさすりながら爺様が可哀想じゃ、可哀想じゃとブルブル震える中。
今だ、さすが拙者達の母上は偉大でチャーミングだとか、何処をオチャメと呼んで微笑むのか解らない話を愛之助が続け。
「で、お婆様といろいろ知恵を絞り合い何度も話し合ったり。
絶対自分の手で作った手作りのお菓子をバレンタインデーに父上にプレゼントしたいとの母上の強い希望や、お祖父様も何度も体をはった結果。
省ける行程をバッサリと無くしていった苦渋の末に考え出したのが、空の茶筒に牛乳、生クリーム、砂糖、黄身、チョコチップを入れ。中身が漏れないようにしっかり蓋をして、念のためにガムテープでも止め。
シャカシャカ中身を混ぜ合わせるようにシェイクしたら密閉容器の中央に茶筒を置き。回りや上下に氷と塩を投入して蓋をしっかり閉め。また念のためガムテープで止め。更に回りをタオルで包んでガムテープで止め。
光貴達が見ていたように拙者が休みなくコロコロ転がして作っていたのが、父上好物の『チョコチップアイス』になるでござるよ。」
爺様の苦労が見栄隠れする話を愛之助が気付かぬまま笑顔で話終え。更に何か思い出した様子で
「あっ!けど別に拙者のように球体をコロコロ転がさなくても大丈夫でござるよ。
母上はダイエットがわりだと言って、帰省のおりに球体だからとサッカーボールがわりにガンガン蹴飛ばして拙者達に『チョコチップアイス』を作ってくれたでござるし。昔からこの方法で作っていると話していたでござるから!」
つこみどころ満載の話を満足そうに話終え。皆で母上直伝の『チョコチップアイス』の残りを食べ進めるのであった。




