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栗ご飯と重陽の栗節句



「いらしゃいー、いらしゃいー!今年初の栗ご飯が炊きたてだよー!」


「いらしゃいへけっ!いらしゃいへけっ!腹持ちが良いお米ともち米が入った栗ご飯へけっよ~!」


「大きな栗がゴロゴロ入った栗ご飯でござるよ~!

あっ、そこのお兄さん!今日から発売が始まった栗ご飯でござるよ。しかしもさっき炊き上がったばかりの炊きたでござる!食べなきゃ損でござるよ。

しかも!今なら試食も有るでござるよ。お1ついかがでござるか?あっ、チームの皆さんも試食どうぞでござるよ!」


「おねぇたん、くりごはんおいちいよ!ちゃべてみちぇ!」


大きく米と書かれた前掛け姿のタリサや光貴、愛之助、マヤラ達4人が大声を出して、今年初の『栗ご飯』を売り込み。

栗ご飯に馴染みのない道行く人達に積極的に声をかけ、試食品の栗ご飯を食べてもらい。


「いらしゃいませ。栗ご飯3人前ですね。1つ銀貨1枚になりますので、3人前で銀貨3枚になります。

はい、ちょうどですね。毎度有り。またよろしくお願いします。」


「いらしゃいー。あっ、カトレアじゃん!今からお昼?

なら栗ご飯と茸たっぷりの茸汁セットが1人前銀貨1枚と銅貨5枚でオススメだよ!どうする?

あっ、そうだ。カトレアが買ってくれるなら、今なら今日のおやつとして持って来た。このニンジン袋に包まれた家の人気米菓子のポン菓子1本サービスしちゃうよ。………いや、友人サービスで2本あげちゃう!さぁ、どうする!」


「いらしゃいませ~!2個入りセットの栗お握りを1人前ですね。銀貨1枚になります。ありがとうございました~!」


「はい、いらしゃいませ。栗お握りとお茶セットを2人前ですねぇ。1人前銀貨1枚と銅貨2枚なので、2人前で銀貨2枚と銅貨4枚になります。

はい、こちらが栗お握りが入った袋で、お茶は冷たいので別の袋に入れてます。毎度有り。またよろしくお願いします!」


「母さん、追加の栗ご飯、栗お握り、茸汁貰ってきたよ。ここ置いとくね。あっ、それからお茶も追加しといたからね。」


普段は米屋や米菓子、甘酒等を販売する店で働くマリア達親子が、栗ご飯を気に入り購入してくれるお客さんの接客をしながら、あうんの呼吸でテキパキと集まったお客さん達をさばいていた。



その日、町中に菊の花があちらこちらに飾られ、沢山の菊の花に包まれた。

2日間の土日開催のお祭り期間中の朝倉町では、万次郎茶屋の面々や米屋勤務のマリア達親子の姿が、様々な種類や具材の『お握り』、『炊き込みご飯』、『おこわ』等、幅広く調理された米料理や

定番商品のシンプルな『豆腐とワカメの味噌汁』、酒飲みに好まれる『しじみの味噌汁』、冒険者からの人気が高い『豚汁』の三種類と日替わりで旬の具材や味噌が変わる具沢山の味噌汁が楽しめる『お味噌汁』を販売している。

2人の名前を合わせた『お握りとお味噌汁のお店・コペタマ』にあった。


この『コペタマ』愛満達とも大変仲の良いアルフ家三男 米農家兼米屋、酒蔵、米菓子、甘酒等お米を使う品物を手広く販売するシャル家七男コペイと、お味噌大好きのコプリ族のタマネの2人が営む飲食店になり。


最近愛満がとある種族の者達と取引を始めた。とある種族の者達の取引品で、こちらの世界にもあったのかと愛満が大変驚いた。栗と良く似た『ポンテ』という木の実を使い。

試行錯誤の末に誕生した新商品の『ポンテご飯』、『ポンテお握り』を愛満の提案で、とある行事に絡めて大々的に売り出していたのだ。


なので普段2人でのんびりと営業しているコペタマ店の人手では、人手が足りないと判断した愛満の募集で、接客に慣れているコペイの兄や姉、妹などの兄妹達、本人達からの強いプッシュで愛之助やタリサ、マヤラ、光貴達が売り子として愛満に臨時のアルバイトで雇われ。

そこに心配したコペイの母親のマリアが当日に加わったりと、皆でコペタマ店の新商品になる栗ご飯の売り上げをのばそうと頑張っていた。


ちなみにお店前で売り込みしてくれている愛之助達の近くに山背もいて。ちゃっかりポンテの木の実を使って、最近覚えたばかりのカップを使ったマジックなどを披露しながら、大多数が銅貨になるのだが、大量のおひねりを稼いでいた。


「むふぅ~~♪スゴいのじゃ!銅貨だからとバカにせずに頑張れば、塵も積もればガッポリなのじゃ~!

よしよし!こんなにあれば、後で愛之助や花夜達チビッ子ども集めて、明日にでも何か甘いもんでも食わせてやるかのう~♪」



◇◇◇◇◇



そんな愛之助達が店前で頑張ってくれているなか。店内で販売している定番商品の売れ行きも順調で、接客をこれまた愛満に雇われたタマネの友人達コプリ族の者達に任せ。

店内奥にある厨房に居る。この店の店主になるコペイやタマネ、愛満達も商品を切らさないようにとモクモクと上がる蒸気と戦いながら、店内用の商品を作り終え。

今は、大量の栗ご飯を大きな蒸籠で炊き上げ。使い捨ての木箱に栗ご飯を詰めたり。少し蒸らした熱々の栗ご飯をお握りに握ったりと、こちらもこちらで頑張っていた。


「アチい、アチい!………………あぁ~熱かった!

けどこれで最後の栗ご飯になるから、あと一息の頑張りだね、タマネ、愛満。

それにここまで完成させちゃべば、後は魔法の箱になおしていれば閉店時間まで数は大丈夫だと思うし。あと少し!みんな頑張ろ~う!」


蒸らしまで完了させた熱々の栗ご飯を蒸籠ごと作業台に動かし。長時間の作業や熱さで真っ赤に染まった手のひらなんか何のその。

テキパキと栗ご飯を木箱に詰め始めたコペイは、頭には真っ白な三角巾を被り、口元には衛生面などを配慮して、しっかりマスクをした。持参したエプロン姿で隣の作業台で黙々と栗ご飯のお握りを握っている愛満や、コペイとお揃いの割烹着姿のタマネに声をかける。


(ちなみにここだけの話。

割烹着姿と言ってもコペイもタマネも2人とも元々病弱な体質や種族柄、小柄な体格の為。見ようによっては、まるで小学生の給食当番の姿に見えなくもなく。

近所の奥様方やお姉様方から、小さな二人がちょこまかと一生懸命に働く姿に、何やら心を鷲掴みにされ。日々の職場や家庭でのイライラが吹き飛び。町に数ある隠れ癒しスポットの1つだと密かに噂されている。)


すると最後のお握りを握り終えた愛満が、手にしていたビニール手袋を外し。前屈みで作業していて凝った腰をトントンと叩きながら


「そうだね、あと一息だから頑張らなくちゃね。

僕も最後のお握り用の栗ご飯握り終えたから、今からこの栗お握りと漬物一緒に笹の葉で包めば終わって完成だから、もう一息頑張るよ。

あっ、そうだ。こっちが終わったらコペイやタマネの手伝いするから待っててね。」


新たにビニール手袋をしなおして、テーブル一杯にお握りを包む用に加工された笹の葉を並べ。栗お握り2個とお漬物2枚を置いて、手際良く包んでいく。


一方、味噌汁担当のタマネも売り切れた店内用の豚汁や、椎茸、シメジ、舞茸、エノキ、なめこ等の沢山の茸を下処理し。大鍋を使って茸を使った味噌汁を豚汁と同時進行で作り終え。

愛満の不思議な(パワー)が施された蓋付きの味噌汁カップに茸汁を注ぎ入れ。持ち帰り用の茸汁を完成させていて


「コペイも愛満もありがとう。僕の方も豚汁も作り終えて店内に渡して来たし。鍋の茸汁をカップに注ぎ入れて、使った調理器具洗い終えたら終わるから、こっちの作業が終わったらコペイや愛満の手伝いに移動するからね。」


お互いに労いの言葉を掛け合いながら、各々が担当した仕事を最後まで責任もって頑張り。


一足先に作業終えた愛満が三段目の蒸籠の栗ご飯を木箱に詰めているコペイの元に移動し。

木箱の蓋を閉め、手際良く紐で結びながら、割り箸とミニおしぼり、塩黒胡麻入りのミニ袋を紐の間に差し込み。魔法の箱へと詰め込んでいると、何やら思い出した様子のコペイが、少々マスクごして聞き取りにくいながらも


「けどさぁ、愛満。確か9月9日の9が重なる今日って、今年もだけど菊を使ってお祝いをする日じゃなかったけ?どうして栗ご飯なの?」


去年朝倉町で開催されたお祭りの1つで、町民や町を訪れた人達にコペイの実家にあたる酒蔵仕込みの清酒に、菊の花びらを浮かべた『菊酒』を愛満のポケットマネーから振る舞われた記憶が強く残っているコペイは、9月9日と9並びで覚えやすい日にちもあり。今年も実家の清酒を使った『菊酒』が振る舞われるなか、どうして自分の店だけポンテを使った商品を大々的に売り出したのかと不思議そうに質問する。


すると驚いた様子の愛満が作業の手を止め。コペイの顔をまじまじ見つめながら、何やら慌てた様子で


「えっ?前に重陽の日に栗ご飯を発売する訳 話さなかったけ?………あれあれ?……な、何かごめんね!コペイもタマネも本当にごめん!」


コペイ達に説明していた気でいて、思い違いしていたことをコペイや、離れた所で作業しているタマネ達に頭を下げて謝る。


そんな愛満の姿に、何気無く聞いただけで深い意味などなかったコペイは、逆に慌てて。全然気にしてなどないから そんなに謝らなくても大丈夫だよと愛満に声をかけ。お互いに謝り合うという変な現象が起きてしまい。


そうしてその後、作業終えたタマネの声かけで、何とか落ち着きを取り戻した愛満とコペイ達は、謝り合っていた訳をタマネに説明し。話を聞いたタマネと一緒に栗ご飯を包みながら


「確かね、ポンテご飯が完成した日。何かカレンダーを眺めてた愛満が、急にどうせなら9月9日の重陽の日に縁起担ぎに販売を始めようかと言って、今日に決まったはずだよ。

それにそれから栗ご飯用の使い捨ての木箱のお弁当箱や、お握り用の笹の葉、お味噌汁用のカップだったり。

栗ご飯とお握り用のお米やもち米、ポンテや、お味噌汁用の茸の材料のおおよその量を計算しながら発注したり。

愛満も自分のお店や重陽の日の2日間のお祭りの準備や組合の話し合いなんかで、お互い忙しく。なかなかゆっくり話し合う時間もなかったからね。」


愛満のせいではないとフォローしてくれ。そんなコペイやタマネの優しさに愛満は感謝しながら、どうして重陽の日に栗ご飯を販売し始めようと思ったのかを説明し始める。


「あのね、そもそも『重陽(ちょうよう)の日』とは、僕の住んでた故郷の五節句のひとつになってね。

偶数を『陰』、奇数を『陽』と考える陰陽五行説で、奇数の中で最も大きな『九』を陽が極まった数字と考えられ。『九』が重なる九月九日を『重陽』と呼び。

邪気を祓い不老長寿の妙薬と考えられていた菊に長寿を祈り。別名『菊の節句』こと重陽(ちょうよう)の節句をお祝いする日になるんだ。

それでね。まぁ、いろいろな行事を楽しむ催しもあるんだけど、今回はそれは はしょって。

重陽の節句は『菊の節句』の他にも別名『栗の節句』とも言われていてね。

田舎の農村地では菊の花より、ちょうど収穫時期を迎える栗を使ってお祝いしていたそうなんだ。

それに秋の味覚を代表する栗は、夏の暑さで消耗した体力を回復させる作用もあり。

栗を使った料理や栗ご飯は、夏の暑い時期も毎日頑張って農作業をしてくれた。日々頑張ってくれている農民の人達の格好の秋の祝いの膳になったんだろうねって、昔 故郷の婆ちゃんが教えてくれたんだ。」


自身も祖母から教わった重陽の節句の一説を話。


「だから今年の夏の暑い時期も毎日頑張って、美味しいお米を作ってくれているコペイのお父さんのシャルさんやお兄さん達、コペイの家族みんなや

ほら、町の皆に食べてほしいからって普通銀貨1枚と銅貨2枚から5枚ぐらいの価格設定なのに、値段を価格設定ギリギリの銀貨1枚の値段設定にするって話してたから、町民の人達へのコペイ達からの秋の味覚の美味しいプレゼントになるかもと思ったし。

町を訪れた人達へのお米の美味しさを広める活動に一役ならないかと考えてね。

今年も無料で配っている『菊酒』や、茶屋からの(無料の)贈り物の菊の花を模様した『千菓子』

秋の味覚を代表する美味しい栗を使った。コペイやタマネ手作りの『栗ご飯』などを食べたら、みんな笑顔で残り少ない今年1年も長寿や無病息災で暮らしていけるようにとの験担ぎや、ヒット祈願の意味も込めて、縁起の良い9月9日からの発売にしてみたんだけど………………………………あっ、えっと、何か長々話しちゃってごめんね!

あっ、そうだ!この詰め終えた『栗ご飯』や『栗お握り』入りの箱、マリアさん達の元に運んでくるよ!」


自身を見つめるコペイやタマネの視線に気付いて、最後は照れくさそうに話して謝り。包み終わった栗ご飯入りの箱や栗お握りの箱を店前で売り込みしてくれているマリア達の元へと慌ただしそうに運んでいく。



◇◇◇◇◇



こうして、こちらの世界では見慣れぬポンテを使った栗ご飯や栗お握りは、その美味しさや、黄色く輝く見た目などから貴族や庶民達から予想以上に人気をはくし。

押しも押されぬ『コペタマ』店の人気商品に仲間入りするのであった。




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