小海老の唐揚げと敬老の日のお祭り
「はい、葦那お婆、救世もお待たせ。
敬老の日のお祝い料理『小海老の唐揚げ』だよ。まだ揚げ上がったばかりだから、袋の口は開けたままにしてるから気を付けてね。
それから、こっちの白い紙袋に入ってるのが塩味でね。真ん中の薄緑色の袋が青海苔味、端の薄黄色の袋がガーリック味になるよ。
本当に揚げたて熱々だから、2人とも火傷しないように気を付けてね。
さっきエイモンお爺が揚げたて熱々て注意したのに、小海老だからと欲張って5匹も口に入れて食べたら、案の定口の中を火傷して治療してあげたばかりなんだから!
救世も本当に揚げたて熱々で熱いから火傷しないように気を付けるんだよ。口のなか火傷したら美味しい物も食べられないし。火傷したら痛いよ~!」
愛満は、お揃いの紅葉柄の浴衣と甚平姿の5、6才くらいの年頃の孫と手を繋いだ。
茶飲み友達でもある葦那や、祖母が持つ揚げたて熱々の『小海老の唐揚げ』が入った紙袋を興味津々の様子で除き混んでいる孫の救世へと声をかける。
「愛満、ありがとう。本当に揚げたて熱々で湯気が出てるわね。それに小海老が揚げられて、ほんのり赤く染まった色もまた食欲をそそるわ♪
これならエイモン爺じゃないけど、揚げたて熱々って解っていても、あんまりにも美味しそうな見た目や匂いに誘われて
エイモン爺のように小海老の唐揚げを口いっぱいに頬張りそうになっちゃうから、この子もだけど、私も気を付けなくちゃ2人揃って口のなか火傷しちゃいそうだわ。」
愛満から受け取った3種類の『小海老の唐揚げ』が入れられた大袋を持つ葦那が、今にも袋に手を伸ばさんばかりの様子の孫から小海老の唐揚げを死守しつつ。楽しそうに笑い声をあげる。
一方、小海老の唐揚げがまだ貰えない事に気付いた孫の救世も少々しょんぼりしながらも、何やら思い出して興奮した様子で
「なぁ、愛満。愛満が造ってくれた洞窟の中の露天風呂すげえなぁ!
最初地下にある風呂って聞いた時は、ちょっと前まで逃げ隠れてしていた。あの薄暗れえ地下と同じかとガッカリしてたんだけどさぁ~!
風呂に足を一歩踏み入れてみたら洞窟の天井は、すげえ高けえし!岩でできた風呂も広くて、天井が何か星のようにキラキラ光輝やいてて、まじ最高だったんだぜぇ!
俺 いつも旨い飯や和菓子作ってる愛満しか知らなかったから、今日改めて、あんな広々した立派な露天風呂を造れる愛満を見直したし。
兄ちゃん達と対して変わらないチビの愛満が、本当にスゴい奴な事や、人は見かけじゃないんだと改めて考え直したぜ!
うんうん、さすが俺達の町の町長だぜ!
それにこの紅葉柄の甚平や下駄もお風呂上がりにサラサラしてて、本当に最高だな。
前に愛之助やタリサ達が着てて『良いよ、良いよ』と言ってたけど、見慣れない服だったから、ちょっとアレと思ってたんだけど、あいつらの言ってたこと本当だったぜ。
俺も今日着てみてすっかり気に入ったから、家に帰ってからも風呂上がりは、この甚平を着ることに決めたんだぜ!」
上のわんぱく小僧の兄達につられ。少々………いや、かなり可愛らしさが薄まり。
顔はまだまだ幼く可愛いのだが、口の悪さと共に生意気さ全快にパワーアップしてしまった救世の口調の悪さに祖母の葦那が頭を抱え。愛満は苦笑いして救世に話しかけようとしていた所。
愛満達と一緒に『小海老の唐揚げ』ブースで汗水垂らしている。婦人会の一員でもある葦那の娘で、救世の母親でもある櫛名がやって来て。
最近ますます上の兄達の真似をして、口の悪くなった息子の救世に特大の拳骨をプレゼントしたりと
いろいろあったりしたのだが、葦那や、祖母や母親に怒られ、母親の櫛名に抱き付く半べその救世も喜んでくれている。
敬老の日のプレゼントの1つにもなる浴衣や甚平を、この日のために準備していて良かったと愛満はしみじみと思い。
3世代になる祖母の葦那や櫛名、救世親子の日常のひとこまを眺め、笑みを浮かべた。
◇◇◇◇◇
愛満や婦人会のメンバーの櫛名や、奥様方が忙しくて働いている、この日。
愛満達が何をしているかと言うと、愛満の故郷でもある日本では『敬老の日』が祝われており。
世界は違えど、人生の先輩にもなるお年寄りを敬うことは素晴らしい事だと思う。お爺ちゃん子、お婆ちゃん子の愛満は、こちらの異世界でも敬老の日を祝う事を思いつき。
数ヵ月前から町の人達と話し合った結果。
初めは風呂屋・松乃の風呂を無料で楽しんでもらい。宴会場を借り。美味しい物を食べてもらったりして『敬老の日』をお祝いしょうかと考えていたのだが、たまたま運悪く。すでに9月18日は団体客の予約がなん組も入っており。なん部屋も有る宴会場も別の団体の客さんに軒並み押さえられていて。
その為、考えに考えた結果。
愛満が密かに町の中に町家を装い造り上げていた。第2の秘密基地こと、地下にドーム状の洞窟を自身の力を使って生み出した。
ドーム状の洞窟の天井が、まるで夜空に浮かぶキラキラと光輝く星のような絶景を拝める。岩風呂の洞窟露天風呂を(自身も、まだ3回しか利用していないのだが)山背のうっかり発言から、またまた断腸の思いで町民用の共同風呂として解放する事を決め。
(ちなみに第1段の秘密基地も昔、短い期間(………嘘。ほんの数日だけ)にはなるのだが、愛満の男の秘密基地として存在していて、様々な出来事から今回のように泣く泣く断腸の思いで、とある人達に明け渡す事になり。
今は町の人達や、町を訪れる人達から大絶賛のピザ屋兼住居として活用されている。)
9月18日のこの日、朝倉町のお年寄りやその家族で付添人になる家族の人達に洞窟風呂への招待状を送り。
18日になるまでの期間に、大急ぎで愛満が男風呂や女風呂に造り直したり。
ドーム状の洞窟天井に光輝く星達を、まるで本当の夜空のように時間と共に星が動くように仕掛けたりと、愛満最高傑作の洞窟露天風呂を楽しんでもらい。
敬老の日のお祝いとして愛満が、なん店舗かのお店に発注。プレゼントとして贈った紅葉柄やトンボ柄の浴衣や甚平、下駄で洒落こみ。
秋風で涼んでもらいながら、朝倉町内の飲食店やお店全店舗で使えるクーポン券をプレゼントして、食べ歩きや買い物を楽しんでもらっているのだ。
そして葦那達が愛満から受け取っていた『小海老の唐揚げ』は、婦人会の奥様方から自分達も何か『敬老の日』のお祝いに貢献したいとお願いされ。婦人会メンバーを交えて話し合い。
朝倉町と婦人会からの町民や、町を訪れた人達、全員への敬老の日の無料で振る舞われる祝い料理を提供する事を決め。
町の婦人会の奥様方と一緒に愛満達は汗を流しているのだ。
◇◇◇◇◇
そうしてその後、お腹が空いたと騒ぐ救世の話で、近くの休憩所で『小海老の唐揚げ』を食べに移動する葦那達を見送り。
愛満は、また忙しそうに『小海老の唐揚げ』を貰いに来る人達にテキパキと接客したり。小海老の唐揚げを揚げ、調理したりと婦人会メンバーと一緒に頑張り。
何とか忙しさのピークのお昼を過ぎて、客足もだいぶ落ち着き。
婦人会メンバーの皆と交代交代で『小海老の唐揚げ』のクズをお茶請けに一息き。テント裏の休憩場で休憩していると、婦人会メンバーの1人。大柄で力持ちの者が多い熊族で、7人の子供達を育てている肝っ玉母さんのドリスが愛満の隣の席にドスンと座り。
「愛満、お疲れさま。はい、良かった梨持ってきたんだけど食べない?」
自身が持参した皮を剥いて、食べやすい大きさに切り分けた梨を愛満に差し出し、話しかけてくる。
「あっ、ドリスさん、ありがとうございます。……………この梨、瑞々しくて、甘く美味しいですね。」
「本当に!良かった。実は、最近娘と一緒に果物にハマっちゃってね。夏のスイカから桃に始まり、今は梨にハマっててね。毎日必ず一回は食べてるのよ。
あっ、それより。『小海老の唐揚げ』みんな喜んでくれて本当に良かったわね。みんな『美味しい、美味しい』と喜んでたわよ。
実を言うとね。最初『敬老の日』って何か良く解らなかったのよ。けど、この前の話し合いで愛満の説明を聞いて、今では本当に素晴らしいお祝い事だと改めて思ったし。
えっと、確か『長年にわたり社会や家庭のために働いてきてくれたお年寄りを敬愛し、長寿を祝う日』だったけ。
その言葉を愛満から聞いてね。昔住んでた町では、働けなくなった年寄りは、町や村のお荷物だと考えてた領主の考えと真逆で、本当に素晴らしい考えだなぁと思っし。改めてこの町に移り住んで良かったと心から思った訳よ。」
しみじみ話、マイブームの梨を豪快にモシャモシャと食べ始める。
そんなドリスの話に、少し照れくさそうに笑う愛満は
「いやいや、僕が考えた訳じゃないんですけどね。僕の故郷の遥か昔の偉い人(聖徳太子)が、仏教の慈悲思想に基づき。
身寄りのない老人や病人達のために摂津の四天王寺(現在の大阪市)に『悲田院』という身寄りのないお年寄りや病人を救済する施設(福祉施設)を建てたのが9月15日になるそうで、これにちなんで『としよりの日』という記念日が設けられたのが始まりなるそうなんです。
だから僕が偉いじゃなく、ドリスさんがさっき話したみたいに、昔の長年社会や家庭のために働いてきてくれた人生の先輩方がスゴいんですよ。
けど、そう思ってもらえる事は嬉しいです。ありがとうございます。」
敬老の日の成り立ちを話。何やら思い出した様子で
「あっ、さっき『としよりの日』と説明しましたけど、『としよりの日』の名前に異論が多々でまして。
今では『老人の日』に変わり。『敬老の日』や『老人の日』と呼ばれているんです。」
「へぇ~、そうだったの。
あっ、けど私も『としよりの日』なんて言われたらカチンときて、せっかくのお祝い事でも腹が立つかもしれないから、『老人の日』や『敬老の日』て呼び名を変えたのは良かったと思うわよ。」
「そうですよね。家の爺ちゃんも『老人の日』ならギリギリ我慢できるが『としよりの日』と言われたら腹が立つと昔言っていましたよ。」
「そうよねぇ~!としよりと老人じゃ、だいぶニュアンスが違うのよねぇ~!」
2人揃ってクスクスと笑っていると、『小海老の唐揚げ』のクズをモグモグ食べながら、別の婦人会メンバーのエバが『小海老の唐揚げ』入りのザルを持ち。愛満やドリスの前の席に座り。
「はい、『小海老の唐揚げ』のクズ貰ってきたわよ。皆で食べましょう。
…………モグモグ………それにしても昔は小海老、小海老とバカにしてたけど、こうして油で揚げて味つけした小海老の唐揚げは、本当に美味しいわね。
私 あんまりに美味しいから、今日の父ちゃんと私の晩酌のツマミにって、別に取り置きしてもらちゃったわよ!
あっ、けど、どうしてお年寄りを敬う敬老の日に小海老の唐揚げを祝い料理に決めたの?私 小海老を揚げてて、ずっと不思議だったのよね。」
小海老の唐揚げの感想を交えつつ。どうして敬老の日の祝い料理が『小海老の唐揚げ』になったのかと不思議そうに質問した。
そんなエバの質問に、小海老の唐揚げのクズを食べていたドリスも『そうよね、なんで小海老なのかしら?』と同意して質問し。
カリカリと小海老の唐揚げのクズを食べていた愛満は
「あぁ、小海老の唐揚げを敬老の日の祝い料理にした訳はですね。僕の故郷の話が続いて恐縮なんですけど。
僕の故郷では、海老は長い髭と腰が曲がった姿から海の老と発送され。そのため海老とも書かれていて、長寿の願いを込めて食べる縁起料理とされてるんです。
他にも邪気を祓う赤い色も祝い料理には欠かせない食材にもなってまして。
最初、海老を使った料理にしょうかと考えていたんですけど、あんまり手間隙がかかる料理はどうかなぁと思ってたら、たまたま2日前に克海に会った時に、小海老が沢山捕れたからと言って、万次郎茶屋までわざわざ沢山持ってきてくれまして」
つい2日前の出来事を何やら遠い目をして話始め。
「愛之助達が『食べたい、食べたい』とリクエストを受け。
その場で少し、す揚げして食べたらスゴく美味しくて、みんな『美味しい、美味しい』と喜んでくれたのは良かったんですけと…………………たまたまその場に山背と将棋しに来ていたモリスお爺達が3人居て。
す揚げした小海老の唐揚げを食べたモリスお爺達が、ことのほか気に入ってくれ。敬老の日の祝い料理は、絶対コレが良いとリクエスト(言い出して)してくれて………。
最初、小海老を殻ごと揚げる調理法から、歯の悪いお年寄りにはダメじゃないかと心配して聞いてみたら、モリスお爺達から『ワシらの歯はそんな柔じゃない!』と叱られてしまって……………………。
まぁ、それからいろいろ長~い時間、モリスお爺達の武勇伝話に付き合わされ………………いつの間にか、モリスお爺達にお酒が入っていて…………いろいろ、本当にいろいろとあった結果。
敬老の日の主人公の1人でもあるモリスお爺達の意見を取り入れ。敬老の日の祝い料理は『小海老の唐揚げ』に決まったんですよ。」
乾いた笑いをこぼしながら、何やら言葉では伝えきれないほどの苦労や出来事を乗り越え。敬老の日の祝い料理が『小海老の唐揚げ』になった訳を話すのであった。
◇◇◇◇◇
こうして朝倉町主催の『敬老の日』や、婦人会主催の『小海老の唐揚げ』のブースは大盛況の末終わり。町のお年寄り達や、朝倉町を訪れた人達から喜ばれた。




