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和菓子『吹雪饅頭』と風花


『チリーンチリーン』と万次郎茶屋出入口に取り付けられたベルが鳴るなか


「う~~、外は寒々(さむさむ)でござる。

こんな外が寒い日は、暖かいお炬燵(おこた)でまったりしながら過ごすのが一番の至福の時間でござるねぇ~。

暖かいヒーターやカーペットも良いでござるが、やっぱり何と言っても冬と言ったらお炬燵が一番でござるよ。

はぁ~~、お炬燵は最高でござる!拙者、お炬燵ラブでござるよ。…………お炬燵(おこた)お炬燵お炬燵(おこたおこた)~~♪」


背中や両胸辺りに大きなマイメロちゃんが刺繍された取り外し可能のピンクのスカジャン、真っ白な肌触り良さそうな厚手のタートルネック

ここ最近流行りの裏ボワ付きのジーパン姿の愛之助が寒そうに背中を丸め。大きな独り言を呟き。

最後は何やらメロディーにのせてお炬燵(おこた)、お炬燵と歌いながら茶屋へと戻って来て、自身が使用した外掃除用の(ほうき)塵取り(ちりとり)納戸(なんど)になおし。


「ふぅ~、今日も完璧に外掃除終えたでござるよ。

さてさて、後は愛満に任務を終えた事を伝えるでござるか……………あっ!愛満。そんな所に居たでござるか!?商品棚の影に隠れて拙者全然気付かなかったでござるよ。

今日も無事、拙者の大切な任務、お勤めの一つ。外掃除を終えきたでござるよ。

だから茶屋の前や茶前の付近にはゴミに始まり、落ち葉一つも落ちてないほどの綺麗さでござるよ。」


商品棚にお手製の和菓子を並べていた愛満に気付き。今日も無事外掃除を完璧に成し遂げた事を愛之助は誇らしそうに伝える。


すると愛之助が茶屋へと戻って来てからの一連の大きな独り言や謎のお炬燵(おこた)の歌が聞こえていた愛満は、思い出し笑いを堪えながら


「愛之助 ご苦労様。いつも寒いなか外掃除ありがとね。凄く助かるよ。

あっ、そうだ。ご褒美じゃないけど、いつも寒いなか外掃除を頑張ってくれてる愛之助に豆乳クリームがこんもりとのった、温かい『イチゴミルク』作ってあげるね。」


自身も作業が一段落し。その日販売する季節折々の和菓子を並べ終えた愛満は、愛之助に労いの言葉をかけ。

茶屋店内に有るミニキッチンで、愛之助が大好きな豆乳クリームがこんもりとトッピングされた温かい『イチゴミルク』を作ってあげる事を伝えた。



◇◇◇◇◇◇



「はぁ~~♪美味しでござるよ、愛満。感謝感謝でござる。」


愛満お手製のイチゴミルクを堪能している愛之助が、鼻の下に豆乳クリームのお髭を付けながら幸せそうに微笑み。作ってくれた愛満へと感謝の言葉を伝える。


そんな幸せそうにイチゴミルクを飲んでいる愛之助を微笑ましそうに見ていた愛満も嬉しそうに微笑み。


「そう、それは良かった。タリサやマヤラ達が来るまで、まだ少し時間もあるし。お代わりが欲しかったらまた作ってあげるから、火傷しないようにゆっくりと飲むんでたら良いよ。」


「本当でござるか!やったでござる。

それにしても豆乳クリーム増し増しのイチゴミルクは本当に美味しいでござるね。外掃除で冷えきった拙者の体の骨の髄の髄までポカポカして温かくなった気がするでござるよ。

ほら、最近小雨や曇り空続きでござろう。今日だってどんよりした天気の曇り空でござるし。愛満も洗濯物の乾きがイマイチだと話していたでござるもんね。」


「そうだね。冬とはいえ、ここ何日も不安定な天候続きで、室内干しになちゃってるからね。

ピカピカ天気のお日様が懐かしいねぇ。」


「そうでござるね。はぁ~、拙者もニコニコ笑顔のお天気空のお日様が恋しいでござるよ。

それにしても愛満、年の瀬がせまっているとはいえ、日に日に寒さが厳しくなっているでござるね。

だからとは言わないでござるが、こんな天気でござるから心行くまで満足に外で遊べないでござるし。

タリサやマヤラ、光貴達も言っていたでござるがタク(ケンタウルス族)やルルナ(妖精族)、和調(かずなり)(黒エルフ)達と外で遊べても、この寒さでは花夜が風邪や体調を崩しそうで日課の散歩や外遊びに気軽に誘えないでござるし。」


年の瀬が迫ると共に日に日に寒さが厳しくなっている事や、年の瀬前に体調を崩しては大変だと満足に友人達と遊べない事等をついつい愚痴り。不貞腐(ふてくさ)れた様子で、カップに残ったイチゴミルクをチビチビ飲み始める。

そんな可愛い弟の愛之助の様子に、何やらお茶菓子の準備をしていた愛満は微笑ましそうに笑い。


「そうだねぇ~。この前なんかは、となり町まで乗り合い馬車を運営しているショウ達が『風花(かざはな)』が舞っていたと話していたもんね。それじゃあ、長時間の外遊びは出来ないよね。」


「風花?…………あぁ!この前赤い稲妻団のショウやサブリーダーのコウ達が教えてくれた小雪の事でござるね。

朝倉町は愛満が居るでござるからか、隣山が雪化粧で真っ白になっても、そこまでひどい天候にならずにすむでござるし。

今年はまだ(みぞれ)ぐらいで雪は降ってないでござるが、山の下の隣町では今年何度目かになる雪が降ったり。山に積もった雪が風に運ばれ、小雪が舞っていたのでござるよね。

乗り合い馬車を運転している寒さに強い熊族のマショや、護衛のショウやコウ達屈強な筋肉の鎧をまとった男達が朝倉町に帰ってくるまでが寒くて、寒さ対策が大変だと話していたでござるよ。」


「うん、そうだね。一応、赤い稲妻団が運営する乗り合い馬車の会社には、無料で使い捨てカイロやヒートテック素材の衣服なんかの寒さ対策が出来る品を渡しているんだけど、いくら対策したとしても寒さは辛いよね。

それに情報に疎い僕のために、ショウ達が隣町や隣町に乗り合い馬車で移動する行き来する間の小雪や雪が降ってたとか天候の事や、見聞きした色々な情報を教えくれたりするから本当助かるし。

確か『風花(かざはな)』と言う言葉も、僕がポロリと小雪が舞ってたなら、隣町では『風花』が舞ってるんだと話して、ショウ達がいつの間にか覚えてたんだよね。」


赤い稲妻団を率いる狼族のショウやサブリーダーの虎族のコウ達元同じ孤児院出で苦労した経験を持つ。

王都出身の赤い稲妻団の8人は、朝倉町への乗り合い馬車の仕事の紹介や、貴族に無理難題を持ち掛けられ、孤児院が建つ土地を取り上げられそうになって困っていた所を孤児院を営む元冒険者夫婦の先生達、可愛い弟分や妹分の孤児達を愛満が無償で助けてくれた事から心から感謝、次第に心酔していって

乗り合い馬車や冒険者業の仕事の合間に朝倉町外の情報を仕入れては、情報に疎い町長の愛満の為に何かと助けてくれていたのだ。

そして、愛満が話した聞き慣れない『風花』と言う言葉に興味を持ち。愛満から風花の意味を聞くと『風花』と言う言葉を気に入り。いつの間にか『風花』と言う言葉を使い始めた。


「そう、そうでござるよ。

それにしても『風花(かざはな)』と言う言葉は風情があり、美しい言葉でござるね。ショウ達が使い始めた訳も解るでござるよ!

風下の地域で風に運ばれてきた雪の欠片がちらちらと舞う事や、雪雲の一部が流れ込んで降る小雪、風が拭き始める時にちらつく雨や雪。

そんなあっけないほどの(はかな)さで消えてしまう雪片達に『風花(かざはな)』と言う美しい名前を授けるとは、愛満の住んでいた人達は、本当に風情豊かな優しい心の持ち主ばかりでござるね。

そして、そんな素敵な言葉を愛満に教えくれた拙者達のお婆ちゃんは、世界一の心優しき素晴らしいお人でござるよ!」


愛満に『風花』と言う言葉を教えくれた自分達の祖母の事をべた褒めする。

そんな愛之助の言葉に何やら照れ臭そうに照れ笑いする愛満は


「そうだよね。僕らの婆ちゃんは、世界一心の優しい人だよね。

それにしても愛之助すごいね。ショウ達の注文の品を準備しながら簡単に説明しただけなのに、良く覚えていたね。スゴいスゴい!

じゃあ、風花の意味を覚えていたご褒美じゃないけど、ショウ達の話から冬限定で発売する事にした和菓子『吹雪饅頭(ふぶきまんじゅう)』を贈呈するよ。」


ちょっとおちゃらけた様子で、シンプルなお饅頭形で、ちょっとシワがよった真っ白な見た目のお饅頭。『吹雪饅頭』が乗った和菓子皿を愛之助に贈呈する。


「うわ~♪お饅頭でござるよ!愛満、ありがとうでござる♪

パク……モグモグ……モグモグ………うん!シンプルな見た目ながら、しっとりした舌触り滑らかな皮や、上品な甘さのつぶ餡が口の中で見事なハーモニーを生み出し、実に美味でござるね!

………モグモグ、モグモグ………………あぁ~美味しいでござる。

あれ!?けど愛満、この『吹雪饅頭』、だいぶ前に愛満から食べさせてもらったことのある『田舎饅頭』に何処と無く似ているでござるね。」


あっという間に3個目の『吹雪饅頭』をモグモグ食べていた愛之助が、だいぶ前に愛満に食べさせてもらった事のある。

シンプルな丸いお饅頭形で、真っ白な薄皮に餡子が包まれた『田舎饅頭』をフッと思い出し。その『田舎饅頭』に何処と無く似ている『吹雪饅頭』を不思議そうに見詰め。お代わりのイチゴミルクを作ってくれている愛満へと質問する。


「あぁ、それはね。僕も詳しい事は解らないんだけど、『吹雪饅頭』と『田舎饅頭』は違うものになるそうなんだよ。

けど一般的には同じ扱いをされる事が多いみたいで、愛之助が今食べている『吹雪饅頭』は、文字通り吹雪いている様子を表したお饅頭になるんだけど

『田舎饅頭』は、畑に霜や雪が積もり、それを掘り起こした時の情景を表したお饅頭になるそうなんだ。

それに『吹雪饅頭』は、生地に白双糖を使用することにより、蒸し上げた後に白双糖が溶け。饅頭の表面にシワが入り。砂糖が溶けた模様が残って、その模様を吹雪に見立てているそうなんだ。

後、吹雪饅頭は餡が透けるくらいの薄い生地が特徴なんだって」


愛満が『吹雪饅頭』と『田舎饅頭』の違いを愛之助に説明していると、茶屋出入口の扉に付けられたベルが鳴り。

今日も元気に母親のアコラに連れられたタリサとマヤラ達3人が茶屋へとやって来て、目ざとく愛之助が飲み食いする『イチゴミルク』と『吹雪饅頭』に気付くと、タリサとマヤラの2人は近付いて一口貰い。

母屋からも日課のラジオ体操を終えた山背と光貴の2人が茶屋へと顔を出し、茶屋内は一気に賑やかになるのであった。



◇◇◇◇◇



こうして今日もまた、愛満や愛之助達の万次郎茶屋の1日は賑やかに過ぎて行く。




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