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和菓子『珈琲しぐれ』と大粒の雨と思い出



その日、皆がまだまだ寝静まっている早朝の早い時間帯。

昨日の深夜から降り続ける大粒の雨で、どこか薄暗い朝倉村の万次郎茶屋・台所場では、愛満に馴染み深いとある人物が好きで、よく実家に居たさい作ってあげていた。とある和菓子をせっせと作っていた。



「愛之助、生地と餡包むの手伝ってくれてありがとうね。もうすぐ蒸し上がるから少し待ってて」


「解ったでござるよ!

しかし愛満、インスタントコーヒーの粉を白餡に混ぜた珈琲味の餡子など、拙者初めて食べるでござるよ。珍しいでござるね。」


数少ない愛満を独り占めできる時間帯。愛満と2人、茶屋用の和菓子作りを終えた(手伝った)愛之助は、お礼に今日から発売する事になる。

万次郎茶屋・期間限定の新商品『珈琲しぐれ』が誰よりも早く食べれとあって、実にワクワクとした様子で『珈琲しぐれ』が蒸し上がるのを待ちつつ。

初めて食べる珈琲味の餡子を珍しく思い。後片付けをしている愛満へと声を掛けた。


するとそんな愛之助からの質問に、手早く後片付けを終えた愛満が


「ううん、そうでもないんだ。

あのね、向こうの世界では、どちからと言うと和菓子より生クリームが使われたケーキや洋菓子の方が人気が高いんだよ。

だから和菓子よりも洋菓子が好きな人達にって、少しでも和菓子に興味をもってもらう為。沢山の和菓子職人さん達が色々な知恵やアイデアを絞り。

古いしきたりを守りながらも毎年試行錯誤された新作の和菓子を沢山生み出してくれているんだ。

だからね。どちらかと言うと珈琲味なんかの和菓子は、以外にポピュラーな分類に入るんだよ。」


愛之助が驚いた珈琲味の和菓子が日本では以外にポピュラーになる品だと話。


「へぇ~、そうなんでござるか!しかし餡子に珈琲をプラスするなど、愛満の故郷の和菓子職人さん達はスゴいでござるね♪

あっ!そしたら拙者が大好きな苺味のお饅頭もあるかもしれないでござるね!」


「そうだね。僕がまだ知らないだけで、苺味のお饅頭があるかも知れないね。

そうだ!今度調べて、愛之助の為に作って上げるね。」


「えっ!?本当でござるか!ありがとうでござるよ、愛満!

拙者、楽しみでござる♪」


次回、自分が大好きな苺味のお饅頭が作ってもらえる事を愛之助が喜ぶ中。

蒸し上がっている最中の『珈琲しぐれ』の香りが台所内に漂い。そんな『珈琲しぐれ』の香りに愛之助の意識が『珈琲しぐれ』へと戻り。何やら考え込んだ様子で


「愛満、しかし今回の新商品はどうして『珈琲しぐれ』に決めたでござるか?」


「あぁ、今月の期間限定菓子を『珈琲しぐれ』に決めた訳はね。

何て事ないんだけど、僕の2人居る兄の愛和(よしかず)兄ちゃんと愛明(なるあき)兄ちゃんのうち、片方の愛明兄ちゃんが大の珈琲(コーヒー)好きでさぁ~。

毎日珈琲を何十杯も飲むような人だったんだ。

けど、あまりにも食事もとらずに珈琲(コーヒー)ばっかり飲むもんだから家族や周囲の人達に体調面も含めて心配されちゃって………。

とうとう堪り兼ねた婆ちゃん達から、ある日愛明兄ちゃんに対して珈琲制限が出されてしまったんだよ。

まぁ、ちゃんとご飯を食べなかった愛明(なるあき)兄ちゃん自身が悪いんだけどね。」


何処が『珈琲しぐれ』と繋がるのか解らない。愛満の2人居る兄のうちの1人、愛明(なるあき)の事を話し始め。


【ちなみに愛満には三つ子になる兄&姉が居り。

長男の愛和(よしかず)、次男の愛明(なるあき)、長女の愛華(まなか)になる。】


「で、そんな珈琲制限のかかるある日の事。

軽い珈琲(コーヒー)禁断症の兄から、珈琲(コーヒー)味だったら何でもいいから珈琲味のする物が食べたいとリクエストされてね。

いろいろ調べて作ってあげた和菓子が、この『珈琲しぐれ』だったと言う訳なんだよ。

その結果。普段あんまり甘い物を食べないのに何故か『珈琲しぐれ』を気に入った兄ちゃんから、また『珈琲しぐれ』が食べたいと度々リクエストされてね。

よく『珈琲しぐれ』を作ってあげてたんだ。

あ、後!その珈琲好きならぬ。少々変わり者な兄が珈琲と並ぶくらいに無類の雨好きになってさぁ。特に大雨の日なんかは機嫌が良くてね。

ここ最近、うちの方でも雨空だった事もあるし。

今朝外を見たら大粒の雨が降ってて、何だかそんな兄の顔を思い出しちゃって

どうせならと、兄が好きな『珈琲しぐれ』を今月の万次郎茶屋・限定菓子に仲間入りさせちゃおうと閃いた訳なんだよ。」


故郷(ふるさと)に暮らす兄の事を思い出しているのか、何処か懐かしそうに、また可笑しそうに笑い。

今日『珈琲しぐれ』を突然作り始めた訳を愛之助に教えてくれ。


「へぇ~~~、何やら面白い兄者(あにじゃ)でござるね♪

あっ!しかし愛明(なるあき)兄者には申し訳ないでござるが、拙者、愛明兄者が好きな珈琲はカフェオレでしか飲めずでござるし。

同じく愛明兄者が好きな雨は、作物や植物に恵みをもたらす大切な物と解ってはいるのでござるが、………正直言って、あまり仲良くはできないでござるよ。

だってねござるね!雨が降ると髪がたまに言うことを聞いてくれなくなるでござるよ。

ほら、今朝も一つに結ぼうとしても言うことを聞いてくれなくてでござるね。結局グルグル巻きの二つのお団子にしたでござるよ。

……………ハァ~~~、雨の日とは、なかなか手強い敵の武将のようでござる。」


愛満の話に納得した様子で頷きながら、何やら雨の日の湿気との戦いに毎回苦戦している事を今度は愛満へと教えてくれ。

そんな何気無い話をしつつ。愛之助楽しみの『珈琲しぐれ』が蒸し上がるのを待っていた所。

タイミング良く、セットしたタイマーが鳴り。『珈琲しぐれ』が蒸し上がり。


蒸し上がった『珈琲しぐれ』の出来上がり具合を一目早く見たい愛之助が、愛満の隣からムクムクと上がる湯気に気を付けながら蒸篭の中を除き混んだ所。


「蒸し上がったでござるね、愛満!拙者、楽しみでござるよ♪

うわ~~~、珈琲しぐれはどんな具合でござるかな………って、……………………………………よ、愛満!大変でござるよ!

ま、ままま、饅頭が全部ひび割れているでござるよ!せ、拙者失敗したでござるか!?

あ~~~ぁ、どうしょうでござる!拙者のせいで『珈琲しぐれ』全部失敗してしまったでござる!!!」


蒸籠内、全ての『珈琲しぐれ』の皮がひび割れているのを見て、自分の包み方が悪く失敗したのだと思い込み。

すっかり八文字眉で瞳には涙を浮かべて、実に申し訳なさそうに愛満の事を見る。


「大丈夫、大丈夫だよ、愛之助。

この『じぐれ』という和菓子はね。蒸し上がりに皮がふわっとひび割れていたら大成功なんだ。

だからこのひび割れは愛之助の包み方が上手だったという証なんだよ。

ほらほら、そんな顔しないの。失敗した訳じゃないんだし、元気だして!

それにもし失敗したとしても、僕の故郷では『失敗は成功のもと』って言うんだよ。

だからそんなにクヨクヨしなくて良いし。失敗しちゃったら僕と愛之助のお腹の中に隠して(納めて)、2人で仲良く証拠隠滅しちゃえばいいんだよ。」


愛之助の誤解を解き。慰めるようにして励まし。更に続けて


「あっ!けど、お礼の『珈琲しぐれ』はちょっと待っててね。

ほら、僕も久しぶりに『珈琲しぐれ』作ったでしょう。

だからと言う訳じゃないけど、今フッと思い出したんだけど『じぐれ』は蒸し上がりは本当崩れやすくてね。

蒸籠から丁寧に取り出し、冷まさなきゃいけなかったんだった。ごめん、ごめん、本当にド忘れてしてたよ。」


すぐに『珈琲しぐれ』が食べられない事を伝え。

お礼の『珈琲しぐれ』が直ぐに食べれず。ショックを受けて膝から崩れ落ちる中。


少々、気まずそうに苦笑いを浮かべた愛満が


「………………あっ、そうだ!変わりと言っては何だけど、今朝の朝ご飯の玉子焼きの中に、愛之助が好きな明太子とほうれん草を豪華に巻いて作ってあげるよ。

どう?美味しそうでしょう、食べたくない?

それにこの『珈琲しぐれ』だったら、朝ご飯後にでも食べられるんだし。ダブルでお得だよ!」


ご褒美の『珈琲しぐれ』が、今すぐに食べられない変わりに明太子とほうれん草が入った豪華玉子焼きを作ってあげると提案しつつ。

今だ座り込む愛之助を立ち直らそう努力して


「うーん、明太子とほうれん草入りの玉子焼きでござるか………うん!解ったでござるよ!

あっ!けどでござるね。後、今日のお味噌汁の具はナメコと大根おろしが良いでござる。

後々!納豆には冷蔵庫に入ってる鮪の切り身を入れて欲しいでござるよ。

それからそれから、後!この前食べたちくわとピーマンのピリ辛炒めが食べたいでござる。

うーーんと、後、後、後!………」


「うんうん、解った。解ったよ!後は何が食べたいの?

今日は愛之助が食べたい物、朝ご飯に全~~部作ってあげるから落ち着いて」


『珈琲しぐれ』のお手伝いのお礼のはずが、最後はただ愛之助が食べたい朝ご飯の発表会になっていき。

知らず知らずのうちに2人の顔に微笑みがこみ上げ始め。

和やかな空気の中、『珈琲しぐれ』の下処理を終えた愛満は、お手伝いをかって出てくれた愛之助と2人。朝ご飯の準備にとりかかり始め。


そうして、大粒の雨と愛満の思い出と共に万次郎茶屋・期間限定商品に飛び入り参加した『珈琲しぐれ』は、お客さん達に受け入れられるのであった。




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